ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ボーテミュイズン〔下界〕・オストラフ島
神殿前、佇む勇也一行
どれくらいの時間が経っただろう
しきりにスマホを確認する勇也
時間など、もはや対応していないのに
ガンテは、貧乏ゆすりが止まらない
打ち付ける波の音が鈍く聞こえる
吹き抜ける風は、どこか肌に冷たい
そしてまた、時だけが過ぎていく
やがて、神殿の入り口に人影が差す
バスティだ、こちらに歩いてくる
しかし、その足取りはか細い
フラフラと、転んでしまいそうだ
駆け寄る勇也たち
各々、思い思いの言葉を投げかける
バスティは、しかしそれに反応しない
否、反応できないと言った方が正しいか
頬を伝う涙は止まらず、膝から崩れ落ちる
その瞳には、もはや光が差し込まない
勇也N「バスティは、何度も何度も試練に挑んでいたらしい。そして、その度に失敗を繰り返した。バスティは、少し疲れてしまったみたいだ」
●ボーテミュイズン〔下界〕・オストラフ島・民家
敷物に横になっているバスティ
どうやら、少し落ち着いたようだ
小刻みに震える瞳、頬には涙の跡
勇也「乗り越えるだけじゃ足りない、か……」
ピリオネ「どうやら、今回の女神は堅物のようデス」
ガンテ「乗り越えて……、どうすんだ?」
ナーチ「過去を変える、とか……」
ボソッと呟くナーチ
それに、エルマがハッと眉を上げる
〔回想〕
バスティ「だから、私たちのことも助けてくれるんじゃないかって……。勝手に、どっかで期待してたのかしらね……」
エルマ「バスティ、言っていましたよね。村を、助けてほしいと」
バスティ「……」
エルマ「過去を乗り越えた先で、バスティが自らその意思を示せば、きっと―」
バスティ「無理よ」
ピシャリと言い切るバスティ
ゆっくりと、体を起こす
しかし、俯き一点を見つめたまま―
バスティ「アタシが村から逃げてきたの、知ってるでしょ……?パパも、セクミィも、村のみんなも置き去りにして……。そんなアタシに、何ができるって言うのよ……。自分のことさえままならないのに、アタシが村を救うなんて、そんなこと……」
バスティの声から、徐々に熱が失われる
体は弱々しく、小刻みに震えている
ガンテ、それ見て身を乗り出し―
ガンテ「んだよ、ねーちゃんらしくねぇな。人間族なんて、ぶっ飛ばしてやりゃいいんだよ!俺が手伝って―」
バスティ「簡単に言わないでっ!」
しかし返ってきたのは、バスティの怒号
家屋に反響、一同が静まり返る
バスティ「そんなことして、また人間族の怒りを買ったら?アイツらは、アタシたちのことを生き物として見てないわ。次アイツらに盾突いたら、何されるか分かったもんじゃない……」
エルマ「バスティ……」
バスティ「……そもそも、救うとか救わないとか、そういう話じゃないのよ。これが獣人族の、この世界での役割。アタシたちは、ただそれを果たしているに過ぎないわ」
〔回想〕
バスティ「あれが私たちの……、獣人族の役目。ただ日常を送っているのに、助けるも何もないでしょ?」
自嘲するように笑うバスティ
その瞳は、どこか悲し気
勇也「そんな……」
バスティ「変える必要なんてない……、変わらなくていい。変わらないことが、良いことだってあるんだから……」
熱も冷め、囁くバスティ
ふと立ち上がって―
バスティ「……ちょっと、外の空気を吸ってくる」
ガンテ「じ、じゃあ俺も―」
バスティ「来ないでっ!」
バスティの後に着いて行くガンテ
しかし、バスティがそれを一喝
バスティ「ちょっと、1人にさせてよ……」
それだけ言い残し、バスティは去る
手を伸ばしたまま、固まるガンテ
勇也も、ただ立ち尽くすだけだ
勇也M「……あの言葉は―」
〔回想〕
バスティ「理想を追い求める気持ちは分かるわ。でも、それに囚われて無理に変わる必要はない。アンタは、アンタなりの勇者であればいいのよ。変わらないことが、良いことだってあるんだから……」
