ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ボーテミュイズン〔下界〕・平原
歩いている勇也とガンテ
しばらく、二人の間には沈黙が落ちる
ガンテは、まるで何かを話そうとしない
その姿は、どこか急いでいるようにも見える
勇也は、しかしそんなことには気づかず―
勇也「あ、あの~……。これは、どこに向かってるんでしょうかね……?」
ガンテ「世界樹、ユグドライドだよ。上界に行くには、そこからテレポートしなきゃいけないんだ。勇者なのに、そんなことも知んねぇのかよ、にーちゃん」
勇也「まだまだ、巨人に傷一つ付けられないレベル5なもので……」
ガンテ「早くしねぇと、またあの集落が襲われる……」
勇也「ずっと、あの集落を守ってきたの?」
ガンテ「あぁ、俺一人でな。別に、協力者が欲しかったわけじゃねぇけど。おかげで、有名になっちまった」
〔回想〕
ペリオー「小僧……。あぁそうか、ガンテってのはてめぇか。巨人族の落ちこぼれが、正義のヒーロー気取りか?」
勇也「どうして、巨人族は矮人族を襲ったりするの?」
ガンテ「見下してるからだよ。大きいものが小さいものを……、高貴種が下賤種を下に見るのは、当然のことだ」
勇也「だけど……」
ガンテ「って、連中は思ってやがる」
勇也「ガンテくんは、違う?」
ガンテ「ったりめぇだ。俺の両親は、そんな種族の壁を取っ払ったようなもんだからな」
勇也「母親が巨人で、父親が矮人……」
ガンテ「あぁ。俺は、巨人族と矮人族のハーフだ。だから、上とか下とか、そんなん関係ねぇ。小せぇだの非力だの馬鹿にされたってなんてことねぇ」
勇也「……巨人族はみんな同じ考えだと思ってたけど、俺が浅はかだったよ」
ガンテ「そうだぜ、にーちゃん。しっかりしてくれや」
ガンテ、勇也の背中を叩く
それが背骨に響き、思わず眉を顰める
上機嫌そうに歩を進めるガンテ
勇也、その背中を見てふと―
勇也M「にしても、どうやって、その……、シタんだろうか……?」
●ボーテミュイズン〔下界〕・世界樹の麓
眼前、天高く聳える世界樹
相変わらず、その樹冠は見えない
ガンテ「着いた」
勇也「テレポートって……、ガンテくんも魔法使えるの?」
ガンテ「いや、俺が使えるのはちょっとした錬金術ぐれぇだよ」
勇也「十分凄いよ」
ガンテ「上下界のテレポートは、世界樹の恩恵の一つだ」
ガンテ、世界樹に向かって声を上げる
ガンテ「上界に連れてってくれ!」
上空に広く反響する
直後、二人の体が輝く
勇也「え、何こ―」
光の粒子となり、空へ登っていく
ユグドライドの導きのままに
●ボーテミュイズン〔下界〕・川辺
座り、川を眺めるエルマとバスティ
エルマ、ソワソワと落ち着かない様子で―
エルマ「やはり、今からでも追いかけた方が―」
バスティ「しつこいわね、何回やるのよこのやり取り」
エルマ「まだ三十四回目です」
バスティ「エルフの感覚分からないわぁ」
エルマ、不安の色を隠せない
それに、バスティが溜息をついて―
バスティ「アンタ、意外と落ち着きないわよね。平気よ、アイツが一緒に来なくていいって言ってたんだから」
エルマ「いつになく、頑なでしたね……」
バスティ「まぁ、少しは勇者らしくなってきたんじゃないかしら」
あっけらかんと笑うバスティ
その隣、エルマは心配そうに眉を寄せる
●巨人族の街
見上げる勇也
どこまでも見上げる
やがて、首の可動域の限界を迎える
開いた口が塞がらない
道幅から見れば、勇也などネズミも同然
それに沿って、巨大な家が立ち並ぶ
勇也くらいのサイズのものから
山一つ入りそうな程のサイズのものまで
実に凸凹で、歪な街並みだ
中央に設置された噴水
勇也が入れば、滝行に早変わり
勇也「あ、頭バグりそう」
