ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~   作:であであ

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第四四幕 普通少女へと駆け出して

  ザァザァ、激しい雨が体を打つ

  名もなき山奥、荒れた獣道

  辺りは暗く、生い茂る木々で先が見えない

  蛇の尾が、散乱する木枝を掻き分け進む

  フラフラと力なく蛇行、今にも倒れそうだ

  息は白く、冷たい雨粒が体温を奪っていく

  ふと、木の根元に何かが生えているのを見る

  果実のような、木の実のような、キノコのような

  這い蹲る蛇足の少女が、それを口に含む

  一心不乱に咀嚼し、飲み込む

  途端、ドクンと心臓が高鳴る

  目の前が回転し、熱いものが込み上げてくる

 

ナーチ「げぼぉぇぇぇぇぇっ!」

 

  ビチャビチャ、胃の内容物を吐き出す

  雨と混ざり、汚い水溜りを作る

 

× × × × ×

 

  そこは、薄暗い街角

  苔が生えた建物は大半が崩れている

  人や動物の気配はなく、閑散としている

  ズリズリ、蛇の尾を引く少女

  全身の力が抜け、ついに崩れ落ちる

  ポツポツ、地面に水滴が落ちてきた

  雨か―否、涙だ

  死を悟り、全てを諦め、瞳を閉じる

  その時、正面からザッと足音

  横たわる少女の体に影が落ちる

 

??「こ~んなボロボロになっちゃって、可哀そうねん」

 

  妙に粘り気のある声に、瞳を開ける

  角の生えた1人の女性が、こちらを見下ろす

  淫らな鬼、ニヤリと口角を上げて―

 

キュバラー「アータ、今日からアーシの家族にしてあげるん」

 

●ストヴァーニェ〔上界〕・宿屋・風呂

 

  小ぢんまりした部屋、その中央に湯船

  鼻まで浸かる勇也が、ブクブクと息を吹く

  浮き上がってくる無数の泡を見つめ―

 

勇也N「吾輩は陰キャである。そして、童貞でもある。16年間純潔を守ってきたこの体に、淫らな行いの跡は1つもない。そんな俺でも……、否、そんな俺だからこそ分かる……。そう、これは一種の儀式だ。シャワーに打たれることも、そしてその間これから起きることへの期待と不安に苛まれることも、全ては儀式なのだ。え、何のかって?それは―」

 

  勇也、カッと目をひん剥き―

 

勇也N「これまでギリギリの瀬戸際で性欲の均衡を保ってきたカップルが、ついに初夜を迎えるためのっ!」

 

  カーッと顔が赤くなっていく

  まるで、沸騰したやかんのよう

  ブクブク、そのまま水中へと沈没していく

 

●ストヴァーニェ〔上界〕・宿屋・寝室

 

  ベッドに腰かける勇也、体が強張っている

  必死の形相で緊張を抑え込もうと試みる

  しかしその顔は赤く、鼻の下が伸びきっている

  隣のナーチ、その服は心なしか露出が多い

  高鳴る心臓、勇也と目が合わせられない

 

勇也「ベッベベッ、ベッド、小さくない……?」

 

ナーチ「……密着すれば、大丈夫でしゅ」

 

勇也「あっああっ、明日また、試練受けに行こ。今日頑張ってたしナーチ、うん、突破確定演しゅt……」

 

ナーチ「……まだ、やらなきゃいけないことが残ってましゅ」

 

勇也「ダッダダ、ダメだよkんな……、こっこnなk……」

 

勇也M「あ、あれ……、おかしいな、呂律が回んない……。頭がボーっとして……、まだ、のぼせてんのかな……」

 

  鼻息を荒くする勇也

  その股間は、ハッキリと盛り上がっている

  ナーチ、それを横目でチラと見て―

 

ナーチ「やっぱり、しゅごい効果でしゅね……」

 

勇也「え、え……?」

 

  混濁の中、疑問符を浮かべる勇也

  ナーチの手元には、握られた小瓶

  それを見て、ハッと眉を上げる―

 

