キヴォトスに墜ちた悪魔 エ駄死Ver   作:やーなん

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エピローグ

 

 

 

 拝啓、先生へ。

 アビドス社会福祉支援学園。通称、新アビドス学園の生徒会の奥空アヤネです。

 

 先生方の御尽力のお陰で、あれからひと月が経ちました。

 新学校の新体制は何事も初めてで、我々の不慣れや混乱はあれど今は毎日楽しく過ごしています。

 

 先生のご提案で、より多くの生徒を受け入れられるように高等学校から学園への変更をした結果、二百余名の編入生を受け入れられました。

 

 生徒会の発足にあたり、学園名で遊びが無かったと言う理由で、トリニティのティーパーティーやミレニアムのセミナーみたいな名称を考えようと言うことになりました。

 

 なぜか私達旧アビドス高校の面々は編入生たちから特別視されており、私達は権力から離れようとしているのですがそうはいかないようです。

 

 あ、生徒会の名称は“林檎園”になりました。

 それに伴い、校章は旧アビドス高校のものからリンゴを模した形になりました。

 旧校章は学区の一部に僅かに砂漠化を逃れた場所があるので、そこに倉庫を設置し保管し、これからは学校の歴史を学ぶ際に活用する程度になるでしょう。

 

 ええ、これは私達の為に陰ながら働いてくれた教官への感謝の気持ちでもあります。

 

 

 

「先生、学校運営を舐めてます?」

 

 ──学園始業二日目で、セミナーのユウカさんにそう言われた時は、先生、血の気が引いてましたよね。

 

「資金の管理が雑すぎます。

 編入生の名簿もきちんとしてないじゃないですか」

「“ごめんなさい”」

「はあ、やっぱり先生に学園の運営はダメですね」

 

 ユウカは深く溜息を吐いた。

 

「申し訳ないですが、先生は学園の運営から離れてください。

 元々公権力からは離れた立ち位置に居たいと仰っていましたし、よろしいですね?」

「“……はい”」

 

 シャーレの名前だけ貸して貰えれば良いですから、とユウカは容赦なく先生に言ったのだった。

 

 

 ──結局、ミレニアムだけでなく、トリニティとゲヘナの三学園で共同運営をしていく方針になった時は驚きました。

 

 まあ、仕方がありませんよね。今の新アビドスの体制だと、彼らにとってスパイを自由に送り込めてしまえるのですから。

 私達の学校が政治の道具にされるのは遺憾ですが、ある意味この三すくみが健全な学校運営を可能とすると信じています。出資もしてくれてますしね♪ 

 そして、我が学園の校風は派閥無しの共同生活。

 

 皆が同じ場所で生活して、各々協力して問題や物事に当たっていく。

 それに今のところ、多くの編入生たちは、復学を望んでいないそうです。

 勿論、復学するか否かは自由です。卒業するまで、この学校に居るのも自由。

 

 学園の方針は当初と変わりなく、学業優先で赤点でも落第退学無し。ただし入学や編入条件は勉強への意欲があり社会復帰を望むこと。

 そして、元の学園や退学後の犯罪歴がある場合、元の学園やこちらの指定した課題をこなすことで復学が許されるなど、今は学校の仕組みを手探りで模索している最中です。

 

 ですが、お堅いことを抜きにしても、皆生き生きしています。

 

 

「おい、元トリニティのお嬢様はテントの建て方もわからねぇのかよ」

「あの野蛮の巣窟にすら居られなかった元ゲヘナの某かがなにか囀っておりますわね」

「派閥争いに負けて惨めさに耐えきれなくなって退学した負け犬が、言うじゃねえか!! 

 さっさとあのお上品なクソ学校に戻ったらいいじゃねぇか」

「誰があのクソがッ──おほん、お排便な母校へとお戻りになられると思ったのでしょうか。頭までお腐敗なされているのでしょうか?」

「てめえそのエセお嬢様言葉がムカつくんだよ!!」

「略奪で生計を立てていたあなたと一緒にされたくありませんわ!! 

