「んで、その『セイタン』って奴は何者なんだ?」
『な、なぜそれを訊く相手が私なのか、意味がわからないのにゃ……』
無人だった集落のとある小屋で十代は霊魂を相手に尋問を繰り広げていた。
謎の男との一戦から翌日、無人集落で一晩を過ごした十代一行。止むを得ず食料や寝床などを拝借したが、さすがに何日も留まるわけにはいかず、警察が駆けつける前に集落を出ることが得策とされた。別段、行き先は決まっていなかったが、十代には昨日の『闇のゲーム』でカードにされた男が気がかりであった。
「先生、昔『闇のゲーム』の授業をしていたって聞いたぜ。正直に答えないと……」
十代が語りかけていた大徳寺の霊魂は巾着状にされたビニールの中に閉じ込められており、その中で霊魂は本当に実体が無いのか疑わしいほど、じたばたと抵抗していた。
「この男物の下着タンスの中に置いていくことになるぞ」
『や、やめるのにゃ〜、本当に知らないのにゃ〜!」
「似たような名前の奴がいただろ」
『そ、それは「タイタン」のことを言っているのかにゃー』
タイタンとは、かつて十代らが戦った『闇のゲーム』のデュエリストの一人である。紛い物の千年アイテムを駆使する強力なデーモンデッキの使い手で、彼らを大いに苦戦させた。だが、ゲームに敗北したタイタンは深い闇に飲み込まれ、既に命を落としている。
『わ、私のしらない預り知らないところでも闇のゲームは存在するのにゃ。全ての闇のゲームを管理するなんて、そんなの不可能なのにゃ』
闇のゲームのルーツは紀元前約3000前の古代エジプトまで遡るという。確かに、その時代に大徳寺が生を受けているのはあり得ないし、そのゲームを全て継承していたとも考えられない。
「ふーん、じゃあ先生から見て何か手掛かりになりそうなこととかあったりしないか?」
十代の問いかけに大徳寺は一瞬はっとする。
『そ、そういえば、あの男は闇のデュエリストにしてはどこか妙なところがあったのにゃ』
「妙って?」
『闇のゲームを行うには、闇の力が封じ込められたアイテムが必要にゃ。だけど、あの男はそれらしきアイテムを持っていなかった』
「でも、奴は自分で闇のゲームって言っていたぞ?」
それだけではない。ゲームに敗れた男は「カードにされる」という制裁を受けたのだ。少なくともあのデュエルに何らかの闇の力が働いていたのは間違いない。
『考えられることとしては、あの男の存在自体が闇のゲームのアイテムだった、とか……』
「人間自身がアイテムに? そんなことができるのか?」
『あまり聞いたことがないけども決して不可能ではないよ。強い闇の力を持つ人間が他の人間を支配し、意のままに操るという事例は過去に何件もあるにゃ。私が思うに、その「セイタン」という黒幕は昨日の男に自分の闇の力を与え、この集落の人間らをカードに変えるよう仕向けたんじゃないかな』
「なるほどな……つまり『セイタン』は強力な闇のゲームの使い手で、手下を操って何かとんでもないことをしようとしているってことか。ありがとな、先生」
必死の弁明に十代は渋々納得し、袋の口を開けた。助かったと言わんばかりに大徳寺の霊魂が床を転がるファラオの口に滑り込んだ。
「じゃあ、やっぱりこの『弾圧される民』は……」
神妙な面持ちでテーブルに置かれたカードを手に取る。ユベルが感じていた「妙な力」とは、このカードがかつて人間だったことを示していた。
『ああ。だがそのカードは既に魂を抜き取られた後のようだね。辛うじて残っていた魂のカケラで何とか判別できるけど……』
大徳寺との入れ替わりでユベルがぬっと現れる。
『この「カードを狩る死神」も既に抜け殻だ。どうやら自動的に操っている主の元へ送られるらしいね』
さして感情の篭らない口調でカードを指差す。「カードを狩る死神」は昨日、闇のゲームに敗れた男の成れの果てだ。結局のところ、男の目的も正体も解らぬままだったが、このような姿にされてしまってはさすがに哀れに感じる。
「利用するだけ利用して、失敗しても魂はちゃっかり奪うなんて、やる事がえげつないな」
十代の呟きにユベルはどこか愉快そうに相槌を打つ。かつて邪悪な精霊だった経験からか、どこか話が通じる要素があるのかもしれない。
