キヴォトスに墜ちた悪魔 エ駄死Ver   作:やーなん

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初日占い師落ち人狼ゲーム

 

 

 

「起きろ」

 

 温泉開発部の部長、カスミは目を覚ます。

 

「起きろ、鬼怒川カスミ」

 

 衝撃が、彼女の頭を揺すった。

 殴られたのだろう。

 

「……そんなに乱暴にしなくても、今起きたところさ」

 

 彼女は状況を確認する。

 狭い室内、窓は無い。恐らく地下室。

 

 自分は手術台のような何かに、両手両足を縛られて拘束されている。

 

 自分以外にこの場に居るのは四人。

 一人は狼の怪人、女生徒三人。

 

 そして、彼女は自分の記憶を漁った。

 すぐに結論は出た。

 

「あの話はどうせブラフだと思っていたが、まさか風紀委員会がこんな直接的な手段に出るとはな」

「理解力は良いじゃないか」

 

 怪人が笑う。

 

「そうとも、お前をおびき出し、拘束したのもゲヘナ風紀委員会の作戦の一部に過ぎない。

 標的はお前だ、鬼怒川カスミ」

 

 カスミは自分の優れた知性を働かせる。

 時間稼ぎが必要だと、思い至った。

 

「何が目的だ、私の逮捕が必要なら、こんな地下牢みたいな場所に閉じ込める理由が分からない」

「だそうだ、お前達」

 

 男が三人の部下に言った。

 彼女達はくすくすと笑った。

 

「笑っちまうよな。目的なんて知ったところで、もう活用する機会は無いって言うのに」

 

 その言葉で、カスミは全てを悟った。

 彼らの目的はもう既に叶って居ると。

 

 その目的こそ、カスミの監禁そのものであると。

 彼女の優れた洞察力が、不幸にも察してしまった。

 

「部員たちには、私が帰ってこなかった場合、私を救出するように言っておいた。

 この場所を突き止めるのも時間の問題だよ」

「ああ、()()()()()()()()()()()()な」

 

 男は含みのある笑みで相槌を返した。

 まるで、その反応を楽しみにしていたかのように。

 

「どうせ、お互いこのままだと暇だろう? 

 自己紹介を兼ねて、俺達の仕事の内容を教えてやろう」

 

 本当は機密事項なんだけどな、と男は嬉々として語り出した。

 

 

 

 §§§

 

 

 

 風紀委員会本部棟の会議室。

 

 今回は『温泉開発部対策本部』の文字が一番大きな会議室の前に掲げられた。

 人員は実働部隊含めて美食研究会の時の四倍の200人と、予算は五倍。

 

 美食研究会の解散と言う快挙をバネにした、キヴォトスでも随一の危険な集団に対する風紀委員会の本気が窺える。

 

 そして、前回との最大の違いは。

 

 

「総員、ヒナ委員長に敬礼!!」

 

 講堂のような広い会議室に、ずらりと席に座った風紀委員の一同が立ち上がり敬礼する。

 ヒナの入室と同時に、アコが号令したのだ。

 

 そう、今回は委員長のヒナも全面的に作戦に参加する。

 彼女がマスコミで温泉開発部に堂々と宣戦布告したことも含めて、最終目標は連中の壊滅と更生だ。

 

 ちなみに美食研究会の壊滅の功績で、幹部三人の降格や減俸は帳消しになったので、彼女らは講堂の正面脇に長テーブルが置かれた『幹部席』と銘打たれた場所に座っていた。

 

「総員着席」

 

 彼女の声が、講堂に響く。

 風紀委員達は一糸乱れぬ動きで着席した。

 

「作戦の概要を教えてくれる?」

「現在、段取りの方を共有していたところです」

 

 アコの代わりに、臨時から特別顧問へと正式に採用された男がプロジェクターを操作する。

 

