ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~   作:であであ

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第四七幕 変わらないでいるために

●ボーテミュイズン〔下界〕・オストラフ島

 

  神殿前、佇む勇也一行

  どれくらいの時間が経っただろう

  しきりにスマホを確認する勇也

  時間など、もはや対応していないのに

  ガンテは、貧乏ゆすりが止まらない

  打ち付ける波の音が鈍く聞こえる

  吹き抜ける風は、どこか肌に冷たい

  そしてまた、時だけが過ぎていく

  やがて、神殿の入り口に人影が差す

  バスティだ、こちらに歩いてくる

  しかし、その足取りはか細い

  フラフラと、転んでしまいそうだ

  駆け寄る勇也たち

  各々、思い思いの言葉を投げかける

  バスティは、しかしそれに反応しない

  否、反応できないと言った方が正しいか

  頬を伝う涙は止まらず、膝から崩れ落ちる

  その瞳には、もはや光が差し込まない

 

勇也N「バスティは、何度も何度も試練に挑んでいたらしい。そして、その度に失敗を繰り返した。バスティは、少し疲れてしまったみたいだ」

 

●ボーテミュイズン〔下界〕・オストラフ島・民家

 

  敷物に横になっているバスティ

  どうやら、少し落ち着いたようだ

  小刻みに震える瞳、頬には涙の跡

 

勇也「乗り越えるだけじゃ足りない、か……」

 

ピリオネ「どうやら、今回の女神は堅物のようデス」

 

ガンテ「乗り越えて……、どうすんだ?」

 

ナーチ「過去を変える、とか……」

 

  ボソッと呟くナーチ

  それに、エルマがハッと眉を上げる

 

  〔回想〕

  バスティ「だから、私たちのことも助けてくれるんじゃないかって……。勝手に、どっかで期待してたのかしらね……」

 

エルマ「バスティ、言っていましたよね。村を、助けてほしいと」

 

バスティ「……」

 

エルマ「過去を乗り越えた先で、バスティが自らその意思を示せば、きっと―」

 

バスティ「無理よ」

 

  ピシャリと言い切るバスティ

  ゆっくりと、体を起こす

  しかし、俯き一点を見つめたまま―

 

バスティ「アタシが村から逃げてきたの、知ってるでしょ……?パパも、セクミィも、村のみんなも置き去りにして……。そんなアタシに、何ができるって言うのよ……。自分のことさえままならないのに、アタシが村を救うなんて、そんなこと……」

 

  バスティの声から、徐々に熱が失われる

  体は弱々しく、小刻みに震えている

  ガンテ、それ見て身を乗り出し―

 

ガンテ「んだよ、ねーちゃんらしくねぇな。人間族なんて、ぶっ飛ばしてやりゃいいんだよ!俺が手伝って―」

 

バスティ「簡単に言わないでっ!」

 

  しかし返ってきたのは、バスティの怒号

  家屋に反響、一同が静まり返る

 

バスティ「そんなことして、また人間族の怒りを買ったら?アイツらは、アタシたちのことを生き物として見てないわ。次アイツらに盾突いたら、何されるか分かったもんじゃない……」

 

エルマ「バスティ……」

 

バスティ「……そもそも、救うとか救わないとか、そういう話じゃないのよ。これが獣人族の、この世界での役割。アタシたちは、ただそれを果たしているに過ぎないわ」

 

  〔回想〕

  バスティ「あれが私たちの……、獣人族の役目。ただ日常を送っているのに、助けるも何もないでしょ?」

    自嘲するように笑うバスティ

    その瞳は、どこか悲し気

 

勇也「そんな……」

 

バスティ「変える必要なんてない……、変わらなくていい。変わらないことが、良いことだってあるんだから……」

 

  熱も冷め、囁くバスティ

  ふと立ち上がって―

 

バスティ「……ちょっと、外の空気を吸ってくる」

 

ガンテ「じ、じゃあ俺も―」

 

バスティ「来ないでっ!」

 

  バスティの後に着いて行くガンテ

  しかし、バスティがそれを一喝

 

バスティ「ちょっと、1人にさせてよ……」

 

  それだけ言い残し、バスティは去る

  手を伸ばしたまま、固まるガンテ

  勇也も、ただ立ち尽くすだけだ

 

勇也M「……あの言葉は―」

 

  〔回想〕

  バスティ「理想を追い求める気持ちは分かるわ。でも、それに囚われて無理に変わる必要はない。アンタは、アンタなりの勇者であればいいのよ。変わらないことが、良いことだってあるんだから……」

