キヴォトスに墜ちた悪魔 エ駄死Ver   作:やーなん

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サブタイトル、流石に読み返してダサいの変えました。
作者はサブタイトルを決めるのが苦手なのです。



桜花爛漫、忍術狂乱!! 後編

 

 

 

「(ふふふ……潜入作戦は成功です!!)」

 

 男に弟子入りすることに成功したイズナは内心ほくそ笑んでいた。

 

「(忍者に対抗できるのは、即ち忍者だけ!! イズナはちゃんとこの大人の人が彼女達を従えているのを見ましたとも!!)」

 

 イズナはアホだが、バカでは無かった。

 自分の仕事の脅威になる相手を見つけ、それを排除しようと試みたのである。

 

「(えーと、この後は色仕掛けをして、イズナにメロメロにしてから、本格的に修行を──)」

 

「よーし、着いたぞ。

 ここで修業をする」

「はッ、ここでですか?」

「ああ」

 

 男に連れられ、辿り着いたのは河原だった。

 近くに水車小屋もあり、風情のある景観だった。

 

「じゃあ、修行を始めるぞ。おい」

「はい、ボス」

 

 ぷすッ。

 

「え?」

 

 イズナの背後に、注射器を持ったムツニが笑顔で立っていた。

 

「市販の筋肉弛緩剤にちょちょっと手を加えた、特製の麻痺毒です♪ 即効性で、後遺症も残らないんですよ」

 

 どさり、とイズナが河原の砂利に崩れ落ちた。

 

「な、どう、し」

「お前の身体能力、ナバトが褒めてたぞ。

 SRTの突入班で先陣を切れるって。だからこうした」

 

 男が顎をしゃくると、Wolf小隊の四人はイズナを運び出して、水車に括りつけた。

 

「忍者を目指してるなら、当然拷問の訓練は受けてるよな?」

 

 男が笑う。

 そう、初めからこの男は、イズナを排除すべき敵としか見ていない。

 イズナはバカではないが、やはりアホだった。

 

「お前ら、分からせてやれ」

「はい、ボス」

 

 止まっていた水車に括りつけられたイズナは、川の流れるままに水責めに遭う。

 

「ごぼぼ、ごぼぼ……」

「お前の雇い主の名前を吐け。仲間の数、武装、隠れ家、お前の知る全部だ」

「ボス、まだしばらくは話せません」

「ああ、そうか。じゃあ薬が抜ける頃にまた来るわ」

「だ、だづげ……ごぼッ、ごぼぼッ」

「敵に情けを乞うのが忍者か?

 お前が本物の忍者なら、下を噛んで死ね。主君の為にな。それが忍者だ」

「(主君……)」

 

 それが、イズナの求めてやまないものだった。

 

 忍者とは主に仕え、その影となり、主の脅威を排除し、または手足となる。

 そして、主が死ぬ時は、共に死ぬ。

 

 

 そう、イズナには、何も無かった。

 

 溺死しかけて己の人生が走馬灯のように流れる。

 ずっと独りぼっちだった。誰にも夢を理解されず、これまで邁進してきた。

 

 イズナを置き去りにしていく、男の背中が遠ざかる。

 

「(本物の、忍者だ……)」

 

 イズナとて、本物の忍者がフィクションに出てくるような忍者装束をしているわけではないことぐらい知っている。

 もしそうなら彼女はくノ一の格好をしてなければならないだろう。

 

 だが、イズナがあの男に憧れの忍者の姿を見たのは事実だった。

 

 人知れず影で暗躍し、地位や名誉を求めず、プロとして仕事を全うする。

 まさに、現代の忍者だった。

 

 

 

 

 数十分後。

 

「ごほッ、ごほごほッ」

 

 水車に縛り付けられていたイズナは、麻痺毒が抜けると何とか自力で水車の拘束から逃れ、河原の砂利に這いつくばっていた。

 縄抜けの忍術、といえればよかったのだが、単なる腕力のごり押しで脱出したのだった。

 