「我が手勢の潜入捜査の結果、温泉開発部の正規メンバーの総数はおおよそ百人以上。

 正確な人数は誰も把握していないようです。

 その脅威度、出没範囲は元美食研究会の連中と比べ物になりません。

 そして部長の鬼怒川カスミは現在風紀委員会が指名手配している中でも指折りの危険人物」

 

 カスミの顔写真が講堂の黒板に映し出される。

 

「潜入した我が手勢が直接会話し、その思考をプロファイリングし風紀委員幹部一同と協議の結果──」

 

 男は一度言葉を切って、こう断言した。

 

「真っ当な手段での、更生は不可能と結論づけました」

「……」

 

『委員長席』と銘打たれた一人席にちょこんと座ったヒナは、眉を顰めた。

 

「しかし、温泉開発部は幹部を含め、ほぼ部長のカスミのワンマン体制。典型的な教祖を頂点としたカルト宗教です。

 彼女を抑えれば、残りは幹部を含め烏合の衆と化すでしょう」

「最終目標は、カスミの身柄の確保と彼女による温泉開発部の解散宣言と言うことでいいのかしら?」

「いえ、作戦の詳細は機密事項とし、風紀委員幹部を含め委員長と我々だけで実行すべきかと」

「わかった」

 

 ヒナは男の説明に、頷いた。

 

「では、総員指示が有るまで待機。

 イオリ、チナツ、アコは別室で作戦の詳細の共有をお願い」

「了解しました」

「では、解散!!」

 

 ヒナの言葉にアコが頷き、イオリが風紀委員に告げる。

 彼女達はぞろぞろと、講堂を出て行った。

 

「では我々も」

 

 チナツは資料をまとめ、幹部たち全員と一緒に、機密性の高い別室へと移動する。

 

 窓もない、盗聴対策も完璧、電子機器も無いし持ち込みも無し。

 そんな八畳程度の小部屋で男とWolf小隊とヒナ達は集合した。

 

「委員長にオペレーション・フォーチュンテラーの詳細をご説明します」

「フォーチュンテラー。占い師のことね」

「本作戦のコードネームは全て人狼ゲームになぞられています」

 

 なるほど、とアコの説明にヒナは頷いた。

 

「ちょっと待ってほしい、アコちゃん」

「どうしましたか、イオリ」

 

 イオリが手を挙げ、発言する。

 

「こいつはいい。委員長が連れて来たし、能力だけは認めてる」

 

 彼女は男を指差す。

 

「だが、こっちの四人は何の説明も受けていない。

 ヒナ委員長の手前、いい加減、これまでのようになあなあで作戦に参加されては困る」

 

 彼女の指先が、Wolf小隊の四人に向けられる。

 イオリの主張は至極真っ当だった。

 

「ああ、それもそうですね。

 この作戦の中核を担っていたのに、素性も分からないのは問題ですね」

 

 アコもすっかり忘れていた。

 それぐらい、この男のインパクトが強過ぎたのである。

 

「え? 面倒だな。お前らは自分の右手を他人に、これは右手ですよろしくね、って挨拶させるのか?」

「でもそれはあなた達当事者間の関係なので」

 

 チナツもおずおずと追従する。

 

「私も、作戦を共にする同士を疑いたくないわ」

 

 ヒナの言葉に男は、だとよ、と四人に顔を向けた。

 そもそも、ヒナは最初から男の方ではなくこの四人の方を当てにしていた。

 

 便利屋の事務所で対峙した彼女だから分かる、練度と統率。

 彼を雇えば彼女達が付いてくる。そう思った。

 だが実際は、彼女達がオマケだった。そんなこと、誰が想像できようか。

 

「……我々は、元SRT特殊学園所属、二年。

 Wolf小隊であります。私が隊長の、兜衣トリコと言います」

 

 彼女は言い難そうに、己の正体を明かした。

 

