ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~   作:であであ

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第四九幕 異世界召喚は初めてではない

●ストヴァーニェ〔下界〕・食堂

 

  テーブルに並ぶ、豪勢な料理

  芳ばしい香りが、湯気と共に鼻腔を擽る

  それが、潰れる

  鷲掴まれ、飛び散る

  投げ出された皿が床で割れる

  雑な咀嚼の後、一気に飲み込む

  汚れた口元は気にせず、また鷲掴む

  その印象は、やはり勇也とはかけ離れている

  目の前にいるのは、確かに勇也のはずだが

  どう見ても、別人としか思えない

 

ピリオネ「オマエらみたいな食い方デス」

 

バスティ「さすがにここまで酷くないわよ!」

 

ナーチ「似てる……」

 

  エルマは、会話に参加しない

  ただじっと、勇也を見つめている

  そして、先程の記憶を思い起こす

 

◆ボーテミュイズン〔下界〕・ミラリェス森林《回想》

 

  鬱蒼とした森、木漏れ日は差さない

  今だけは、不穏な陰りを見せる

  エルマ、戦慄して―

 

エルマ「勇也様の、もう一つの人格……?」

 

テーティス「じゃ、そういうことだから。じゃあね~」

 

  ヒラヒラと手を振るテーティス

  踵を返し、神殿へと帰っていく

 

ガンテ「……待てよ」

 

  足止めしたのはガンテだ

  握る拳が、微かに震えている

 

ガンテ「にーちゃんを、元に戻せ……!」

 

テーティス「はぁ?テティはな~んにもしてないんですけど~?テティは、女神としての役割を果たしただ~け。そしたら、おに~さんが勝手にこうなったんだも~ん。テティが悪い事なんて、な~んにm―」

 

  刹那、響く轟音と揺れる大地

  ガンテが飛び出した合図だ

  幼き女神へと殴りかかる

 

ガンテ「どわっ!?」

 

  だが気付けば、体は土道の上へ

  眼前に、勇也の顔面が迫る

  あまりに一瞬の出来事

  跳躍した勇也が、ガンテに飛び掛かった

  身を翻し、瞬きの間に無力化

  その、あまりにも素早い身のこなし

  当のガンテは、視認さえできなかった

  勇也、ガンテの口元をグッと押さえ―

 

勇也「おいガキ、静かにしろ。せっかくオレが郷愁に浸ってんのに、水差すんじゃねぇ。殺すぞ」

 

  サラリと言い放つ勇也

  だが、ガンテには衝撃的だったようだ

  思わず、ハッと目を見開いてしまう

 

ガンテ「にーちゃん……」

 

テーティス「おに~さん、強~い。女神様に飛び掛かるなんて、悪い子だね~。そのオスガキ、今すぐ絞めちゃってy―」

 

  ドスン、大きな音が響く

  勇也が、神殿の壁面に手を突いたのだ

  その腰元には、テーティスの姿

  口を開けたまま、勇也を見上げる

  その瞳を、勇也がギロッと覗き込んで―

 

勇也「てめぇもガキなら同罪だ。調子に乗んな、殺すぞ」

 

テーティス「ご……、ごめんなしゃい……」

 

  吐き捨てる勇也

  ついに、女神の頬に涙が伝う

  カタカタと震える下半身

  その内腿が、何やら濡れている

  そのまま、土道に滴り潤わせる

 

●ストヴァーニェ〔下界〕・食堂

 

  じっと勇也を見つめるエルマ

  当の彼は、未だ料理に舌鼓を打つ

  久しぶりの食事なのか、手が止まらない

  エルマ、意を決したように—

 

エルマ「……貴方は、誰ですか?」

 

勇也「さぁな」

 

  その決意は、しかし徒労に終わる

  勇也は、胸中を語るつもりはないようだ

  それは、ただ料理に夢中だからなのか

  それとも―

 

バスティ「あの動き……」

 

エルマ「え?」

 

バスティ「あれ、普通じゃなかった……。ガンテが押さえつけられるなんて、相当よ。勇也じゃ、あんなことできないわ」

 

ガンテ「確かに、いつもだったら返り討ちにしてるぜ」

 

バスティ「どこか……、そう、獣人みたいだったわ」

 

ピリオネ「それも、平和ボケしたただの獣人ではないデス。中々の手練れのようデス」

 

  静かに勇也を見やる一行

  当の勇也は、聞いているのかいないのか

 

エルマM「彼は、本当に勇也様……?人格が変わったからと言って、そこまで変化するもの……?どこか、前提から間違えているような……」

 

  一人思案するエルマ

  その耳に、ナーチの声が入ってくる

  それは、とある提案だ

 

ナーチ「お、王様に聞けば、何か分かるかも……」

 

エルマ「……ニズシクス様と」

 

バスティ「気乗りしないけど、ヴラガロードね……」

 

  その時、勇也の手が止まる

  本当に綺麗に、ピタリと止まる

  それを、エルマは見逃さなかった

  訝し気に眉を寄せ、聞く

 

エルマ「どうかしましたか……?」

 

勇也「……その男の名前を出すんじゃねぇ。反吐で飯が不味くなる」

 

バスティ「何よ、急に」

 

ピリオネ「違和感で頭がバグりそうデス」

 