 ティーカップより重いものを持ったことの無い私が!! 日々スーパーのバイトで糊口をしのいでいた私の気持ちがわかりまして!!」

「知るかバカ!!」

「お仕置きが必要なようですね!!」

 

 元ヘルメット団の幹部に、元トリニティの派閥の幹部。

 まあ我が校には早速こんな名物生徒が現れるようになりました。

 

「二人ともぉ、仲良くしようねぇ」

「げえ、生徒会長!?」

「わ、私は悪くありませんわ、こっちの野蛮人が喧嘩を吹っかけてきたのです!!」

「はあ、ちげぇし!!」

「ほら、仲よくしようねぇ!!」

 

 そして二人の顔面が熱砂に叩き込まれました。

 ホシノ先輩は色々とたくましくなりました。

 

 ああそうだ、他にも元ミレニアム出身の生徒たちが集まって、早速部活動を立ち上げたんです!! 

 

 その名も、緑化農園部!! 

 我が校で初の部活動で、砂漠の緑化の研究や農園の実用化を目指そうとしてくれています。

 

 部活動の解禁はまだまだ先だと思っていたのですが、彼女達は計画書を持ってきて予算や人員の確保を行い、私達に提出して許可を得たんです。

 在野でこんな人材が眠っていたのですから、元ミレニアム出身の生徒はスゴイですよね。

 

 私達“林檎園”は、彼女達に林檎の木を育てて貰うように依頼しました。

 

「ええはい、仰りたいことはわかります。

 ですがまずは簡単なキュウリや、成功例の多いマンゴーなどを試した方がよろしいかと」

 

 緑化農園部の部長さんはそう言いました。

 ですが、私達は象徴が欲しいと思ったのです。

 

 例え食用にならなくても、砂漠に立派に育つ林檎の木という象徴を。

 これから先、ずっと我が校を見守り続けてくれるような、そんな……。

 

 おっと、何だか湿っぽい話になってしまいましたね。

 部長さんは善処します、と言ってくれましたが、私はいつか林檎の木が砂漠に沢山生い茂る光景をみて見たいです。

 

 そんな緑化農園部に触発されたのか、シロコ先輩がホシノ先輩を抱き込んで、砂祭り開催委員会なる部活を勝手に立ち上げました。

 ええ、はい、そうです。非公式の部活です。我が校はまだ、部活動の開始を原則認めていませんので。緑化農園部が例外なのです。

 生徒会のメンバーが非公式の部活を立ち上げるのはどうかと思いますが、最近ノノミ先輩も物資の管理で忙しいですし、セリカちゃんもキャラバンの護衛隊を組織して大変な時期です。

 シロコ先輩なりに、私達が仕事抜きで会える時間を作ろうとしてくれているのかもしれません。

 

 そうそう、キャラバン隊と言えば、週に一度私達に物資の補給をしてくれる企業や商人の人達なんですけど、そこに柴咲ラーメンの大将も参加してくれているんです!! 

 まだ砂漠越えもするキャラバン隊に参加してくれる企業やお店は少ないので、毎回行列が出来るんです!! 

 護衛を終えたらセリカちゃんもお手伝いをして、大将も嬉しそうでした。

 

 そう言えば、便利屋の四人ですが、まだ学生証を受け取ってはくれません。せっかく作ったのに……。

 まだ私達のところで一緒に行動してくれて、細かな問題の対処やセリカちゃんと一緒にキャラバン隊の護衛を手伝ってくれているんですけど。

 

 そう言えば、この間こんなことがあったんです。

 なんと、ゲヘナの風紀委員長のヒナさんが視察に来たんです!! 

 

 

「げぇ、ヒナじゃん!?」

「うそッ、また私達を追って来たの!?」

 

 ムツキちゃんとアルちゃんがキャラバン隊に同行するヒナさんに遭遇したらしいんです。

 

「……何を言っているの。

 便利屋ならゲヘナの風紀委員会の下で、半年の社会奉仕活動をしている最中よ。

 そうでしょう、新アビドスの同姓同名の、陸八魔アルさん」

「まッ、まさか……」

「今は人狼隊って少数精鋭の部隊で対テロ活動を牽引してくれている。

 我々の指導で問題児が改心して社会に貢献するようになるなんて、素晴らしい事ね」

 

 ふしぎですねー。陸八魔なんて珍しい苗字の方が他にも居ただなんてー。

 

 

 とまあ、長々と書いてしまってすみません。

 まだまだ書きたいことはたくさんありますけど、私達の近状はこんな感じです。

 

 私達は、この学校を第二のシャーレにしたいと思っています。

 何らかの事情で学業に支障をきたし、或いは学力が付いて行けなかった人たちに残念ながらこのキヴォトスは優しくありません。

 私達の不甲斐ないばかりに、まだまだ編入生たちと同じ境遇の人達を受け入れられていないのが現状です。

 

