遊戯王GX-The after stosy   作:ヨツムン

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初めまして、ヨツムンと申します。遊戯王GXが好きすぎて「十代の活躍がもっと見たい!」という思いから「じゃあ自分で書けばええじゃん」という発想に至りました。初投稿で文章もまだまだ稚拙ですが、読んで頂けたら幸いです。


第1部ー精霊牢獄編ー
第1話 〈VS獣族! 十代の新たなるデュエル〉


果てしなく広大な砂漠に、一つの影。

その影は一見静止しているように見られるが、時間の経過と共に僅かに移動している。

 

「ああ、腹減ったぁ……」

 

影の正体は人間の男だった。足取りはややおぼつかない。

外見年齢は18歳前後で成熟した雰囲気を醸し出していたが顔には少し幼さを残していた。

栗色のやや後ろに伸びた長髪を掻き毟り、疲れきった表情で薄汚れたリュックサックを背負いただただ前方へ歩く。

 

「本当にこんなところにデュエルモンスターズの精霊が住んでるのかぁ? なあ相棒」

 

唐突に青年が見えない『相棒』へ何か語りかける。

 

『クリクリィ』

 

呼びかけた同時に青年の背後から小さな影が現れた。

それは全身茶色の毛に覆われ、背中に白い翼を生やし宙に浮く奇怪な生物だった。

生物は毛の中から覗かせる大きな瞳で「不満」の表情を作りあげた。

 

「えぇ、こっちじゃないって!? どっかで道間違えたかなぁ……」

 

その表情を察した青年はがっくりと肩を落としその場に座り込んだ。顔つきもさらに疲労を滲ませている。

 

「ハネクリボー、ちょっと休憩させてくれよ。こちとらこの炎天下の中何時間も歩きっぱなしだったんだ」

 

青年の名は遊城十代(ゆうきじゅうだい)といった。そして、その傍らの生物を十代は「ハネクリボー」と呼んでいた。

 

『だらしがないな、十代。今朝町を出た時にたらふく食べたんじゃなかったのか?』

 

十代の背後からもう1つの影が浮かび上がる。

その姿はハネクリボーと打って変わって歪であり、生物というよりもはや「怪物」に近い外見だった。

シルエットは人型だが、肌の色は濃い紫色、右半身が女性、左半身が男性と非対称な体型をしており、背中からは漆黒の巨大な翼が生えていた。

 

「しょうがないだろユベル。前に食べたのなんて何時間前だと思ってるんだよ」

 

十代は憎々しげに背後の精霊、「ユベル」に聞こえるよう呟いた。

 

「いいよなあ精霊は。腹は減らないし暑さも感じないし」

 

『フフ……君もなってみるかい?』

 

「冗談じゃない。エビフライの食えない身体になるなんて俺はごめんだぜ。…………ん?」

 

二人の会話を遮るように十代のリュックがもぞもぞと動く音がした。反射的に十代はリュックを開き中から音の正体を取り出す。

 

「ごめんなあファラオ。次の町に着いたら高いエサ飼ってやるからさ」

 

音の正体-十代の飼い猫「ファラオ」はふにゃぁと素っ気ない鳴き声を返した。長い時間リュックの中に詰められて退屈だったのだろう、大きく欠伸をした後ごろごろと地面に寝そべり始めた。

数秒後、仰向けに寝転がるファラオの口から謎の光の玉が出現した。

 

『ここはどこなのにゃあ。見渡す限りどこを見ても砂ばっかりでこれじゃ精霊どころか人の集落を見つけることすらままならないよ十代君』

 

その光の中から長身の男性の姿が映し出された。体型はかなり痩せており、糸目に小さな丸眼鏡、ぼさぼさとした黒い長髪が彼から飄々とした雰囲気を出していた。

 

「軽く5時間くらいは歩いてるからな。たぶん今は昼頃だとして、日が暮れるまでまだまだ時間があるからもうしばらく付き合ってもらうぜ、先生」

 