『クリクリ〜』
「どうした相棒?」
ユベルの翼にちょこんと隠れていたハネクリボーが急かすように窓の外を見るよう促す。
十代はどれどれ、と窓から少し頭を出して辺りを見回した。そして急かされた理由を一瞬にして理解し、ぎょっと身を竦ませた。
幾重にも重なるサイレンの音。集落を取り囲むように次々と止まる無数のパトカー。
「け、警察!?」
「そこの男、動くな!」
パトカーから乱暴にドアが開けられ、次々と武装した警官が押し寄せてくる。世間的に大事件になっている神隠しの現場に、明らかに外部からの人間がいれば疑われるのは当然であり、さらに不味いことに十代は無断で他人の家屋に進入し、断りなく食料を頂き、一晩を過ごしたのだ。神隠しの犯人の濡れ衣は晴らせても警察のお縄にかかる理由は十分にあるだろう。
『バカ。もたもたしすぎだ』
ユベルが悪態を吐く。しかし、この集落は近くの大都市とも数十キロ離れており、男が神隠しを行っていた昨日の今日での通報は明らかに早すぎる。
「貴様、ここの住人じゃないな? 何をしていた!?」
強引に玄関のドアを開けた警官の一人が十代に詰め寄る。明らかに事件の犯人を見るような目だ。大柄な体格と滲み出る貫禄から、恐らく現場を指揮する立場の人間だろう。
「巡査長! やはりこの村にもカードが!」
若い警官が証拠を取り押さえたように薄い袋に入れたカードを突き出す。
「御苦労、鑑識に回しておけ。……さて、貴様が何者か聞かせてもらおうか」
男の威圧的な態度に十代は辟易としながら黙り込む。ことの経緯を馬鹿正直に話すことは容易いが、どう考えても信じてもらえるとは思えないし、無理に振り切ってお尋ね者にされるのも避けたい。
「…………別に、旅の途中ここに立ち寄っただけですよ。怪しいってのなら身体検査でもしてもらって構いませんが」
とりあえず、下手に刺激しないように歩み寄ることにした。不法進入のことを責められても被害を訴える人間がいない以上、警官も長時間の拘束はしないと考えたからだ。
だが、警官の男は不服そうに表情を歪め、
「そいつは変だなァ。我々は、昨日この集落付近でデュエルをおっ始める茶髪の男と黒いローブを羽織った男を目撃したと通報を受けてやって来たんだが、そのもう一人の男とやらはどこへ行ったんだ?」
「何!?」
(昨日のデュエルを誰かに見られていた!?)
しかも目撃されたのは十代だけではなく、セイタンの僕の男もだった。驚くほど事細かな内容に思わず声を荒げる。
「まずは貴様を重要参考人として連行する。あぁ、今ここにいない男の行方も署でゆっくりと聞かせてもらおうか」
言い終わる間も無く、十代の両腕に手錠が嵌められる。
今まで幾度も世界を滅亡の危機から救い、異世界渡航を繰り返して来た十代だったが、警察に逮捕されるのは初めての経験だった。
________________
パトカーに乗せられて2.3時間ほど経っただろうか、来たことのない都市にいきなり連れてこられ留置所に十代は乱暴にぶち込まれた。
『どうして大人しく逮捕されたんだい? 十代』
鉄格子の中の冷たい床に寝そべる十代をユベルが不機嫌そうに見下ろす。精霊と肉体を共有している今の十代なら武装している警官数十人ごとき簡単に蹴散らして脱出できた、とユベルは言いたいのだろう。
「『目撃者』ってのがどうも気になってな。あの状況で目撃なんて怪しいにも程があるし、警察の言っていたことが正しいならあまりに俺たちのデュエルを正確に見ていたとは思わないか?」
『ふぅん、ボクたちが何者かに監視されているということかい』
「そういうことだ。それに、敵は向こうからやって来る。そんな予感がするんだ」
実際、十代を陥し入れようと何者かが裏で動いているのは間違いない。さすがに敵の目的が留置所に閉じ込めるだけではないだろう。
「ただ、想定外だったことは…」
ゆっくりと起き上がる十代の目線の先にはファラオとデュエルディスクが入ったリュックがあった。連行された時に一時的に没収され、今は地下留置所の簡素な事務机に置かれている。すぐにでも取りに行きたいが硬い鉄格子に阻まれて手が届かない。
「隙を見てなんとか奪還したいけど…」
