ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ストヴァーニェ〔下界〕・食堂
テーブルに並ぶ、豪勢な料理
芳ばしい香りが、湯気と共に鼻腔を擽る
それが、潰れる
鷲掴まれ、飛び散る
投げ出された皿が床で割れる
雑な咀嚼の後、一気に飲み込む
汚れた口元は気にせず、また鷲掴む
その印象は、やはり勇也とはかけ離れている
目の前にいるのは、確かに勇也のはずだが
どう見ても、別人としか思えない
ピリオネ「オマエらみたいな食い方デス」
バスティ「さすがにここまで酷くないわよ!」
ナーチ「似てる……」
エルマは、会話に参加しない
ただじっと、勇也を見つめている
そして、先程の記憶を思い起こす
◆ボーテミュイズン〔下界〕・ミラリェス森林《回想》
鬱蒼とした森、木漏れ日は差さない
今だけは、不穏な陰りを見せる
エルマ、戦慄して―
エルマ「勇也様の、もう一つの人格……?」
テーティス「じゃ、そういうことだから。じゃあね~」
ヒラヒラと手を振るテーティス
踵を返し、神殿へと帰っていく
ガンテ「……待てよ」
足止めしたのはガンテだ
握る拳が、微かに震えている
ガンテ「にーちゃんを、元に戻せ……!」
テーティス「はぁ?テティはな~んにもしてないんですけど~?テティは、女神としての役割を果たしただ~け。そしたら、おに~さんが勝手にこうなったんだも~ん。テティが悪い事なんて、な~んにm―」
刹那、響く轟音と揺れる大地
ガンテが飛び出した合図だ
幼き女神へと殴りかかる
ガンテ「どわっ!?」
だが気付けば、体は土道の上へ
眼前に、勇也の顔面が迫る
あまりに一瞬の出来事
跳躍した勇也が、ガンテに飛び掛かった
身を翻し、瞬きの間に無力化
その、あまりにも素早い身のこなし
当のガンテは、視認さえできなかった
勇也、ガンテの口元をグッと押さえ―
勇也「おいガキ、静かにしろ。せっかくオレが郷愁に浸ってんのに、水差すんじゃねぇ。殺すぞ」
サラリと言い放つ勇也
だが、ガンテには衝撃的だったようだ
思わず、ハッと目を見開いてしまう
ガンテ「にーちゃん……」
テーティス「おに~さん、強~い。女神様に飛び掛かるなんて、悪い子だね~。そのオスガキ、今すぐ絞めちゃってy―」
ドスン、大きな音が響く
勇也が、神殿の壁面に手を突いたのだ
その腰元には、テーティスの姿
口を開けたまま、勇也を見上げる
その瞳を、勇也がギロッと覗き込んで―
勇也「てめぇもガキなら同罪だ。調子に乗んな、殺すぞ」
テーティス「ご……、ごめんなしゃい……」
吐き捨てる勇也
ついに、女神の頬に涙が伝う
カタカタと震える下半身
その内腿が、何やら濡れている
そのまま、土道に滴り潤わせる
●ストヴァーニェ〔下界〕・食堂
じっと勇也を見つめるエルマ
当の彼は、未だ料理に舌鼓を打つ
久しぶりの食事なのか、手が止まらない
エルマ、意を決したように—
エルマ「……貴方は、誰ですか?」
勇也「さぁな」
その決意は、しかし徒労に終わる
勇也は、胸中を語るつもりはないようだ
それは、ただ料理に夢中だからなのか
それとも―
バスティ「あの動き……」
エルマ「え?」
バスティ「あれ、普通じゃなかった……。ガンテが押さえつけられるなんて、相当よ。勇也じゃ、あんなことできないわ」
ガンテ「確かに、いつもだったら返り討ちにしてるぜ」
バスティ「どこか……、そう、獣人みたいだったわ」
ピリオネ「それも、平和ボケしたただの獣人ではないデス。中々の手練れのようデス」
静かに勇也を見やる一行
当の勇也は、聞いているのかいないのか
エルマM「彼は、本当に勇也様……?人格が変わったからと言って、そこまで変化するもの……?どこか、前提から間違えているような……」
一人思案するエルマ
その耳に、ナーチの声が入ってくる
それは、とある提案だ
ナーチ「お、王様に聞けば、何か分かるかも……」
エルマ「……ニズシクス様と」
バスティ「気乗りしないけど、ヴラガロードね……」
その時、勇也の手が止まる
本当に綺麗に、ピタリと止まる
それを、エルマは見逃さなかった
訝し気に眉を寄せ、聞く
エルマ「どうかしましたか……?」
勇也「……その男の名前を出すんじゃねぇ。反吐で飯が不味くなる」
バスティ「何よ、急に」
ピリオネ「違和感で頭がバグりそうデス」
エルマM「ヴラガロード様に関係のある獣人……。ガンテを物ともしない……、まさに戦士と同等の技量……」
考えを巡らせるエルマ
