キヴォトスに墜ちた悪魔 エ駄死Ver   作:やーなん

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更新を終えるか、一日考えました。
答えは本編で。



テロリストたちの後日談……そして

 

 

 

 今日も今日とて、忙しいシャーレのオフィス。

 

 書類仕事に追われる先生は、大きく伸びをした。

 

「“そろそろ気分転換でもしようかな”」

「でしたら、丁度うちの学園が作成したドキュメンタリー番組が流れる頃合いですわよ」

 

 今日の当番であるハルナが、書類仕事を手伝いながらそう言った。

 人選によっては書類仕事どころか、先生が振り回される結果にもなるので今日は助かる日である。

 それにもまして、ハルナは以前より落ち着きを見せるようになった。

 

 それは確かに、彼女の将来にとっては良かったことなのだろう。

 だがそれでよかった、とするには彼の喉に小骨が刺さったような痛みと異物感があった。

 

「“ゲヘナ学園の?”」

「ええ、最近うちの学園ではそうやって、罪を犯した生徒が更生したのだと報道しているのです」

 

 プロパガンダですわ、とハルナは肩を竦めた。

 

「今日は、たしか元温泉開発部の人達でしたかしら」

「“聞いたことが有る、かなりやんちゃしてた子たちだよね”」

「ええ、私達ほどではないですが、大分お灸を据えられたと聞いていますわね」

 

 ハルナは先生に説明した。

 温泉開発部の規模や出没範囲や脅威度は、それだけなら美食研究会の何倍も大きかったと。

 

「“とりあえず、見て見ようか”」

 

 先生はオフィスに置いてある薄型テレビの電源を入れた。

 チャンネルを回すと、画面に番組の名前が表示され、それらしいところで止めた。

 丁度、番組が始まるところだった。

 

 

 ──ゲヘナ学園自治区の北端、レッドウインター付近に存在した、かつての温泉街。今はもう、枯れた温泉に見向きをする者は誰も居ない。

 

 と言ったナレーションと共に、番組が始まった。どう見ても何とかの夜明けのパロディだった。

 

「ここの辺りは、十何年も昔は賑わってたんだけどねぇ」

「毎日毎日観光客で、この辺りはそれはもう活気があったんだ」

 

 住人たちは懐かしむように、シャッターの多い商店街を示す。

 

 ──そう、もう誰も見向きはしない。彼女達を除いては!!

 

「我々が、ここに来た!!」

 

 ──旧温泉開発部部長、鬼怒川カスミ。ゲヘナ屈指の建築技術と迷惑さを併せ持つ問題児であった。

 

「諸君、我々がこの温泉街を復活させるぞ!!」

 

「おおー!!」

「やるぞ、みんなー!!」

「がんばろー!!」

 

 ──彼女達が現れてから、錆びれたかつての温泉街は賑やかになった。

 

 場面が次々と移り変わり、手あたり次第掘削を始める元温泉開発部。

 

「記録によれば、十数年前に地震があった。それが原因で湯が断水し枯渇したと思われる。

 それから十年以上経っている。希望はまだあるぞ!!」

 

 ──卓越した部長カスミの指揮により、源泉のありそうな場所を探り当てる。

 

「ここは儂の土地じゃ、何十年も住んでいる。温泉の為に、我が家を壊せと言うのか?」

「なら、我々が新しく家を作ってやろう!!」

 

 ──難航する住人との交渉。しかし、彼女達はそれを乗り越えた。そして!!

 

 吹き上がる、熱湯の雨!!

 

「お、温泉だぁ!!」

「十数年の眠りから、温泉が目覚めたぞ!!」

 

 温泉の発掘に、歓喜する部員や住人達。

 

 廃業し放置された温泉宿を、部員たちは次々と整備していく。

 

「若い子たちがやってくれたんだ。

 私達も頑張らなきゃ示しがつかないねぇ」

 

 経営を諦めた元経営者たちも、営業を再開させる。

 

「我ら、温泉建設部のモットーは“温泉で皆が笑顔”だ!!

 見よ諸君、住人たちの笑顔を!! この達成感と充実感を!!

 温泉を掘り当て、開発と建設だけでは得られない、人々の笑顔と感謝こそ、我々の新たな生き甲斐のひとつとなるのだ!!」

 

 カスミの演説に、部員たちが沸き上がる。

 

 そして温泉街の復活を、カスミ率いる部員たちと共に宣伝する。

 地道にビラ配りから、新聞に広告に載せるなどの活動が見られる。

 

 そして──。

 

 ──なんと言うことでしょう、あの誰も居ない錆びれた温泉宿に、観光客が戻って来たのです!!

