ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ボーテミュイズン〔下界〕・平原
勇也「嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!」
平原に響き渡る絶叫
勇也は今、逃げている
号泣しながら、全力疾走している
何からか
大いなる風が、背後より迫りくる
巨大な翼竜だ、一行に狙いを定める
咆哮が絶叫と混ざり、平原に反響する
バスティ「ちょっと、逃げてるだけじゃどうにもならないでしょ!戦いなさいよ!」
勇也「無理無理無理!空高く連れてかれて、そこでバラバラだって!」
決して振り向くことなく、ただひた走る
何とも、勇者とは思えぬ姿である
× × × × ×
木の裏に隠れる勇也一行
翼竜、どこかへ羽ばたいていく
それを見た勇也、安堵の溜息
頬には涙の跡がクッキリ残る
エルマ「スライム討伐時のあの笑顔が、見る影もありませんね」
〔回想〕
勇也「俺、このまま魔王、倒せるかもしれない……!」
勇也「返す言葉もございません……。でも、これからは無駄な戦闘は避けて行こう」
バスティ「魔物を野放しにするっていうの?」
勇也「言い方に語弊があるけど……。通常戦闘はもちろん、ボス戦も極力避けたいんだ。体力は温存して、時間は節約!RTAの基本だよ、やったことないけど」
エルマ「確かに、全ての魔物と戦う必要はありませんが、ある程度戦闘を重ねて経験値を―」
その時、バタンッと音
勇也、地面に倒れ伏している
エルマ「勇也様!?」
バスティ「ちょっと、どうしたのよ……!?」
勇也「……つ、疲れた」
エルマ/バスティ「え?」
喉から絞り出すような勇也の声
勇也「王都からここに来るまでに、一晩明けました。カットされてるところで休んでるって思うじゃん?No睡眠で夜通し歩き続けてたからね。俺はゲームキャラじゃないので、そんなの無理です。おやすみなさい」
勇也、大きないびきをかきだす
バスティ、呆れたように―
バスティ「こんなところで寝たら、さっきのに食われるわよ?」
勇也「爆速起床」
勇也、飛び跳ね起き上がる
その傍ら、エルマが徐に足を摩る
エルマ「確かに、ずっと歩いてばかりでしたね」
バスティ「流石にアタシも、尻尾がこってるわ」
勇也「何その現象」
エルマ「この近くに、ドワーフ族の村があります。そこの宿屋で、少し休みましょうか」
バスティ「いいわね!」
勇者「ドワーフって、あのずんぐりした?」
エルマ「えぇ。皆さん気さくで、良い方々ですよ」
●ドワーフ族の村
森にも似た自然の中に、家々が並ぶ
温和な、それでいて平凡なただの村だ
それを埋め尽くすほどのドワーフたち
勇也一行を前に整列する
まるで、棚に丁寧に飾られた人形
その光景に、勇也は言葉が出ない
ウレアヌ「ドワーフの村へ、ようこそお越しくださいました、勇者御一行様。私、村長のウレアヌと申します。心行くまでお寛ぎください」
エルマ「ありがとうございます」
エルマ、何てことない笑顔で応える
しかし、勇也とバスティの表情は奮わない
●ドワーフ族の村・宿屋・寝室
ベッドに飛び込む勇也
気だるげな声で―
勇也「あ~、疲れた~。引きこもりに日中の長時間行動は拷問だ~」
バスティ、それに溜息をつく
自身の尻尾を揉みながら―
バスティ「こんなんじゃ、魔界に着く前に力尽きそうね」
エルマ「体を鍛えるために、休息は三日に一度にしましょうか」
バスティ「それはアタシも死んじゃう。っていうか、よく泊まれたわね。お金とか持ってるの?」
エルマ「いいえ、一文無しです」
バスティ「げっ」
エルマ「心配いりません。勇者一行であれば、皆さまご厚意で良くしてくださいますよ」
勇也「え、無料で何でもし放題ってコト!?」
エルマ「はい。ですが流石に心苦しいので、明日はウレアヌ様のお仕事のお手伝いをいたしましょうか」
勇也「アルバイトもしてこなかった俺の初労働が異世界とは、何か感慨深いな……」
エルマ「ドワーフ族は木こりを生業としています。勇也様でも、容易にこなせると思いますよ」
バスティ「ま、今後どんな方法で稼がなきゃいけなくなるか分からないものね」
その時、コンコンとノック音
ガチャッと扉が開く
ウレアヌ、ヌッと顔を出して―
ウレアヌ「勇者御一行様。村一番の宿屋は、ご満足いただけておりますかな?」
エルマ「えぇ、とても。明日、村長様のお仕事をぜひお手伝いさせていただければと、話していたところです」
ウレアヌ「それはそれは、大変心強い。では明日、楽しみにしておりますぞ」
エルマ「はい、私共に出来ることがあれば、何なりと」
ウレアヌ、部屋から出て行く
扉が閉まり、一瞬の沈黙が落ちる
それを破ったのは、バスティだ
訝し気な表情、または声で―
バスティ「あれが、村長……?」
エルマ「どうかされましたか?」
バスティ「いや……、なんか見分けつかないのよね。この村のドワーフって」
勇也「分かる、韓流アイドルみたいなね」
バスティ「ちょっと何言ってるのか分かんない」
エルマ「確かに、ドワーフ族はもっと十人十色だったはず……」
バスティ「ま、みんな同じような体型だからそう見えるのかもね」
エルマ「もう、失礼ですよ」
勇也「スタイルがいいやつの余裕だな」
バスティ「ちょっと、いやらしい目で見ないでよ」
勇也「そんなんじゃないけど、気を付けた方が良いんじゃない?」
バスティ「何を?」
勇也「バスティ、夜ご飯二十杯くらいおかわり―」
バスティ「ふんっ!」
バスティ、勇也の頬にビンタ
涙を散らし、吹き飛んでいく
大きな音を立てて、ベッドの下に不時着
バスティ「育ち盛りの女の子なんだから、仕方ないでしょ!」
勇也「き、斬られるより痛い……」
バスティ「アタシはもう寝るけど、変な気起こしたら、アンタの旅はここで終わりだと思いなさい」
エルマ「それは困ります」
バスティ、ベッドに潜る
勇也「そんな度胸があったら、この年まで童貞してないよ……」
囁きながら、ベッドに潜る勇也
その悲しき独り言は、誰の耳にも届かない
× × × × ×
深夜
皆が寝静まった頃
スースーと寝息が聞こえる
勇也、徐に目を開ける
勇也「ん~、トイレ~」
ふと、隣を見る
雑に捲れたベッド
そこにバスティの姿はない
勇也「トイレ被り……。そろそろ、一家にトイレ2台持ちが常識になってくれないかな……」
勇也、トボトボと部屋を出る
ベッドの下、奇天烈な寝相のバスティ
その存在に、勇也は気づかないまま
× × × × ×
水の流れる音
勇也、トイレから出てくる
眠い目を擦りながら―
勇也「ん~……」
その時、微かに何かが聞こえる
猫の鳴き声だ
ふと足を止める勇也
勇也「ん、猫……?もしかして、バスティ……?」
声のした方に歩いていく
やがて、倉庫のようなものが見える
勇也「バスティ、そんなリアルな声出せるんだね。こんなところで何して―」
木造の扉をギシッと開ける
足元、1匹の猫が走り去る
しかし、そんなこと気にも留めない
ただ、目の前の光景に絶句するのみ
勇也「……!」
大勢のウレアヌ、正面を向いて整列
表情も変えず、微動だにしない
まるで、並べられた人形の様
息を詰まらせる勇也、思わず―
勇也「何、これ……」