「情報処理・分析担当。

 同じく二年の毒島ウズ。トリコ姉さんのバディよ」

「爆破と強襲担当、あと趣味で毒薬の扱いを少々。

 門戸ムツニです。私達は全員二年だよね」

「車両操縦と強襲担当、風登ナバトだ。ムツニの相方をしてやってる」

 

 他の三人も次々と名乗って行った。

 

「私から順番にコールサインはWolf1。

 バディのウズがWolf2、ムツニがWolf3,ナバトがWolf4でお願いします」

「了解しました。

 なんとなく察しては居ましたが、元SRT所属でしたか。

 どこにも情報が出ないわけです」

「事情は、聞かないでください」

 

 ええ、とアコは頷いた。そこまで無神経では無かった。

 

「こいつらは潜入工作・拠点破壊、強襲の教育課程と訓練を受けている。

 その成果は俺も確認している」

「流石は特殊部隊出身。だから山岳兵まがいのことも出来たわけですね」

 

 男の解説にチナツが感心したように頷く。

 それに四人は恥ずかしそうに顔を逸らした。

 そっちは何か月ものサバイバル生活の結果なんて言えなかった。

 

「ショットガン、ハンドガン、サブマシンガン、アサルトライフル。

 意外だな、特殊部隊ってのは狙撃手が居るもんだと思ってたんだけど」

 

 イオリが各々の得物を確認して、己の感想を口にした。

 そう、Wolf小隊には狙撃手が居ない。

 

「俺も最初はそう思ったんだよ。

 だってウルフって名乗っていてスナイパーが居ないんだぜ? 

 トリコの特技を聞いた時なんてもう別の奴じゃんってなったし」

「もう自己紹介は済んだでしょう? 

 皆もそろそろ本題に入りましょう」

 

 男の雑談を遮り、ヒナが話を本筋に戻した。

 

「ええ、仰る通り。

 まず作戦の第一段階、彼女達の潜入調査で発覚した温泉開発部の資金源を断ち、同時に順次部員の逮捕を行います」

 

 アコがホワイトボードに作戦の概要を説明した。

 

「そのままは徐々に温泉開発部にプレッシャーを掛け、程なくして交渉を呼びかけます」

「交渉? 完全に撲滅するつもりなんでしょう?」

「勿論嘘っぱちだ。テロリストと交渉なんてしない。国際常識だろ?」

 

 アコの説明に疑問を抱いたヒナに、男が付け加えた。

 

「今回の作戦はダーティーワークが含まれます。それ故に彼女達だけで任務を遂行します。

 誘いに乗ったカスミを拘束、監禁して……彼女達に()()をお願いします」

 

 ダーティーワーク。

 つまり汚れ仕事、不正な任務。

 風紀委員会に不名誉な、表沙汰にできない任務だ。

 

「なるほど、だから機密事項なのね」

「ええ、ご理解ください」

「気にしないで。綺麗ごとであいつらを黙らせられないのは分かっていたわ」

 

 頭を下げるアコに、ヒナは頷いて見せた。

 

「でも、正常な判断能力は残しておいて。

 過度な加虐も可能な限り控えて欲しい。

 本校の生徒である限り、更生の余地があるべきだから」

「努力いたします」

 

 トリコは四人を代表し頷いた。

 

「でも、カスミをだまし討ちしたら、連中が黙ってないんじゃないの?」

 

 カスミは悪知恵が働くことで有名だった。

 ただの悪ガキ程度の悪知恵なら、ゲヘナでも危険人物扱いはされないだろう。

 

「そこは……まあ見て貰えばいいか。

 おい、トリコ!!」

「オーケー、ボス」

 

 トリコは持参していたカバンを広げた。

 その中身を取り出し、被り、付け、そして馴染ませた。

 

 それを見ていた風紀委員会の面々は驚愕を隠せない。

 ヒナ以外は事前に聞いていたが、それでも実際に目にすると違う。

 

 ──そこに、“カスミ”が居た。

 カスミの顔をしたトリコだった。

 

