ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ボーテミュイズン〔下界〕・ミラリェス森林
勇也M「ついに、女神の神殿も残り一つとなった。俺たちは、その最後の神殿を求めて例の森へとやってきていた。因みに、ここが『ミラリェス森林』なんて大層な名前が付けられていたことは、さっきエルマが教えてくれた」
生い茂る木々の隙間から、木漏れ日が差す
いつ見ても、神秘的で幻想的な光景だ
湿った土道を歩く勇也一行
勇也、辺りを見回し感慨深げに―
勇也「やっぱ、最後はここに戻ってくるんだな~」
ピリオネ「オマエは野生児か何かデスか?」
勇也「いやいや、俺がこの世界に召喚されて初めて目覚めた場所なんだよ。それで、麓の村でバスティと会った」
バスティ「懐かしいわね」
勇也「あの時は、本気でバスティをメインヒロインだと思ってたけど……」
そこで言葉を切る勇也
バスティを見て、ニマニマと笑う
だって、隣にガンテがいるから
バスティ「な、何よ、気持ち悪いわね……」
ナーチ「勇也しゃんが試験で困ってた時、バスティしゃんが励まちてくれたのもここでしゅ」
バスティ「そんなこともあったかしらね」
勇也「ナーチも、あの時はありがとうね」
勇也、優しくナーチに微笑む
それに、ナーチは言葉を返さない
僅かに頬を染め、俯いてしまった
× × × × ×
暫く歩き続けた先で何かを見つける
石碑だ、女神の紋様が刻まれている
それに、勇也が意外そうに眉を上げる
勇也「ほぇ~、こんなとこにあったっけな~」
エルマ「『ヴィプスク』」
杖を構え、エルマが唱える
凄まじい魔力が、石碑に吸い寄せられる
創世級魔力を、貪欲に呑み込み続ける
足りない、まだ足りないと言わんばかりに
やがて、石碑の彫刻に光が灯る
轟音と共に地が揺れ、木々が騒めく
驚いた鳥たちが、どこかへ飛び去って行く
湿った土を抉り、迫り出す石造りの構造物
例に漏れず、それは女神の神殿だ
入り口の上、女神の像が一行を見下ろす
勇也「一回進んだ後に戻ると現れる秘密の入り口……、まるでHAL部屋だぁ」
ピリオネ「早く入れデス」
勇也「何か今日当たり強くない?」
ガンテ「でも、にーちゃんが最後の一人だったな」
勇也「これが最後の試練です、お気をつけて」
エルマ、真っ直ぐ勇也を見つめる
その表情は、どこか神妙だ
この時を待ち侘びたと言わんばかりに
解釈によっては、不安を煽られるかもしれない
勇也は、どちらかと言えば後者だ
しかし、それを吹き飛ばすように頬を一叩き
拳を握り、フンスと気合を入れる
勇也「よし、行って来る……!」
歩き出す、その足取りに迷いはない
内部の暗闇が、彼の背中を覆い隠しt―
勇也「やっぱ心細いや。誰か着いてk―」
エルマ「早く行ってください☆」
満面の笑みで杖を構えるエルマ
呼応するように、杖の先端の球体が輝く
ともすれば、今にも光線を射出しそう
命の危険を感じ、勇也は走り去る
あっという間に、その姿は闇に消えた
●水の女神の神殿・通路
石畳の薄暗い廊下
燭台はなく、遥か先まで闇が続く
微かに、水の滴る音が聞こえる
勇也「通路なが……。俺のケツはワープ用じゃないっての」
小言を挟みながらも、勇也は歩を進める
それは、どこか強がりのようにも感じる
その時、何かの音が聞こえてくる
通路の先から、微かに響いてくる
水の滴る音ではなさそうだ
勇也「人の、声……?もしかして、女神の……」
ひとり囁く勇也
心なしか、足取りが速くなる
勇也「風の女神はキザだったから、もっとママ味のある女神だったらいいな~。エルマからは、その成分吸収できないし……。俺は、ママさん女神を所望する!」
決意するように言い放つ勇也
さらに、通路を進む歩を速める
鼻息さえも荒くなり、まるで機関車だ
やがて、開けた場所に出る
