ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~   作:であであ

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第四三幕 蛇足少女の花嫁修業

●ストヴァーニェ〔上界〕・宿屋

 

バスティ「な〜んだ、試練突破してなかったのね」

 

ナーチ「ご、ごめんなしゃい……」

 

バスティ「別に責めてないわよ。アタシも、まだ挑戦してないしね」

 

ガンテ「それで、普通の女の子になって試練を突破するために、修行するってか?」

 

ナーチ「は、はい……」

 

バスティ「それは分かったんだけど……」

 

  椅子に腰かけるバスティとガンテ

  その対面には、勇也とナーチの姿

  特に勇也は、スーツに身を包んでいる

  身の丈に合わない衣服の高級感

  ファンタジーが蔓延するこの世界では場違い

  ジャケットは大きく、スーツに着られている

 

バスティ「何よ、この状況……」

 

ナーチ「ゆ、勇也しゃん、あれ……」

 

勇也「わ、分かった……」

 

  勇也、ゴホンと咳払いを1つ

  姿勢を正し、対面の2人に頭を下げ―

 

勇也「娘さんを、俺にください!」

 

バスティ「本当に何よ、この状況」

 

× × × × ×

 

  別室、スーツを脱ぐ勇也

  ナーチ、不安げに眉を寄せながら―

 

ナーチ「それで、修行って何すればいいんでしょう……?」

 

勇也「あ、そこから?ん~、花嫁修業って言ったら~……、料理とか洗濯とか、あとは家計管理とかかな?」

 

ナーチ「な、なるほど……」

 

  その時、コンコンと扉が叩かれる

  エルマ、チラと顔を覗かせて―

 

エルマ「失礼します」

 

勇也「エルマ」

 

エルマ「ナーチ、これを」

 

  そう言って、ナーチの掌に小袋を置く

  ズッシリ、見た目以上に重みがある

 

エルマ「私たちパーティの所持金です。今日だけナーチに預けるので、貴方の思うようにやってみてください」

 

ナーチ「エ、エルマしゃん……」

 

エルマ「大丈夫、難しくないですよ。私はその間、少しお休みさせていただきますね」

 

  ニコリ、優しく微笑むエルマ

  しかし、ナーチの顔から不安の色は消えない

  心の中、まるで呪詛のように—

 

ナーチM「なくしたらどうしよう……。落として全部穴の中に入ったら……!間違えて全部使っちゃったらみんなで野宿……?もし、誰かに盗まれたりしたら……、あ、その時は殺せば―」

 

勇也「気持ち分かるぞ、ナーチ」

 

エルマ「あはは……」

 

●ストヴァーニェ〔上界〕・市場

 

  一本の通りに、屋台が連綿と並ぶ

 

勇也「夕方とかに行くと値引きされてるんだけど、その分なくなるのも早いから、午前中の買い物大事」

 

ナーチ「な、なるほど……!」

 

勇也「にしても、さすが亜種族混合都市、色々あるなぁ~」

 

ナーチ「えと、ガンテしゃんはお肉が食べたいって……」

 

勇也「うん。とりあえず、肉買わないとね」

 

  辺りを見回す勇也

  肉屋らしき屋台を見つけ、指をさす

 

勇也「あ、あそこじゃない?」

 

× × × × ×

 

  肉屋の屋台

  様々な種類の肉が、所狭しと並んでいる

 

店主「いらっしゃい、お嬢ちゃん!何にする?」

 

ナーチ「あ、あ、あ、え、えと、えっと……」

 

  口籠るナーチ

  一方、勇也は後方腕組みだ

  感慨に耽るように、空を見上げている

 

勇也M「俺もコンビニくらいしか行かなかったよな~、前の世界だと。もっと色んなとこ行ってれば、もう少し充実した生活だったのかな……。そんな風に考えられるようになっただけでも、俺成長してる?」

 

店主「お、お嬢ちゃん、大丈夫かい……?」

 

  ナーチ、体の震えが止まらない

  それに、本気で心配そうな店主

  やがて、ナーチが震えながら指さしたのは―

 

ナーチ「び、媚薬ポーションをひと、ひとちゅ……」

 

勇也「それ買って何する気!?」

 

●ボーテミュイズン〔上界〕・ヴァーガラー崖路

 

  切り立った崖

  地上は濃い霧の遥か下

  勇也、恐る恐る覗き込み―

 

勇也「あ、またチビりそう」

 

ナーチ「買えないなら、自分で狩るしか……」

 

勇也「態々一狩り行かなくても、言ってくれれば俺が買ったのに」

 

ナーチ「それじゃ意味ないでしゅ……。私がやらないと……」

 

勇也「そこは真面目なのね」

 