『そんなことしなくても十代が本気を出せばこんな鉄格子すぐに破れるじゃないか』
確かにユベルの言う通り、半精霊となった十代には不思議な力が備わっており彼の腕力だけでも脱出することは可能だ。だが、そんなことをすれば器物損壊、公務執行妨害などで全国指名手配は確実なのでなるべく穏やかな手段で取り返したい。
「とりあえず、ここを出れば返す気があるようだから今は大人しく待つしかないな……」
十代は呑気に欠伸をし、再び寝転がる。狭苦しい留置所の床も慣れればひんやりと気持ちよく感じた。
________________
『ーーー十代』
いつの間に眠りについてしまった十代にユベルが語りかける。時間は既に夜になっていた。
『さっきから様子がおかしい。看守もいなくなっている』
ユベルの言葉と同時に十代は飛び起き鉄格子の外に目をやる。
彼らを見張っているはずの看守がいない。交代のタイミングだろうか、と一瞬考えたが足音のひとつも聞こえなかったためその可能性は薄いと思った。
「何かあったのか?」
明らかに犯人扱いしている重要参考人を放っておいて、警官の全員が何処かへ行くのはさすがに不自然だ。
『さあね、どうやら異常事態なのは確かなようだけど』
「やむを得ないな、蹴破るぞ」
今は非常事態だ。それに、十代は過去に学校のボートを奪い逃走したり、爆破されたビルを飛び降りたことさえあるのだ。よく考えたら今更、留置所の脱獄ぐらい大した問題ではない。数歩距離を置き、一呼吸吐いて勢いよく助走をつけ鉄格子の扉へ蹴りを繰り出す。
鈍い金属音と火花を撒き散らし、扉の鍵が割れた。重い扉を無造作に開け、事務机の上のリュックを回収。出口を目指し階段を駆け上がった。
「やっぱり……誰もいない」
警察署は既にもぬけの殻であった。事務室にも明かりはついていたが、誰一人として警官が存在しない。そして、あちこちに散らばるデュエルモンスターズのカード。
「セイタン……いったい何が目的でこんなことを」
「それはーーー至極簡単な理由さ」
奥の明かりがついていない廊下から、一人の若い男の影が現れた。
「僕は人を統べる才能を持ってこの世に生まれ、その力を行使しているに過ぎない」
昨日の男と同じように漆黒のローブを身に纏い素顔を見ることができないが、声から察することのできる年齢は十代とそう変わらない。
「初めまして、遊城十代。会えて嬉しいよ」
「なぜ俺の名前を知っている? お前は誰なんだ?」
身構えながら十代は訊き返した。この異様な状況の中で、飄々と語りかけてくる男がまともな人間とはとても思えなかった。
「僕の名は『セイタン』。今日は君に会うためにわざわざ出向いたんだ。少々手荒な真似をして申し訳なかったね」
「お前がセイタン……ここの警官が全員カードにされたのもお前の仕業なのか?」
警戒を強めて十代が訊き返す。敵が現れる予感はあったが、まさか黒幕本人が現れるとは予想もしなかった。
「そうだよ。それともう一つ言えるとすれば、君をここに捕らえるよう通報をしたのも僕だ」
薄々は気づいていた。昨日の男の行動から予想できるセイタンという人間は、凄まじく卑劣な手口を用いて目的を成し遂げるだろう。ここの警官は全て十代を逮捕するために利用され、使い終わったら切り捨てられたのだ。
だが、分からないことが一つある。
「なぜこんな回りくどい手を使う? 俺に用があるなら昨日のうちに現れれば済む話だろ」
怒気を込めて返す十代にセイタンはやれやれと肩を竦め、
「僕には目的が二つあってね……一つは人間達から大量の魂をかき集めること。もう一つはーーー」
言いかける直後、セイタンは足元のカードを拾い上げる。
「こいつとデュエルをすれば自ずとわかるさ」
セイタンの腕から黒々とした液体が噴出し、カードに流れ込む。黒く染まったカードは程なくして大柄な男の影へと変貌した。
「こいつ……魂を抜き取るだけじゃなく復活させることもできるのか!」
警官の男として復活した影の腕には禍々しいフォルムをしたデュエルディスク。完全にセイタンの僕として生まれ変わっている。
「行くぞ……デュエルディスクを構えろ!」