「ほう、自ら脱したか」

 

 ざっざっざ、と砂利を踏みしめる音が聞こえた。

 

「念のために痛めつけましょうか?」

「それは答えを聞いてからだ」

 

 油断なく銃口を向けるナバトを制し、男は這いつくばるイズナの前にしゃがみこんだ。

 

「選べ。俺に従うか、クソテロリストの手先として死ぬか」

 

 顔を上げたイズナの頬は紅潮していた。

 人は窒息仕掛けると、不思議なことに気持ちよくなるという。

 

「はい、統領……イズナは、貴方に従います」

 

 イズナはひれ伏して、そう言った。

 

「よし、クズ卒業おめでとう。まあ裏切りは忍者に付きものか」

 

 男はニヤニヤと笑ってそう言った。

 

 そうして、男は数多くの情報をイズナから聞き出した。

 

 雇い主の名前や容姿、鉄砲玉に過ぎないイズナはその人物の素性まではわからなかったが、拠点の場所や知りうる限りの人員を吐いた。

 

「トリコ」

「はい、連中の服装は拝借してます」

「ああ、裏を取ってこい」

 

 トリコは事前に奪っておいた魑魅一座のお面や服装に着替えた。

 そして、彼女は任務を遂行する為に、走り去って行った。

 

「に、忍者だ……」

 

 その様子を、イズナはキラキラした瞳で見ていた。

 

「なあ小娘。イズナと言ったか?」

「は、はい、統領。久田イズナです!!」

「キヴォトスいちの忍者とはなんだ?」

「はい、それは勿論!!」

 

 イズナは長々と語り出した。

 自分の理想とする忍者像、その活動や理念に至るまで。

 

「き、きっと、統領こそ私の主様で!!」

「それは違う。違うぞ、イズナ」

 

 男は彼女の勘違いを首を振って示した。

 

「忍者ってのは組織単位で主君に仕えるもんだ。

 俺はお前の上司になれても、主人にはなれない」

「そ、う、ですよね……」

「それに俺もこれ以上手駒を増やすつもりはない。

 NARUTOでもフォーマンセル以上は敵の発見のリスクが高まるって言ってたしな」

 

 そう言う意味では、Wolf小隊は満員だ。

 

「お前が狙撃手が出来るのなら考えたんだがな」

「うう、忍者と言えば接近戦ですので」

「……俺が聞いたところによると、実は手裏剣は投げるものじゃないらしいぞ」

「えッ!? そうなのですか!?」

「ああ、観光地とかでは手裏剣を投げる体験とかできるらしいが、そもそも手裏剣は手のひらに隠して近づき、敵の首を掻っ切るための武器だとか」

 

 まあどちらにせよ歴史なんて当てにならんがな、と男は肩を竦めた。

 

「まあいい、トリコが抜けた分をお前が埋めろ。

 お前に俺の仕事を見せてやる」

「ご、ご指導お願いします、統領!!」

 

 そうして、一行は移動を開始した。

 

 

 

 

 

 百鬼夜行連合学院は幾つも商店街があるだけあって、お祭りのある地区もあればそうでもない地区もある。

 ならば当然、繁盛しているところもあれば、してないところもある。

 

 お祭りから少し離れたところには、錆びれたシャッター街があった。

 そこは不良の、魑魅一座・路上流のたまり場になっていた。

 

「なあお前ら」

 

 男は無造作に、彼女達に近づいた。

 

「なんだよ、おっさん」

「ここはうち等のシマなんだけど」

「邪魔だから向こう行けよ」

 

 等々、男に気づいた彼女らはそんなことを言い始めた。

 

「お前らあれだろ、何とかの独眼竜とか言う奴に雇われてるんだって?」

「……仲間がそんなこと言ってたような」

「うちら、知らねーし」

「てか、なんでそんなこと知ってるんだよ」

 

 彼女らの一人が、モモトークで仲間を呼ぶ。

 すぐに男は周囲を囲まれた。

 

