ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~   作:であであ

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第五十幕 狼青年の処刑道

◆獣人族の村《回想》

 

  緑の自然に囲まれた小さな集落

  木造の家々が連綿と立ち並ぶ

  牧歌的な空気に包まれた、細やかな場所

  今日も獣人たちは、狩りに農業に忙しい

  その村の外れに、ヒッソリと佇む

  それは、おそらく家だ

  しかし、木造など大層なものではない

  あり合わせの材料で作られた無精なもの

  突風でも吹けば、今にも崩れそうな

  そして、そこに暮らす青年が一人

  灰色の短髪に、大きな狼耳

  細身だが、服から覗く腕や足には筋肉がある

  顔の幾つもの傷は、彼の壮絶な人生を物語る

  その真紅の瞳で、ただ見つめる

  家族総出で農作業に励む者

  狩ってきた動物を自慢する者

  いい品が入っていると声をかける者

  そんな、どこにでもある長閑な光景

  万人に享受する権利のある、穏やかな日常

  ヴォルカミルはそれを、ただ見るだけ

  薄暗い獣道、木々の隙間から覗くだけ

  何故なら、彼は分かっているから

  彼は、自覚しているから

  そこに、自分の居場所がないということを

 

× × × × ×

 

  夜になり、村は眠りに着く

  風が吹き、葉が騒めく音がする

  燭台の炎が、ユラユラと辺りを照らす

  その光さえ、ヴォルカミルには届かないが

  その時、何かの音が響く

  風の音でも、葉の音でもない

  もっと低く、鈍く、心臓を揺らすような

  足音だ、大量の足音が迫ってくる

  正体は分からないが、確実に迫ってくる

  それと同時に、地鳴りが起きる

  ガタガタと、木造の家を震わす

  堪らず起きてきた獣人たち

  家の外、訝し気に辺りを見渡す

  刹那、その胸を何かが貫いた

  触手だ、細く長く、うねっている

  まるで、寄生生物が胸から飛び出した様

  血を吐き、倒れ伏す獣人

  その体は、もう痙攣さえしない

  そしてその向こう、光る二つの目

  暗闇の中、ユラユラと揺れている

  否、二つだけではない

  それは、遥か先まで無数にある

  数えることなど、もはや諦めるほど

  やがて、ピョンとそれが姿を現す

  燭台の炎に照らされ、輪郭を露わにする

  白い兎だ、毛並みも造型も愛らしい

  ただ、背中に生える触手を除けばだが

  己の肉と皮を破り、蠢いている

  大きな獲物を前に、興奮しているかの如く

  刹那、夜の村を絶叫が穿つ

 

獣人1「シュパの群れだーっ!」

 

  夜闇の中、村はパニックに陥る

  先程までの静寂はどこへやら

  人々は悲鳴を上げ、ドタドタと逃げ回る

  もはや、逃げ場などないというのに

  シュパの群れが、狩りを始めんと動き出す

  蠢く触手が腹を、胸を、顔を貫く

  家の壁を、屋根を貫き崩し落とす

  その見た目からは想像できない程の力だ

  瞬く間に、村は屍の山と化す

  家は崩れ、死体には風穴、広がる血溜まり

  そしてシュパは、その死体さえも残さない

  クチュクチュと、小さな前歯で肉を啄む

  その矮躯に、新鮮な獣肉を蓄える

  いくら喰っても、まだ足りない

  そして、死体に白い骨が見え始めた時―

 

ヴォルカミル「死ねぇぇぇっ!」

 

  死体に群がる矮躯が、次々と弾ける

  パンッと血飛沫を上げ、肉片を撒き散らす

  ヴォルカミルが、シュパを攻撃しているのだ

  その武器は、石、枝、葉、そして土

  石は、彼が投げれば無数の弾丸に

  枝は、彼が投げれば空を穿つ槍に

  葉は、彼が振るえば鋭利な刃に

  そして土は、彼が落とせば重い鈍器に

  次々と、死体に群がる虫を葬っていく

  腕に噛みつかれようが関係ない

  触手に斬られようが止まらない

  ただ、目の前の異物を排除するだけ

  ヴォルカミルの脳は、それだけだった

  やがて、村はいつもの静寂を取り戻す

  否、いつもより遥かにシンとしているが

  血塗れで息を切らすヴォルカミル

  しかし、彼を迎えたのは歓声ではない

 

獣人2「……あれ、ヴォルカミルじゃない?」

 

獣人3「何で出てきたんだ……?」

 

獣人4「シュパより怖いんだけど……」

 