警官がどっしりとした低い声で十代を威嚇する。どうやらこの男を倒さねばセイタンから直接話を聞くことはできないらしい。
「いいぜ、受けて立つ!」
リュックからディスクを取り出し、左腕にセット。だが、そこで十代は普段とは明らかに違うデッキの感覚があった。
ーーいつも愛用しているはずのデッキが、氷のように冷たい何かに変わってしまったような……、まるでいつもそこにあったものが今はいないようなーー
「ッ!? ハネクリボーがいない!」
十代の視線は警官の男を通り抜けセイタンへ当てられる。
「御名答! 僕の目的は君からこのカードを頂くことだったのさ」
セイタンが悪びれもせず、ローブの中から出した『ハネクリボー』のカードを見せる。警察にリュックを一時的に没収された時に奪われたのだ。
十代の中にかつてない程の怒りの感情が沸き起こる。
「返して欲しかったら、まずはそいつに勝つことだ。勝てれば……ね」
「待っていろ相棒、すぐに片をつける!」
セイタンの挑発に爆発しそうな怒りを抑え、ディスクを構えデュエルの開始を宣言する。
「「デュエル!!」」
________________
遊城十代『4000/4000』
警官『4000/4000』
「俺の先攻だ。『ヘルウェイ・パトロール』を攻撃表示で召喚!」
先攻をとったのは警官だった。黒光りするバイクに跨る黒服の武装警官がフィールド上に召喚される。
『ヘルウェイ・パトロール』
星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1200
「これでターンを終了する!」
「俺のターン、ドロー!」
後攻の十代の手札はドローの枚数を含めて6枚。相手の出方はまだ分からないが、ここでもたついている訳にはいかない。
「速攻で行くぞ。魔法カード『融合』発動! 手札の『E・HERO フェザーマン』と『E・HEROバーストレディ』を融合!」
手札に揃った2枚のカードを相手に見せ、墓地に送る。2体のモンスターのビジョンが混ざり合い、新たなモンスターがフィールドに召喚された。
「来い……『E・HEROフレイム・ウィングマン』!」
『E・HEROフレイム・ウィングマン』
星6/炎属性/戦士族/攻2100/守1200
姿は人型だが、さながら爬虫類を彷彿とさせるグリーンのボディと左側にのみ生えた白い翼、竜の頭に変貌した右腕と他のE・HEROと比べてもかなり攻撃的な印象を受ける。
「バトルだ。行け、『フレイム・シュート』! 」
十代が攻撃を命令する。フレイム・ウィングマンの放った火球によりヘルウェイ・パトロールの身体が黒煙を上げ消滅した。
警官『3500/4000』
「さらにフレイム・ウィングマンの特殊効果、破壊した相手モンスターの攻撃力ぶんのダメージを相手に与える!」
フレイム・ウィングマンが瞬時に警官の目の前に現れる。そのままプレイヤーに直接、右手から火炎放射を浴びせる。
『1900/4000』
「ふん……この程度の火力、大したことはないな!」
一撃でライフの半分を削られたにも関わらず、警官の男はなんのこれしきと表情を変えることはなかった。
「カードを2枚伏せ、ターンエンド」
(今伏せたカードは『ヒーロー見参』と『ヒーロー・シグナル』。次のターンでフレイム・ウィングマンを破壊されても、すぐに後続に繋げることができる)
十代は残る最後の手札、『E・HEROネオス』に目をやった。デュエルの始まった時から動悸が止まない。何年も共に歩んでいたハネクリボーと引き剥がされ、激しく動揺しているのを肌で感じる。しかし、それがセイタンの狙いと分かっているからこそ冷静に目の前の相手とのデュエルに専念しなければならない。敗北は他ならない十代の死を意味するのだ。
「俺のターン、ドロー!」
警官はまだ本格的な行動に移っていない。できることなら、このまま押し切りたいと十代は思った。しかしこの警官、いちいち声が大きい。
「装備魔法、 『ビッグバン・シュート』を発動! 貴様のフレイム・ウイングマンに装備する!」
フレイム・ウイングマンの闘気が増し、攻撃力が400上昇した。わざわざ相手のモンスターを強化する警官を十代は訝しむ。
(こいつ、いったい何をするつもりだ……?)