「トリコも潜入工作担当だ。

 必要とあらばこのように特殊メイクなどで変装し、機密書類などを奪取する」

「はーっはっはは!! これぐらい容易いよ!!」

 

 それが別人であると分かっていても、思わず銃に手が伸びかけた。

 カスミの特徴的な声音まで、ほぼ再現していたのだ。

 

「これを、連中のもとに送る。

 そして内部から温泉開発部を瓦解させ、一斉に検挙する」

 

 

 

 

 

「だから私は、服まで剥ぎ取られてるわけだ」

 

 カスミは忌々しそうに四人を睨みつけた。

 そう、彼女は憐れに思われたのか、身に覚えのない手術衣のような肌着だけを着せられていた。

 

「だが、温泉開発部の仲間たちは私と苦楽を共にした同士だ!! 

 いくら変装が上手だからと、必ず見破ってくれるだろう」

「聞くか? 音声記録」

 

 男がウズに視線を向けると、彼女はノートパソコンを開いて、記録を再生した。

 

『はーっはっはは!! 諸君、風紀委員会との交渉は成功だ!! 

 我々は今日からテロリストのレッテルを剥がし、堂々と、伸び伸びと!! 温泉開発に熱中し、勤しむことができるぞ!!』

『わーい、流石カスミ部長!! 風紀委員会に捕まった仲間も取り戻せたんだね!!』

『勿論だとも、すぐにでも解放され、合流する手筈だ!!』

 

 音声記録には、トリコの通信越しに本部へと送信された音声が逐次録音されていた。

 

『あれ、でもカスミ部長、何だかちょっと背が伸びた?』

 

「流石はメグ、私の偽物に気づいたか!!」

 

『そ、それはね、遅めの成長期なのさ!!』

『なんだぁ、そうだったんだ。良かったね部長!! 

 でも声の方もいつもより若干低いような……』

『それはね、実は風邪気味なんだ。温泉に入れば治るだろう!!』

『そっか、そうだよねぇ!! 

 でも尻尾も元気がないように見えるよ、本当に大丈夫?』

『それはね、最近まで風紀委員会の連中に邪魔されていたからさ。

 温泉開発はロマンとは言え、資金が無ければどうしようもない……皆には、苦労を見せまいとしたが、見破られてしまうとは。はっはっは、私も未熟ということか!!』

『か、カスミ部長!! そうだったんだね!! 

 でも大丈夫、もう私達の邪魔をする奴らは居ないんだから!! 

 みんなー!! カスミ部長の為に、湯治が出来る温泉を掘り当てようね!!』

 

 おー!! と、温泉開発部の部員たちの掛け声が聞こえる。

 

『……HQへ。こちらWolf1、“カミングアウト”は成功。

 これより、初日脱落した“占い師”に成り代わる』

 

 ウズはそこで、音声記録の再生を止めた。

 

「…………」

「さて、自分の状況は理解できたか?」

 

 いくら待とうが助けなど来ない。

 カスミの額には脂汗が浮かんでいた。

 

「あんなバ……純情な奴らを言葉巧みに犯罪に唆せるなんて、お前も酷い奴だよな」

「わ、我々の間には誤解があるようだね!! 

 ど、どうだろうか、彼女達を説得してこれまでのような温泉開発は止めさせる、交渉の余地はあるはずだ!!」

「テロリストと交渉はしない。国際常識だ」

「ッ、わ、私が悪かった、認める、皆にも謝罪する、だから!!」

「んー? なになに? 自分は温泉の神から啓示を受けた使徒だ?

 自分を解放しないと天罰が下り、温泉で溺れて死ぬだろうって?」

「何を言ってるんだ!? た、頼む、私の話を聞いてくれ!!」

「私は何をしようと、温泉を掘ることは辞めない? 拷問でも何でもするがいい、だって?」

 

 男はカスミの寝せられている寝台を蹴った。

 ごん、と寝台が揺れてカスミの言葉が途切れる。

 

「テロリストの分際で、なにをか弱い女子高生みたいな戯言をほざいているんだ?

