「次世代型スマートAI ?」
「はい!ナユタとお呼びください。マスター!」
「最近は何でもAIだなぁ。どおりで俺が就職できないわけだw」
そういいながら、良治はしきりにナユタの胸の部分をタップする。
「マスタぁ??」
ナユタは慌てて胸元を隠し、上目遣いお向ける。
「はは、すまんこ」
最低である。
「ナユタはご主人様の生活をサポートするために!試験的にこのスマホに搭載されました」
「試験的に?」
「はい!!新開発の学習型AIをスマートフォンに搭載する。マスターはそのモニターに選ばれたんです!!」
「ほーん、それって俺に何か得あるの?」
「よくぞ聞いてくれました!!ここにあるタスクを達成すると、いろんな特典があるんですよ。例えば、ギガ死のたびに、ながーい広告みるの、だるくありません?」
右へ左へせわしなく動きながら、ナユタは本物の人間のようにとめどなく話す。
「ああ~、あれだるかったんだよなー」
「それがなくなります!」
ずい!っと人差し指を立てるナユタ。
「マジで!!」
「はい!それ以外にも、様々なことに交換できるポイントがもらえます!!」
「へぇ~例えば何がもらえんの?」
「これなんてどうでしょう?「Vtuberサクサクパンダのマシュマロ読み上げ優先券!!」10万ポイントです!」
ナユタはリストから素早く良治が食いつきそうなものを取り上げる。
「よっしゃぁ!!買うわ!!!」
良治は急ぎクレジットガード取り出そうとする。
「ごめんなさい、マスター、ポイントは現金で買えないんです。現金との交換も出来ません」
「ええ~」
「カード会社の規約に違反してしまうので」
「そうなのか」
「このゲームをプレイするだけで、100ポイントもらえます」
ナユタはパズルゲームを紹介する。
「ああ、よく広告流してるやつだろ、興味ない」
「じゃぁこれなんてどうですか?新人Vtuberのチャンネル登録と動画再生で、1000ポイントです」
「ああ、それならいいよ」
良治は動画の視聴を始める。やっていることは嫌がっていた広告視聴と変わらない。
「ほい、チャンネル登録っと」
「1000ポイント獲得です!お疲れさまでした!」
拍手のエモーションをするナユタ。かわいい。
「これで1000ポイントか~サクサクパンダの次の配信に間に合わないじゃん!!」
そう言うと良治はスマホを放り投げ、布団にゴロンと寝転がる。
「まぁまぁ、あ!これなんてどうですか?1万ポイントです!」
「お!なになに?」
素早く身を起こす良治。
「自宅から最寄り駅まで歩いて、途中で写真を撮るんです。ここは公園ですね」
「えー外出るの?嫌なんだけど」
「まぁまぁ、そう言わずに。ごはん買いに行くついでにどうです?」
「そういや腹減ったな。何でもかんでも自分でやらにゃならんのは、めんどいな」
体重100kg超えの巨体を引き起こしながら、良治は身支度を始める。といってもズボンと靴下を履くくらいなのだが。
「ではでは、行きましょう~♪」
そんな調子でナユタに言われるがまま、ポイント集めに奔走する日々が始まった。はじめは好きなVtuberの推し活が目的で始めた「ポイ活」だったが、その目的はいつしかポイントを得るためのモチベーション維持の手段となり、ポイ活の手段と推し活の目的が入れ替わってしまった。
「よし!!これで何ポイントたまったかな?」
「5万ポイントです!10万ポイントまであと半分ですね!マスター」
ナユタが目を輝かせ稼いだポイントを数えた。
「10万ポイント?ああ~サクサクパンダちゃんか!えーっと、うわ、お悩み配信今日じゃん!間に合わねぇ~」
「ありゃりゃ~」
頭を抱える二人に、一つの通知が来る。
「ご主人様!!ご主人様!特別依頼です!!激熱ですよ!」
「なにそれ?」
「自分のポイントを使って依頼を出せるんです!早い者勝ちです!受けますか?」
「え~それって仕事じゃん。オレ!シゴトキライ」
どこまでもふざけた男である。
「報酬は10万ポイントですよ!しかも物を運ぶだけ!カバンひとつ運ぶだけですよ!」
「10万!!めちゃくちゃもらえんじゃん」
急に食いつきはじめる。
「ああ!マスター!他の人が受けようとしてますよ!早い者勝ちです!急いで!!」
「う、おおお!受注ボタン押すぞ!おっ!受注完了だって」
「おめでとうございます」
「で?何すればいいの?」
「はい、依頼者は社畜新兵さん。駅のロッカーに荷物を預けたままだから取りに行ってほしいとのことです。荷物は烏丸駅で届け先は烏頭坂駅ですね」
