ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ボーテミュイズン〔下界〕・砂漠
照り付ける太陽と、一面の砂の海
バスティとガンテが、その中に佇む
緊迫した雰囲気、互いに一言も発さない
整然と睨み合い、そして拳を構える
吹き抜ける微かな風に、砂が舞い上がる
何かを皮切りに、ドンッと飛び出す両者
凄まじい力同士がぶつかり合う
轟音と衝撃、砂漠を揺るがす
それを見守る勇也とエルマ
凄まじい力の波動に、髪が靡く
エルマ「ガンテが加わったことで、大幅な戦力増強になりましたね」
勇也「バスティだけでも心強かったけど、やっぱり男がいた方が安心だから。にしても、あの年で偉いよな~。強くなって巨人族を見返そうなんて、俺にはとてもとても」
エルマ「そうですね。共に戦う相手ができて、バスティにとっても良い刺激になっていると思います。勇也様も、あの中に混ざって来ては?レベルも上がったことですし」
促され、バスティとガンテをふと見やる
目にも止まらぬ交戦
爆ぜる砂漠、響く轟音
表情は、お互い血気迫っている
首を挟もうものなら、間違いなく即死だ
勇也「……俺、魔王よりアレの方が怖いんだけど、この認識で大丈夫?」
エルマ「……もし敵であったなら、間違いなく大きな障壁になっていたでしょうね。ですが、勇也様が目指すべき強さは、あの二人よりもさらに上です。名実ともに、パーティを統率できてこその勇者、ですから」
勇也「はぁ~、荷が重い……」
エルマ「レベルが上がれば、それに応じて剣も鎧も進化します。私たちも、命を懸けてお手伝いいたしますので、ご安心ください」
勇也「うん、ありがと」
薄く微笑むエルマ
それに、勇也も微笑を返す
エルマは、しかし微かに目を伏せる
エルマ「勇也様、先日の巨人族のことですが……」
勇也「あぁ、ごめんね。勝手に行くって決めちゃって」
エルマ「いえ。結果として、勇也様は勇者に相応しい成果を挙げられました。……ですが、あまり無茶なことはしないでいただきたいのです。どうか、私たちのことも頼って……」
勇也「ありがとう。でも―」
そこで言葉を切る勇也
徐に、その場に立ち上がり―
勇也「俺、勇者だからさ。だから、戦わなきゃ」
エルマ「勇也様……」
太陽に照らされる、勇也の横顔
エルマはそれに、微かな憂慮を感じる
ただ、感じるだけだが
●ストヴァーニェ〔下界〕
立ち並ぶ家々と、出店の数々
背の高い建造物も散見される
これまでより、些か統率が取れていない
どこか、混沌としているような
どこに目を向ければいいかに困るような
そんな、何とも言えない印象を抱かせる
ガンテ、口をおっぴろげて―
ガンテ「でっけぇ街~」
エルマ「亜種族共存都市『ストヴァーニェ』です。その名の通り、下界の様々な種族が集まり、共存しています。各種族の文化や言語、建造物が一堂に会しているので、少し見慣れないかもしれませんね」
勇也、街を見回し感嘆の吐息を漏らす
しかし、僅かに言い淀んで―
勇也「ここはその……、平気なの?ほら、矮人族みたいに……」
エルマ「あぁ、それは心配いりません。ここに住むのは下界の種族だけですので、迫害や上下関係は存在しないんです。亜種族たちは決して排他的というわけではないので、このように様々な種族が交流して栄えている場所もあるんですよ」
その言葉に、勇也は安堵し微笑む
勇也「そっか」
エルマ「本日は、ここの宿でお休みしましょう」
ガンテ「っしゃあ、遊びまくるぞ~!」
勢いよく走り出すガンテ
まるで、子供の様だ
外見に相違はないが
バスティ「ちょっとアンタ、エルマの話し聞いてなかったの~!?」
それを追いかけるバスティ
勇也、その二人を見て思わず苦笑い
× × × × ×
八百屋
顎に手をやるエルマ、食材を吟味している
その傍ら、ガンテが果物を口に運ぶ
もちろん、まだ金は払っていない
それを必死に止めるバスティ