やや素っ気なく返す十代に先生と呼ばれた半透明な男、大徳寺はぐったりとため息を吐いた。

 

「心なしか生気が薄れているな……って、先生もう死んでいたんだっけ?」

 

不謹慎とも思える十代の問いに大徳寺は少し必死に首を左右に振り、

 

『ま、まぁ一般的には私は死者だけどこれでも生きてるつもりにゃ。確かに肉体は滅びたけど、魂はこうして残ってるんだし』

 

「ごめん先生、俺オカルトとか信じないタイプだから」

 

『……今の十代君には死んでも言われたくない言葉にゃ』

 

小さく聴こえたボヤきを無視して十代はよっこらせ、と立ち上がり指に軽く唾を付け風向きを確認し、

 

「うーん……あっちかな」

 

指先に当たる風の感触を頼りに再び歩き出した。その後ろをファラオがトコトコと付いて来る。

太陽がちょうど彼らの真上に射しかかった真夏の一時のことだった。

______________

 

「……………なんだ、ここ」

 

そこからさらに数時間後のやや日が落ちかけた頃、十代は寂れた小さな集落に辿り着いた。なんとか今日の食事と寝床を確保しようという十代の計画は、その集落の異様さによって打ち消された。

荒地に古い木材で建てられた簡素な小屋が数軒点在しており、そのうちの何軒かは玄関扉が不用心にも開け放たれたままであった。

 

「おーい、誰かいませんかー?」

 

十代の呼びかけに反応する者はいない。まるで人間が何か得体の知れないものに一瞬で別の場所に消し飛ばされた跡のように十代は感じた。

 

『もしや十代君、今朝のニュースでやってた近隣の村の住民が一斉に行方不明になってるという事件に何か関係があるんじゃないかにゃ?』

 

突如、十代の背後に浮かび上がった大徳寺が何か思案するように呟いた。

 

「いわゆる神隠しってやつか? こんなところでもあったのか……」

 

十代は今朝に発った街で見たテレビのニュースを思い出した。つい昨日まで賑わっていた山間の小さな農村の村人数十人全員が翌日、忽然と姿を消していた。警察は重大事件として操作をしているが依然として行方不明者の足取りは一人も掴めず、同じような事件がその後も連続して起こっており、行方不明者の合計は100人以上まで登った。手掛かりは、行方不明の数と同じだけのデュエルモンスターズのカードが落ちていたという部分であった。

 

「ちょっと悪いと思うけど……」

 

十代は入り口が開放されている一軒の中を軽く覗いた。

家の中はほんのり明かりが灯っており、質素なテーブルに食事の用意があった。まるでつい今までここで生活していたように感じられる。

その中で十代の目を引くものが存在した。

 

「カード?」

 

食器の影に見覚えのあるカードが置かれていた。無意識的に屋内に上がり込み、手に取る。

 

『弾圧される民』

星1/水属性/水族/攻撃力400/守備力2000

 

『このカードから微かにエネルギーを感じるが、妙だな……』

大徳寺の次はユベルが現れ、またも何か考え込む。

 

「妙って、何が?」

 

『これを見てみろ』

 

十代の問いかけにユベルはテーブルの隅に置かれてある古びた木箱を指差した。蓋の金具が緩んでおり僅かに内部を露出させていた。

「お、これデッキじゃん! 」

 

中にあったのはデュエルモンスターズのデッキだった。決闘者の性か、反射的にパラパラと内容を確認する。

 

「へー、岩石族主体かぁ。下級多めでバランス良く練ってあるな」

 

デッキの内容はデュエルを生業としている十代も思わず唸るほどの出来で、持ち主はかなりの実力を持つ決闘者であることが伺えた。

 

『確かによく出来たデッキだ。強力なモンスターもいくつか入っている。だが、ボクがエネルギーを感じたのはそこにある「弾圧される民」一枚のみだ。そのデッキからは何も感じない』