獣人5「俺たちも殺される……?」

 

獣人6「ってか、来るならもっと早く来いよ……」

 

獣人7「お前のせいで死んだも同然だぞ~」

 

  聞こえたのは、罵詈雑言の数々

  ヒソヒソと、陰口が連鎖する

  冷たい視線が肌を刺す

  触手より痛いかもしれない

  そしてその全てを、ヴォルカミルは聞いた

  狼耳の彼は、聴覚が優れているのだ

  しかし、文句など言わない

  舌打ちさえもせず、踵を返す

  夜闇の向こう、森の闇に一人消えていく

  だって、こうなることは分かっていたから

 

× × × × ×

 

  シュパの襲撃から数日後

  生き残った面々により、復興が進む

  そう遠くない内に、元の姿を取り戻すだろう

  それを横目に、一人寝転ぶヴォルカミル

  ベッドの上、腹の虫が鳴りやまない

  思えば、この数日間まともに食べていない

  腹を殴っても、虫は反発してくる

 

ヴォルカミル「……ちっ」

 

  舌を打ち、体をバッと起こす

  そこで、何かの音に気付く

  ザッザッザと、葉と土を踏む音

  徐々に、こちらに近づいてくる

  やがて姿を現したのは、二人の人間族

  鉛の甲冑を身に纏う、兵士のようだ

  目を細めるヴォルカミルに、朴訥に—

 

兵士1「お前がヴォルカミルだな?」

 

ヴォルカミル「……んだ、てめぇら」

 

兵士2「悪魔族の王・ヴラガロード様がお呼びだ。我々に着いてこい」

 

◆スタリーツ〔王都〕・王城・玉座の間《回想》

 

  聳える城を二つ持つ、広大な王都

  玉座に腰かけるヴラガロード

  悠然とした佇まいを見せる

  ヴォルカミルは、跪きさえしない

  真っ向から、悪魔の王に向かい合う

 

ヴラガロード「聞いたぞ、村を襲ったシュパの群れを退けたようじゃな。礼を言おう」

 

ヴォルカミル「……んで、てめぇが」

 

ヴラガロード「ワシは、この世界の王。故にこの世界は、全てワシのものじゃ」

 

  当たり前に言ってのけるヴラガロード

  それに、ヴォルカミルは鼻も鳴らさない

  気だるげに首をもたげて―

 

ヴォルカミル「んで、てめぇはオレに何の用だ?」

 

兵士1「貴様、ヴラガロード様に向かって何t―」

 

ヴォルカミル「あぁ……?」

 

  一歩踏み出してくる兵士たち

  それを、睥睨して足止めする

  殺気が肌にピリピリと伝わるようだ

 

ヴラガロード「貴様のその力を見込んで、一つ提案じゃ。ワシの側近にならぬか?」

 

ヴォルカミル「……なに?」

 

ヴラガロード「前の奴は、力が弱い上に頭も回らぬ。用済みで処刑したわ。だが、貴様には期待しておる。魔獣を退けた、という功績が何よりの証拠じゃ」

 

ヴォルカミル「……その話、誰から聞いた?」

 

ヴラガロード「貴様の村の、獣人じゃ」

 

ヴォルカミル「……はっ。つまり俺は、てめぇに売られたのか」

 

ヴラガロード「その通りじゃ。貴様は、ワシの側近となることで村から出る。奴らからすれば、厄介払いができるということじゃ。ヴォルカミルという、村の異物をな」

 

  僅かに口角を上げる悪魔の王

  ヴォルカミルの気を煽ろうとしている様

 

ヴラガロード「そんな村など捨て置いて、ワシの元で新たな生活を送ろうではないか。ここには、寝床も食事も全てが揃っておる」

 

ヴォルカミル「……嫌だと言ったら?」

 

ヴラガロード「これは命令じゃ、貴様に拒否権はない。ヴォルカミル、ワシの側近となれ」

 

◆スタリーツ〔王都〕・王城・執務室《回想》

 

  椅子に腰かけるヴォルカミル

  脚を机に上げたまま、下ろそうともしない

  その机には、大量の書類が積み重なる

  しかし、ヴォルカミルには関係ない

  気にせんと言うように、書類を薙ぎ払う

  ヒラヒラと舞い、床に落ちる

  まるで雪のように、床を白が埋め尽くす

 

兵士1「おい貴様、何をしt―」

 

  詰め寄ってくる一人の兵士

  刹那、その体が床に叩きつけられる

  ヴォルカミルが飛び掛かり、そうしたのだ

  鋭い眼光で、甲冑の向こうを睨む

 