一方、勇也は得体の知れない食材に瞠目
× × × × ×
街の中央を走る大きな道
その上を、龍車が駆け抜ける
凄まじい迫力が迫り、そして去って行く
勇也とガンテは、羨望の眼差しが止まらない
それに、バスティはやれやれ顔
× × × × ×
武器屋
様々な武器や防具が、壁や棚に並ぶ
些か、凡庸なものが多いように見えるが
防具を腕に試着するバスティ
キラリと光るそれを見て満足げ
その傍ら、剣を持ち上げてみる勇也
あまりの重さに見たことない表情になる
手を天に掲げるガンテが武器を錬成
店主の眼前にグイグイと見せびらかす
その瞳から、金に目が眩んでいることが分かる
それに、申し訳なさそうに頭を下げるエルマ
まるで、母親の様だ
× × × × ×
住宅街に入り、通りを歩く勇也一行
その足元、ちょこまかと何かが走り抜ける
矮人族だ、思わず踏みそうになってしまった
●ストヴァーニェ〔下界〕・宿屋
テーブルに並べられた豪勢な料理
香しい薫りと湯気が鼻腔を撫でる
バスティとガンテ、それに目の輝きが収まらない
エルマは、その反応を見て得意満面だ
勇也「なるほど……、エルマのママ属性の結晶だ……」
ガンテ「うんっまそ~!」
途端、料理に飛びつくガンテ
ガツガツと、食事を口に運んで止まらない
隣のバスティは、それにやれやれと溜息だ
バスティ「ったく、みっともないわねぇ。そんなんで、アタシに世間知らずなんてよく言えたこと」
ガンテ「んだよ~」
バスティ「ご飯を食べる時はこうやって手を合わせて、作ってくれた人に感謝して―」
バスティ、丁寧に手を合わせる
姿勢から指先まで、洗練され美しい
目を閉じ、軽く頭を下げて―
バスティ「いただきます」
だが直後、皿に顔を突っ込む
見事に洗練された犬食いだ
テーブルに床に、飛び散って仕方ない
ガンテ「ねーちゃんが人のこと言えるか!獣人ってか、ただの獣じゃねぇか!」
バスティ「失礼ね!獣族とアタシとじゃ似ても似つかないわよ!」
エルマ「お二人とも、ゆっくり味わって食べてくださいね」
一人黙々と食べる勇也
決してぼっちなわけではない
その上手さに言葉が出ないのだ
感心したようにしみじみと―
勇也「にしても、ほんと美味い。ぶっちゃけ、この食事があるからホームシックにならないで済むまである」
エルマ「うふふ、胃袋を掴むのが大切といいますからね」
勇也「料理とか、よくしてたの?」
エルマ「……そうですね。幼い頃は、よく両親のお手伝いで」
ガンテ「なぁ、エルマって何歳なんだ?」
エルマ「え、え~っと……」
バスティ「アンタ、レディに年齢聞くとか、デリカシーないわね」
勇也「その概念、異世界にもあるんだ」
ガンテ「でも、エルフってすっげぇ寿命長ぇんだろ?千歳とか一万歳とか。もしかして、ママってよりババア……、エルマってよりエルバd―」
直後、何かが空を切る音
一本のフォーク、ガンテの眉間に突き刺さる
剛健な額から、ツーと血が伝う
エルマ「良い度胸ですね、ガンテ……。そこまで命を惜しまないというのなら、今すぐ魔界に召喚して差し上げましょうか……?」
眼前に迫るエルマの顔
整然とした表情が、かえって恐ろしい
痛いほどの、禍々しいオーラを放つ
ズゴゴゴと、視界が揺れてしまうほど
ガンテ、本気で怯えながら―
ガンテ「す、すみませんでした……」
しょんぼり、体を竦めるガンテ
勇也、その額にハンカチを当てて―
勇也「ガンテくん、大丈夫?」
ガンテ「皮膚が頑丈で助かった……」
勇也「血出てるけどね」
バスティ「そう言えばアンタ、何でガンテには“くん”付けなのよ?アタシたちは呼び捨てなのに」
エルマ「そういえば……」
ふと、小首を傾げるバスティとエルマ
それに、勇也は気まずそうに目を逸らし―
勇也「あ~、えっと……、義務笑い、的な……?」
バスティ「何それ?」
勇也「今まで、陽キャにはヘコヘコしてきたから、その癖が抜けなくて……」
そう言って、勇也は虚空を見つめる