 

十代はデッキの中のとりわけ高い能力を持ったカードに目をやった。

 

『ガーディアン・スフィンクス』星6

『メガロック・ドラゴン』星7

『磁石の戦士 マグネット・バルキリオン』星8

 

デッキの強力なモンスターに対し、『弾圧される民』は守備力こそ高いものの効果もなくレベルも低い。あまり強力なモンスターではなかった。しかし、ユベルが言うにはこのカードの方が強いエネルギーを感じるらしい。

 

「そういう概念で計れない力がこいつには眠ってるかもしれないんじゃないのか?」

 

『…………』

 

ユベルは納得しきれない、といった表情で黙り込んだ。

デッキを元の箱に戻しとりあえず、他の家も調べようと振り返った直後、

 

「まだ誰か生き残りがいたのか」

 

「…………!」

 

玄関に黒い男の人影が、まるで最初からそこにいたかのように不気味に立っていた。

男から気配はまるで感じなかった。

頭から漆黒のローブを纏っており、顔はよく見えないが、背丈と声の低さで男と判別することはできた。

 

「お前、何者だ?」

「精霊を従える決闘者か。これほどの力……手に入ればセイタンも喜ばれよう」

 

咄嗟に警戒する十代を無視し、男はおもむろにローブの中から十代のよく知る物を取り出した。

手首から肘までの長さ大きな「く」の字の形をした円盤。中心に四角の深い窪みがあり、内側には5つのカードをセットする空間。表面にも5つのカードの形に模られた浅い窪み。

 

「デュエルディスク!?」

 

十代の持ち歩いている物の形こそ違えど決闘者の必需品、デュエルデュエルであった。

 

「いったい何の真似だ。この村の神隠しもお前の仕業か?」

 

「語る名などない。貴様の命を貰い受ける」

 

男から殺気が撒き散らされる。見ず知らずの人間に命を狙われる覚えは十代にはなかったが、確かなことはこの村の現状に男が何か関わっているということ。

 

そして、命を奪う手段は物理的なもの以外でも可能ということ。それがただのデュエルだとしてもーーー

 

「いいぜ、そっちがその気なら相手してやる

 

リュックの中から十代もディスクを取り出す。裏にある輪の部分を左腕に装着し、愛用のデッキをセット。

周囲を確認し、十代は窓から飛び降りる。

 

「来いよ。家の中じゃ狭すぎるだろ」

 

「…………」

 

謎の男は首肯も反対もせず、後を追った。

 

______________

 

集落を出て十代は開けた荒野まで歩き、

 

「この辺が丁度いいか」

振り返ると約10メートル先に男は立っていた。歩いている途中、一度も後ろは見なかったがきちんと付いてきたらしい。その間全く音も気配もなかったので一層不気味に思えてならなかった。

 

「…………」

 

男は黙ってディスクを嵌めた。準備は既に出来ているようだ。

 

「じゃあ、早速だが始めるぞ」

十代は男に向かってディスクを構えて見せた。こちらも準備完了のサインである。

 

「「デュエル!!」」

 

十代と男が同時に叫ぶ。

直後、その場の空間が「ぐにゃあ」と歪みはじめた。景色だけ先に進んでいき、自分の身体はどこか別の次元に切り離される感覚。十代はこの感覚をよく知っていた。

 

「『闇のゲーム』か!」

 

「そうだ。この空間で敗れた者は如何なる人間であっても闇に喰われ、その命を失う。人知を超えた存在である貴様も例外ではない。貴様の従えている精霊もろとも消えるがいい」

 

「プレッシャーをかけるつもりか? 無駄だぜ。生憎だが、こういう命がけの戦いは何度も経験しているんでね。それにーーー」

 

男を睨みつける十代の双眸が妖しく光を放った。透明感のある濃いイエローの右眼とグリーンの左眼。精霊『ユベル』を体内に取り込んだ半精霊の十代だけが持つ瞳の輝きだ。

 