勇也「あの時の……!」

 

  〔回想〕

  ナーチ「び、媚薬ポーションをひと、ひとちゅ……」

  勇也「それ買って何する気!?」

 

ナーチ「勇也しゃんがお風呂に入る前に、入れしゃせてもらいまちた……」

 

勇也M「え、いや……。ってか、何で肉屋に媚薬が……?」

 

勇也「そ、それじゃ、ナーチだって……!」

 

ナーチ「……これまで、地に這いつくばり、口にできる物は何だって啜って来まちた。虫でも、薬でも、毒でも……。今更、媚薬なんて私には効かn―」

 

  ギシッ、ベッドが激しく揺れる

  寝そべるナーチに、覆い被さる勇也

  互いに、真っ直ぐ見つめ合う

 

ナーチ「綺麗な体じゃなくて、ごめんなしゃい……。でも、これが最後の修行でしゅ……」

 

  そっと体を起こすナーチ

  勇也の耳元で―

 

ナーチ「私と交尾、してくだしゃい……」

 

  ドクン、心臓が強く高鳴る

  思考が混ざり、今にも飛びつきそう

  痙攣する口、涎が垂れてしまう

 

勇也「ナ……、ナーチは、男が苦手で……」

 

ナーチ「……小しゃい頃、力づくでしゃれたことがあって。でも―」

 

  ナーチの唇が静かに動く

  とても、艶やかに見える

  そっと、頬に手が触れる

 

ナーチ「勇也しゃんなら、平気でしゅ……」

 

  ドクンドクン、心臓が破裂しそう

  脳内が沸騰したように熱い

  視界が摩天楼のようにぼやける

 

勇也M「あ……、トラウm―」

 

  瞬間、汗ばんだ手がベッドから滑る

  体勢を崩し、ナーチへと落ちて行く

  彼女の睫毛は、こんなにも長かっt―

 

× × × × ×

 

  ギシッ、ベッドが弾む

  ぼんやりと天井を見つめる勇也

  深く、深く息を吐きだす

 

ナーチ「大丈夫でしゅか……?」

 

勇也「……うん、ちょっとね」

 

◆中学校・廊下(3年前・昼)《回想》

 

女子「ずっと好きでした。付き合ってください……!」

 

勇也「……え」

 

  勇也を真っ直ぐ見つめる女子生徒

  それに、思わず呆けた声が出てしまう

 

勇也N「中学2年生の4月1日、俺は告白された。それがエイプリルフールの悪質な嘘で、陽キャの玩具にされていたことなど露も知らず、初めて受けた告白、初めてできた彼女に心底浮かれていた。そして俺は、大いに距離感を間違えた。まだ幼かったとしか、言いようがない」

 

  頭を下げる勇也、その後方

  壁際、勇也を見て嗤う何人かの男子生徒

 

× × × × ×

 

  休み時間

  談笑する男子生徒たちと、例の女子

 

男子「お前、演技上手すぎwww」

 

女子「ちょっと練習したからね~」

 

勇也「なに、何の話し?」

 

  いつの間にか輪に入ってきた勇也

  興味津々な目をこちらに向ける

 

男子「え、儚田くん、何……?」

 

勇也「いや、俺の彼女だから。彼女の話は、聞かなきゃでしょ?」

 

  平然と言葉にする勇也

  それに、一同は顔を引き攣らせる

 

× × × × ×

 

  授業中、自習の時間

  勇也、女子の机にズイとやってきて―

 

勇也「ねぇ、そこ教えて上げよっか?」

 

女子「え?あ、うん、ありがとう……」

 

× × × × ×

 

  校庭、体育の時間

  準備運動をしている女子

  そこに勇也が駆け寄ってきて―

 

勇也「ねぇ、一緒に柔軟しようよ」

 

女子「あ、え~っと……。私、友達とやってくるから、ごめん」

 

勇也「あぁ、そう……」

 