「俺は墓地のヘルウェイ・パトロールの効果発動! このカードを除外することによって手札から攻撃力2000以下の悪魔族モンスターを特殊召喚する! 来い、『バイサー・ショック』!!」
フィールドに拘束具を連想させる拷問機械が召喚された。先端の電極からは電流が流れ、国家権力の負の部分をまさまざと見せつけているように思えてならない。
『バイサー・ショック』
星5/闇属性/悪魔族/攻800/守600
「バイサー・ショックの効果! このカードが召喚、反転召喚、特殊召喚された時フィールドにセットされた全てのカードを持ち主の手札に戻す!」
十代のディスクにセットされた2枚のカードが弾き出される。
(だが、手札に戻すだけなら次のターンまたセットすればいい)
しかし、その思惑は大きくはずれる。
「さらに魔法発動! 『手札抹殺』!!」
「くっ、しまった……!」
手札抹殺はお互いの手札を全て墓地に送り、その枚数だけドローするカードだ。十代の手札に戻された2枚の罠は発動を許されぬまま墓地へ捨てられてしまった。
十代の新たな手札はネオスを捨てたぶんも含めて3枚。対する警官の手札は2枚。
「フン、まだ効果の処理が残っているぞ! 墓地の『暗黒界の策士グリン』の効果発動! このカードが効果で手札から墓地に送られた時、フィールドに存在する魔法・罠を1枚破壊する!」
警官のディスクの墓地ゾーンが妖しく光る。直後、警官の場に表になっていたビッグバン・シュートが破壊され、フレイム・ウィングマンは音も立てず消滅した。
「フレイム・ウィングマン! ーーーそうか、お前はこれを狙って……!」
憎々しげに睨む十代に、警官は豪胆に笑い返し、
「ハハハ、その通りだ! ビッグバン・シュートがフィールドから離れた時、装備モンスターはゲームから除外される!!」
戦闘を介さずに十代の場はがら空きとなってしまった。しかも相手はまだ通常召喚を残している。
「俺のターンはまだ終わっていない! バイサー・ショックを生贄に、『タルワール・デーモン』を召喚!」
場のバイサー・ショックが消えたと同時に、漆黒の翼を持つ二刀流の悪魔が召喚される。刀は大きく湾曲しており、その出で立ちは異国の流派を連想させた。
『タルワール・デーモン』
星6/闇属性/悪魔族/攻2400/守2150
「行け、タルワール・デーモン! プレイヤーを斬り裂けぇ!!」
斬撃が容赦なく十代を襲う。大ダメージを与えたと思ったが、1ターンで逆転されてしまった。
遊城十代『1600/4000』
「ターンエンド! フハハ、さぁもっともっと足掻くがいいぞ!」
本来の性格なのだろうか、セイタンの僕として復活した割にやたらと威勢がいい。
「ああ……どこまでも足掻いてやるさ。俺のターン、ドロー!」
手札抹殺の効果で加わったカードを含めて、十代の手札は4枚。
「魔法カード、『O-オーバー・ソウル』を発動! E・HEROの通常モンスターを墓地より復活させる。蘇れ、ネオス!」
十代のデッキを象徴するモンスター、『E・HEROネオス』がフィールド上に特殊召喚される。
「さらに、『カード・ガンナー』を攻撃表示で召喚!」
脚部はキャタピラ、両腕は小さな砲台、頭部にセンサーライトと玩具のロボットを彷彿とさせるモンスターがネオスの傍らに現れた。
『カード・ガンナー』
星3/地属性/機械族/攻400/守400
「カード・ガンナーの効果は、デッキの上からカードを3枚まで墓地に送り、1枚につき攻撃力を500アップさせる!」
十代は迷うことなく3枚を墓地送る。『N・アクア・ドルフィン』、『E・HEROエッジマン』、『コンバート・コンタクト』……とカードが墓地へ送られる度、カード・ガンナーの砲身が巨大化する。
「バトルだ、ネオスでタルワール・デーモンに攻撃!」
ネオスの手刀がデーモンの胸を突き破る。群青色の液体を撒き散らし、デーモンは太い悲鳴と共に消滅した。
警官『1800/4000』
「この攻撃で終わりだ、カード・ガンナーでプレイヤーに直接攻撃!」
カード・ガンナーの攻撃力は1900。相手の残りライフとほぼ同じだ。警官に照準を合わせた砲台が、光を溜め込み強力なレーザー光線を放つ。