「お前のようなデュエルモンスターズを悪用しようという連中をぶっ潰すことが俺の使命だからな」

______________

遊城十代『4000/4000』

謎の男『4000/4000』

 

十代はデッキからカードを5枚引き、

 

「先攻は俺がもらう」

 

その中から一枚のモンスターカードを選び、ディスクにセットした。

 

「『E・HEROスパークマン』を攻撃表示で召喚!」

 

十代の前にソリッドビジョンによって黄金の鎧を身にまとった雷の戦士が現れる。

 

『E・HEROスパークマン』』

星4/光属性/戦士族/攻1600/守/1400

 

「先攻は最初のターンに攻撃できない。魔法・罠ゾーンにカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

スパークマンの背後にカードの裏側のシルエットが現れる。手札から通常召喚できるモンスターは1ターンに1回。このターンで十代にできることは終わったのだ。

 

「私のターン、ドロー」

 

男が最初に引いた5枚の他に、新たなカードをデッキから引く。デッキの構成によって先攻後攻で有利になる条件が違い、先に相手を牽制するために十代は敢えて先攻を選んだのだ。

 

「モンスターを裏守備表示で召喚」

 

男の前方に、横向きのカードのシルエットが浮かぶ。

 

(こいつ、攻撃を誘っているのか……、もしくはスパークマンより強いモンスターが手札にいなかったか……)

モンスターには攻撃表示と守備表示が存在するが、守備表示にはさらに表と裏の2種類が存在する。手札から守備表示で通常召喚する場合には必ず裏でなければならない。

 

「ターンエンド」

 

男がターンの終了宣言をした。この時点はっきりしていることは、相手はまだ攻めに転じていないということ。

 

「行くぞ。俺のターン、ドロー!」

 

十代は手札を確認する。今ドローしたのと合わせて4枚。

『融合』『E-エマージェンシーコール』『N(ネオスペーシアン)・フレア・スカラベ』『E・HERO エッジマン』

 

現在の手札のモンスターは『フレア・スカラベ』星3と『エッジマン』星7の2枚。星5、6のモンスターは場のモンスター1体、星7以上のモンスターは2体をそれぞれ生贄に捧げなければ召喚できない。エッジマンはモンスターが足りず召喚できない。新たにフレア・スカラベを出すことは可能だが、能力が低くあまり得策とは言えない。

だが、十代の得意とする『E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)』のデッキは、『融合』魔法カードを始めとする2体以上のモンスターを合わせて強力なモンスターを特殊召喚し、勝負を決めるデッキである。そして、現在の手札でエッジマンと場のスパークマンを融合させることによって、より強力なE・HEROの召喚が可能である。

 

(ここで融合して『プラズマ・ヴァイスマン』を召喚するのは簡単だ。だが、やりようによってはもう一つ別のやり方がある)

 

「魔法カード発動。『E-エマージェンシーコール』! デッキから『E・HERO』と名の付くモンスターを1枚手札に加える!」

 

十代はセットしたデッキを外し、中から迷いなく1枚を選択する。

 

「俺の選んだカードは『E・HERO ネクロダークマン』!」

 

『E・HEROネクロダークマン』

星5/闇属性/戦士族/攻1600/守1800

 

「さらに魔法カード発動。『融合』! 場のスパークマンと手札のネクロダークマンを墓地に送り、新たなE・HEROを特殊召喚する!」

 

フィールドのスパークマンの隣に禍々しい骨格標本のようなフォルムをした人影が浮かび上がる。そして2体の影は一つに混ざり合い、新たなシルエットを形成した。

 

「現れろ! 『E・HEROダーク・ブライトマン』!」

 

漆黒のボディに胸部から背中まで翼の生えたような黄金の鎧を装着したモンスターが召喚された。

 

『E・HEROダーク・ブライトマン』

星6/闇属性/戦士族/攻2000/守1000

 

