ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~   作:であであ

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第九幕 「エルマってよりエルバd—」

●ボーテミュイズン〔下界〕・砂漠

 

  照り付ける太陽と、一面の砂の海

  バスティとガンテが、その中に佇む

  緊迫した雰囲気、互いに一言も発さない

  整然と睨み合い、そして拳を構える

  吹き抜ける微かな風に、砂が舞い上がる

  何かを皮切りに、ドンッと飛び出す両者

  凄まじい力同士がぶつかり合う

  轟音と衝撃、砂漠を揺るがす

  それを見守る勇也とエルマ

  凄まじい力の波動に、髪が靡く

 

エルマ「ガンテが加わったことで、大幅な戦力増強になりましたね」

 

勇也「バスティだけでも心強かったけど、やっぱり男がいた方が安心だから。にしても、あの年で偉いよな~。強くなって巨人族を見返そうなんて、俺にはとてもとても」

 

エルマ「そうですね。共に戦う相手ができて、バスティにとっても良い刺激になっていると思います。勇也様も、あの中に混ざって来ては?レベルも上がったことですし」

 

  促され、バスティとガンテをふと見やる

  目にも止まらぬ交戦

  爆ぜる砂漠、響く轟音

  表情は、お互い血気迫っている

  首を挟もうものなら、間違いなく即死だ

 

勇也「……俺、魔王よりアレの方が怖いんだけど、この認識で大丈夫?」

 

エルマ「……もし敵であったなら、間違いなく大きな障壁になっていたでしょうね。ですが、勇也様が目指すべき強さは、あの二人よりもさらに上です。名実ともに、パーティを統率できてこその勇者、ですから」

 

勇也「はぁ~、荷が重い……」

 

エルマ「レベルが上がれば、それに応じて剣も鎧も進化します。私たちも、命を懸けてお手伝いいたしますので、ご安心ください」

 

勇也「うん、ありがと」

 

  薄く微笑むエルマ

  それに、勇也も微笑を返す

  エルマは、しかし微かに目を伏せる

 

エルマ「勇也様、先日の巨人族のことですが……」

 

勇也「あぁ、ごめんね。勝手に行くって決めちゃって」

 

エルマ「いえ。結果として、勇也様は勇者に相応しい成果を挙げられました。……ですが、あまり無茶なことはしないでいただきたいのです。どうか、私たちのことも頼って……」

 

勇也「ありがとう。でも―」

 

  そこで言葉を切る勇也

  徐に、その場に立ち上がり―

 

勇也「俺、勇者だからさ。だから、戦わなきゃ」

 

エルマ「勇也様……」

 

  太陽に照らされる、勇也の横顔

  エルマはそれに、微かな憂慮を感じる

  ただ、感じるだけだが

 

●ストヴァーニェ〔下界〕

 

  立ち並ぶ家々と、出店の数々

  背の高い建造物も散見される

  これまでより、些か統率が取れていない

  どこか、混沌としているような

  どこに目を向ければいいかに困るような

  そんな、何とも言えない印象を抱かせる

  ガンテ、口をおっぴろげて―

 

ガンテ「でっけぇ街~」

 

エルマ「亜種族共存都市『ストヴァーニェ』です。その名の通り、下界の様々な種族が集まり、共存しています。各種族の文化や言語、建造物が一堂に会しているので、少し見慣れないかもしれませんね」

 

  勇也、街を見回し感嘆の吐息を漏らす

  しかし、僅かに言い淀んで―

 

勇也「ここはその……、平気なの?ほら、矮人族みたいに……」

 

エルマ「あぁ、それは心配いりません。ここに住むのは下界の種族だけですので、迫害や上下関係は存在しないんです。亜種族たちは決して排他的というわけではないので、このように様々な種族が交流して栄えている場所もあるんですよ」

 

  その言葉に、勇也は安堵し微笑む

 

勇也「そっか」

 

エルマ「本日は、ここの宿でお休みしましょう」

 

ガンテ「っしゃあ、遊びまくるぞ~!」

 

  勢いよく走り出すガンテ

  まるで、子供の様だ

  外見に相違はないが

 

バスティ「ちょっとアンタ、エルマの話し聞いてなかったの~!?」

 

  それを追いかけるバスティ

  勇也、その二人を見て思わず苦笑い

 

× × × × ×

 

  八百屋

  顎に手をやるエルマ、食材を吟味している

  その傍ら、ガンテが果物を口に運ぶ

  もちろん、まだ金は払っていない

  それを必死に止めるバスティ

  一方、勇也は得体の知れない食材に瞠目

 

× × × × ×

 

  街の中央を走る大きな道

  その上を、龍車が駆け抜ける

  凄まじい迫力が迫り、そして去って行く

  勇也とガンテは、羨望の眼差しが止まらない

  それに、バスティはやれやれ顔

 

