ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
バスティN「人にはそれぞれ、役割がある。ママにはママの、パパにはパパの、勇者や戦士には、それ相応の。みんな、自分の果たすべき役割があって、それを果たして生きている。だから、そこにいる価値がある。でも、アタシは……」
■獣人族の村・バスティの家《回想》
バスティN「何てことない、普通の家庭に生まれた。特に変わったところのない、暖かな家庭に。パパもママも、一人っ子だったアタシに、たくさんの愛情を注いでくれた」
ダイゴーン「バスティ、これが香箱座りだ。やってみろ!」
鼻高に胸を張るダイゴーン
その隣、幼少期のバスティが気合を入れる
腕を折り、足を折り、体を床につける
しかし、バランスを崩し転がってしまう
バスティ「出来ないよ~、パパ~!」
ダイゴーン「はっはっは、まだまだだな~!そんなんじゃ、一人前の大人にはなれないぞ~?」
バスティ「いいもん!アタシ、パパのお嫁さんになるから!」
ダイゴーン「そうかそうか!ならもっと立派な女性にならないと、パパとは釣り合わないぞ~?」
悪戯に口角を上げて見せるダイゴーン
それに、バスティは膨れっ面だ
??「な~にが釣り合わないよ」
そこに、1人の女性がやってくる
バスティの母親・ケットだ
鋭く細めた眼でダイゴーンを睨み―
ケット「アンタ、せっかく狩ってきた動物、そのままにしてるじゃない!もう腐りかけてるわよ!」
ダイゴーン「やべっ、忘れてた!」
飛び起き、部屋を出るダイゴーン
その背中を、ケットが見つめる
溜息をついているが、その目元は優しい
バスティN「でもそれ以上に、パパとママの仲が良かった。近所では、ちょっとだけ有名になるくらい。アタシは、そんな2人のやり取りを見ているのが大好きだった。いつまでも、どこまでも、愛に溢れていたから。でも、それも長くは続かなかった……」
× × × × ×
降りしきる、横殴りの雨
夜空が雷鳴に閃光する
崖の麓、盛り上がった土砂瓦礫の山々
そこから飛び出す、猫耳が1つ
雨粒に打たれても、ピクリとも動かない
■獣人族の村・墓地《回想》
村の外れ、ちょっとした墓地
小さな敷地に、墓石が所狭しと並ぶ
その中の1つに、ダイゴーンが立ち尽くす
バスティは、彼の背後で啜り泣く
バスティN「何歳の頃だったかは、もう覚えてないけど……。ある雨の酷い日、山菜を取りに山に登ったママは、帰って来なかった」
バスティの泣き声、墓地に反響する
胸を締め付けるような、悲痛な絶叫
バスティ「ママ……、ママ……!」
名前を叫ぶ
しかし、返ってくる声はない
虚空に、儚く消え入るだけ
ダイゴーン「……バスティ」
その声は、震えている
それに気づいて、バスティは顔を上げる
ダイゴーンの大きな背中を見やる
今だけは頼りない背中が、小さく震える
ダイゴーン「お前は、お前の役割を果たせ……」
バスティN「パパは、それだけ私に言った。……最愛の人に残されたパパと、一緒にいること。パパの真意は分からなかったけど、その時の私はそう確信した。今でも、間違ってなかったと思ってる。だから―」
■獣人族の村・バスティの家《回想》
床に座りつくすダイゴーン
何をするでもなく、ただ一点を見つめる
そこに、ドタドタと響く足音
バスティ「ちょっとパパァ!?」
その声に振り向くダイゴーン
バスティ、腰に手を当てて―
バスティ「ま~た狩ってきた動物そのままにしてるじゃない!腐らせたら、また取りに行ってもらうんだからね!それに、爪研ぎも出しっぱなし!」
牙を剥き、ガミガミと言い放つバスティ
それを、ダイゴーンが呆然と見つめる
瞳が揺れる、涙が一筋こぼれる
ケットの面影と、ピッタリ重なったから
ダイゴーン「……は、はは……」
思わず、乾いた笑みが漏れる
バスティ、それに小首を傾げて―
バスティ「何よ?」
ダイゴーン「……いや、そうだ、そうだよな。俺は、お前のパパだもんな……!」
体を弾ませ、立ち上がるダイゴーン
その表情は、心なしか清々しく見える
バスティの頭をクシャッと撫でて―
ダイゴーン「ありがとな、バスティ」
目を伏せるバスティ