「さらに、墓地のネクロダークマンの効果発動! このカードが墓地に存在する時、1度だけ『E・HERO』モンスターを生贄なしで通常召喚できる!」

 

十代のディスクの墓地カードゾーンが薄く発光した。ネクロダークマンのソリッドビジョンが小さく浮かぶ。

 

「来い! 『E・HEROエッジマン』!」

 

ダーク・ブライトマンの背後に、巨大な金の戦士が出現した。肩や拳の先は鋭く尖っており、その外見からも強力さが伺えた。

 

『E・HEROエッジマン』

星7/地属性/戦士族/攻2600/守/2000

 

「…………」

 

2体の上級モンスターを前に、尚も男は沈黙を守り続ける。

 

「行け、エッジマン! 『パワー・エッジアタック』!」

 

エッジマンが巨大な拳を裏側のカード目掛けて振り下ろす。

その瞬間、相手のカードが表となりモンスターの姿が露わとなった。

 

『巨大ネズミ』

星4/地属性/獣族/攻1400/守1450

 

大人の背丈ほどある巨大ネズミにエッジマンの拳が直撃。耳をつんざくような断末魔が一瞬聞こえ、巨大ネズミの身体は轟音を立てて爆散した。

 

「エッジマンの特殊効果、守備モンスターの守備力をエッジマンの攻撃力が超えていれば貫通ダメージを与える!」

 

通常の場合、守備モンスターを戦闘破壊してもダメージはない。しかしデュエルモンスターズには特殊効果を持つモンスターが多くあり、エッジマンの貫通効果は高い攻撃力と相まって下級モンスター相手に圧倒的な破壊力を見せつけている。

 

謎の男『2850/4000』

 

「巨大ネズミの効果発動。戦闘破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の地属性モンスターを1体特殊召喚する」

しかし男は眉ひとつ動かさず、機械的な動きでデッキからカードを取り出した。

 

「私はデッキより、『素早いモモンガ』を特殊召喚」

 

男の前に巨大ネズミより一回り小さいモモンガが姿を現した。どうやら男のデッキは『獣族』が主軸のようだ。

 

『素早いモモンガ』

星2/地属性/獣族/攻1000/守100

 

『気をつけろ十代。「素早いモモンガ」は戦闘破壊されるとライフを1000回復し、デッキから仲間を2体呼び出すモンスターだ。今、ダーク・ブライトマンで倒してもメリットはない』

 

背後からユベルが敵の情報を教える。確かに、素早いモモンガの攻撃力は1000、ダーク・ブライトマンは2000。与えられるダメージと回復量は丁度1000。さらにダーク・ブライトマンは攻撃終了時に守備表示になるという欠点が存在する。

だが、ここで十代が攻撃せずとも相手は自らダーク・ブライトマンに攻撃を仕掛け破壊し、手数を増やしてくることも考えられた。要はダーク・ブライトマンが攻撃表示か守備表示かの違いしかない。

 

「わかってる。俺はこのままバトルを終了し、ターンエンドだ」

1ターンで上級モンスターを2体も召喚し、少なからずライフを削ったのだ。上出来な方だろう。

(仮に増えたモモンガを生贄に最上級モンスターを召喚しても、それはメインフェイズ2のこと。バトルフェイズが終了してしまえば、追撃はできなくなる)

 

「私のターン、ドロー」

 

男の手札は6枚。主だった動きをしていないからか、次の予測ができない。

 

「『モジャ』を攻撃表示で召喚」

 

小さな黒い毛玉のようなモンスターが出現する。

 

『モジャ』

星1/地属性/獣族/攻100/守100

 

攻守共に低く、エッジマンはおろかダーク・ブライトマンにも遠く及ばない。だが、この行動が次の展開の大きな布石であると十代は確信していた。

 

「『モジャ』を生贄に捧げ、『キング・オブ・ビースト』を特殊召喚!」

 