「フン、俺がこんなところで終わるかよ! 手札から『ディフェンド・デビル』を特殊召喚! このカードの攻撃力は直接攻撃してきたモンスターと同じ数値に変動する!!」
突如現れた大盾を持った髑髏の兵士が寸前でレーザーが消滅する。新たにモンスターが増えたことで戦闘が巻き戻ったのだ。
「なら、俺はこのまま攻撃を続行する!」
カード・ガンナーの砲身から再度レーザーが放たれる。対するディフェンド・デビルも髑髏の口から瘴気を吐き出し応戦する。お互いの攻撃力が拮抗し、両者は爆発音と共に破壊された。
「カード・ガンナーが破壊された時、カードを1枚ドロー!」
「な、何ぃ!?」
新たな壁モンスターの召喚は、十代にとってむしろ好都合であった。カード・ガンナーの効果を知らなかったのだろう、警官が驚愕の声をあげる。
「ターンエンドだ」
(手札は3枚。場にはネオス……なんとか凌いだな)
相手の手札は既に0であり場にカードもない以上、次のドローで逆転の手を引かない限り、警官に勝機はない。セイタンが十代を挑発するほどの決闘者にしては、どこか呆気ない幕切れに思えた。
「ぐぐ……行くぞ! 俺のターン、ドロー!!」
ドローしたカードを見た瞬間、この世の終わりと言わんばかりの表情にみるみる光が戻った。
「ハハハハハ! 来たぞ! 俺のデッキに眠る最強のエースが! 俺は墓地に眠る3枚の悪魔族モンスター『バイサー・ショック』、『タルワール・デーモン』、『ディフェンド・デビル』を墓地から除外しーーー」
警官の墓地からカードが次々と抜き取られていく。
「出でよ、『ダーク・ポリスマン』!」
突如、警官のフィールドに巨大な人影が召喚された。 制服、装飾など全身くまなく黒に染め上げられた警察官だ。凶器とも思わせる程の長い警棒を片手に、赤く血走った威圧的な目で十代らを見下ろす。
『ダーク・ポリスマン』
星8/闇属性/悪魔族/攻2000/守2500
「ダーク・ポリスマンの攻撃力は、墓地の悪魔族モンスター1体につき300アップする! 俺の墓地の悪魔族は2体。よって攻撃力は2600だ!」
(2体だと? 奴の墓地に残ったモンスターは暗黒界の策士グリン1枚きりの筈……)
辻褄が合わない、と思案する十代に警官はフフンと見下したような笑みを浮かべ、
「馬鹿め、まだ気付かないか!俺が手札抹殺で墓地に送ったもう1体のモンスターも、同じ悪魔族だったんだよ!」
警官が墓地からカードを抜き取り、十代に見せつける。『レジェンド・デビル』。悪魔族の上級モンスターだ。
「さぁ……喰らいなァ!! ダーク・ポリスマンでネオスに攻撃だ!」
巨大な警棒による一振りが、ネオスの身体を吹き飛ばす。直後、巻き上がった轟音とともにネオスは消失した。
遊城十代『1500/4000』
「さらに、ダーク・ポリスマンの効果発動! 戦闘破壊したモンスターをこのカードに装備する!」
消滅したはずのネオスが、ダーク・ポリスマンに羽交い締めにされた状態でフィールド上に姿を現した。より強い力で締め付けられており、苦悶の声を上げている。
「ネオス!? お前よくも……!」
ハネクリボーに次いでネオスまで奪われたことにより、普段は冷静な性格の十代もさすがに堪忍袋の緒が切れようとしていた。
『落ち着くんだ十代。いつもクールなキミらしくもないじゃないか。ハネクリボーが気掛かりなのは分かるが、あいつはそんなキミの心に揺さぶりをかけて追い込もうとしているんだ』
怒りに身を震わせる十代をユベルが優しく励ます。普段は減らず口だが、こういう時には心強い存在だなと十代は感じた。
『思い出すんだ。キミは今まで多くの試練を乗り越えてきた。こんなデュエルで自分を見失ってはいけない』
「ああ……分かってる。ありがとな、ユベル」
十代は力強く頷いた。さっきより動悸も治まってきたし、冷静な判断ができるようになったような気がする。
「俺のターンは終了だ。 さぁ新しいモンスターでも出すなりして攻撃するがいい!」
警官が下品に煽りを掛けてくる。余りにもあからさま過ぎて、あと少しあんな挑発に乗るところだったのか、と十代は苦笑いした。
「俺のターン、ドロー!」
(落ち着け……、まずはこの警官を倒すのが先だ。ハネクリボーのことは心配だがこのデュエル、相手から意識を逸らしたらーー負ける!)