勇也「ここが、祭壇……」
そこに、一人の少女の後ろ姿を見つける
先程の声の主は、彼女の様だ
勇也「あ……、あの~……」
??「―リスの雄牛」
小さな背中に手を伸ばす
しかし、耳に届いた言葉に思わず固まる
??「ファラリスの雄牛。鉄の処女。鉛責め。火責め。吊るし責め。指圧棒。車裂き。磔。針刺し―」
勇也「えやだ、怖いんですけど」
ブツブツと呟く少女
しかし、勇也の声に気付いて黙る
神殿内、僅かに沈黙が落ちる
やがて、ゆっくりとこちらに振り向くと―
??「おに~さん、やっと来た~。通路歩くの遅すぎ~、脚力貧弱なんですけど~。おに~さんのザ~コ、ザ~コwww」
勇也「メスガキ来た~っ!」
× × × × ×
勇也「え、えっと……、君は……?」
テーティス「テティは、水の女神・テーティスだよ~」
そう言って、悪戯に口角を上げる女神
その髪は水色でツインドリル
神殿の壁も砕けそうなほど鋭利だ
そして、幼い体を覆うマイクロビキニ
否、もはや覆えてなどいない
他の女神と比較にならない程の露出度
ともすれば、恥部が全て晒されてしまいそう
さすがの勇也も、これには目のやり場に困r―
勇也「ふぅ~……!ふぅ~……!」
いや、見ている、凄く見ている
鼻下を伸ばし、布と肌の境目を凝視
テーティス「テティのちっちゃい体見て興奮するとか、おに~さん変態~。もしかして、おに~さんって童貞~?www」
勇也「この成りで処女膜を突破したことがあると思うかぁ!」
テーティス「逆ギレキモ~いwww」
勇也、ゴホンと咳払いを一つ
今更ながら、平静に戻ろうと試みる
勇也「これが最後の神殿だってのに、先が思いやられるで、ほんま……」
テーティス「へぇ~、おに~さんたち、もう他の子たちとは会ってるんだ~。少しはザコじゃん」
勇也「おい、コロケーション」
その時、勇也が何かに気付く
否、これまでで既に気付いていた
無意識の内に、見ないふりをしていた
本能が、それを認識することを拒んでいた
テーティスの周りを、何かが浮遊している
拷問器具だ、先ほど彼女が口にしていた
幻覚のように、フワフワと舞っている
その温度差に脳の処理が追い付かない
想像通り、命の危険に心臓が震える
勇也「え、もしかして拷問の試練とか言わないよね?そんなファンタジーの欠片もない物理的な試練嫌だよ?俺、まだ喰種として生きる覚悟とかしてないから」
テーティス「でも、創世力を手に入れるためには、おに~さんは試練を受けるしかない。全ての創世力を宿して、ようやくザコのおに~さんでも使いこなせるようになるんだもん」
勇也「あ、やっぱりそうか。全部集めなきゃ、的なノリね」
テーティス「大丈夫、おに~さん拷問しても、テティ楽しくないもん」
勇也「そ、そりゃよかった」
ホッと息を吐く勇也
その顔面に、テーティスがズイと寄ってきて―
テーティス「ところでおに~さん、水責めって知ってる?」
勇也「え、これ本当に大丈夫なんだよね?」
テーティス「えへへ」
勇也「いや、えへへじゃなくt―」
テーティス「惨めなおに~さんの面白~い過去、テティに見せて?www」
女神の幼声が、鼓膜を微かに震わす
何か熱いものが、脳に浸透する
直後、全身に冷気を浴びる
否、濡れたのだ、だから冷たいのだ
頭から爪先まで、びしょ濡れなのが分かる
頭を振って水滴を飛ばし、目を開ける
白い簡素な扉と、足元にはタイルが広がる
勇也が腰かけているのは、白い便座
独特な臭いだけでも、ここがどこか分かる
扉の向こう、下品な笑い声が遠ざかる
少し遠めに聞こえる、チャイムの音
呆然と一点を見つめ、そして呟く
勇也「……体操着、持ってたっけ」
■中学校・教室(三年前・午前)《回想》
授業中、教科書を読む教師
生徒たちは、板書を写している
勇也も、例に漏れずノートを開いている
しかし、そのノートは落書きだらけ