ナユタは依頼内容を丁寧にわかりやすく説明した。
「烏丸はここから30分か烏頭坂は?」
「電車を乗り継いで1時間ってとこですね」
「遠いじゃん!!」
「だから10万ポイントも出してるんですよ。マスター」
「そうかー」
「それに、ポイントとは別に謝礼を用意してくれるようですよ」
「いいじゃんそれ!吉幾三!!」
「はい!道中のナビゲートはお任せください!!」
家から10分の最寄り駅まで行き、そこから私鉄で20分の移動、烏丸駅に到着した。
「ここだな」
「はい!ロッカー番号069番を指定してください。これが解錠のQRコードです」
画面のQRコードをかざすと069番のロッカーが開いた。中には大きめな革製のバックが入っていた。
「おお、開いた。これだな。うぉ!やけにおめぇな。なに入ってんだろ」
「駄目ですよ!!マスター!中身を見たら!!ポイントがもらえなくなっちゃいます!!」
中身を覗こうとする良治を、ナユタが必死に止める。ブルートゥースイヤホンから聞こえるその高い声は、焦りと怒りが混じっていた。
「え?そうなの?」
「ここに書いてあるじゃないですか!」
ナユタがさした依頼の詳細ページには、米印でカバンが開けられたと判断された場合、報酬は無効、警察に窃盗で訴えるとはっきりと書いてある。
「あぶねぇ、ありがとうナユタ」
「いえいえ、気を付けてくださいね」
烏丸駅から電車を乗り継いで1時間、烏頭坂に到着した。
「改札出て左だよね」
「はい!コンビニの前で青い作業着を着ているそうです」
「あの人かな?」
良治と同じような体型の青い作業着を着た男性を見つける。向こうも良治に気付き、手を振って近づいてくる。
「瀬戸くんだね。遠くまでご苦労様。受け取るよ」
作業服の男は半ば強引に良治からカバンを奪い取った。
「ええ、まぁ」
半年ぶりに家族以外の他人と会話した良治は気の抜けた返事をし、呆然と立ち尽くす。
「あ!謝礼がまだだったね。ハイこれ!現ナマで悪いんだけど」
作業着の男はそういうと、折りたたんだ紙幣を渡す。3万円だった。
「いいんですか!!社畜新兵さん」
驚く良治に、男は笑いながらこたえる。
「人前でそのハンドルネームは勘弁してくれよ。会社の作業着いれたカバン。ロッカーに忘れててさ、明日から連休だから、カビ生えちゃうとこだったよ。ありがとう。また頼むよ」
そう言うと、社畜新兵は足早に去っていった。
「マスター!!おめでとうございます!依頼完了です!10万ポイント獲得できましたよ」
ナユタが画面の中でクラッカーを鳴らし、お祝いしてくれる。とたんに我に返った。
「おう!よしッ!急いで家に帰るぞ」
「はい!お疲れ様です!気を付けて帰りましょう」
帰宅し良治は目的の「サクサクパンダのお悩み相談生配信」を視聴していた。
「ハイ次~ 来栖(クルス)区(ク)の戦車兵さんから!!『ニートワイ親がワイ置いて出てってから半月が経過したんだが』えーと10代のころから引きこもりで..」
「やった!!俺のマシュマロ読まれたよ!!ナユタ!!」
「おめでとうございます!マスター」
良治はクリスマスの朝の子供のように大喜び。読者諸君はお気づきだろう、彼が運んだカバンの持ち主は「社畜新兵」と名乗る男ではない。本当の持ち主は岐阜県在住の山田妙子さん、86歳のおばあちゃんである。カバンの中身は妙子さんが定期預金を解約して集めた、現金250万円。なぜそんな大金が入ったバックを良治は運ばされていたか。答えはお察しのとおり、彼は振込詐欺の「受け子」として格安で使われていたのだ。詐欺の手口はこう。山田さんに電話が届く。上京して働いている40過ぎの娘からだ。娘は泣きながら話す。友人の勧めでFX投資を始めた。最初のうちは何十万円も利益が出ていたが、途中から稼げなくなり、損失が大きくなった。ついには会社の口座から250万円引き出し使ってしまった。これから消費者金融を回って250万円を借りてくるという。「あかん、250万ならあるよ」妙子さんはそう言ってしまった。電話口にいるその娘は、振込詐欺の「かけ子」銀行振り込みでは間に合わないから現金で持ってきて。会社終わり取りに行くために、駅のロッカーにカバンを入れて、出てきたレシートを写真で撮って送ってお母さん。その言葉を妙子さんは信じ、ロッカーに主人の形見のバックを入れた。良治はそのバックを中身の確認もせず、まんまと次の「受け子」に運んだのだ。特殊詐欺の受け子には10年以下の懲役、罰金刑はない。
取り返しのつかないことをしたことに、良治はいまだ気づかない。
気が向いたら続きかきます