 誰もが、罪を犯さずに生きられるならその方が良い。やり直せるならそうしたい。

 新しいアビドスは、そう思う全ての生徒の“受け皿”になりたいと思っています。

 

 では、先生また会いましょう。

 私たち新アビドスの全校生徒は、先生の味方です。

 

アビドス社会福祉支援学園 “林檎園”書記 奥空アヤネ

 

 

 ……

 …………

 …………

 

 

「“……”」

 

 先生は、生徒の手紙に涙を拭った。

 

「先生、教え子の自慢はもういいさ」

 

 彼の横に座る男がカクテルのグラスを呷った。

 

「せっかくの大人同士の飲み会だ。

 ガキや仕事の話は止めようぜ」

「“まあ、そうだね”」

 

 先生は追加でバーのマスターにカクテルを注文した。

 

「それにしても意外だったな。

 あんたら二人って、知り合いだったとは」

 

 男は右に座る先生とは反対の左の席に座る、怪人に目を向けた。

 

「ええ、小鳥遊ホシノの件で少々」

「“お互いに分かり合えない、そうなっただけだよ”」

「おや、少なくとも私達の方は、いつでも先生を歓迎いたしますよ」

 

 黒服の顔を形どる怪光が強まる。きっと笑っているのだろう。

 

「“友達付き合いは考えた方が良い。生徒を消耗品としか思っていない連中だ”」

「おやおや、彼も生徒を性欲を消費する対象としか見ていませんよ」

「失礼な。もしそう見えるのなら、愛やら恋心やらが消耗品なだけだ」

 

 少なくとも、この場で論争をするつもりは無いのか、三人は静かに酒を呷った。

 

「でも実際のところ、先生よ。

 あんたも隠れてやることをやってるんだろ? 

 最近噂をよく聞くぜ、メイド服やら下着同然の格好の生徒を“当番”と称してとっかえひっかえしてるんだって?」

 

 直後、カクテルを呷っていた先生が咽た。

 

「“ごほッ、ごほッ、ヒドイ誤解だ!!”」

「うちのイオリの足を舐めたり、あのアコで変態マゾプレイをしたってな!!」

「“……褐色の子って良いよね”」

「おう、イオリは“身体は”カンペキだからな」

 

 先生は酔いが回ったのか、目を逸らしながら話題を逸らした。

 

「で、連邦生徒会長も実際は孕ませちまったんだろ? 

 自分より頭のいい奴とヤルのは男としての格が上がるっつうか、興奮するよな!!」

「“残念だけど、身に覚えがない……”」

「あー。ゴムに穴を開けられたか、それとも寝てるときに逆レされたのか……。

 まあ、男の甲斐性を見せてやれや」

 

 男はうんうんと訳知り顔で頷く。先生は否定するのも面倒になってチビチビと酒を舐めるように飲んでいる。

 彼の手荷物のシッテムの箱から抗議が聞こえるが、彼は無視した。

 

「意外ですね、自分より知性の高い女性も好むのですか。

 一般的に、男性は自分より頭のいい女性と結婚すると長続きしないそうですが」

「ソシャゲと同じだ。性能の良い女をモノにしたくなる。されど好みの女をキープしておきたい。悩ましいことだ」

「“わかる”」

「先生も大分酔いが回ってますね」

 

 と言いながらも、黒服は先生の空いたグラスに酒を注文し注がせた。

 

「“……君がハルナにしたことを、まだ私は許していない”」

「その問答は、あの時終わっただろ」

「“まだ、子供なんだぞ。それがあんな……”」

「あのまま大人になるよりはいい、ずっとな」

 

 それに、と男は笑みを深める。

 

「カスミの大バカにはもっと酷いことをした」

「“…………”」

「おや、顔も知らない相手に感情移入はできないか? 