勇也M「あれは、俺を励ますために言ってくれた言葉だと思ってた……。違う、自分を励ますための……、いや、自分に言い聞かせるための言葉だったんだ……」
●ボーテミュイズン〔下界〕・オストラフ島・海辺
砂浜に1人座り込むバスティ
いつの間にか日は落ち、夜空が広がる
幾つかの星々が、夜の砂浜を照らしている
しかし、バスティはそれに目もくれない
ただ、海を見つめている
夜空を映す、真っ黒な海
打ち寄せる波に、飲み込まれてしまいそう
この海の黒は、今のバスティの気持t―
??「あばばっばばっばばばばっばっばばばぁ!」
その時、背後から奇天烈な声がする
眉を顰め、思わず振り返るバスティ
勇也だ、雷に打たれ光を発している
バスティ「ちょ、アンタ何してんのよ……!」
バスティを通り過ぎ、近くの岩に激突
フッと光が消え、再び闇が訪れる
勇也、体に付いた砂を払いながら―
勇也「あ、バスティさん、久しぶり~」
バスティ「何、怖いんだけど……」
勇也「いや、この島暗いからさ、こんくらい明るければ探しやすいかな~って思って」
バスティ「もう少し体を大事にしなさいよ……」
勇也「ん~、どうも使いこなせないんだよな~、創世力」
バスティ「……もしかして、みんなでアタシのこと探してくれて―」
勇也「あぁいや、俺だけだよ。みんな、すぐ戻ってくるだろうって寛いでる」
バスティ「アイツら……っ!」
勇也「あぁ、でもガンテは―」
× × × × ×
民家を出ようとする勇也
その背後から、ガンテの声
ガンテ「なぁ、にーちゃん」
勇也「ん?」
ガンテ「その……、悪かったって伝えてくれ」
勇也「あぁ、ね。ガンテも一緒に来ればいいじゃん」
ガンテ「いや、俺が行ってもまた怒らせちまうかもしれねぇから……。だから、頼むわ」
× × × × ×
勇也「だって」
バスティ「ったく、アイツ……。何も知らないくせに勝手なことばっか言って……。そのくせちょっと怒ったら気にするんだから……。最初から言うんじゃないわよ。っていうか、どうして自分から謝りに来ないのかしら、人任せにして……。大体、いつもアイツは―」
途端に小言が止まらなくなる
しかし、満更でもなさそう
勇也も、そう感じているのだろう
ニマニマとバスティを見やる
実に気色悪い笑みだ
× × × × ×
海の浜辺に座る、勇也とバスティ
打ち寄せる黒い波、鈍く低い音を奏でる
勇也「聞いたよ、エルマから。バスティが、パーティに入ってくれた理由。いつか、村を救ってもらえるかもって」
それに、バスティが鼻を鳴らす
自嘲するように笑って―
バスティ「自分じゃ出来ないから、勝手にアンタに期待して、着いて行って……。正直、あのピリオネの言葉、刺さったのよね……」
〔回想〕
ピリオネ「何を言い出すかと思えば、そんなことオマエらでやればいいデス。誰かに責任転嫁するようなやつに、どの道未来などないデス!」
バスティ「アタシに、ピッタリの言葉だわ……」
目を伏せるバスティ
哀憐と、少しの恥じらいが宿る
しかし勇也は、あっけらかんと―
勇也「いいよ、別に」
バスティ「……え?」
勇也「全然、頼っちゃってよ。正直、これまで誰かに頼られたことなかったからさ、そういうの結構嬉しいんだよね。まぁ、そんなやつが期待に応えられるのかって話しにもなるんだけど……」
バスティ「でも……」
勇也「俺だって、みんなに頼りっぱなしだよ。開き直んなって感じだけど、みんながいなければ絶対ここまで来れてないと思う。バスティも、主に戦闘面で頼りにしてるから」
勇也、僅かに口元を強張らせる
しかし、しっかりとバスティに向いて―
勇也「全部1人でやる必要はない……、そう、みんなが教えてくれた。だから俺も、出来る限りみんなの助けになりたい。けど、自分が無力だっていうのは、何て言うか……、悲しいでしょ」