ガンテ「おい兄ちゃん、なに呆けてんだよ」
建物の陰に隠れる二人
ガンテ、対面の建物を指さして―
ガンテ「あそこが、巨人族六神のいる建物だ。何もない限りは、大体やつらはあん中にいる」
勇也「そっか。さっきガンテくんが一人倒したから、今は五神だね」
ガンテ「いや、四神だ。前に一匹殺した」
勇也「やっぱ強いな。俺なんて、いなくてもよかったんじゃないの?」
自虐的に囁く勇也
ガンテ、僅かに目を伏せる
〔回想〕
ガンテ「ってか、上に住んでようが下に住んでようが、そんなん関係ねぇだろ……!」
吐き捨てるガンテ
大分、憤りが溜まっているようだ
勇也、同調するように目を伏せて―
勇也「……うん、それは思う」
ガンテ「今まで、俺に味方してくれるやつはいなかった……。矮人族でさえ、俺のことを恐れていた」
ガンテ、顔を上げニカリと笑って―
ガンテ「同じ考え持ってるやつが一緒にいたら、心強いだろ?」
勇也「そっか……、そうだね!」
ガンテ「しっかし、どうやって乗り込むか……」
勇也「う~ん……」
勇也M「ゲームでは、隠し通路とか見つけるの面倒だったからなぁ」
ガンテM「裏口とか、奇襲とか、んなコソコソしたやり方、俺の性に合わねぇ!」
勇也とガンテ、顔を見合わせて―
勇也/ガンテ「やっぱり正面突破!」
ガンテ「だな。よし、行くぞ!」
ガンテ、ダッと走り出す
その後を着いていく勇也
●巨人族の街・六神集会場
廊下を歩く巨人・イオス
ダッダッダという足音に気付く
しかし、その時にはもう遅い
背後にガンテ、イオスの首を掻っ切る
ゴトッ、床に首が落ち倒れる
ガンテ、傍らに華麗に着地
その隣、ヴァラーに変身した勇也
ヴァラー「凄い、あっという間に……!」
ガンテ「親父とお袋には感謝しねぇとなぁ。力と身軽さを兼ね備えたこの体、どんな巨人でも相手になんねぇぜ!」
直後、轟音が響く
傍らの壁、突然砕け散る
巨人・クロノの突撃だ
砕けた壁がまるで瓦礫のように降り注ぐ
ヴァラー「壁ぶち破ってきたーっ!?」
??「何者だ!」
ドスドスと廊下に足音が響く
巨人・クレイ、駆け付ける
ガンテ「ちっ、バレたか!」
クレイ「貴様、ガンテだな?巨人族の落ちこぼれが」
ガンテ「っせぇな!一日に何度も言うんじゃねぇ!」
クレイ「……隣の貴様、何者だ?」
ヴァラー「あ、いえ、ただの通りすがりの勇者ですので、おかまいなく~……」
ヴァラー、壁穴から脱出を試みる
しかし、クロノがそれを妨げて―
クロノ「おっと、行かせねぇよ」
クレイ「我々六神の集会場に無断で侵入して、タダで帰れると思うなよ?」
ガンテ「てめぇらこそ、矮人らの報いを受けてもらうぜ?」
クロノ「ほざけ、巨人のなり損ないが!」
同時に拳を振り下ろす巨人二体
巨大な拳、まるで吊り天井だ
ヴァラー「『ザシータ』!」
その拳を、防御壁が防ぐ
クレイ「なっ、魔法……!?」
ガンテ「最高だぜ、にーちゃん!」
ガンテ、宙に手をかざす
数多の武器を錬成する
剣、斧、ハンマー、槍、鉈、短剣
それらを扇状に組み合わせる
超速回転、飛び立つガンテ
ガンテ「『ヴラシェーニ』!」
扇状の刃がクレイの首を刎ねる
次いで、クロノの体をズタズタに切り裂く
鈍く重い音を立てて倒れる巨人二体
その血溜まりが、ヴァラーの体を侵食する
ヴァラー「ぬあぁ、プールみたい!」
ガンテ「にーちゃん、先進むぞ!」
ヴァラー「う、うん!」
●巨人族の街・六神集会場・最奥
中に入るヴァラーとガンテ
警戒し、辺りを見回している
広大な空間、物音一つしない
ガンテ「ここで行き止まりか……」
その時、バタンッと扉が閉まる
??「活きが良いのが二匹紛れ込んでいるな」
バッと振り返る二人
見上げた先、巨人・アノス
こちらをギロリと見下ろし―