× × × × ×

 

  武器屋

  様々な武器や防具が、壁や棚に並ぶ

  些か、凡庸なものが多いように見えるが

  防具を腕に試着するバスティ

  キラリと光るそれを見て満足げ

  その傍ら、剣を持ち上げてみる勇也

  あまりの重さに見たことない表情になる

  手を天に掲げるガンテが武器を錬成

  店主の眼前にグイグイと見せびらかす

  その瞳から、金に目が眩んでいることが分かる

  それに、申し訳なさそうに頭を下げるエルマ

  まるで、母親の様だ

 

× × × × ×

 

  住宅街に入り、通りを歩く勇也一行

  その足元、ちょこまかと何かが走り抜ける

  矮人族だ、思わず踏みそうになってしまった

 

●ストヴァーニェ〔下界〕・宿屋

 

  テーブルに並べられた豪勢な料理

  香しい薫りと湯気が鼻腔を撫でる

  バスティとガンテ、それに目の輝きが収まらない

  エルマは、その反応を見て得意満面だ

 

勇也「なるほど……、エルマのママ属性の結晶だ……」

 

ガンテ「うんっまそ~!」

 

  途端、料理に飛びつくガンテ

  ガツガツと、食事を口に運んで止まらない

  隣のバスティは、それにやれやれと溜息だ

 

バスティ「ったく、みっともないわねぇ。そんなんで、アタシに世間知らずなんてよく言えたこと」

 

ガンテ「んだよ~」

 

バスティ「ご飯を食べる時はこうやって手を合わせて、作ってくれた人に感謝して―」

 

  バスティ、丁寧に手を合わせる

  姿勢から指先まで、洗練され美しい

  目を閉じ、軽く頭を下げて―

 

バスティ「いただきます」

 

  だが直後、皿に顔を突っ込む

  見事に洗練された犬食いだ

  テーブルに床に、飛び散って仕方ない

 

ガンテ「ねーちゃんが人のこと言えるか!獣人ってか、ただの獣じゃねぇか!」

 

バスティ「失礼ね!獣族とアタシとじゃ似ても似つかないわよ!」

 

エルマ「お二人とも、ゆっくり味わって食べてくださいね」

 

  一人黙々と食べる勇也

  決してぼっちなわけではない

  その上手さに言葉が出ないのだ

  感心したようにしみじみと―

 

勇也「にしても、ほんと美味い。ぶっちゃけ、この食事があるからホームシックにならないで済むまである」

 

エルマ「うふふ、胃袋を掴むのが大切といいますからね」

 

勇也「料理とか、よくしてたの?」

 

エルマ「……そうですね。幼い頃は、よく両親のお手伝いで」

 

ガンテ「なぁ、エルマって何歳なんだ?」

 

エルマ「え、え~っと……」

 

バスティ「アンタ、レディに年齢聞くとか、デリカシーないわね」

 

勇也「その概念、異世界にもあるんだ」

 

ガンテ「でも、エルフってすっげぇ寿命長ぇんだろ?千歳とか一万歳とか。もしかして、ママってよりババア……、エルマってよりエルバd―」

 

  直後、何かが空を切る音

  一本のフォーク、ガンテの眉間に突き刺さる

  剛健な額から、ツーと血が伝う

 

エルマ「良い度胸ですね、ガンテ……。そこまで命を惜しまないというのなら、今すぐ魔界に召喚して差し上げましょうか……?」

 

  眼前に迫るエルマの顔

  整然とした表情が、かえって恐ろしい

  痛いほどの、禍々しいオーラを放つ

  ズゴゴゴと、視界が揺れてしまうほど

  ガンテ、本気で怯えながら―

 

ガンテ「す、すみませんでした……」

 

  しょんぼり、体を竦めるガンテ

  勇也、その額にハンカチを当てて―

 

勇也「ガンテくん、大丈夫?」

 

ガンテ「皮膚が頑丈で助かった……」

 

勇也「血出てるけどね」

 

バスティ「そう言えばアンタ、何でガンテには“くん”付けなのよ?アタシたちは呼び捨てなのに」

 

エルマ「そういえば……」

 

  ふと、小首を傾げるバスティとエルマ

  それに、勇也は気まずそうに目を逸らし―

 

勇也「あ~、えっと……、義務笑い、的な……?」

 

バスティ「何それ?」

 

勇也「今まで、陽キャにはヘコヘコしてきたから、その癖が抜けなくて……」

 

  そう言って、勇也は虚空を見つめる

  何か、物思いに耽るように

 

◆高校・教室(一年前)《回想》

 