直後モジャの姿が一瞬消え、巨大な影が姿を現した。

そこにあったのは森の王とも呼べる獰猛な野獣だった。大きさならエッジマンに劣らない。

 

『キング・オブ・ビースト』

星7/地属性/獣族/攻2500/守800

 

「攻撃力2500のモンスターを特殊召喚か。やるな……だが、あと少しエッジマンには届かなかったな!」

 

どれだけ強力なモンスターを召喚しようとも、戦闘破壊されてしまえば下級も上級も同じことだ。

 

「……愚かな、私は魔法カード『エアーズロック・サンライズ』を発動! 墓地のモジャを復活させる!」

 

「何!?」

 

『エアーズロック・サンライズ』は、十代の親友「前田隼人」のデザインしたカードであり、彼の魂の切り札であった。尤も、そのカードが生まれたのは2年も前のことであり、一般に向けて流通してあっても不思議ではない。

 

「このカードの効果により、墓地に存在する獣族、獣戦士族、鳥獣族モンスター1体につき相手のモンスターは全て攻撃力が200ダウンする」

 

「くっ……」

 

男の墓地のモンスターは巨大ネズミが1体。エッジマンの攻撃力は2400になり、ダーク・ブライトマンは1800までダウンした。

「さらに『モジャ』を生贄に、『キング・オブ・ビースト』をもう一体特殊召喚する!」

 

墓地から蘇ったモジャが再び消え、巨大な獣の影、『キング・オブ・ビースト』へと変貌する。

「私のバトルフェイズだ。素早いモモンガでダーク・ブライトマンに攻撃!」

 

素早いモモンガが特攻を仕掛けるかのようにダーク・ブライトマンに体当たりを仕掛ける。しかし、攻撃力が遠く及ばず無残にもモモンガは爆散した。

 

謎の男『2050/4000』

 

「素早いモモンガが戦闘破壊された時、デッキから同名カードを可能な限り裏守備表示で特殊召喚する。さらに、私はライフを1000回復!」

 

『3050/4000』

 

男のフィールドに裏側表示でモンスターが2体セットされる。この2体は破壊しても、もう仲間は呼べないが、ライフを回復されると厄介だ。

 

「行くぞ。1体目の『キング・オブ・ビースト』でエッジマンを攻撃!」

 

キング・オブ・ビーストの拳撃がエッジマンの黄金の装甲を容易く突き破る。エッジマンは苦悶の声をあげ、バラバラに砕け散った。

 

遊城十代『3900/4000』

 

「さらにもう一体でダーク・ブライトマンを攻撃」

 

二代目のキング・オブ・ビーストの鉤爪がダーク・ブライトマンを引き裂く。十代の場のモンスターは1ターンにして壊滅した。

 

『3200/4000』

(だが、ただではやられない!)

 

「ダーク・ブライトマンの効果発動! このカードが破壊された時、相手フィールドのカードを1枚破壊する!」

 

狙いはもちろん、『キング・オブ・ビースト』。突如、上空から放たれた落雷が1体に直撃し、消滅した。

「……その効果は読んでいた。私の獣族モンスターが効果で破壊された時、ライフを1000払うことにより『森の番人グリーン・バブーン』を手札より特殊召喚する!」

 

「なんだと……!?」

 

男『2050/4000』

 

キング・オブ・ビーストが落雷で消滅した場所に、新たなモンスターが召喚された。深い緑の肌に土色の鎧を纏い、巨大な棍棒を持った獣人だ。

 

『森の番人グリーン・バブーン』

星7/地属性/獣族/攻2600/守1800

 

「バトルフェイズ中の特殊召喚によって、グリーン・バブーンは攻撃できる。行け、プレイヤーに直接攻撃!」

 

グリーン・バブーンの棍棒が十代に襲いかかる。

 

「がはっ…………!」

 

遊城十代『600/4000』

 

全身に激痛が迸る。『闇のゲーム』において、強すぎるダメージはプレイヤーの肉体にも影響を与えるのだ。実際に巨人に殴られたような痛みに十代は息を荒げる。

 

「……カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

(こいつ、強い……!)