アノス「まさか、我々六神をここまで追い詰めるとは……。だが、このアノス様からは逃れられない」
ガンテ「言ってろ!」
ガンテ、アノスに斧を振り下ろす
しかし、全く歯が立たない
まるで、鉄を切ろうとしているかの様
ガンテM「か、硬すぎる……!」
腕を振り抜くアノス
ガンテ、吹き飛び壁に激突
大きなヒビが入り砕け散る
ヴァラー「ガンテくん……!」
ヴァラー、アノスに向き直る
その掌をかざして―
ヴァラー「『レグプルーヤ』!」
勇也、光弾を射出する
しかしアノス、それらを片腕でいなす
ヴァラー「『グラヴィータ』!」
アノスに強大な重力がかかる
凹む地面、亀裂が入り砕ける
しかしアノス、それをものともしない
拳を振るい、軽々とヴァラーを吹き飛ばす
魔法使いの鎧が弾けてしまう
ガンテ「にー、ちゃん……!」
アノス「先刻、小人共を根絶やしに行ったペリオ―とアぺトが戻っていない……。全て貴様の仕業だな、ガンテ?」
ガンテ「……」
ヴァラー「どうして……、どうしてそこまで、矮人族を目の敵にするんだよ」
声を振り絞るヴァラー
アノス、それに平然と答える
至って常識を語るように―
アノス「我々より、下等な存在だからだ。高貴種が下賤種をどうしようとも、この世界の規則に反することはない」
勇也「何だよ、それ……。ってか、何なんだよその、高貴種とか下賤種とかって……」
アノス「全ての始まりは、忌子をこの世界に再び召喚したエルフ族だ。やつらを皮切りに、亜種族間の高貴と下賤の選別が行われ、多くの種族が下界へと堕ちることになった。下劣な者、罪を犯した者、醜き者、汚らわしき者、憎らしき者、役立たずな者……」
勇也「お前らは、どうなんだよ……」
アノス「我々巨人族は、やつらとは違う。多種多様な武器の錬成と流通。この世界に貢献する、正真正銘の高貴なる存在、上界にこそ相応しい種族。ただちまちまと死なぬために生き、資源を浪費するだけの醜い小人とは違う。我々高貴種が、やつら下賤種を踏み潰すのは当然の行為!そして、やつら下界に堕ちた者共にとって、当然の報いだ!」
ガンテ「……!」
ガンテ、ギリッと歯を食いしばる
拳を力いっぱい握り締め―
ガンテ「てめぇ―」
勇也「……お前らは、いつもそうだ」
アノス「なに……?」
勇也「自分は優れてると信じて止まず、格下認定したやつは隅に追いやって見向きもしない……。いや、それだけならまだいい方だ。一度自分が上だと知った途端、相手に牙を剥き始める。虐げて、利用して、体も心も殺すんだ。俺たちは、何もしてないじゃないか……。ただ、そこにいるだけじゃないか……。だったらお前らも、何もしないでくれよ……」
ガンテ「にーちゃん……」
アノス「干渉されたくなければ、死ぬしかない。高貴種に搾取されるのは、下賤種にとって当然の運命だ」
勇也「高貴とか、下賤とか……、上とか下とかそんなの知らねぇよ!同じ『人』が付いてるなら、どうしてそれだけで分かり合えないんだよ!お前らは自分のことを高貴種って言ったよな……?でも、矮人族のみんなからしたら、お前らの方が下賤だ。下劣で傲慢で、図体ばっかりでかいだけで心の狭い、さっきお前が言った下賤種そのものだ!」
声を荒げ、吐き捨てるヴァラー
対して、アノスの声音は至って冷静だ
しかしその瞳には、確かな怒りが満ちている
アノス「……ほう、言うではないか、此度の勇者よ。勇者の喪失は世界の損失……。だが、我ら六神に牙を剥いたとなれば話しは別だ。その大罪、己の身を以って償え!」
アノス、ヴァラーに拳を振り下ろす
巨大な影が、ヴァラーの全身をとらえる
まともに喰らえば、間違いなく死だ
しかし、ガンテがそれを寸前で受け止める
ヴァラー「ガンテ……!」