エルマM「ヴラガロード様に関係のある獣人……。ガンテを物ともしない……、まさに戦士と同等の技量……」

 

  考えを巡らせるエルマ

  過去の記憶からも、情報を探る

  そして、一つの結論に辿り着く

 

  〔回想〕

  ヴラガロード「貴様は、魔王を討伐するどころか、この世界を更なる危機に追いやった!このような事態は、前代未聞じゃ!これならば、恐怖にうずくまり、何もせぬ方がまだ良いというもの!かつて、魔王の元に辿り着く前に全滅した一行がおった……。我が側近―」

 

エルマ「獣人の、ヴォルカミル……」

 

  それは、呟きにも等しかった

  あるいは、独り言のようにも

  しかし、その言葉を誰も聞き逃さなかった

  ニヤリ、勇也の口角が上がる

  否、ヴォルカミルの、か

 

× × × × ×

 

  食堂に、重い沈黙が落ちる

  何を言えばいいのか、図りかねているようだ

 

エルマM「別人格ではなく、そもそも全くの別人……」

 

ピリオネ「一つ、気になることがあるデス。オマエが、オリジナルの勇也から分離したもう一つの人格ではなく、勇也とは無関係の別人だとすれば、その体の中には二人分の意識がある、ということになるデス。今、アイツの意識はどうなっているデスか?」

 

勇也「今の体の支配権はオレにある。夢でも見てんじゃねぇか?オレもそうだった」

 

エルマ「どうして、勇也様の中に……?」

 

勇也「さぁな」

 

エルマ「……ヴォルカミル、真面目に答えt―」

 

  刹那、突風が迫る

  勇也の動きが起こしたものだ

  今、彼はエルマの眼前にいる

  彼女の首元、キラリと光るフォーク

  あまりに一瞬の出来事だった

  エルマの体は、1ミリも反応出来なかった

 

勇也「オレに指図すんじゃねぇ、エルフの女ぁ……」

 

エルマ「……貴方自身、どうしてそのようなことになったのか分からないなら、より情報が必要です。私たちは、勇也様を取り戻さなければならない。あるいは、貴方をその体から解放して、自由にすることも……」

 

  エルマは、尚決然と口にする

  それに、勇也が意外にも押し黙る

  言葉を反芻し、思案しているようだ

  やがて、凶器をテーブルにコトッと置く

  気だるげに、椅子に腰かけると―

 

勇也「魔族冥衆と戦って……、気づいたときにはこうなってた。向こうの世界で、囲んできたガキ共を半殺しにしたのは覚えてる。あれぁ、いい気分だったなぁ……」

 

  しみじみと口にする勇也

  それに、一行は引き攣り顔だ

 

勇也「その後、またこの世界に飛ばされた」

 

エルマ「……え?」

 

勇也「召喚……、ってんだろ?こいつの体に入って暫くしてから、オレはまたこの世界に召喚された。そこでオレは、魔王を殺してる」

 

  平然と言う勇也

  嘘をついている様子はない

  つまり、それが意味するのは―

 

バスティ「勇也がこの世界に来たのは、初めてじゃない……?」

 

ナーチ「勇也しゃんは一度、この世界を救っていた……?」

 

エルマM「もしこれが、全て本当の話なのだとしたら……」

 

エルマ「ヴォルカミル、貴方が召喚されたのはいつですか?貴方を召喚した者の姿は、見ましたか?」

 

勇也「知らん。時間感覚なんて、当に死んでる。それに、オレが召喚された時、周りにそんな奴はいなかった。オレはオレで、魔王のことだけだったしな……」

 

エルマM「……少なくとも、召喚したのは私ではない。それとも、どこかで召喚されていたことに気付かなかっただけ?あの時は、一心不乱だったから……。ただ、それ以前に―」

 

  ふと、勇也に目を向けてみる

  次の言葉を口にしていいのか考える

  勇也は、幾分か大人しくなっている

  それでも、汚れた口元は変わらない

  食べ方が汚いのは、デフォルトのようだ

  エルマ、誰にも聞こえぬよう深呼吸して―

 

エルマ「魔王は、討伐されていません」

 

  意を決して、言い放つ

  その言葉に、勇也の眉がピクリと動く

 

エルマ「貴方は、魔王を封印しただけ。討伐は、出来ていなかった」

 

  ヴォルカミルは言葉を返さない

  故に、エルマは続ける

 

エルマ「私たちは、勇者一行です。今、その魔王・ブラディカを討伐するため、旅をしています。だから―」

 

勇也「がああぁああぁぁあああぁぁぁあああぁっ!」

 

  食堂に響き渡る咆哮

  人間の喉の作りを無視した絶叫

  鼓膜を劈き、脳を震わせる

  握られた拳は震え、顔には血管が浮き出る

  勇也は―否、ヴォルカミルは憤慨している

  やがて、床に血痰を吐き捨てると―

 

勇也「……エルフの女、お前、魔法使いだな?」

 

エルマ「え……、は、はい……」

 

勇也「来い、勇者を甦らせる」

 

エルマ「……え?」

 

勇也「かつて、オレのいたパーティの勇者……、第五の勇者・ショウゴを甦らせる……。それで―」

 

  憎悪、怒り、怨念、執念、侮蔑、軽蔑

  そんな負の感情が、その瞳に込められていた

 

勇也「魔王を、ぶっ殺す」

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