ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~   作:であであ

47 / 52
第四五幕 獣人族は逃げられない

●ボーテミュイズン〔下界〕・船上

 

  大きなマストたなびく船が、大海原を駆ける

  晴天の空を反射した海が眩く光る

 

勇也N「俺たちは、次なる女神の神殿を目指して、大海原を旅していた」

 

勇也「な~んてナレーションが、そろそろ付く頃じy―オロロロロ~ッ!」

 

  しかし、勇也の心は曇天模様だ

  おまけに、頭も大して働いていない

  青ざめた顔の勇也が、ナーチの膝に寝る

  ナーチ、勇也の頬にそっと触れて―

 

ナーチ「大丈夫でしゅか、勇也しゃん?」

 

勇也「ご、ごめん……。もう少しこのまm―オロェッ!」

 

勇也M「まさか、人生初の膝枕が船酔いオプション付きなんて、何たる不覚……」

 

  苦し気に眉を顰める勇也

  それを見て、ナーチが何故だかクスッと笑う

 

  〔回想〕

  ナーチ「……『プレヴラーシェ』」

    誰にも聞こえないように囁く

    直後、ナーチの蛇足が蠢く

    グニグニと縮み、何かの形をとる

    それは、人間の足だ

 

ナーチ「……勇也しゃん、何か気づきましぇんか?」

 

勇也「え……、トリートメント変えた……?」

 

  無神経な勇也の発言

  それに、ナーチがプーッと頬を膨らませる

 

勇也「え、何それ初めて見た」

 

  船首甲板、大海原を見渡すガンテ

  この海と同じ、清々しい表情だ

 

ガンテ「ははっ、俺が海賊王だぜぇ!」

 

バスティ「ちょ、大きい声出さないで……。色々出ちゃいそだから……、ウプッ」

 

ガンテ「ねーちゃんもかよ~。情けねぇな~」

 

  後方、体を曲げ口元を押さえるバスティ

  さながら、老猫のようないでたちだ

  その時、ガンテがふと眉を上げる

 

ガンテ「そうだ、ねーちゃん!」

 

× × × × ×

 

  船首甲板、そのさらに先

  少し行けば、打ち付ける波に真っ逆さま

  その少し手前、バスティとガンテが佇む

  両腕を横に伸ばしたバスティ

  ガンテが、その腰元を持って支えている

  誰もが知る、あの有名なポーズを決める

  ここでやるのは、命知らずとしか言えないが

 

バスティ「ちょ、何なのよこれ!?」

 

ガンテ「にーちゃんの世界では有名らしいぜ?」

 

バスティ「ぜ、絶対離さないでよ!?アタシ、泳げないんだから!」

 

ガンテ「大丈夫、この距離で落ちたら泳ぐ前に粉々だぜ!」

 

バスティ「そ、そういう問題じゃn―ごぼぇぇぉぉぉっ!」

 

ガンテ「うわっ、ねーちゃんきったねぇ~!」

 

  デッキに腰かけるエルマとピリオネ

  他の4人とは打って変わって静か

  ピリオネ、彼らを見て鼻を鳴らし―

 

ピリオネ「はっ、船如きで浮かれすぎデ~ス」

 

  しかし、エルマは口を噤んだまま

  文献の光が示す方を真っ直ぐ見る

 

●ボーテミュイズン〔下界〕・オストラフ島

 

  海に囲まれた、緑あふれる小さな島

  正直、それ以上でも以下でもない

  ザッザと歩いてくる勇也一行

  僅かな高台に、女神の石碑を見つける

 

エルマ「あれ、ですね」

 

勇也「あってよかった……。これでなかったら俺たち……」

 

バスティ「ただ海を汚しただけの集団よ……」

 

ピリオネ「それはオマエら2人だけデス」

 

  エルマ、石碑に杖を向けて―

 

エルマ「『ヴィプスク』」

 

  魔力の流れが、細い糸の束のように纏まる

  それが波打ち、石碑に注がれる

  やがて彫刻が光を放つと同時に、地鳴り

  地面を打ち破り、神殿が迫り上がってくる

 

勇也「様式美、もう慣れたね」

 

  そう口にする勇也が、ふと振り返る

  その時、茂る木々の隙間が閃光する

 

勇也「……?なん―」

 

  疑問符を浮かべる間もなく、それは飛んでくる

  矢だ、勇也の右目を狙っている

  だが、それを掴んだガンテの腕に阻止される

  勇也、思わず腰を抜かしてしまう

 

ガンテ「攻撃されてんな……」

 

  周囲を見回す一行

  カサカサ、緑の中を何かが蠢いている

  人か、はたまた動物か

  その時、球体の何かが放り込まれる

  それは、パチパチと火花を散らしており―

 