「ちょっとお前達に、手伝って貰おうかなって。ゴミ掃除は、ゴミの仲間がするのが妥当だろ?」

「ッ、お前ら、やっちまえ!!」

 

 魑魅一座が武器を抜く。

 その直後、Wolf小隊とイズナが突入してきた。

 

 銃弾が飛び交う戦場を、男は欠伸をしながら避けて行った。

 程なくして、戦闘が終わる。

 

「状況終了です、ボス」

「拘束しろ」

 

 数十人の魑魅一座が倒れている。一網打尽だった。

 

「くそッ、イズナ、あんたなんで裏切ってるんだよ!!」

「雇い主にチクってやる、覚えとけよ!!」

「ほう、テロに参加してるのもいるのか」

 

 男はイズナを罵る不良に、蹴りを入れた。

 

「いたッ、痛い、やめッ」

「なあ、聞いてくれよ。俺のガキの頃、出前でラーメンを頼んだんだ」

 

 男は襲撃グループの一人に、延々と蹴りを入れ続け、話し始めた。

 

「お前、ショートケーキのイチゴは最後に食べる派か?

 俺はそうだ。まあ、イチゴは嫌いで食えないんだが」

「な、なにを、なにを言って」

「話は戻るが、俺はラーメンを食べてたんだ。

 でもなるとは最後に食べようと思って、取っておいたんだよ。

 そしたらなんと、妹の奴が横からなるとを搔っ攫っていったんだ」

 

 男は笑いながら、蹴りの威力を強めていく。

 

「そしたらあいつ、なんて言ったと思う?

 だって、食べないと思ったから、だってさ!!

 ははッ────てめぇらは、俺がパフェを食わねぇと思ったのかよ、ザッケンナヨゴラー!!」

 

 男は何度も何度も、執拗に執拗に、赦しを請う言葉すら聞こえなくなるまで、彼女を踏みつけ、蹴りつける。

 男はキレていた。怒髪天だった。

 

「俺は、食べ物の恨みを、一度たりとも忘れたことはないんだよ!!」

「い、意地汚いだけだろ!!」

 

 他の不良がそう言った。男はそいつに銃弾を全弾浴びせた。

 

「お前ら、責任を取れ」

「ひ、ひぃ、しらねぇよ!!」

「責任を取れ」

「わ、わかった、弁償する、弁償するから!!」

 

 彼女達も、まさか千円もしないパフェでここまで激怒してるとは思わなかったのだろう。

 声も出ないほどズタボロにされた仲間を見て、彼女達は震えあがっていた。

 

「あ、良いことを思いついた」

 

 男はおもむろに、彼女達の武装の一つであるロケットランチャーを引っ張り上げた。

 

「なあ、聞いてくれよ」

 

 その言葉が、恐怖の始まりだと彼女達はさきほど思い知らされていた。

 

「俺の故郷は何にも無くてな。精々なんとかって庭園が有名だとか、メロンが有名だとか、毎年魅力度ランキング最下位常連だったんだが。

 なあ、これってズルくないか?」

「へっ?」

「これで平等になるんじゃねーか?」

 

 男は無造作に、遠くに見える御神木に向けてロケットランチャーを発射した。

 

 その場に居る全員の、血の気が引いたのは言うまでもない。

 

 ロケットランチャーの弾頭は、しばらく飛行した後、御神木に届くことなく勢いを失って落下した。

 

「あー、届かなかったか。あれが燃えたら綺麗だと思ったんだけどな」

「く、狂ってる……」

「なッ、なにやってんだよ、お前!!」

「なにって、お祭りを台無しにしようと思ったんだ。お前達のやろうとしてた事だよ」

「ば、ばっかじゃねーの!! 御神木を傷つけたら、この学校が!!」

「ああ、なんかシンボルみたいなもんなんだろ?