 

 ナレーションと同時に、商店街の客入りの比較映像が流れる。

 流石に全盛期と比べればまだまだだが、それでも希望は芽吹いたのだ。

 

「さあ、諸君。次の現場が、温泉を求める人々の笑顔が、私達を待っているぞ!!」

 

 そんな感じで、番組はエンディング曲とスタッフロールが流れ始めた。

 

「これですわ!!」

「“え?”」

 

 先生は問題児たちの更生に感動していると、一緒に三十分の番組を見ていたハルナが急に声を上げた。

 

「我々元美食研究会は、世間の皆様に更生を果たしたのだと何のアピールも出来ておりません!!」

「“君たちが反省したのなら、それで良いと思うけど”」

「よくありません、私達の社会奉仕活動はせいぜい、食堂でフウカさんの手伝いをしたり、フウカさんの仕入れの護衛をしたり、フウカさんの食事がマズいと言った連中をとっちめるぐらいですわ!!」

「“最後のはいけないね”」

「ともかく!!」

 

 ハルナは露骨に話題を逸らした。

 

「このキヴォトスにはまだまだ食を冒涜する輩が溢れています。

 それを断罪し、ついでに我々の更生をアピールせねばなりません」

「“そっちがついでなのね”」

 

 とりあえず、ハルナが元気そうなので先生はツッコミを入れるだけに留めた。

 

「つきましては、何か良いアイディアはありませんか、先生」

「“急に言われてもなぁ”」

 

 先生は教師であって、番組プロデューサーではなかった。

 急に名案なんて思いつくはずも無く。

 

「“気は進まないだろうけど、彼の発想力を借りたらどうかな”」

「彼、ですか……」

 

 面の皮の厚いハルナでも、眉を顰める。

 ここで彼とは、あの男に他ならない。

 

「“彼の趣味は幅広いから、何かヒントがあるかもしれないよ”」

「……わかりましたわ。こうして更生を果たした以上、なにも恐れるモノなど無いのですから」

 

 こうして、ハルナはあの男に助言を乞うことになった。

 

 

 彼に会うのは簡単だ。

 

「はぁ、フウカたそ、今日も尊い……。

 ち、ジュリ、お前は邪魔だフウカたそが見えない!! また謎生物を錬成する気じゃないだろうな!!」

 

 昼食時、男は食堂で忙しくしているフウカを観察している。どう見ても不審者である。

 

「顧問官さん、少しご相談がございまして」

「あ? 今はお呼びじゃないんだよ、失せろ」

 

 仕込みの手伝いが終わったハルナが男の下に尋ねた。

 しかし素っ気なく手で振り払う仕草を見せた。

 

「ジュンコ、こっちに来てくださる?」

「なに会長」

 

 美食研究会は解散しているのに会長と呼ぶ後輩の耳元に、ハルナは囁く。

 

「えー、それやんなきゃだめ?」

「お願いします。今後の我らの活動の為です」

「わかったけどさ」

 

 ジュンコは渋々、ハルナの指示に従った。

 

「ねえおじ様、私達を助けて~♪」

「いったい何かなお嬢ちゃん!! おっさんが何でも協力しちゃうぞぉ、お礼はスカートをたくし上げてくれれば良いからさ!!」

 

 ジュンコは即座に背負っていたアサルトライフルをぶっ放した。

 

 

 

 

「まあ、話はわかった」

 

 誰かが食堂で銃をぶっ放すのなんていつものこと。

 特に誰も気にせず、男はハルナの相談を受けることになった。

 

「まあお前たちの更生が進むのならそれに越したことは無い。

 別に美食の追及とかを制限してるわけでも無い。勝手にやればいいさ」

「その為の知恵を頂こうと、こうして尋ねているのです」

「お前ホント面の皮が厚いよな」

 

 もしやこいつに恥とか無いのでは、と思っていると。

 

「ん? 面……ツラ」

「なにか私の顔に付いておりまして?」

「そうだ、お前黙ってりゃ顔だけは良いんだ、それを有効活用すればいい!!」

「はあ……?」

 

 ハルナは訳が分からず、小首を傾げた。

 

 

 

 

 そして、一週間後。

 

「どうも皆さま、ごきげんよう。

 ハルナの美食探求の時間ですわ」

 

 ハルナはカメラに向かってそう言った。

 ゲヘナ学園のグラウンドを利用して作られたスタジオでは、緊張した雰囲気が流れていた。

 

「このコーナーもめでたく三回目、今日はゲヘナ自治区内だけでなくミレニアム自治区に出店しておられるシェフも参加して頂いております。

 まあ、その度胸だけは褒めてもよろしいでしょうね」

 

 そんな尊大なキャラを演じつつ、ハルナは生放送されている動画サイトで流れているコメントに目を向ける。

 