その横顔に、一瞬哀憐が陰る
しかし、すぐに目を細めて―
バスティ「分かったから、早くしてよね!」
ダイゴーン「おっと、そうだった!腐らせたらまずい!」
ダッダッダと部屋を出るダイゴーン
その背中を見て、バスティがフッと微笑む
バスティN「悲しくないわけない。それでも、これがアタシの役割だから。こうしていると、ママと一緒にいるみたいな……。また、家族3人で暮らしているみたいな……、そんな感じがして心地よかった」
× × × × ×
ガチャッと扉が開き、1人の少女がやってくる
手に持つ動物の死体を掲げて―
??「バスティ、遊びに来たよ!」
バスティ「セクミィ!上がって!」
台所に並ぶ3人の獣人
実に和やかな空気が流れる
ダイゴーンの巨体に眉を顰めるバスティ
それさえも、微笑ましく見える
バスティN「セクミィは、ずっとアタシの側にいてくれた。パパも、本当の家族のように思ってた。ママがいなくなってから数年後、ようやく深い悲しみと絶望から解き放たれて、アタシたちは前を向こうとしていた。でも、そんなアタシたちの日常は、根本から崩れることになる」
× × × × ×
深夜、静まり返った村
動物の遠吠えが遠くから響く
一緒のベッドで眠る、親子の獣人2人
その時、轟音が鳴り響く
同時に、地面も激しく揺れ動く
バッと目を覚まして―
バスティ「な、何……!?」
ダイゴーン「大丈夫……!ただの地震だ……」
ダイゴーン、バスティを抱きしめる
安心させるように、優しく包み込む
やがて、地鳴りも轟音も収まる
バスティ「と、止まった……」
ダイゴーン「朝、村の様子を見に行こう。今日は、もう寝なさい」
バスティ「うん……」
そっとバスティの頭を撫でるダイゴーン
大きな手が心地よくて、目を閉じる
■獣人族の村《回想》
翌朝
家から出てくるダイゴーン
バスティは、欠伸をしながらトボトボ歩く
しかし、その光景を見て瞠目する
バスティ「何、これ……」
眼前に広がるのは、破壊され荒れ果てた村
崩れた家々は瓦礫の山と化している
木々が焼き払われ、黒煙が何本も立ち昇る
元の村の面影など、もはやどこにもない
跪く獣人たちに向けられる白刃
人間族の兵士、剣を構え獣人を囲う
開いた口が塞がらないとは、正にこのことだ
ダイゴーン「ど、どうなって―」
直後、背中に大きな衝撃
ダイゴーンの巨躯が地面に投げ出される
そして、眼前に突きつけられる白刃
人間族、ダイゴーンを見下ろして―
人間族「まだ残っていたか」
バスティ「パパ……!」
ダイゴーンに駆け寄るバスティ
そこに、ザッザッザと足音
一歩一歩踏み締める、重厚な響き
やがて現れたのは、1人の老父だ
灰色の髭を蓄え、背中には悪魔の翼が2対
ヴラガロード、獣人を見下ろし吐き捨てる
ヴラガロード「……今宵、世界は2つに分かたれた。高貴なる者の住まう上界と、下賤なる者が蔓延る下界じゃ。旧人間族と獣の混血……、醜き種族よ」
ガンッ、剣を地面に突き立て―
ヴラガロード「我、ヴラガロードの名の下に、貴様ら獣人族を下賤なる種族と定める!全ての領地、財産、地位、権利を没収し、我ら人間族の労働力となるがよい!」
ニヤリ、邪悪に口角を上げる
ヴラガロード「貴様らは、下賤種の中で唯一上界に住める種族じゃ。ありがたく思え……?」
バスティN「この日から、アタシたちは人間族の奴隷になった」
■獣人族の村〔上界〕・バスティの家《回想》
木造の、古びた小さな家屋
軋み、今にも崩れそう
前の家とは、比較にもならない
目を伏せるダイゴーン
その手元には、金の指輪が2つ
バスティ「パパ……、それ……」
ダイゴーン「……ん?あぁ、えっと……、マ、ママとの結婚指輪だ。だから、バスティはつけなくて―」
バスティ「違うでしょ……?」
バスティ、ダイゴーンの手にそっと触れる
顔を見ると、その口元は震えている
無理矢理作った笑顔が、歪に引き攣る
バスティ「今更、アタシに隠そうとなんてしないで……。ずっと、一緒にいるって決めたんだから。これを付けるのも、何をするのも、ずっと一緒よ……」
ダイゴーン「バスティ……」
新緑の、バスティの瞳
それは、決心に満ちた瞳だ