 

単純なカードの強さだけではなく、男の雰囲気から滲み出る強者のオーラを十代は感じ取っていた。デュエルにおいて相当な修羅場を潜り抜けてきた彼でさえ、これほどの相手にはなかなか出会えない。

 

「………へへ」

 

「何が、おかしい」

 

自然と溢れた笑みに男は初めてデュエル以外で口を開いた。

 

「おかしいんじゃない、楽しいんだ。こんな強い決闘者と戦えるなんて久しぶりだ……」

 

「気でも狂ったか。貴様の手札は1枚。場のカードも1枚。既に何度も攻撃を通させている以上、罠とは考え難い。貴様の命の灯火はもはや潰えている」

 

言葉から勝利を確信している男に十代は力強く笑い返す。

 

「それはどうかな? 俺は何度も、今よりも不利な状況をたった1枚のドローで逆転してきた。その過去がある限り、俺は最後の最後まで諦めない! 絶対に驚かせてやるぜ。俺の起こす奇跡にな! 」

 

十代はゆっくりと指先をデッキのカードを引く。ただ、己のデッキを信じる一心で勝利を確信する。

 

「ドロー!」

 

(……………来た!)

 

「魔法発動!『コンバート・コンタクト』!自分の場にモンスターが存在しない時、手札とデッキから『N(ネオスペーシアン)』カードを1枚づつ墓地に送り、2枚ドローする!」

 

十代は手札の『N・フレア・スカラベ』とデッキの『N・グラン・モール』をそれぞれ墓地に送り、ドロー。

これで手札は2枚。

「……よし、これで俺の勝利へのピースは揃った。 行くぞ! 魔法発動、『ミラクル・コンタクト』!」

 

見覚えのないカードを相手に男が身構える。

「このカードは手札、フィールド、墓地から決められたカードをデッキに戻し、『コンタクト融合』を行うカード。俺は墓地の『N・フレア・スカラベ』『N・グラン・モール』とーーー」

 

十代の残された最後の手札。自分の最も信じるカードを相手に見せ、叫ぶ。

 

「この『E・HEROネオス』をデッキに戻し、コンタクト融合を行う!」

 

フィールドに浮かび上がる3体のモンスター。『N・フレア・スカラベ』『N・グラン・モール』『E・HEROネオス』がそれぞれ、宇宙の輝きに導かれるように天へ登って行く。

 

「トリプルコンタクト融合、現れろ『E・HEROマグマ・ネオス』!!」

 

直後、まるで隕石落下のような爆音を巻き上げ、暗闇のフィールドに「それ」は出現した。

岩石の鎧が鱗のように装着されたボディ、活火山を彷彿とさせる灼熱の温度の左腕。銀色に輝く頭部のバイザー。遥か宇宙から出現した新たなるヒーローは、『闇のゲーム』の暗闇の中で圧倒的な存在感を放っていた。

 

『E・HEROマグマ・ネオス』

星9/炎属性/戦士族/攻3000/守2500

 

「マグマ・ネオスの効果は、フィールドのカード1枚につき攻撃力400ポイントアップ!」

 

場に存在するカードの合計はモンスター5体、魔法罠が2枚。エンドフェイズにデッキに戻るというコンタクト融合の弱点を火力で補った破壊力満点のパワーカードだ。

 

「合計7枚のカード2800ぶんを加算してマグマ・ネオスの攻撃力は5800!!」

 

「な、なんだ……奴のデッキのどこにこれほどの力が!?」

 

突如襲来した大型モンスターにさすがの男も驚愕の声をあげる。

「この一撃で決める。『E・HEROマグマ・ネオス』で『キング・オブ・ビースト』に攻撃!」

 

マグマ・ネオスが灼熱の掌で火球を生み出し、照準を定める。

 