過去の記憶からも、情報を探る
そして、一つの結論に辿り着く
〔回想〕
ヴラガロード「貴様は、魔王を討伐するどころか、この世界を更なる危機に追いやった!このような事態は、前代未聞じゃ!これならば、恐怖にうずくまり、何もせぬ方がまだ良いというもの!かつて、魔王の元に辿り着く前に全滅した一行がおった……。我が側近―」
エルマ「獣人の、ヴォルカミル……」
それは、呟きにも等しかった
あるいは、独り言のようにも
しかし、その言葉を誰も聞き逃さなかった
ニヤリ、勇也の口角が上がる
否、ヴォルカミルの、か
× × × × ×
食堂に、重い沈黙が落ちる
何を言えばいいのか、図りかねているようだ
エルマM「別人格ではなく、そもそも全くの別人……」
ピリオネ「一つ、気になることがあるデス。オマエが、オリジナルの勇也から分離したもう一つの人格ではなく、勇也とは無関係の別人だとすれば、その体の中には二人分の意識がある、ということになるデス。今、アイツの意識はどうなっているデスか?」
勇也「今の体の支配権はオレにある。夢でも見てんじゃねぇか?オレもそうだった」
エルマ「どうして、勇也様の中に……?」
勇也「さぁな」
エルマ「……ヴォルカミル、真面目に答えt―」
刹那、突風が迫る
勇也の動きが起こしたものだ
今、彼はエルマの眼前にいる
彼女の首元、キラリと光るフォーク
あまりに一瞬の出来事だった
エルマの体は、1ミリも反応出来なかった
勇也「オレに指図すんじゃねぇ、エルフの女ぁ……」
エルマ「……貴方自身、どうしてそのようなことになったのか分からないなら、より情報が必要です。私たちは、勇也様を取り戻さなければならない。あるいは、貴方をその体から解放して、自由にすることも……」
エルマは、尚決然と口にする
それに、勇也が意外にも押し黙る
言葉を反芻し、思案しているようだ
やがて、凶器をテーブルにコトッと置く
気だるげに、椅子に腰かけると―
勇也「魔族冥衆と戦って……、気づいたときにはこうなってた。向こうの世界で、囲んできたガキ共を半殺しにしたのは覚えてる。あれぁ、いい気分だったなぁ……」
しみじみと口にする勇也
それに、一行は引き攣り顔だ
勇也「その後、またこの世界に飛ばされた」
エルマ「……え?」
勇也「召喚……、ってんだろ?こいつの体に入って暫くしてから、オレはまたこの世界に召喚された。そこでオレは、魔王を殺してる」
平然と言う勇也
嘘をついている様子はない
つまり、それが意味するのは―
バスティ「勇也がこの世界に来たのは、初めてじゃない……?」
ナーチ「勇也しゃんは一度、この世界を救っていた……?」
エルマM「もしこれが、全て本当の話なのだとしたら……」
エルマ「ヴォルカミル、貴方が召喚されたのはいつですか?貴方を召喚した者の姿は、見ましたか?」
勇也「知らん。時間感覚なんて、当に死んでる。それに、オレが召喚された時、周りにそんな奴はいなかった。オレはオレで、魔王のことだけだったしな……」
エルマM「……少なくとも、召喚したのは私ではない。それとも、どこかで召喚されていたことに気付かなかっただけ?あの時は、一心不乱だったから……。ただ、それ以前に―」
ふと、勇也に目を向けてみる
次の言葉を口にしていいのか考える
勇也は、幾分か大人しくなっている
それでも、汚れた口元は変わらない
食べ方が汚いのは、デフォルトのようだ
エルマ、誰にも聞こえぬよう深呼吸して―
エルマ「魔王は、討伐されていません」
意を決して、言い放つ
その言葉に、勇也の眉がピクリと動く
エルマ「貴方は、魔王を封印しただけ。討伐は、出来ていなかった」
ヴォルカミルは言葉を返さない
故に、エルマは続ける
エルマ「私たちは、勇者一行です。今、その魔王・ブラディカを討伐するため、旅をしています。だから―」
勇也「がああぁああぁぁあああぁぁぁあああぁっ!」
食堂に響き渡る咆哮
人間の喉の作りを無視した絶叫
鼓膜を劈き、脳を震わせる
握られた拳は震え、顔には血管が浮き出る
勇也は―否、ヴォルカミルは憤慨している
やがて、床に血痰を吐き捨てると―
勇也「……エルフの女、お前、魔法使いだな?」
エルマ「え……、は、はい……」
勇也「来い、勇者を甦らせる」
エルマ「……え?」
勇也「かつて、オレのいたパーティの勇者……、第五の勇者・ショウゴを甦らせる……。それで―」
憎悪、怒り、怨念、執念、侮蔑、軽蔑
そんな負の感情が、その瞳に込められていた
勇也「魔王を、ぶっ殺す」