  眼下、翼竜の群れが霧の海を泳ぐ

  ナーチ、それらに目を剥き集中

  獲物を仕留める寸前の肉食獣の様相だ

 

勇也「さ、流石のナーチでもこの高さは―」

 

  ナーチ、勇也の言葉を待たず飛び出す

  崖壁を滑り、翼竜へと飛ぶ

  両翼を落とし、首元を掻っ切る

  命を刈り取るまで、僅か数秒

  しかし、力尽きたそれとそのまま落ちて行く

  濃い霧の海へ、その姿がのまれていく

 

勇也「ナ、ナーチっ!」

 

  思わず手を伸ばす勇也

  直後、バサバサと大きな音が響く

  徐々に風が吹き荒び、髪が乱れる

  霧の海を掻き分け、何かが上がってくる

  ナーチだ、背中に大きな翼を生やしている

  剛腕に変質した腕で翼竜を抱え―

 

ナーチ「今日の晩御飯、調達完了でしゅ!」

 

勇也「わ、わ~い、心強~い……」

 

●ストヴァーニェ〔上界〕・井戸

 

  陽の当らない街角

  ナーチが井戸の隣に座っている

  桶に水を溜め、衣服を手洗い中だ

  小さな桶、動くたびに水が溢れる

  そこに、勇也とバスティがやってきて―

 

勇也「井戸とは、また古典的な。エルマに言えば、魔法でやってくれるのに」

 

  〔回想〕

    ポツンと、井戸がある

    そこから汲んだ水で、母が衣服を洗う

    手洗いだ、冷たい水

    水に浸かった手が、見る見る赤くなっていく

    だが微笑みは崩さない、嫌な顔一つしない

    その姿を、ナーチはただ見つめるだけ

 

ナーチ「……いえ、これで良いんでしゅ」

 

勇也「でも、流石に冷たいでしょ?」

 

ナーチ「あぁ、それなら―」

 

  バシャッと水から手を上げるナーチ

  その肘から指先までが肥大化している

  皮膚は灰色で、岩のように硬度がある

  到底、ナーチの愛嬌と見合っていない

 

ナーチ「スカルミェードの皮膚なら、全然冷たくないでしゅ!」

 

勇也「あ、あぁ、そう、良かった……」

 

バスティ「そう言えば、前に下界のストヴァーニェに行ったときは、まだナーチいなかったわね」

 

勇也「もしかしたら、同じラミア族に会えるんじゃない?」

 

ナーチ「……どうでしょう、ここは人目が多いでしゅから。でも、たまに見ましゅ、空飛んで天空街に行ってる同族を。私以外にも、部分変身の魔法を使える人はいましゅから」

 

  そう言って、空を見上げるナーチ

  上界に向かい合うように、下界が広がる

  天空街は、今や世界の中心に位置している

 

勇也「飛んでったら、そのまま下界着きそうだよね」

 

バスティ「便利な時代になったわね」

 

勇也「むしろ世界の危機なんだよ」

 

ナーチ「洗濯物、終わりまちた」

 

勇也「お疲れ、戻ろっか」

 

ナーチ「はい」

 

  歩き出す勇也とバスティ

  その後ろを、ナーチが着いて行く

  2人の会話が聞こえてくる

 

バスティ「って言うか、あの翼竜の置き場所どうにかしなさいよ。凄い注目されてるんだけど」

 

勇也「でも、他に置ける場所ないからな~」

 

バスティ「外出た時、通りがかった人と目が合うの気まずいのよ」

 

勇也「それはバスティが可愛いからじゃない?」

 

バスティ「引っ掻くわよ」

 

勇也「ごめんなさい」

 

  クスっと笑うナーチ

  その拍子に、籠から何かが落ちる

  ヒラリと宙を舞い、スッと地面に着地

  それに気づいた勇也が顔を近づけて―

 

勇也「これは……」

 

ナーチ「あ、バスティしゃんのパンt―」

 

  バスティ、言葉を待たず瞬足でそれを拾う

  そして、頬を赤らめながら吠える

 

バスティ「ちょ、ちょっと、あいつのと一緒に洗わないでよ……!」

 

勇也「あいつって?」

 

バスティ「ガ、ガンテよ……!///」

 

勇也「そんな、思春期女子みたいなこと言って~。いいじゃん、2人のパンツでマリアーz、ゲボバァッ!」

 

  バスティのドロップキックが腹に炸裂

  勇也、腹を押さえゴロゴロと悶え苦しむ

  それを横目に、バスティはズンズンと去る

  ナーチ、籠を持ったまま勇也を見下ろし―

 

ナーチ「勇也しゃん、帰ったらお料理しましょう」

 

勇也「見てたんなら助けて……」

 

●ストヴァーニェ〔上界〕・宿屋・台所

 