「今日も爆破を期待、ハルナ様今日も美しい──ありがとうございます。

 元テロリストがなんかやってるww、ええ、初見でしたら楽しんで行ってくださいませ」

 

 コメントを適当に拾うと、ハルナは企画を進行する。

 

「今日も前々回や前回と同じように、勇気あるレストラン経営者の方々に協力していただき、このわたくしを持て成して頂きます。

 ルールは簡単。接客、料理、サービス、全てをこのわたくしが評価致します。

 わたくしの基準に満たない場合、即、出演者席を爆破します」

 

 ハルナが手を差し向けると、レストランのオーナーが三名ほど椅子に座って硬い表情をしていた。

 どこも有名店のオーナーばかりで、自らの意思でこの企画に参加している。

 

「従業員の皆様は、オーナーの無事の為に誠心誠意接客に励んでいただきたいですわね。

 では一件目に行きましょう」

 

 スタッフが一店舗目の従業員やシェフを誘導する。

 ハルナは入店から採点を始める為だ。

 

 そして、恐怖の度胸試しが始まった。

 

「こちらのコーヒーは酸味が強いですわね。

 グアテマラとモカの配合でしょうか?」

 

 打ち合わせでも説明していない情報を言い当てるハルナに、従業員たちは目を見開く。

 

「完熟リンゴのアップルパイ、アイス添えでございます」

「あら美味しそう。こちらのリンゴはどこの物を使用しておりますの?」

「ミレニアム学園が所有する農園でございます。

 完全に管理された糖度の高いリンゴをまるまる一個使用し、グラニュー糖でソテーしレモン汁を加えて煮たものをパイにしています」

「リンゴの火加減と、煮た時間は? ラム酒などを使用しない理由は?」

「中火で10分、当店はカスタードをパイに使用し、そちらにラム酒を使用しております」

「なるほど、なるほど」

 

『こわッ、ガチじゃん』

『うへぇ、製法まで細かく聞くんだ』

『ここまで理解あるのに、なんでテロリストやってたんだよ』

『シェフの顔がガチガチだぞ』

『店員の女の子は泣きそうだぞ』

 

 配信画面にはそのようなコメントが流れる。

 

「では実食に参りましょう」

 

 ハルナは優雅にナイフとフォークを使用し、アップルパイを切り分けて口にした。

 

「……」

 

 ハルナがパイを嚥下する。

 緊張の瞬間だった。

 

「……大変美味しゅうございますわ」

 

 その言葉と同時に、拍手が巻き起こる。

 グラウンドにはいつの間にか、生放送の収録を見に来た観客が大勢居た。

 出演者席のオーナーも安堵したように肩を下ろした。

 

「お店の場所を教えて頂きますか?

 今度そちらに直接伺わせていただきますわ」

「ぜひ!!」

 

 ハルナはシェフと握手をして、一件目は終わった。

 

「では、次は二件目のお店を」

 

 次の店の準備が始まる。

 

「当店の自慢は厳選したA5ランクの牛肉を使用したブランド肉を独自の製法で熟成したところにあり──」

「……」

 

 次の店のシェフは、料理が運ばれると聞いても居ないことをぺらぺらと解説始めた。

 

『あッ(察し』

『ハルナ様メッチャ不愉快そうじゃん』

『まだ、まだ慌てる時間じゃない!!』

『あ、これは』

 

 かちッ。

 

 ハルナは起爆装置を押した。

 

 二件目のオーナーの席が爆破される。

 とは言え、演出なので威力は殆どない。煙と爆薬が派手なだけである。

 

「ぎゃああああああぁぁぁ!!」

 

 だが、その中心にいたオーナーはたまったものではないだろう。

 

『やったぁぁぁぁぁぁ!!』

『爆破ktkr!!』

『やると思ったwww』

『お腹痛いww』

 

「な、なぜ!?」

「何ゆえに、この料理を選択したのですか?」

 

 困惑するシェフに、ハルナは視線を向けた。

 

「この野外収録場は見ての通り野ざらし。

 今日は風も強いですし、一件目の間に料理が完全に冷めてしまっております。

 一流のシェフなら、それを想定して然るべきでは?

 料理とは、温度も食するものでしてよ」

 

 ハルナの指摘に、シェフは恥じ入るようにコック帽を脱いで頭を下げた。

 

『あー、レストランとじゃ提供環境が違うのか』

『厳しすぎる……』

『なお、この厳しさでマジで店を爆破してた模様』

『それは意識高すぎでしょ……』

 

 コメントも戦々恐々としていた。

 そして三件目も終わり。

 

「今日の企画はこれにて終了です。

 美食研究会チャンネルにぜひご登録下さいませ。

 次回は、アカリさんの大食いフードバトルを収録予定です。

 明日はたしか、イズミさんの昆虫食チャレンジの動画を上げるのでしたか?