ヴォルカミル「オレに指図するな、殺すぞ」

 

  それだけ吐き捨て、ヴォルカミルは去る

  兵士はそのまま、起き上がれずにいた

  カタカタと体が、甲冑が震えている

 

× × × × ×

 

  王の巡察である

  街を行くヴラガロード

  その周りを、大勢の兵士が囲う

  そして隣には、ヴォルカミルの姿

  気だるげだが、辺りを睥睨して歩く

  傍から見れば、ただのチンピラだ

  街の人々は、物珍しそうにこちらを見る

  又は、敬意を表し頭を垂れる

  しかし、その肩にぶつかる人間族が一人

  ヴォルカミルを見下ろし、睨みつける

  ニヤニヤと笑い、明らかに故意だ

 

人間族1「おいガキ、どこ見て歩いてn―」

 

  刹那、足元の地面が砕け散る

  人間族の体が打ち付けられたのだ

  その原因は、もちろんヴォルカミル

  有無を言わさず、ただ殴りつける

  反撃の隙も、言い訳の余地も与えない

  馬乗りになり、ただ殴りつける

  やがて、ピクリとも動かなくなる人間族

  しかし、ヴォルカミルの拳はまだ止まらない

  まるで機械の様に、眼前の異物を排除する

  その光景に、街の人々は戦慄

  兵士たちでさえ、恐怖に足がすくむ

  ただ、ヴラガロードだけは、嗤っていた

 

× × × × ×

 

  食堂

  純白のクロスがかかった長方形のテーブル

  そこに、名の知らない料理が並ぶ

  何が使われているのかは分からない

  だがいずれも、村では見たことないものだ

  宴で出される物のように、豪勢ではない

  4、5品テーブルにひっそりと乗るだけ

  だが、ヴォルカミルには十分だった

  今にも飛びつきそうである

  そこで、ヴラガロードが平然と―

 

ヴラガロード「毒見をしろ、ヴォルカミル。側近としての務めじゃ」

 

  瞬間、料理にがっつくヴォルカミル

  主であるヴラガロードの言葉を待つことなく

  カトラリーは使わず、犬食いだ

  純白のクロスが、見る見る汚れていく

  やはり、食べ方が汚いのはデフォルトか

  その光景を見つめるヴラガロード

  まるで、ペットに餌をやる飼い主のよう

  そして、この口角が僅かに歪む

 

ヴラガロード「よく食え……」

 

× × × × ×

 

ヴォルカミル「げぼぉぉおえぇぇええぇぇえっ!」

 

  ビチャビチャと、吐瀉物を撒き散らす

  先程の食事が、胃から込み上げてくる

  洗面台、這い蹲るヴォルカミル

  王にさえ、跪かなかった彼だが

  鏡の中に映る自分を睨みつけて―

 

ヴォルカミルM「何も変わっちゃいねぇ……。村の奴らと同じだ、あのクソジジイ……!殺すか……?いや、まだ利用できるはずだ……。あと、もう少し……」

 

◆スタリーツ〔王都〕・王城・玉座の間《回想》

 

ヴラガロード「貴様は用済みじゃ、ヴォルカミル」

 

  平然と吐き捨てるヴラガロード

  ヴォルカミルにとって、それは無情だった

  瞠目してしまい、咄嗟の言葉も出てこない

 

ヴラガロード「じゃが安心せい、処刑はせぬ」

 

ヴォルカミル「……はっ、優しい王様だな」

 

ヴラガロード「代わりに、貴様には最後の仕事を与える」

 

ヴォルカミル「……嫌だと言ったら?」

 

ヴラガロード「この期に及んで、まだ貴様に拒否権があると……?」

 

ヴォルカミル「……何だ」

 

ヴラガロード「勇者のパーティに入れ」

 

ヴォルカミル「勇者の、パーティ……?」

 

ヴラガロード「現在、魔王討伐を目指して旅をしている第五の勇者・ショウゴのパーティがある。人手が足りんようでな。貴様は、戦士として参加するがよい」

 

ヴォルカミル「俺が、戦士……」

 

ヴラガロード「魔王を殺した暁には、世界からの賞賛が待っておる。異物扱いされてきた貴様も、晴れて英雄じゃ」

 

  ヴラガロードは、笑顔だ

  しかしそれは、不気味なもの

  上手く言いくるめようとしているのだ

  しかし、ヴォルカミルにはそれが分からない

  ただ今は、呆然と考えてしまう

 

ヴォルカミルM「あぁ、そうか。オレは、処刑されるんだ……」

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