十代の手札は4枚。まだチャンスは十分に残されている。
「『E・HEROスパークマン』を召喚! そして魔法カード『ミラクル・フュージョン』を発動する!」
場に新たに召喚されたスパークマンと、墓地のエッジマンのビジョンが混ざり合う。
「ミラクル・フュージョンは、フィールドか墓地から決められたモンスターを除外し、新たな【E・HERO】を融合召喚するカード……俺はスパークマンとエッジマンを融合! 来い、『E・HERO プラズマヴァイスマン』!」
十代の場に、新たな雷の巨人が召喚される。両腕には巨大な手甲が装着されており、その存在感はエッジマンを上回っていた。
『E・HEROプラズマヴァイスマン』
星8/地属性/戦士族/攻2600/守2300
「プラズマヴァイスマンの効果発動! 手札を1枚捨て、相手の攻撃表示モンスターを1体破壊する!」
手札から墓地に送られた『E・HEROクレイマン』の力を吸収し、プラズマヴァイスマンが放った落雷がダーク・ポリスマンに直撃する。
「残念だったなァ、『ダーク・ポリスマン』は破壊される代わりに装備カードを墓地に送るんだよ! 破壊されるのは貴様のネオスだ!!」
ダーク・ポリスマンはネオスを盾に破壊を免れる。捕らわれたネオスは再び破壊され、完全に消滅した。
(すまん、ネオス……!)
「もう一枚墓地へ送り、今度こそ破壊する!」
次に落とした手札は『E・HEROワイルドマン』。プラズマヴァイスマンの雷が、相手モンスターに再度落とされた。強力な落雷の攻撃により、相手フィールドは焦土と化した。
「甘いぜ、ダーク・ポリスマンの3つ目の効果発動! 破壊された時、墓地の悪魔族モンスターを1体除外し、場に特殊召喚できる!」
破壊した筈のモンスターが再び警官の前に現れた。攻撃力は2300に下がっているものの、厄介なモンスターであることには違いない。
「なら……行くぞ。プラズマヴァイスマンでダーク・ポリスマンを攻撃!」
プラズマヴァイスマンの拳撃が、ダーク・ポリスマンの胸部を貫通し、爆砕した。しかし、自身の効果で蘇りまたしても十代の眼前に立ち塞がる。
警官『1500/4000』
「俺はターンエンドだ」
お互いの手札は0枚。モンスターは1体。だが、攻撃力は十代側が上回っており、墓地を使い果たしたダーク・ポリスマンの復活はこれで不可能だ。
「ぐっ……俺のターンドロー! …………よし。魔法カード発動、『異次元からの埋葬』! 除外されているモンスターを3体選び、墓地に戻す!」
警官が取り除いたカードを再びディスクの墓地ゾーンにセットする。この男、かなり引きが強い。
「覚悟しやがれェ! プラズマヴァイスマンを攻撃!」
墓地が肥えたことで攻撃力が2900まで上昇したダーク・ポリスマンが襲いかかる。なす術もなく、プラズマヴァイスマンの巨体が崩れ落ちた。
遊城十代『1200/4000』
「ターン終了だ。さぁ、最後のカードを引くがいい」
警官が低い、どっしりとした声色で十代に告げる。手札にもフィールドにもカードはない。切り札を引けない限り、それは文字通り最後のドローとなるだろう。
『怖いのかい? カードを引くことが』
「こんな時には冗談はよせよ」
ユベルの軽い挑発を軽く笑い飛ばす。十代にとってはこのような絶望的状況など今更であり、その度に切り札を引き当て勝利を掴んできたのだ。
「俺はセイタンを倒し、必ずハネクリボーを取り戻す。ここで負けるわけにはいかない! 行くぞ、俺のターンーー」
(来いーーーこの状況を打破する最強の切り札!!)