 虫が苦手なら視聴はおススメできませんわね、その次に上げるジュンコの食べ歩きコーナーの動画をぜひ視聴してくださいませ」

 

『アカリさん、あの体にどうしてあんなに入るんだろう』

『イズミちゃんのゲテモノ食いが面白すぎるんだよなぁ』

『うちはジュンコちゃんのかわいさに癒されますね……』

 

「それでは皆さん、ごきげんよう」

 

 ハルナは優雅に一礼して、収録は終了した。

 

 

 

「“大人気だね、ハルナ”」

 

 その生配信のアーカイブを、先生は視聴し終えた。

 

「バラエティでしたか、そういうノリがウケているそうですね」

 

 元テロリストのインパクトも有り、既に美食研究会のチャンネル登録者数は50万人を超えている。

 そんな経歴もあり批判やアンチも当然多いが、ハルナは微塵も気にしていない。

 彼女は美食を窮める以外に興味が無い。

 

「私が酷評した店がひとつ、店を畳んだと聞きました。

 なんでも、私のファン達が低評価レビューを書き連ねたとかで。

 理解しがたい行いですが、この活動を続ければ皆に食の素晴らしさを啓蒙でき、勝手に食を冒涜する店が滅んでいく。素晴らしい事ですわね」

「“まあ、程ほどにね”」

 

 既に過激なファンまで付いていることに、先生は苦笑いするほかなかった。

 この時点ではまだ、ハルナに非はないし、先生は笑っていられた。

 

 なお、この後に“ハルナ様ファンクラブ”なる過激派テロリストが誕生し、かつてハルナがしていた飲食店爆破を無差別に行う集団となるのは、まさかこの時は誰も予想してはいなかったのである。

 

 キヴォトスは今日も相変わらず、地獄である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 射影機がカラカラと回る音が、止まった。

 広大な映画館の上映室に、明かりが灯る。

 

「おや、ここで終わってしまうのですか?」

 

 上映室の最前列に座っていた少女が、ポップコーンの容器を片手に小首を傾げた。

 ここはどこでもない場所。映画館を模っているだけの、虚無の領域。

 この場所の、いや場所とさえ言えない虚無に漂う者が、不満を示した。

 

「やれやれです。幕を下ろすのは私の役目ですのに。

 しょうがありません、次の上映をしましょう」

 

 少女の姿はいつの間にか射影室にあった。

 彼女は射影機のマスターテープを取り換える。

 

 すると、上映室に影の観客が次々と来場してくる。

 

「ふんふふんふふーん♪」

 

 少女はステップを踏みながら、入口の方へと遡っていく。

 やがて、入り口のチケット売り場にやってきた。

 

「あ、これこれ。これです、次の演目のパンフレット!!」

 

 物販コーナーの定番である、映画のパンフレット。

 

 そのタイトルには、『桜花爛漫お祭り騒ぎ!』、と書かれていた。

 

期間限定上映(イベント開催中)!! おっと、今はもう常設でしたか?

 まあ、時間の概念の無い私には関係の無い事ですね!!」

 

 少女は特大のコーラとポップコーンを調達し、上映室に戻った。

 

「そういえば、あちらでは本筋と三大学校(メインストーリー)の生徒しか出てませんでしたね!!

 まるでTRPGの新しい追加サプリメントを入手した気分ですね!!」

 

 ヘイローの無い少女が、最前列のスクリーンの目の前に当然の権利のように座った。

 

「さて、折角私がコインを投入したんです。

 体験版じゃないんですから、ここで終わりなんてもったいないです」

 

 上映の開始を告げるブザーが鳴る。

 上映室の灯りが落ちる。

 

 ……上映が、始まる。

 

 

「ではオオカミさん、そう言うわけですので、もっとアリスを愉しませてください!!」

 

 無邪気に、少女が笑う。

 虚無に座る神たるものが、無数に存在するキヴォトスの世界線を選別し、観賞を始めた。

 

 終幕はまだ、下りない。

 

 

 

 

 

 

 




そんなわけで、更新は続けます。最後の追加シーン、こっちで初見の読者の方々は、アリスちゃんは神的にカワイイってことで納得しておいてください。

あと流石にそれだけでは応援や高評価してくださった皆さんに悪いので、あっちでもやろうかと思っていたイベントストーリーや、三大学校以外の生徒も登場させようかと。

そういうことで、百鬼夜行の導入イベントとも言える桜花爛漫をやります。
一話か、長くても二話で終わる筈です。その後はヒナ委員長のなつやすみとか、あの男が登場できそうなイベントを一話二話ぐらいでやろうかな、って。

では、また次回!!
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