 ダメだよ、ダメだよなぁ、俺をもっと楽しませてくれないと。

 もっと狂信者じみた台詞を吐いてくれなきゃ、嬲り殺し甲斐がないじゃあないか。なあ、教祖様」

 

 男はケタケタと笑い出した。

 さしものカスミも、これには絶句した。

 

「おいムツニ、あれを持ってこい」

「オーケー、ボス」

 

 ムツニは無色透明の液体が入ったフラスコを、男に手渡した。

 

「これをみろ」

「ボス、何をして!!」

 

 男がフラスコを傾け、自分の腕に僅かに垂らした。

 

 じゅッ、という肌の焼ける嫌な音がした。

 

「早く手当を!!」

 

 ムツニは急いで水と包帯を取ってきた。

 

「お前、温泉が好きなんだって? 

 じゃあ入るのも好きなんだろう?」

「そ、それがなにか?」

「こいつは治りが遅い特殊な強酸性の毒液だ。

 こいつを体に塗りたくられたら、何か月も風呂に入りたくとも入れない身体になる」

 

 がちがち、と音がした。

 それが自分が震えて歯が鳴っているのだと、カスミはすぐに気づいた。

 

「お前がもう、二度と誰かと一緒に温泉を楽しめなくしてやろう。

 他人が見る度に目を覆いたくなるような、お前が他人に見せたくなくなるような傷跡を付けてやる。

 お前の生き甲斐を奪ってやる」

 

 髪は女の命だと言う。

 なら女の肌はその次に大切なモノであろう。

 

 そんな彼女の尊厳を、男は容易に踏みにじろうとしていた。

 

「ご、ごめんなさい、そんなつもりはなかったんです!! 

 私は皆と一緒に、理想の温泉を追い求めたかっただけで!!」

「なら騙す必要は無かっただろうが!!」

 

 ムツニの治療を受けている男が怒鳴り散らした。

 

「教祖様ごっこは楽しかったか? 

 愚かな信者たちにあちこち“聖地はあそこだ”と指示して攻撃させるのはさぞ気持ちがいいんだろうな」

 

 男にとって、カスミの行いなぞ、宗教で信者を洗脳するテロリストと何にも変わらない。

 

「俺はあの美食研究会のハルナでさえ、心底嫌うことは出来なかった。

 だがお前は違う。お前は明確にあの無垢で純粋な連中を、お前の欲望の為に利用した。

 理想の為? 笑わせるな、言ってやろうか?」

 

 男は芝居が掛かった口調で、ゲームの登場人物の言葉をなぞる。

 

「破壊を楽しんでいるんだよ、貴様は!!」

「な、なにを」

「違うとでも言うのか? 

 温泉と全く関係もないであろう場所を破壊するお前の顔は、実に生き生きしていたらしいな」

 

 温泉を求めるのも事実だ。

 ロマンを追求したいのも事実だ。

 

 だが、明確に、彼女は犯罪を楽しんでいた。

 

「俺はお前のようなクソテロリストの悲鳴と、死への懇願を聞くのが生き甲斐なんだ」

 

 男の手にしたフラスコが、カスミの顔の真上へと持っていかれた。

 

「お、おねがいだ、顔は、かおだけは……」

「面白いことを言うな。

 お前はお願いされたら、温泉開発を辞めるのか?」

 

 液体が、カスミの顔にぶちまけられる。

 

「あああああああああああ!!!」

 

 悲鳴を上げ、苦痛に絶叫する。

 

「あついあつい……あつく、ない? 