勇也「ば、爆弾……!」

 

エルマ「『ザシータ』!」

 

  爆発、業火と砂煙が舞い上がる

  しかし、エルマの機転が功を奏した

  魔法壁が爆発を無力化、一行は無傷

 

ピリオネ「攻撃にしては、手段が稚拙デスねぇ」

 

勇也「へ、変身した方がいいかな……!?」

 

  クエストドライバーを構える勇也

  その時、バスティがハッと眉を上げる

  草の中を駆ける、何者かが見えた

  その頭部、獣人の耳が付いている

 

バスティ「待って、アタシも獣人よっ!」

 

  バスティが飛び出し、存在を主張する

  瞬間、草を掻き分ける音がピタッと止む

  波の押し寄せる音だけが鼓膜に届く

  そして、ザッと足音

  それも、四方八方からだ

  思わず身構える勇也一行

  やがて現れたのは、獣人族の集団だ

  まだ警戒し、こちらに目を細めている

  バスティ、信じられないと言うように―

 

バスティ「どうして、獣人族がこんなところにいるのよ……?」

 

●ボーテミュイズン〔下界〕・オストラフ島・民家

 

獣人1「なるほど、勇者様御一行でしたか。これは、とんだご無礼をいたしました」

 

  小さな民家のような場所

  出来合いの資材で作られた簡素なもの

  深々と頭を下げる獣人が1人

  その後ろには、同じく獣人たちが集まる

  バスティ、怪訝に目を細めて―

 

バスティ「教えて。どうして獣人のアンタたちが、この島にいるの?村はどうしたのよ?」

 

獣人1「……俺たちは、村を捨て奴隷であることから逃げてきた。それで、ここに辿り着いたのです……」

 

勇也「亡命、的な……」

 

バスティ「そう……、そう言うことね……」

 

獣人1「仲間を、故郷を捨てたこと……、どんなお叱りも、罰も、受ける所存です……」

 

獣人2「いや、あんただって分かるだろ?同じ獣人なら、俺たちの気持ちが……!」

 

バスティ「……えぇ、そうね。アタシに、アンタたちをどうこうする資格なんてないわ……」

 

エルマ「私たちは人間族ではありません。皆様を連れ戻したりなどはしませんので、ご安心を」

 

獣人1「当然。もし人間族だったら、迂闊に攻撃なんてできませんよ」

 

エルマ「それは……」

 

  疑問符を浮かべるエルマ

  バスティ、ふと彼らの手元に視線を下ろす

  薬指、金色の指輪が存在を主張する

 

バスティ「……そうよね。逃げてきたってだけで、奴隷契約から解放されたわけじゃないのよね」

 

獣人1「仮に奇襲が成功しても、同族の誰かが必ず死ぬことになる……。それは、もしかしたら俺たちの内の誰かかもしれない。そうでなくても、この指輪をしている限り、俺たちはいつ死ぬか分からない……」

 

ナーチ「全然、逃げられてないでしゅ……」

 

獣人3「はっ、勇者が何だってんだ!」

 

  吐き捨てられた声が聞こえる

  壁に凭れる1人の獣人

  こちらを憫笑し、唾を飛ばす

 

獣人3「魔王が死んだところで、俺たちは救われない。世界が平和になったって、俺たちはずっと死の恐怖に囚われたままだ!獣人族は、救われない……!」

 

ピリオネ「何を言い出すかと思えば、そんなことオマエらでやればいいデス。誰かに責任転嫁するようなやつに、どの道未来などないデス!」

 

バスティ「……そんなの、分かってるわよ」

 

勇也「バスティ……」

 

バスティ「出来るものなら、アタシがやってるわよ……」

 

  フルフルと体を震わせるバスティ

  それは怒りか、はたまた悲しみか

  そんな彼女を、勇也はただ見つめる

 

●ボーテミュイズン〔下界〕・オストラフ島

 

  自然の緑と、打ち寄せる波があるだけ

  ポツンと立つ神殿を、一行が見上げる

 

エルマ「私たちは、私たちのすべきことをしましょう」

 

ガンテ「あぁ、そうだな」

 

エルマ「さて、今回の神殿は―」

 

バスティ「アタシが行くわ」

 

  ザッと一歩踏み出すバスティ

  神殿の入り口に構える

 

バスティ「アタシがやらなきゃいけない……」

 

エルマ「えぇ、そうですね」

 

勇也「ま、まぁ、余り物には福があるって言うし……」

 

  グッと拳を握る

  決意したように顔を上げ―

 

バスティ「さぁ、どんな試練でもかかってきなさい!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。