  エプロンをキュッと結び準備万端

  拳を握り、フンスと気合を入れる

 

ナーチ「よちっ!」

 

勇也「ナーチの3分クッキング~!」

 

ナーチ「な、なんでしゅか……?」

 

勇也「ごめん、テンション上がった。でも、料理なら安心して任せられるよ」

 

〔回想〕

  エルマ「因みに、本日のお料理はナーチにもお手伝いいただきました」

  勇也「えっ!?」

 

勇也「実戦経験ありだからねぇ」

 

ナーチ「……実はあれ、ほとんどエルマしゃんが作ったんでしゅ」

 

勇也「え、あ、そうだったの?じゃあ、ナーチは何したの?」

 

ナーチ「……味見でしゅ」

 

勇也「……」

 

  〔回想〕

    一同の視線、モジモジとするナーチに集中

  ナーチ「わ、私も作った、でしゅ……」

 

勇也M「どうして、あの顔が出来たんだ……?あいや、自己肯定感が低いから、ハードルも低いんだ」

 

勇也「ま、まぁそれは置いといて、食べやすいように一口大に切って焼こうか」

 

ナーチ「き、切るんでしゅか?」

 

勇也「おうよ。これを俺の世界では、サイコロステーキと呼ぶ」

 

ナーチ「な、なるほど……」

 

  勇也、鍋に火を入れる

  その上で、掌に肉を乗せ―

 

勇也「はい、俺が鍋に入れるから、ナーチはどんどん刻んじゃって~」

 

ナーチ「わ、分かりました……!」

 

  キラリ、刃物を構えるナーチ

  包丁―ではない、ダガーだ

  刹那の斬撃、肉が一口サイズに分かれる

  バラバラ、音を立てて鍋に投入

 

勇也「……あれ、なんか肉多くない?」

 

ナーチ「え?そうでしゅk……、あ」

 

  鍋いっぱいに刻まれた肉の山

  だがおかしい、一切れでこれほどの量はない

  見れば、赤い生肉に紛れて橙色の肉がある

  赤く滲んだそれは、まるで人の手だ

 

勇也「……え?」

 

  勇也、自信の手首を見る

  先程まで肉を乗せていたその先がない

  ボタボタ、血の濁流が鍋に注がれる

  手首が、ない

 

勇也「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!」

 

ナーチ「ゆ、勇也しゃん……!」

 

× × × × ×

 

  テーブルに着く勇也一行

  目の前には、豪勢な肉料理が並ぶ

 

エルマ「驚きました、まさか手首まで切り刻むとは……」

 

勇也「ナーチ、料理中はダガー持つの禁止ね……」

 

ナーチ「ご、ごめんなしゃい……!」

 

  勇也、先程まで失っていた手首をスリスリ

  それに頭を下げるナーチ

  その傍ら、バスティとガンテが例の如く犬食い

 

ガンテ「でも美味いぜ、これ!」

 

バスティ「えぇ、ほんとねっ!」

 

ガンテ「にーちゃんの血が隠し味になってんだ!」

 

勇也「うっ、やめて……、リバースしそう……」

 

ピリオネ「悪くない味デスね」

 

勇也「あ、ピリオネ、結局食べてるじゃ~ん」

 

ピリオネ「生命維持のための食事は必要ないデスが、ワタシにも味覚はあるデス。ワタシの舌に見合う物を作ったオマエらが悪いデ~ス」

 

  悪態をつきながらも、口に運ぶ手は止まらない

  それを見て、勇也とナーチが微笑み合う

 

勇也「大成功だね、ナーチ」

 

ナーチ「はい!」

 

× × × × ×

 

  勇也とナーチ、並んで食器を洗っている

 

ナーチ「私が洗いましゅから、勇也しゃんはいいんでしゅよ?」

 

勇也「みんな寝ちゃったし、この量1人はキツイっしょ」

 

ナーチ「ありがとう、ございましゅ……」

 

勇也「でも、何だかんだ言って楽しい1日だったな~。最初は夢かと思ったけど」

 

ナーチ「む、無理言ってごめんなしゃい……」

 

勇也「全然無理じゃないけど……、でも、恋人になる必要あったかなって。別に、俺じゃなくても―」

 

ナーチ「まだあるんでしゅ」

 

勇也「え?」

 

ナーチ「恋人じゃないとできないことが、あと1つあるんでしゅ……」

 

勇也「それって―」

 

  キュッ、水を止める

  ハラリ、エプロンを解く

  台所から出る直前、勇也に振り向かずに―

 

ナーチ「シャワー、浴びてきてくだしゃい。寝室で、待ってましゅ……」

 

  それだけ告げて、ナーチは去る

  1人取り残された勇也―

 

勇也「……ほえ?」

 

  そんな惚けた声が、虚空に消え入る

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