  窓際最後列の席

  勇也、椅子に座り何かを読んでいる

  教科書だ、漫画などではなく教科書だ

  周囲では、生徒たちが仲間内でガヤガヤ

  一方勇也は、当然の如く一人

  そこに、一人の男子生徒がやってきて―

 

生徒1「儚田くん、係だったよね?提出遅れちゃったんだけどさ、このプリント先生に届けてくれない?」

 

  申し訳なさそうに手を合わせる

  ポーズだけは一丁前だ

  勇也、それに爽やかな笑顔で—

 

勇也「あ、うん。任せて!」

 

× × × × ×

 

  一人、帰りの支度をする勇也

  鞄を持って、教室を出る直前―

 

生徒1「儚田くん!ごめんだけど、掃除当番代わってくれない?どうしても外せない用事があってさ~!」

 

  申し訳なさそうに手を合わせる

  表情は、しかし何を思っているのか知らないが

  勇也、爽やかな笑顔で—

 

勇也「うん、大丈夫だよ!」

 

生徒1「ありがとう!マジ助かる~!」

 

生徒2「お~い、早く行くぞ~」

 

生徒3「この時間、カラオケ混みやすいんだから」

 

生徒1「今行く!じゃあ儚田くん、頼んだ!」

 

  ダッと走り出す男子生徒

  その後ろ姿を見つめる勇也

  崩れない笑顔が、逆に不気味だ

 

× × × × ×

 

  机に突っ伏し寝たふりの勇也

  そこに男子生徒がやってきて―

 

生徒1「儚田くん。え~っと、今度の体育祭の後にクラスで打ち上げやるんだけど~……。儚田くん、もしかして来たり、来なかったり……」

 

  今回は、不思議と目を合わせない

  何か、言い辛そうに口籠っている

  勇也、爽やかな笑顔で—

 

勇也「ごめん、その日は用事があるからいけないや!」

 

生徒1「そっか、そうだよな!ありがとう!」

 

  走り去る男子生徒

  その足取りは踊るように軽やか

  それを見て、思わず眉がピクピクと動く

 

勇也M「ありがとう……?」

 

●ストヴァーニェ〔下界〕・宿屋

 

勇也「おかげで敵はいなかったけど……。はぁ~……」

 

バスティ「いや、むしろ四面楚歌じゃない」

 

エルマ「つまり、ガンテから只ならぬ格上オーラを感じると……」

 

ガンテ「にーちゃん……」

 

  こちらを見つめるガンテ

  直後、ニカッと笑い―

 

ガンテ「んなの気にすんなよ!俺だって、にーちゃんのこと好きに呼んでんだからさ!これからは俺のことも、好きに呼んでくれよ、な?」

 

  真っ白な歯を見せ、満面の笑みを向ける

  その背後に、勇也は後光の幻覚を見る

 

勇也「ぐっ、うぅぅぅぁぁぁぁぁ……!」

 

バスティ「やめなさいガンテ、勇也が浄化しちゃう!」

 

エルマ「あははは……」

 

●ストヴァーニェ〔下界〕・宿屋・寝室

 

  深夜、街は物音一つしない

  ベッドに眠っているガンテ

  投げ出された足、イビキはうるさい

  その隣のベッドには勇也の姿

  仰向け、目は閉じながら―

 

勇也M「スライムも、翼竜も、巨人も倒せた。この力があれば、俺は戦える。俺一人でも、きっと負けない。戦わなきゃいけないんだ、俺は勇者なんだから」

 

  人知れずそう決意する

  心の中だから、誰にも聞こえないが

  やがて、意識は虚ろになっていく

  夜闇、深い眠りへと落ちる

 

●ストヴァーニェ〔下界〕・??

 

  窓から陽の光がさす

  暖かな空気が屋内を満たす

  外から、人々の声が微かに聞こえ始める

 

??「ん~」

 

  ゴロリと寝返り

  ムクリと体を起こす

 

??「あれ、もう昼……?久しぶりだ、こんな遅くまで寝たの……。あれ、スマホ、スマホ……、後でいいや」

 

  ベッドから降りる

  ヨロヨロと歩き、部屋を出る

 

??「ここに来てから、すっかり健康的な生活だったからな~。ずっと寝てると、バスティにどやされるんだよ……」

 

  辺りを見回す

  人の気配がない

 

??「ん、みんないない……。出掛けたのかな?ったく、勇者をハブにするなんて、とんだパーティだぜ」

 

  洗面台、顔を洗う

  二度、三度と飛沫が舞う

  タオルで水滴をふき取る

  正面に長方形の鏡

  そこに映る勇也―ではない

 

??「……あ?」

 

  思わず、グッと鏡を覗き込む

  ずんぐりとした体型、皺がれた顔

  呆然、思わず呆けた声が出てしまう

 

??「……誰?」

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