罵詈雑言で真っ黒に埋め尽くされている
見れば、机や椅子にも同じような落書きが
しかし、誰もそれに気づかない
否、誰も気に留めない
どうにかしようと、動いてくれない
当然だ、面倒事には関わりたくない
ただ、コソコソと笑い声が聞こえるだけ
× × × × ×
放課後、一人箒を持つ勇也
床の埃を掃いている
そこに突然、ビシャビシャと液体
ピンク色だ、いちごミルクか何かか
そして、ボトッと落ちる紙パック
やはり、いちごミルクだ
意外と可愛いな、なんて考えてみる
しかし勇也は、それから視線を外さない
誰がこんなことをしたのか、見たくないから
怖いから
何を言われるか
何をされるか
分かったものじゃないから
下劣な笑い声が遠ざかっていく
ふと、箒を手放す勇也
傍らの雑巾で、一人床を拭く
夕日のスポットライトが、勇也を照らす
まるで、嘲笑うかのように
× × × × ×
昇降口、下駄箱を開ける勇也
靴を取ろうと、中に手を入れる
瞬間、反射的に手を引っ込める
鋭い痛みを感じたからだ
指先から、微かに血が滴る
見れば、靴の中には何やら光るもの
画鋲だ、勇也を見て鋭利に光る
もはや、溜息さえでない
ガシャガシャ、その場に画鋲を捨てる
拾いもせず、そのまま昇降口を後にする
拾ってやる義理など、勇也にはない
× × × × ×
翌日、何やら教室が騒がしい
ザワザワ、生徒たちが陰口を言っている
教室にやってくる勇也
自分の席を見て、ハッと瞠目する
机の上に、大きな花瓶が一つ
律儀にも、花が添えられている
既に黒ずみ枯れているが
しばらく、呆然と見つめてしまう
これを見て、花瓶を退かす者はいない
心配や慰めの言葉をかける者もいない
このクラスに、勇也の味方はいない
ヒュッと、細く息を吸い込む
瞬間、振り抜いた腕を花瓶に打ち付ける
軽々と飛んでいく花瓶
床に衝突し、粉々に砕け散る
甲高い音と、閃光が目の端に舞う
同時に、ざわめきの色が強くなる教室
しかし、その内の一つが鼓膜を劈いた
思わず、バッと振り向く勇也
一人の女子生徒が、その目を押さえている
いつか、勇也に嘘告白をした女子だ
その手から、赤黒い血が流れ出る
教室の床に、小さな血溜まりを作る
ボタボタ、音さえ聞こえてきそうだ
取り巻きの男子が、彼女に寄り添う
そして、鋭くこちらを睨んでくる
ドブネズミを見るような、蔑んだ目
男子「……お前、死ねよ」
その一言に、心臓が強く脈打つ
ザッザッと、思わず後退り
窓に背中をぶつけても気にならない
揺れる瞳は、何も見つめていない
勇也M「これ……、俺のせい……?」
■中学校・兎小屋(三年前・放課後)《回想》
鼻を劈くような獣臭
小屋に充満する、無数の糞の匂い
足元には、ぶち撒けられた弁当
この中で飯を食えなど、冗談じゃない
だから叩く、全力で叩く
出せ、出せと扉を叩く
ガシャンガシャン、煩わしい音が響く
扉の鍵は、こちらからでは開かない
しかし、眼前の男子たちは扉を開けない
陰気に目を細め、こちらを見やるだけ
その手には、財布が握られている
ベリベリと剥がれる、マジックテープ
中から小銭が、僅かな札が、抜かれる
抜かれ続けて、何もなくなる
もう用済みだと、投げ捨てられる
そして、嗤いながらどこかへ歩き去る
勇也は、それを見届けることしかできない
勇也M「……もう、死のうかな」
× × × × ×
放課後、どこかの校舎裏
壁際に追い込まれた勇也
顔には、大きな痣と腫れ
制服は土に汚れ、所々破けている
そんな彼を囲う、三人の男子生徒
次々と、勇也に暴行を加える
髪を掴み回し、頬を叩いてみたり
鼻を殴って、腹に肘を入れてみたり
足払いして、頭を踏みつけにしてみたり
しかし、顔を歪めながらも勇也は抵抗しない
もはや、そんな気力は枯れ果てている
勇也M「……痛い、怖い、逃げたい。でも、痛くて、怖くて、動けない……。誰か……、助けてよ……」