「スーパー・ヒートメテオ!!」

 

「ぐ……永続罠カード発動! 『バーサーキング』!!」

 

打ち出された火球が一瞬にしてキング・オブ・ビーストを包む。モンスターは塵も残らず消滅し、プレイヤーのライフをも消し飛ばすはずだった。

『50/4000』

 

「バーサーキングの効果は、場の獣族モンスター2体のうち1体の攻撃力を半分にし、もう一方に加える!」

 

その言葉通り、場のグリーンバブーンの攻撃力は1300まで下がっていた。『キング・オブ・ビースト』の攻撃力は3800まで上昇していたのだ。

首の皮一枚で繋がった男の声色は隠しようのない安堵が感じられた。このターンを耐え凌ぐということは、マグマ・ネオスがデッキに戻り次のターン、場ががら空きとなった十代の敗北を意味していた。

 

「これで……私の勝利だ」

 

「……それはどうかな」

 

「何!?」

 

十代の表情には、勝利を確定した笑み。彼の場に残った正体不明のカードが1枚。

 

男の、安堵の声色が完全な焦燥へと変わる。

 

「俺の最後のカードだ。リバースカードオープン! 速攻魔法発動、『コンタクト・アウト』! フィールドのコンタクト融合モンスターをデッキに戻し、デッキから融合素材を特殊召喚する!」

 

場からマグマ・ネオス消滅し、新たな【E・HERO】が天から舞い降りる。

 

「現れろ、『N・フレア・スカラベ』、『N・グラン・モール』! そして……」

 

十代の信じる最強のエースカード、光に包まれ現れたそのヒーローの名を叫ぶ。

 

「E・HEROネオス!!」

 

『E・HEROネオス』

星7/光属性/戦士族/攻2500/守2000

 

「ば、馬鹿な……ここで、新たな最上級モンスターだと……!?」

 

男が弱々しく言葉を絞り出す。もはや希望の一欠片も感じられない。

 

「覚悟しろーーーネオスで『森の番人グリーン・バブーン』に攻撃!」

 

ネオスが弱体化したグリーン・バブーンへと跳躍する。着地と同時に手刀を振り下ろし、

 

「ラス・オブ・ネオス!!」

 

グリーン・バブーンは頭から真っ二つに裂かれ、爆発した。残り僅かだった男のライフはこのダメージで完全に消滅した。

 

『0/4000』

 

「ぐ、ぐおおおぉぉぉ!!」

 

男の絶叫と同時に、景色の歪みが解放された。『闇のゲーム』が終了したことによって空間が元の世界に戻ったのだ。

 

「……さて、お前には訊きたいことが山ほどある」

 

「あ、ありえん……この私が……、数十という決闘者を殺し、魂の全てを取り込んだこの私が……敗れるなど……」

 

「決闘者を殺しただと!? お前、いったい何をしたんだ!」

 

思いもしなかった言葉に、十代が男へ詰め寄る。しかし、男は耳を貸さずうわごとのようにブツブツと呟いていた。

 

「おぉ、セイタン……もっと、もっと私に、魂……を………………」

 

最後の呟きが終わるか終わらないかのその時、男の身体がさらさらと小さな音を立て崩れ落ちた。まるでそこに最初から誰もいなかったかのように、男が纏っていたローブとデュエルディスクだけが残された。

 

「……なんだったんだ?」

 

無意識に十代はバサバサとローブを広げる。不思議なことに、誰かが着た痕跡すらそこには存在しなかった。

ローブの中からひらり、と1枚のカードが落ちた。

 

『カードを狩る死神』星5

 

リバース効果で場の罠を破壊する悪魔族のカードだ。どうやら男のデッキに入っていたカードではないらしい。考えられることは、男が何らかの理由で持ち歩いていたか、もしくはーーー

 

「人間がカードにされた……のか?」

 

この日の一戦が新たな運命の始まりだということを、十代はまだ知らない。

 




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