 

勇也M「あれは、俺を励ますために言ってくれた言葉だと思ってた……。違う、自分を励ますための……、いや、自分に言い聞かせるための言葉だったんだ……」

 

●ボーテミュイズン〔下界〕・オストラフ島・海辺

 

  砂浜に1人座り込むバスティ

  いつの間にか日は落ち、夜空が広がる

  幾つかの星々が、夜の砂浜を照らしている

  しかし、バスティはそれに目もくれない

  ただ、海を見つめている

  夜空を映す、真っ黒な海

  打ち寄せる波に、飲み込まれてしまいそう

  この海の黒は、今のバスティの気持t―

 

??「あばばっばばっばばばばっばっばばばぁ!」

 

  その時、背後から奇天烈な声がする

  眉を顰め、思わず振り返るバスティ

  勇也だ、雷に打たれ光を発している

 

バスティ「ちょ、アンタ何してんのよ……!」

 

  バスティを通り過ぎ、近くの岩に激突

  フッと光が消え、再び闇が訪れる

  勇也、体に付いた砂を払いながら―

 

勇也「あ、バスティさん、久しぶり~」

 

バスティ「何、怖いんだけど……」

 

勇也「いや、この島暗いからさ、こんくらい明るければ探しやすいかな~って思って」

 

バスティ「もう少し体を大事にしなさいよ……」

 

勇也「ん~、どうも使いこなせないんだよな~、創世力」

 

バスティ「……もしかして、みんなでアタシのこと探してくれて―」

 

勇也「あぁいや、俺だけだよ。みんな、すぐ戻ってくるだろうって寛いでる」

 

バスティ「アイツら……っ!」

 

勇也「あぁ、でもガンテは―」

 

× × × × ×

 

  民家を出ようとする勇也

  その背後から、ガンテの声

 

ガンテ「なぁ、にーちゃん」

 

勇也「ん?」

 

ガンテ「その……、悪かったって伝えてくれ」

 

勇也「あぁ、ね。ガンテも一緒に来ればいいじゃん」

 

ガンテ「いや、俺が行ってもまた怒らせちまうかもしれねぇから……。だから、頼むわ」

 

× × × × ×

 

勇也「だって」

 

バスティ「ったく、アイツ……。何も知らないくせに勝手なことばっか言って……。そのくせちょっと怒ったら気にするんだから……。最初から言うんじゃないわよ。っていうか、どうして自分から謝りに来ないのかしら、人任せにして……。大体、いつもアイツは―」

 

  途端に小言が止まらなくなる

  しかし、満更でもなさそう

  勇也も、そう感じているのだろう

  ニマニマとバスティを見やる

  実に気色悪い笑みだ

 

× × × × ×

 

  海の浜辺に座る、勇也とバスティ

  打ち寄せる黒い波、鈍く低い音を奏でる

 

勇也「聞いたよ、エルマから。バスティが、パーティに入ってくれた理由。いつか、村を救ってもらえるかもって」

 

  それに、バスティが鼻を鳴らす

  自嘲するように笑って―

 

バスティ「自分じゃ出来ないから、勝手にアンタに期待して、着いて行って……。正直、あのピリオネの言葉、刺さったのよね……」

 

  〔回想〕

  ピリオネ「何を言い出すかと思えば、そんなことオマエらでやればいいデス。誰かに責任転嫁するようなやつに、どの道未来などないデス!」

 

バスティ「アタシに、ピッタリの言葉だわ……」

 

  目を伏せるバスティ

  哀憐と、少しの恥じらいが宿る

  しかし勇也は、あっけらかんと―

 

勇也「いいよ、別に」

 

バスティ「……え?」

 

勇也「全然、頼っちゃってよ。正直、これまで誰かに頼られたことなかったからさ、そういうの結構嬉しいんだよね。まぁ、そんなやつが期待に応えられるのかって話しにもなるんだけど……」

 

バスティ「でも……」

 

勇也「俺だって、みんなに頼りっぱなしだよ。開き直んなって感じだけど、みんながいなければ絶対ここまで来れてないと思う。バスティも、主に戦闘面で頼りにしてるから」

 

  勇也、僅かに口元を強張らせる

  しかし、しっかりとバスティに向いて―

 

勇也「全部1人でやる必要はない……、そう、みんなが教えてくれた。だから俺も、出来る限りみんなの助けになりたい。けど、自分が無力だっていうのは、何て言うか……、悲しいでしょ」

 

バスティ「……でも、事実よ。アタシは逃げた。今更、何が……」

 