 これは、ただの、みず?」

 

 だが、彼女の顔に掛けられた液体は、彼女の肌を焼くことなく、濡らすだけだった。

 

「ああ、そこからじゃ見えなかったか。

 さっきの毒液とただの水を持ち換えたんだ」

 

 男の嘲笑が、震えるカスミに浴びせかけられた。

 彼女は脱力し、恐怖から涙を流した。

 

「おやおや、流石は自らを温泉開発と定義する御方だ。

 己からアンモニア温泉を発掘するとは」

 

 男はすすり泣くカスミに侮蔑の視線を送る。

 

「面白い話をしてやろう」

 

 すすり泣く少女に、男は穏やかに語り始めた。

 

「あるカルトの幹部の話だ。

 自爆テロを信者にやらせ、それで救われるとかほざいていたクズどもだ。

 ある日、俺は自爆テロを指揮していた幹部を連れ去った。

 笑っちまうけどよ、そいつの自称は聖騎士だった!!」

 

 男は独りで大笑いした。

 だが、すぐにまた話し出した。

 

「俺は仕事でな、カルトどもを壊滅させる為、そいつを誘拐したんだ。

 でも、幾ら拷問しても、自分は死ぬのは怖くない、情報も吐かない、殺すならさっさと殺せ、とか言うんだぜ。

 くそつまんねぇよな。だからよ、面白くしてやったんだ」

「ボス、何をやったんですか?」

 

 ムツニが問う。他の二人はドン引きしてるのに彼女だけは面白そうにしていた。

 

「そいつらは教団の為に死ねば天国に行けると信じてたんだ。元々はどこぞの少数民族由来らしいが、それを都合よく捻じ曲げて教義にしてたんだよ。

 そこで俺は思いついたんだ!! こいつを、教祖様自ら破門させてやろうってな!!」

「どうやったんですか!?」

「薬を使ってな、頭をぐちゃぐちゃにして、ビデオを撮ったんだ。連中は山羊を悪魔の使いだとしててな、だから、その聖騎士くんに山羊を後ろからずっこんばっこんさせたんだ!!

 笑えたぜ、神はここにおられる、神はここにおられる、って涎たらして叫んでたんだ!!」

 

 これにはムツニも大笑い。

 他の二人は更にドン引きしていた。

 

「それをネットにバラまいた。

 今時はテロリストもSNSをやっててな。聖騎士君は悪魔と結婚したとして、即座に破門された。そいつの家族も信者でな、仲間の手でリンチの末に殺された。

 連中、その光景を動画にしてアップしてたから、俺は正気に戻ったあいつにその動画を見せてやった。だから俺は言ったんだよ、もう聖騎士じゃなくなっちゃったから天国にいけないねぇって!!!」

 

 男とムツニは大爆笑だった。

 無敵の人だったテロリストを、ただのクズに貶めた男の鉄板ネタだった。

 

「そういうわけで、うーん、温泉と言えばサルかな?

 どうだねカスミちゃん。サルと結婚するってのは。

 動画でこれが正しい温泉の入り方だ、これが温泉開発部の活動ですって、サルと××××*1しながらインターネットデビューするってのは」

「きっとバズりますよ、ボス!!」

「く、狂ってる……」

「そうだな。お前が正常なら、ここには居なかった。

 お前の人格、お前の尊厳、お前のこれまでの全てをぶっ壊してやるよ!!」

 

 男は狂気の笑みを浮かべてそう叫んだ。

 

「ボス」

「なんだ、ナバト」

「風紀委員長のオーダーは、正気で更生させることです」

「……そうだった、忘れるところだった」

 

 こつん、と男は可愛らしい仕草で頭を叩いた。

 

「そう言えばカスミちゃん改造計画を考案しておいたんだ。あれを持ってこい」

「ここに」

 

 ナバトは手荷物からバインダーを取り出し、そこからプリントを一枚取り出し、差し出した。

 

「よく見えるかーい、これが何だかわかるか?」

「じ、時間割、かな?」

 

 カスミの声は震えていた。

 彼女の視界に持ってこられたプリントは、確かに時間割りだった。

 