  タタッと駆け去る女子

  その背中を、勇也が見つめる

 

× × × × ×

 

  放課後、下校の時間

  下校路を行く男子数名と女子

  そこに勇也が駆けてきて―

 

勇也「ねぇ、一緒に帰ろうy―」

 

女子「ごめん、無理」

 

  それだけ言い放ち、女子は歩き去る

  隣、男子生徒の笑い声が微かに聞こえる

  しかし、勇也はそれに気づかないまま

  呆然と立ち尽くし、その背中を見つめる

 

◆儚田宅・勇也の部屋(3年前・夕方)《回想》

 

  ベッドに寝転がる勇也

  ボーッと天井を見つめている

 

勇也M「……おかしいな。カップルって、いついかなる時も一緒にいるもんじゃないの?一挙手一投足同じ行動をして、同じ記憶を味わうものじゃないの?」

 

  その時、ブーとスマホが鳴る

  スマホを手に取り、通知を開く

  そして、酷く瞠目する

  パグと同じくらい眼球が飛び出す

 

男子『儚田く~ん、見ってる~?』

 

  とある動画

  画面には、男子と例の女子の姿

  2人とも、裸だ

 

勇也「え」

 

男子『何か、こいつが儚田くんに言いたいことがあるそうで~す』

 

女子『嘘告マジにするとかキショすぎ。ってか、その後も距離感間違え過ぎでマジうざかった。お前、男として終わってるよ』

 

  ハッと息を呑み込む勇也

 

男子『ってことで、儚田くんおつかれ~www』

 

  動画が終わり、画面が止まる

  しかし、勇也はそれを見つめ続けたまま

 

勇也N「嘘告したら本当に好きになっちゃった、なんて創作物的展開は微塵もなく、俺の初交際は幕を閉じた」

 

勇也「……NTR?」

 

勇也N「違う、最初から始まってすらなかった」

 

●ストヴァーニェ〔上界〕・宿屋・寝室

 

勇也M「……久しぶりに思い出した。ほんと、反吐が出る……」

 

ナーチ「……ママとパパがいたんでしゅ」

 

勇也「え?」

 

ナーチ「私の試練」

 

勇也「あぁ」

 

ナーチ「小さい頃に生き別れて、もうほとんど覚えてないでしゅけど……」

 

勇也M「……忌子か」

 

  声音を落とすナーチ

  その横顔に、哀憐が漂う

 

ナーチ「私のママは、普通でちた。私の面倒を見てくれて、料理が出来て、買い出しが出来て、洗濯も、パパの相手も……。あれが普通なら、私もそうならなきゃ……。私が目指すのは、これなんだって……」

 

  そう言い切るナーチ

  しかしその声からは、自信を感じない

  勇也、それに溜息を1つ吐いて―

 

勇也「普通って、難しいよね」

 

ナーチ「え?」

 

勇也「月にお小遣い500円が普通だと思ってたら、周りはみんな1000円貰ってたり。普段何気なく使ってる言葉が、実は方言だったり。あと、星野源が普通ってのは……、一生納得できないな、うん」

 

ナーチ「な、なんでしゅか……?」

 

勇也「結局は、絶対的な基準なんて無いんだよ。そういう意味では、この世界に普通の人はいないし、みんな普通になんかなれないんだ」

 

ナーチ「普通に、なれない……」

 

  顔を伏せるナーチ

  その瞳は、今にも涙を流しそう

  だから勇也は、抱き寄せる

 

ナーチ「……っ!」

 

勇也「……大丈夫、また明日神殿に行って。それで無理だったら、また考えればいいんだから。ナーチは、ナーチのなりたいようになればいい。俺でよければ、いくらでも付き合うから」

 

ナーチ「……はいっ」

 

  暖かく、優しく、ナーチを包み込む

  こんなこと、らしくないにも程がある

  下心が1ミリもないと言えば嘘になる

  だが不思議と、心臓は落ち着いている

  いつの間にか、寝息を立てるナーチ

  勇也の胸に、小さな顔を埋めている

  それが妙に心地よくて、勇也も瞳を閉じる

 