勇也「それでも、どうにかしてほしいから……、どうにかしたいと思ってたから、あの時、あそこにいたんじゃないの?」

 

  〔回想〕

  ??「アンタが連れてきてくれたの?」

  勇也「え?」

    ふと、正面から声がかかる

    1人の少女、こちらを見ている

  × × × × ×

  勇也「き、君は……?」

  バスティ「アタシはバスティ、獣人よ」

    バスティ、腰に手を当て勇也に向く

 

勇也「これでも勇者だからさ、誰かを助けることに関しては、常に準備万端のつもりだよ。だから後は、バスティの気持ち次第だ」

 

バスティ「アタシの……」

 

  真っ直ぐ見つめてくる勇也

  バスティ、それに耐えられず目を逸らす

  その瞳の裏で、何を思っているのか

 

■獣人族の村〔上界〕《回想》

 

ダイゴーン「……ダメだ、こんなの……」

 

  バスティの傍ら、立ち尽くすダイゴーン

  その唇が、ようやく何かを呟く

  バスティには、しかし雨音で聞こえないが

  そこに、人間族がやってくる

  ダイゴーンの肩をガッと掴み―

 

人間族「おい、お前ら何を突っ立っている。見てないで、早く―」

 

  それをバッと振り払うダイゴーン

  バスティを抱き、力強く吠える

  全身の筋肉に力を込める

 

ダイゴーン「うおおぉぉおおぉぉおぉぉおぉぉお!!!」

 

  そして、バスティを投げ飛ばす

  高く、高く、放物線を描く

 

バスティ「パパ……!」

 

ダイゴーン「逃げろ、バスティ……!」

 

  眼下、取り押さえられるダイゴーン

  徐々に、涙が滲んでくる

  しかし、それを振り切るように頭を振るう

  やがて、スタッと地面に着地

  刹那に飛び出し、人間族に蹴りを入れる

 

バスティ「だあぁっ!」

 

  重い一撃が腹にめり込む

  吹き飛ぶ人間族、鎧が煩わしく鳴る

 

ダイゴーン「バスティ、何やって―」

 

バスティ「言ったじゃない、ずっと一緒って……!」

 

  バスティ、ダイゴーンを抱きしめる

  震える腕、しかし優しく包み込む

  これまで、そうしてもらったように

 

バスティ「パパを、みんなを、置いてなんていけない……!みんなを忘れて1人で生きるくらいなら、どんなに辛くてもみんなといるわ……!だから、逃げろなんて言わないで……!アタシを、1人にしないで……!」

 

ダイゴーン「バスティ……、バスティ、ごめんな……!」

 

  抱き合う2人の親子獣人

  雨粒が、その体を打ち付ける

  しかし、今は不思議と冷たくない

  村の外れ、その光景を見つめる2人の少女

 

プリトフィ「もう、来ないと思っていた」

 

バスティ「えぇ、アタシもよ」

 

プリトフィ「あれが、其方の出した結論か?」

 

バスティ「……パパと、ずっと一緒にいる。もちろん、ママもセクミィも一緒よ」

 

プリトフィ「だが、其方は逃げた。これは現実ではない。ここで何を考え、どう行動しても、現実は変わらない」

 

バスティ「アンタ、可愛い見た目して性格悪いわね」

 

  つっけんどんと言い放つバスティ

  それに、プリトフィは言い返さない

  ただじっと、バスティの二の句を待つ

 

バスティ「だから、現実にする。パパと、みんなと一緒にいたい……。だからアタシが、獣人族を救う!奴隷なんて役割、糞喰らえだわ!どれだけ時間がかかるか分からないけど……、でも、必ず現実にする。ただの妄想なんかで終わらせないわ!これが、今のアタシの役割よ!」

 

  強く言い放つバスティ

  その新緑の瞳に、揺らがぬ決意が宿る

  プリトフィ、それを見て微かに破顔し―

 

プリトフィ「……其方は、乗り越えた過去のその先を見た。試練は、突破だ」

 

●ボーテミュイズン〔下界〕・オストラフ島

 

  神殿前、佇む勇也一行

  そこに、コツコツと足音が響く

  神殿から出てくるバスティ

  その足取りは軽やかで力強い

  いつかの涙が嘘のようだ

  立ち止まり、皆を一瞥する

 

バスティ「……アタシ、やるわ」

 

  両拳を突き合わせる

  決意に満ちた笑顔を浮かべ―

 

バスティ「アタシが変わってやるわ!獣人族が、これからも変わらずいるために!」

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