 しかし、本来なら授業の割り振りが書かれている筈のそれには、調教だの、遊びだの、自由時間だの、学校の時間割りではあり得ない単語が並んでいた。

 

「ルールを説明しよう。

 この調教の時間は、お前を人間扱いしない。お前が生きていることを後悔する為に与えられた時間だ。

 こっちの遊びの時間は逆に、お前を人間扱いしてやる。カードゲームやボードゲームとかで遊ぶ時間だ。

 この自由時間は、この室内での自由を保障してやる時間だ。好きなことをしていい」

 

 男は説明を終えると、プリントを壁に張った。

 

「では最初の調教の時間だ。

 ウズ、お前の好きにしていい」

「えッ、あ、ああ、わかりました!!」

 

 男はそれだけ言うと、地下室から立ち去った。

 ナバトとムツニもそれに続く。

 

「まったく、ボスも酷いよね。

 ほら部長。下着を換えましょう」

「君は、たしか新人の」

「ええ、スパイでしたけど」

 

 ウズは雑巾で彼女の下腹部を掃除して、濡れた下着を脱がせた。

 

「お願いだ、殺される、助けてくれ……」

 

 カスミは本気で恐怖していた。

 あの男はマジだったと。ヒナの言いつけが無ければ、躊躇いなどしなかったと。

 本気でカスミの尊厳の全てを奪っただろう、と理解したのだ。

 

 それと同時に、たとえ逃げ出せてもあの男が居る限り、自分の安息はキヴォトスに存在しないことも。

 カスミが出来ることは、自分が卒業までの間、あの男に怯えるだけの日々なのだと。

 

「安心してください。命は取られません。

 だって、部長には更生して頂かないといけないんですから」

「ならなぜあんな男に付き従う!? 

 あんなイカレた奴なんかに!?」

「それは同感です」

「ならなぜ!?」

「それは、私もカスミ部長と同じだったからです」

 

 ほら、とウズはスカートをたくし上げた。

 その中身を見てしまったカスミは、絶句した。

 

「はあ、はあ、部長が悪いんですよ、部長が私を誘惑するから」

 

 ウズはゆっくりと煽情的な仕草で、カスミの頬の涙を舐め上げた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、トリコ姉さん。

 私は姉さん一筋なんです、でもこれは命令、命令だから、あは★」

 

 

 カスミは見た。

 可憐な少女が、正体を現すのを。

 

 

 カスミは次の時間割りまで、喉を枯らすほど泣き叫ぶ羽目になった。

 

 

 

「まったく、あのクソレズめ、見境が無いよな……」

 

 ナバトは見てられないとばかりに、首を振った。室内からは鞭のしなるような音が何度も聞こえる。

 

「私もナバトも、いっぱい痛いことされたもんね」

 

 ムツニも毒薬を厳重に保管し終えると、地上に向かうバディに付いていく。

 

 実はWolf小隊はお互いの結束の為に、パートナーを偶にスワップすることがある。

 ウズは他の二人には指一本触れさせないくせに、トリコには借りてきた猫のようになるのは二人も良く知っていたので、嫌味も言いたくなる。

 

「あいつだけはボスのこと言えないよな」

「それよりも、トリコ姉さん、変装は得意だけどすぐにボロが出るからなぁ。

 大丈夫だと良いんだけど」

「まあ、あたしらは自分の任務に集中しようぜ」

 

 二人は悲鳴の聞こえ始めた地下室からそそくさと去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
コハル<エッチなのはダメ、検閲!!




今回は後半大幅な改訂がございました。
その割を食って、ウズはサド属性が追加されてしまいました。
流石にあの内容は健全版には出せませんからねww コハルちゃんのお陰です。

次回も冒頭のシーンとか、多分無かったことになって、代わりに濃厚なカスミの調教シーンが追加されると思います。
ではまた、次回!!
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