「ドロー!」
力強く引いたカードに、確かな感触。デッキに眠るたった一枚に望みを託し、引きあてたカードに目をやる。
「俺の最後の融合だ。魔法カード『平行世界融合〈パラレルワールド・フュージョン〉』発動!」
「平行世界……だと!?」
見覚えのないカードに警官が構える。
魔法カードによる融合は大きく分けて2つ。場か手札から素材を墓地に送り召喚する正規融合と、墓地から素材を除外し融合する墓地融合。しかし、『平行世界融合』はそのどちらにも属さない一種の裏技とも言えるカードであった。
「俺はゲームから除外されている『E・HEROフレイム・ウィングマン』と、『E・HEROスパークマン』をデッキに戻し、融合召喚する!」
十代のフィールドに、眩い光を放つ新たなモンスターが召喚される。メタルカラーのボディに巨大な翼、融合E・HEROの最終形態のひとつである。
『E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン』
星8/戦士族/攻2500/守2100
「シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は、墓地に存在するE・HEROモンスターの数だけ300アップする。俺の墓地のE・HEROは6枚、よって攻撃力はーーー」
「よ、4300だとォ!?」
警官が悲鳴じみた驚愕の声をあげる。なんとか墓地を継ぎ接ぎしていた警官と違い、十代は着実に墓地に自分のモンスターを溜め込んでいたのだ。
「シャイニング・フレア・ウィングマンで、ダーク・ポリスマンに攻撃! シャイニング・シュート!!」
シャイニング・フレア・ウィングマンの右手から、巨大な光球が打ち出される。光球は一瞬にして、ダーク・ポリスマンを飲み込み、塵も残さず消滅させた。
警官『100/4000』
「フン、まだ終わっちゃいねえ! ダーク・ポリスマンは墓地に悪魔族がいる限り、何度でも蘇る!」
「ーーーだが、一度は墓地に送られるんだよな?」
「……あ?」
今までにないような醒めた口調で十代が訊き返す。
「シャイニング・フレア・ウィングマンの効果、相手モンスターを破壊した時その攻撃力ぶんのダメージを与える!」
瞬時に警官の眼前に移動し、強烈な光線を浴びせる。あらゆる暗闇を祓う太陽の輝きだ。
「ち、ちくしょおおおおぉぉおぉ…………!!」
『0/4000』
プレイヤーの断末魔が響き、光が晴れた時には既に警官は元のカードに戻っていた。気付けば警察署には十代だけが残されており、警官の背後にいた筈のセイタンも姿を消している。
何故セイタンはハネクリボーのカードを奪いに来たのか、次々に人間をカードに変えていくのか、その目的は未だ十代は知らない。
やり場のない怒りに十代は壁を殴りつける。
「待ってろ、相棒……。必ず……俺が、必ず取り戻す!」
登場したオリカ
『ディフェンド・デビル』
星6/闇属性/悪魔族・効果/攻?/守0
このカードは通常召喚できない。相手モンスターの直接攻撃宣言時、手札からのみ特殊召喚できる。『ディフェンド・デビル』の攻撃力は攻撃宣言したモンスターと同じ数値になる。
『ダーク・ポリスマン』
星8/闇属性/悪魔族・効果/攻2000/守2500
「ダーク・ポリスマン」は自分の墓地に存在する悪魔族モンスター3体を除外することで手札から特殊召喚できる。このカードが戦闘破壊した相手モンスターをこのカードに装備する。このカードが破壊される代わりに、装備モンスターを1体破壊することができる。このカードが破壊された時、墓地の悪魔族モンスターを1体除外することで墓地から特殊召喚する。
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今後は十代のカードにもオリカを少しずつ登場させていきたいですね。ただ、なるべくフィニッシャーは既存のカードにやらせてあげたかったりします。そしてカード・ガンナー強え……(笑)ocgの方でもお世話になりますが、架空デュエルだとアドの量が半端ないですね。今回は相手の手札が上手く増えず若干だれてしまいました。