バスティN「2人なら、どんなことだってできる。多少辛くたって、パパとなら乗り越えられると思った。綺麗事でも、別に構わない。……でも、現実の過酷さは想像を絶していた。少なくとも、パパの心を変えさせるには十分だったみたい」
× × × × ×
外に立ち並ぶダイゴーンとバスティ
その指には、黄金の輝きが宿る
しかし、目の前の光景に瞳は陰る
もはや、言葉など出てきもしない
ダイゴーン「……」
巨大な荷物を運ぶ犬獣人たち
瓦礫や木材の山を、縄一本で引き摺る
その手は擦り切れ、血が滲んでいる
遠くには、農作業をする羊獣人たち
ただ機械的に、鍬を振り下ろすだけ
その瞳や表情に、生気など感じられない
家々の壁には、凭れる獣人たちが多数
いずれも痩せこけ、ぐったりとしている
人間族が殴るも、抵抗しない
髪を掴み回すも、痛がりもしない
生きているのか死んでいるのか、もはや不明
背後、何かを打ち付ける高く乾いた音
同時に、微かな嬌声も聞こえてくる
ポツポツ、雨が降ってきた
しかし、誰一人作業を止めようとしない
誰一人、そんなこと気にも留めていない
ダイゴーン「……ダメだ、こんなの……」
ようやく、ダイゴーンが何かを呟く
バスティには、雨音で聞こえないが
そこに、人間族がやってくる
ダイゴーンの肩をグッと掴み―
人間族「おい、お前ら何を突っ立っている。見てないで、早く―」
それをバッと振り払うダイゴーン
バスティを抱き、力強く吠える
全身の筋肉に力を込める
ダイゴーン「うおおぉぉおおぉぉおぉぉおぉぉお!!!」
そして、バスティを投げ飛ばす
高く、高く、放物線を描く
バスティ「パパ……!」
ダイゴーン「逃げろ、バスティ……!」
眼下、取り押さえられるダイゴーン
涙が滲んで、よく見えない
やがて、地面に着地したバスティ
そのまま、背を向け走り出す
振り向かず、どこまでも、ただひた走る
雨粒が顔面を打ち付ける
涙なのか雨なのか、もはや分からない
ただ呻き声が、雨音の中に微かに響く
バスティN「結局、アタシは逃げた。パパの優しさに甘えて。ずっと、一緒にいるって誓ったのに……。アタシは、アタシの役割を果たせないまま、パパを……、村を捨てた。それからは、特別なことは何もない。追手に怯えながら、ずっと1人で暮らしていた。途中で出会った、動物たちと一緒に」
■旧獣人族の村〔下界〕《回想》
砂地の上に、瓦礫や木の残骸が広がる
風が吹き、僅かに砂煙が上がる
それ以外は、本当に何もないところ
バスティ、ザッザッザと歩いてくる
何かを探すように、辺りを見回している
バスティN「偶に村に顔を出すこともあったけど、それでアタシが何かできる訳じゃない。逃げ出したアタシには、何もできない……。それから、また何年か経って、アイツに……、勇也に会った」
遠くから猫の声がして、バスティが顔を上げる
やってきた猫を抱き上げて、頬擦り
正面を見ると、1人の青年が立っている
勇也、戸惑いに眉を顰めこちらを見やる
バスティN「召喚したエルマより、アタシが先に会ってるのよね。何か、変な感じ」
●土の女神の神殿・祭壇
バスティ「……久しぶりに思い出したわ。で、アンタは?」
1本に束ねた茶髪が風に踊る
露出の少ない騎士服が痩身を際立たせる
腰に携えられた、1本の剣
小柄だが、背筋は真っ直ぐ伸びている
そこからは、凛々しさと威厳を感じる
プリトフィ「我が名は、土の女神・プリトフィ。其方に試練を与えた者だ」
バスティ「知ってるわよ。アタシはそれを見たんだから、合格でしょ?こんな暗くて狭いところ、一刻も早く出たいわ」
気だるげにそう口にするバスティ
女神は、しかしかぶりを振る
プリトフィ「それは出来ない」
バスティ「はぁ、何でよ!?最後まで、過去の記憶を見たじゃない!」
プリトフィ「……其方の顔が、何よりの証拠だ」
バスティ「……え?」
スッと視線を上げるプリトフィ
その瞳に、バスティの顔が映る
耳まで赤くし、涙を流すバスティ
潤んだ大きな瞳、大粒の涙が頬を伝う
歪んだ眉が、苦悶に震えている
ともすれば、喉から嗚咽が零れそう
しかし女神は、毅然とした表情を崩さず―
プリトフィ「其方を、試練突破とする訳にはいかない。其方は、過去を乗り越えるだけでは、足りないのだ」