バスティ「……でも、事実よ。アタシは逃げた。今更、何が……」
勇也「それでも、どうにかしてほしいから……、どうにかしたいと思ってたから、あの時、あそこにいたんじゃないの?」
〔回想〕
??「アンタが連れてきてくれたの?」
勇也「え?」
ふと、正面から声がかかる
1人の少女、こちらを見ている
× × × × ×
勇也「き、君は……?」
バスティ「アタシはバスティ、獣人よ」
バスティ、腰に手を当て勇也に向く
勇也「これでも勇者だからさ、誰かを助けることに関しては、常に準備万端のつもりだよ。だから後は、バスティの気持ち次第だ」
バスティ「アタシの……」
真っ直ぐ見つめてくる勇也
バスティ、それに耐えられず目を逸らす
その瞳の裏で、何を思っているのか
■獣人族の村〔上界〕《回想》
ダイゴーン「……ダメだ、こんなの……」
バスティの傍ら、立ち尽くすダイゴーン
その唇が、ようやく何かを呟く
バスティには、しかし雨音で聞こえないが
そこに、人間族がやってくる
ダイゴーンの肩をガッと掴み―
人間族「おい、お前ら何を突っ立っている。見てないで、早く―」
それをバッと振り払うダイゴーン
バスティを抱き、力強く吠える
全身の筋肉に力を込める
ダイゴーン「うおおぉぉおおぉぉおぉぉおぉぉお!!!」
そして、バスティを投げ飛ばす
高く、高く、放物線を描く
バスティ「パパ……!」
ダイゴーン「逃げろ、バスティ……!」
眼下、取り押さえられるダイゴーン
徐々に、涙が滲んでくる
しかし、それを振り切るように頭を振るう
やがて、スタッと地面に着地
刹那に飛び出し、人間族に蹴りを入れる
バスティ「だあぁっ!」
重い一撃が腹にめり込む
吹き飛ぶ人間族、鎧が煩わしく鳴る
ダイゴーン「バスティ、何やって―」
バスティ「言ったじゃない、ずっと一緒って……!」
バスティ、ダイゴーンを抱きしめる
震える腕、しかし優しく包み込む
これまで、そうしてもらったように
バスティ「パパを、みんなを、置いてなんていけない……!みんなを忘れて1人で生きるくらいなら、どんなに辛くてもみんなといるわ……!だから、逃げろなんて言わないで……!アタシを、1人にしないで……!」
ダイゴーン「バスティ……、バスティ、ごめんな……!」
抱き合う2人の親子獣人
雨粒が、その体を打ち付ける
しかし、今は不思議と冷たくない
村の外れ、その光景を見つめる2人の少女
プリトフィ「もう、来ないと思っていた」
バスティ「えぇ、アタシもよ」
プリトフィ「あれが、其方の出した結論か?」
バスティ「……パパと、ずっと一緒にいる。もちろん、ママもセクミィも一緒よ」
プリトフィ「だが、其方は逃げた。これは現実ではない。ここで何を考え、どう行動しても、現実は変わらない」
バスティ「アンタ、可愛い見た目して性格悪いわね」
つっけんどんと言い放つバスティ
それに、プリトフィは言い返さない
ただじっと、バスティの二の句を待つ
バスティ「だから、現実にする。パパと、みんなと一緒にいたい……。だからアタシが、獣人族を救う!奴隷なんて役割、糞喰らえだわ!どれだけ時間がかかるか分からないけど……、でも、必ず現実にする。ただの妄想なんかで終わらせないわ!これが、今のアタシの役割よ!」
強く言い放つバスティ
その新緑の瞳に、揺らがぬ決意が宿る
プリトフィ、それを見て微かに破顔し―
プリトフィ「……其方は、乗り越えた過去のその先を見た。試練は、突破だ」
●ボーテミュイズン〔下界〕・オストラフ島
神殿前、佇む勇也一行
そこに、コツコツと足音が響く
神殿から出てくるバスティ
その足取りは軽やかで力強い
いつかの涙が嘘のようだ
立ち止まり、皆を一瞥する
バスティ「……アタシ、やるわ」
両拳を突き合わせる
決意に満ちた笑顔を浮かべ―
バスティ「アタシが変わってやるわ!獣人族が、これからも変わらずいるために!」