遠のく意識の中、心の中で呟く
瞬間、心臓がドクンと強く脈打つ
目の前が真っ黒になり、何かが蠢く
蠢くまま、こちらに迫ってくる
形はない、だが確かに感じる
そして、語り掛けてくる
「助けてやろうか?」と
勇也「……ありがとう」
自然と、そう口が動いた
そしてそのまま、動かなくなる
男子1「何言ってんだ、こいつ?」
男子2「頭おかしくなったんじゃね?www」
男子3「オモロ。へばってんなよ」
男子1「おら、起きろよ。おら」
爪先で勇也の鼻を小突いてやる
直後、その口元がニヤリと笑う
勇也「……ははっ、はははっ」
奇妙な笑い声だ
それに、男子たちは眉を顰める
そして、振り上げた拳を勇也に向けて―
男子1「なに笑ってんだよっ!」
振り下ろす―はずだった
それは、顔を殴る直前で止められた
誰でもない、勇也自身の手で
勇也「……次、オレの番」
そう言って、顔を上げる勇也
その瞳に、悲しみや不安はない
痛みや苦悶もない
ただ、狂喜と殺意が滲むだけ
刹那、拳が迫って―
●水の女神の神殿・祭壇
テーティス、小悪魔的に首を傾げて―
テーティス「おかえり、おに~さん」
勇也「……んだよ、こっから面白くなるってのに」
テーティス「あははっ、でもテティはもう十分。やっぱりおに~さん、面白いね」
女神のその言葉に、勇也は答えない
ただ、佇むだけ
その瞳は、何を見つめているのか
邪悪に、口角が歪む
●ボーテミュイズン〔下界〕・ミラリェス森林
神殿前、佇むエルマたち
その時、神殿入り口から音がする
ペタペタと足音、こちらに近づいてくる
テーティス、その肌を外気に露出させて―
テーティス「はい、おに~さんおね~さんたち~、注目~!」
ピリオネ「何デス?」
バスティ「って、凄い格好ね!?」
エルマ「貴方は……?」
テーティス「テティは、水の女神・テーティスだよ~」
ピリオネ「わざわざ神殿から出てくる女神に、碌なヤツはいないデス」
ガンテ「あれ、にーちゃんは?」
神殿を覗き込むガンテ
それに、テーティスは口元に手をやり―
テーティス「ごっめ~ん!テティ、勇者のおに~さん壊しちゃった~www」
エルマ「壊した……?」
眉を顰めるエルマ
その時、神殿入り口から再び足音
出てきたのは、勇也だ
神殿に入って行った時と、何ら変わりない
エルマ、僅かに不安の色を宿して―
エルマ「……勇也様、試練の方は―」
勇也「がああぁああぁぁあああぁぁぁあああぁっ!」
叫ぶ―否、吠える勇也
咆哮とも言える声が、森に木霊する
一行は、その行動が理解できない
言葉が出て来ず、固まっている
それを横目に、勇也が辺りを見渡して―
勇也「懐かしいなぁ。よくやく、帰って来れたぜ」
テーティス「よかったね、おに~さん。テティに感謝してくれてもいいんだよ?」
勇也「黙れガキ、分からせんぞ」
テーティス「いや~ん、おに~さんの変態~www」
ありきたりなポーズをとるテーティス
その傍ら、やはり固まったままの一行
ガンテ「に、にーちゃん、どうしたんだ?」
バスティ「珍しいわね、アンタがそんな言葉遣い―」
勇也「……あぁ?」
平静を装って問うバスティとガンテ
それを、勇也が強く睨みつける
今までに感じたことのない威圧感
それに、二人は思わず尻凄む
テーティス「仕方ないよ。だって、みんなの前で出てくるのは初めてなんでしょ?もう一人のおに~さん?」
勇也「そうだな」
ナーチ「もう一人の、勇也しゃん……?」
エルマ「……違う、勇也様ではない」
震える声のエルマ
それを、勇也はただ見つめる
微かに上がった口角が不気味だ
エルマ、意を決したように―
エルマ「貴方は、一体……」
勇也「……さぁ、誰だろうなぁ」
はぐらかす勇也
そっぽを向き、気にせん素振り
それに、エルマが言う
震える声だが、確信をもって―
エルマ「勇也様の、もう一つの人格……?」