何か、物思いに耽るように
◆高校・教室(一年前)《回想》
窓際最後列の席
勇也、椅子に座り何かを読んでいる
教科書だ、漫画などではなく教科書だ
周囲では、生徒たちが仲間内でガヤガヤ
一方勇也は、当然の如く一人
そこに、一人の男子生徒がやってきて―
生徒1「儚田くん、係だったよね?提出遅れちゃったんだけどさ、このプリント先生に届けてくれない?」
申し訳なさそうに手を合わせる
ポーズだけは一丁前だ
勇也、それに爽やかな笑顔で—
勇也「あ、うん。任せて!」
× × × × ×
一人、帰りの支度をする勇也
鞄を持って、教室を出る直前―
生徒1「儚田くん!ごめんだけど、掃除当番代わってくれない?どうしても外せない用事があってさ~!」
申し訳なさそうに手を合わせる
表情は、しかし何を思っているのか知らないが
勇也、爽やかな笑顔で—
勇也「うん、大丈夫だよ!」
生徒1「ありがとう!マジ助かる~!」
生徒2「お~い、早く行くぞ~」
生徒3「この時間、カラオケ混みやすいんだから」
生徒1「今行く!じゃあ儚田くん、頼んだ!」
ダッと走り出す男子生徒
その後ろ姿を見つめる勇也
崩れない笑顔が、逆に不気味だ
× × × × ×
机に突っ伏し寝たふりの勇也
そこに男子生徒がやってきて―
生徒1「儚田くん。え~っと、今度の体育祭の後にクラスで打ち上げやるんだけど~……。儚田くん、もしかして来たり、来なかったり……」
今回は、不思議と目を合わせない
何か、言い辛そうに口籠っている
勇也、爽やかな笑顔で—
勇也「ごめん、その日は用事があるからいけないや!」
生徒1「そっか、そうだよな!ありがとう!」
走り去る男子生徒
その足取りは踊るように軽やか
それを見て、思わず眉がピクピクと動く
勇也M「ありがとう……?」
●ストヴァーニェ〔下界〕・宿屋
勇也「おかげで敵はいなかったけど……。はぁ~……」
バスティ「いや、むしろ四面楚歌じゃない」
エルマ「つまり、ガンテから只ならぬ格上オーラを感じると……」
ガンテ「にーちゃん……」
こちらを見つめるガンテ
直後、ニカッと笑い―
ガンテ「んなの気にすんなよ!俺だって、にーちゃんのこと好きに呼んでんだからさ!これからは俺のことも、好きに呼んでくれよ、な?」
真っ白な歯を見せ、満面の笑みを向ける
その背後に、勇也は後光の幻覚を見る
勇也「ぐっ、うぅぅぅぁぁぁぁぁ……!」
バスティ「やめなさいガンテ、勇也が浄化しちゃう!」
エルマ「あははは……」
●ストヴァーニェ〔下界〕・宿屋・寝室
深夜、街は物音一つしない
ベッドに眠っているガンテ
投げ出された足、イビキはうるさい
その隣のベッドには勇也の姿
仰向け、目は閉じながら―
勇也M「スライムも、翼竜も、巨人も倒せた。この力があれば、俺は戦える。俺一人でも、きっと負けない。戦わなきゃいけないんだ、俺は勇者なんだから」
人知れずそう決意する
心の中だから、誰にも聞こえないが
やがて、意識は虚ろになっていく
夜闇、深い眠りへと落ちる
●ストヴァーニェ〔下界〕・??
窓から陽の光がさす
暖かな空気が屋内を満たす
外から、人々の声が微かに聞こえ始める
??「ん~」
ゴロリと寝返り
ムクリと体を起こす
??「あれ、もう昼……?久しぶりだ、こんな遅くまで寝たの……。あれ、スマホ、スマホ……、後でいいや」
ベッドから降りる
ヨロヨロと歩き、部屋を出る
??「ここに来てから、すっかり健康的な生活だったからな~。ずっと寝てると、バスティにどやされるんだよ……」
辺りを見回す
人の気配がない
??「ん、みんないない……。出掛けたのかな?ったく、勇者をハブにするなんて、とんだパーティだぜ」
洗面台、顔を洗う
二度、三度と飛沫が舞う
タオルで水滴をふき取る
正面に長方形の鏡
そこに映る勇也―ではない
??「……あ?」
思わず、グッと鏡を覗き込む
ずんぐりとした体型、皺がれた顔
呆然、思わず呆けた声が出てしまう
??「……誰?」