ガンテ「俺は今まで、ずっと一人で戦ってきた……。こいつらだけじゃない……、上のやつが下のやつを虐げるのは当然なんて、きっとみんな思ってる……。その中で、違うのは俺だけだった……。でも、ようやく会えた!」
ガンテ、ヴァラーに振り返る
力強い笑みを浮かべて―
ガンテ「勇也、お前に頼んでよかった!」
直後、ガンテの胸元が光り出す
その光が、拳を弾きヴァラーの掌へ
そこにあるのは、茶色の宝石
ヴァラー「これ、盟友の証石……!」
アノス、ガンテに巨大な鎌を振るう
それを受け止める、巨大な腕
ギリギリとめり込み、血が伝う
ガンテ「にーちゃん……!」
鎌、大きく弾かれる
そこには、仮面ライダーヴァラーの姿
両腕に、巨人の鎧を装着している
ヴァラー「俺はきっと、この世界では下界に住むべき人間だ……。だから、矮人族を見放したりしない!」
アノス「小賢しい!」
ガンテ「行くぞ、にーちゃん!」
ヴァラー「うん!」
飛び上がるヴァラーとガンテ
拳を構えて―
ヴァラー/ガンテ「『モーロット』!」
それぞれの拳で、アノスの顔を挟む
メキメキと、頭蓋が砕かれていく
アノス「ぐっ、我を苔にしよって……。許さんぞ、ガンテ、勇者ぁぁぁぁ―」
やがて、潰れるアノスの頭
噴水のように噴き出す血液
地面を転がる巨大な眼球
ヴァラー「……やった」
ガンテ「兄ちゃん!」
差し出された、ガンテの手
その手を、ヴァラーがとる
二人、力強い握手を交わす
●ボーテミュイズン〔下界〕川沿いの道
歩いている勇也一行
傍らを、大きな川が流れる
今は不思議と、澄んで見える
バスティ「まさか、巨人集団を壊滅させちゃうなんて、アンタも結構やるじゃない」
勇也「そ、そうかな」
エルマ「レベルも10に上がりました。着実に、勇者として成長されていますよ」
バスティ「にしても良かったわね~、魔王の手先とかじゃなくて」
勇也「……いや、まだそっちの方が良かった」
バスティ「なに、自信満々じゃない」
勇也「そうじゃなくて。例えば、魔王に操られてるとかだったら、魔王を倒せば事は収まる。だけど、これは―」
エルマ「深く種族に根差した文化的常識、価値観……」
勇也「俺が戦ったところで、変わることじゃないんだ。勇者にだって、出来ないことはあるんだよ……」
ガンテ「でも、矮人族の集落は救えた。もうあいつらは、巨人に怯えなくて済む。それだけでも大手柄だと俺は思うぜ、にーちゃん!」
ヒョコッと顔を出したのはガンテだ
ニカッと歯を見せて、満面の笑みを作る
勇也、それを見て薄く微笑む
勇也「ガンテくん……」
バスティ「で、なんでアンタがいるわけ?」
しかし、バスティは渋い顔だ
苛立たし気にガンテを指さす
勇也「あぁ、正式にパーティメンバーに入ってもらったんだ。盟友の証石も貰ったし」
ガンテ「そう言うこった。これからよろしくな、獣人で世間知らずの姉ちゃん!」
バスティ「世間知らずは余計よ!このチビ巨人!」
ガンテ「なっ!今はまだチビだけど、これからもっとでっかくなって、俺が一番に魔王を倒してやるんだからな!」
バスティ「はっ、強がっちゃって~。ママとパパから離れて、寂しくないんでちゅか~?」
ガンテ「何だと~、この犬!」
バスティ「猫よ!」
背後、バスティとガンテの言い合いが止まらない
それを横目に、勇也がふと足を止める
揺れる瞳は、何も見つめていない
× × × × ×
どこかの建物、壁沿い
数人の人物に囲まれる勇也
顔には痣、涙を流す
服は汚れ、所々切れている
相手の顔には靄、見えない
× × × × ×
頭を押さえ、呆然とする勇也
呼吸を乱し、眼球が震える
それに気づいたエルマ、怪訝な顔で—
エルマ「勇也様、どうかされましたか?」
勇也「……え?あぁ、いや、何でもないよ……。さ、次の仲間を探しに行こう!」
あっけらかんと歩き出す勇也
エルマ、その背中を見て静かに―
エルマ「勇也様……」