●雷の女神の神殿・祭壇

 

  顔を伏せ、佇むナーチ

  その対面には、女神・アフィーナの姿

  片目を隠す、小麦色のセミロング

  露出の少ない服は、温かみを感じさせる

  さながら、聖母のような佇まいだ

 

ナーチ「私はまだ、普通にはなれないでしゅ……。だから、試練も突破できない……。ごめんなしゃい……」

 

  フルフルと震えるナーチの肩

  アフィーナ、それを見てフッと微笑み―

 

アフィーナ「いいえぇ、あなたはもうぅ、試練を突破しているわぁ」

 

ナーチ「……え?」

 

アフィーナ「あなたはぁ、まだ知らないだけよぉ。でも、知らないことはぁ、出来ないことじゃないのぉ。いつか大切な人が出来ればぁ、あなたも分かるかもしれないわねぇ」

 

ナーチ「大切な、人……」

 

●ボーテミュイズン〔下界〕・ニージポルト

 

  眼前に広がる大海原

  ここは、船着場

  巨大な船が、何隻も聳えている

  しかし、勇也はそれらに目もくれず

  手近の柱に頭を打ち付けている

 

勇也「あがーーーーーっ!!!」

 

ガンテ「ど、どうしたにーちゃん!?」

 

ピリオネ「可哀そうに、ついに気が狂ったデスね」

 

  〔回想〕

  勇也「……大丈夫、また明日神殿に行って。それで無理だったら、また考えればいいんだから。ナーチは、ナーチのなりたいようになればいい。俺でよければ、いくらでも付き合うから」

  ナーチ「……はいっ」

 

勇也M「いくら媚薬が残ってたって言っても、あんな、あんなこと……!」

 

勇也「キモイキモイキモイキモイキモイキモイッ!」

 

ピリオネ「今に始まったことじゃないデ~ス」

 

  ガンガンガン、打ち付ける頭が止まらない

  徐々に柱が血の赤に染まってきた

  バスティ、そんなことは気にせぬ様子で―

 

バスティ「で、山の次は海?」

 

エルマ「文献の光が、この海にある孤島を示しています。船を使い大陸を離れ、神殿を見つけに行きましょう」

 

  文献から伸びる光、今度は茶色だ

  水平線の彼方へと伸びている

 

ガンテ「っしゃあ、大海原の旅だぜ!」

 

バスティ「落ちたらどうしようかしら……」

 

ピリオネ「犬かきしろデス」

 

バスティ「アタシは猫よ!」

 

勇也「あ、なんかクラクラする……」

 

  ゾロゾロと船に乗り込む一行

  ナーチは、しかし最後列でそれを見つめる

  否、ナーチが見ているのは勇也唯一人だ

 

  〔回想〕

  勇也「大成功だね、ナーチ」

  × × × × ×

  勇也「でも、何だかんだ言って楽しい1日だったな~。最初は夢かと思ったけど」

  × × × × ×

  勇也「……大丈夫、また明日神殿に行って。それで無理だったら、また考えればいいんだから。ナーチは、ナーチのなりたいようになればいい。俺でよければ、いくらでも付き合うから」

 

  そっと胸に手を添えるナーチ

  その頬は、僅かに紅潮しているか

  後ろを振り返る勇也がナーチに気付いて―

 

勇也「ナーチ、早く乗らないと泳ぐ羽目になるよ?」

 

ナーチ「は、ひゃい……!」

 

  突然の呼びかけに呆けた声が出る

  それを、深呼吸で落ち着かせてから―

 

ナーチ「……『プレヴラーシェ』」

 

  誰にも聞こえないように囁く

  直後、ナーチの蛇足が蠢く

  グニグニと縮み、何かの形をとる

  それは、人間の足だ

  タタッと駆けだすナーチ

  さながら、はしゃぐ人魚のよう

  お揃いの足が、軽やかな音を奏でる

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