 お前はそう言う鈍感なところがあるな。手を伸ばさなければ、手を差し出さない」

「“子供が大人を頼る時、それは勇気がいることなんだ。むやみに手を差し伸べたら、返って傷つけかねない”」

「ケースバイケースだろ」

 

 二人の教育論は平行線だった。

 

「くくく、やはりあなた方は私の探求に必要不可欠なようだ。

 彼の与える恐怖。先生の齎す神秘。観察対象としてこれほど得難いものは無い」

 

 傍観者、その異名の通りに黒服は二人の大人の話を楽しそうに聞いていた。

 

「寄り添うだけが、教育じゃない」

「“暴力を用いるのは教育ですらない”」

「わかった。良いだろう、先生」

 

 男はゆっくりと先生の方を向いた。

 

「俺には昔、ダチがいた。

 貧困地域のガキどもに、勉強を教えてやるんだーって、青空教室を開いた奴が居た。

 裕福な国で生きてれば、そんなガキどもと関わり合いにはならないってのに。だから俺は聞いたんだ、なんでこんな無駄な事するんだって。

 そしたらあいつ、なんて言ったと思う?」

「“さあ”」

「この国だと重婚が認められるから、夢に見たハーレムを作りたいんだ、だってよ!!」

 

 男はげらげら笑ったが、先生は真顔だった。

 この男の話は、常に血の臭いがするからだ。

 

「それで、彼はどうなったのですか?」

 

 興味深そうに、黒服が尋ねてきた。

 

「紛争が起こり、政府の退去勧告が間に合わず、榴弾砲で村ごと吹っ飛んだ。

 大変だったぜ、アイツの仇を取るのは。敵国を国の体を成せないほどボロボロにしてやったからな。

 まあ俺のゲーム好きはあいつの影響でよ。メタルギアは3が最高だよな」

「“は? 4だが?”」

「いや、1でしょう。当時の技術で類を見ない重厚なストーリーとフルボイス、稀代の名作と言う評価が妥当かと」

 

 三人の間に沈黙が降りた。

 しかし、三人は大人なのでお互いを尊重した。

 

「まあとにかく、アビドスはそんなあいつの心残りも有ったわけだ。

 先生よ、もしあんたがあいつのような甘っちょろい理想を抱いたまま進んで、その果てにたどり着いたのなら──」

「“私はハーレム願望はないよ”」

「ウソこけ。まあ聞け。

 もしお前が今のお前のままでずっと、最後まで居られたのなら」

 

 男は先生にゆっくりと、恭しく頭を下げた。

 

「俺はこのキヴォトスの新王の前に、(こうべ)を垂れても良い」

 

 先生はそんな男を酔っ払いの戯言だと思ったのか、何も言わなかった。

 男もすぐに、なんてなッ、とおどけて見せた。

 

 だが、黒服にはどこか神聖な儀式のようにも思えた。

 

「おい黒服てめぇ、なに知らん顔してんだ。お前も性癖を語りやがれ」

「“バニースーツとかいいよね”」

 

 やれやれ、と酔っ払いに絡まれた黒服は肩を竦めた。

 

 大人たちの夜はまだまだ続きそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し、遡る。

 あの男がこのキヴォトスに現れた、その翌日の事だった。

 

 場所は、キヴォトス某所、とある中学校の宿舎。

 

 

「はあ、嫌な役回りだよな」

 

 生徒会の委任を受けて、やってきた寮監の生徒が溜息を吐いた。

 この用件は気が進まなかったのだ。

 

「落合さん、生徒会から正式に強制退去の命令が下りました。

 貴女は先月正式に学籍を排除され、退去命令が出ていた筈です。

 今日と言う日は、観念してください」

 

 この部屋には、いじめと謂われない中傷を受けて引き籠っている生徒がいる。

 結局、出席日数が足りずに留年した上に、新学期に顔も出さなかった。

 これ以上、学校は面倒を見れない、というわけだ。

 

「落合さん、落合さん、強制執行しますよ。……落合さん?」

 

 いつもなら、出てくるように説得する過程で罵声が聞こえたりするのだが、今日に限ってそれが無かった。

 

 嫌な予感がして、彼女はマスターキーをとりだして扉を開けた。

 

 そして、見た。部屋の中でうつ伏せで倒れている、一人の少女の姿を。

 

「お、落合さん!? きゅ、救急車、救急車を──」

 

 

 これは、もうひとつの始まり。

 誰でもない筈だったある少女の物語は、ここから数か月後に始まろうとしていた。

 

 

 

 

 




これにてアビドス編は終了です。この内容を当初五話も掛からないと踏んでたってマジ?
最後のシーンに、あの子のシーンを追加。

予告通り、幕間もやりますね!!
もし評価バーが黄色からオレンジになったら、ゲーム開発部編もやろうと思います。

では、また次回!!
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