 でも俺には関係無いよな?」

 

 魑魅一座は見た。男の狂気を。本物の、狂人を。

 

「お前らもそうだから、祭りを滅茶苦茶にしようとしたんだろ?」

「私らはそこまでするつもりはッ」

 

 男はもう一発、ロケットランチャーを拾い上げた。

 悲鳴が上がった。

 

「お前らも一応、百鬼夜行連合学院の生徒なんだよな?

 お前らの居場所を奪ってやる。お前らが御神木を燃やしたってことにしてやる。退学になって、学籍を失って、全てをぶっ壊してやる」

 

 狂気の炎が、男の目に燃えていた。

 

「そしたらお前ら、晴れて本当に道路に住めるぞ!!

 家無しの路上生活者の仲間入りだ、嬉しいだろ!! 路上組って名乗るぐらいだしな!!」

 

 路上流です、と誰かが涙ながらに言った。

 

「……お前たちの仲間を、連れて来い」

 

 男が、彼女達を見下ろし言った。

 

「合図があったら、俺の言う通りに動け。

 出来なければ御神木を燃やす。いいな?」

 

 数十人の魑魅一座が、全員恐怖に震え涙を流しながら頷いた。

 

「鬼だ……鬼が出たッ」

「大妖怪だ、魑魅魍魎の首魁だ……」

「カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ……」*1

 

 男がくるりと背を向けると、魑魅一座が涙ながらにそんな言葉を漏らした。

 

「イズナ、これが忍法まるで将棋だなの術だ」

「は、はいぃ」

 

 当然イズナは心底震えあがっていた。

 

「ぼ、ボス、やり過ぎですよ……」

「ロケットランチャーの射程距離で、ここからあそこまで届くわけないだろ」

 

 心底肝が冷えたという表情のナバトに、男は笑って返した。

 

「仕込みは終わった。

 さて、見た者全員皆殺しにする、俺達の百鬼夜行を始めよう」

 

 男はテロリストどもの悲鳴を想像し、ケタケタと笑い始めた。

 

「……イズナ」

「はい、統領!!」

「トリコから情報が来た。

 この情報を、先生に届けて来い」

「はッ、密書を届けるのですね、任せてください!!」

 

 男はスマホをイズナに渡した。

 彼女はすぐに走って行った。

 

「情報の伝達など、メールで良いのではないのですか?」

「確かにそうだな」

 

 ウズの指摘に、男は頷いて返した。

 

「なあ、ウズ。お前にとって先生はどう言う人間だ」

「信用できません。男など、下劣な生き物です」

 

 先生のついでに目の前の男もディスるウズだった。

 男は彼女の言い分に微笑んで見せた。

 

「まあ、概ね、俺も同じだ」

「……」

「教師なぞ、クソみたいな職業の連中だからな。

 職務としがらみで雁字搦めで、教育者と言っても子供のことなど考えていない。

 自己保身と無能の象徴だよ。それが聖職者に数えられるなんて、笑わせる。ああ、だがそれでも……」

 

 ウズは見た。深い狂気の奥底にある、男の憎悪を。

 だが暗く、昏い、絶望の底に、僅かな光があった。

 

「俺みたいな人間が、馬鹿みたいだがな、信じたくなった」

「──」

「あんなのはどうせ若いうちだけだ。信じてもどうせ、いずれ失望する。情熱の火種は有限だ。愛も恋も、情熱も枯れるものだ。それが人間だよ。分かってるはずなのにな」

「なら、なぜ……」

「ふふ、……だが、だからこそ、誰もが追い求めるのだろうな」

 

 どうしようもないロマンチズムだよ、と男は言った。

 

「あのイズナすら手懐けられないようなら、先生に新王は務まらないからな」

「……」

 

 ウズには理解できなかった。

 この男が、あの先生に何を期待しているのかを。

 

「おいウズ、お前だけサボるな。仕込みの手伝いをしろよ」

「わかったわよ」

 

 ナバトとムツニは魑魅一座に仕込みを行っている。

 物理的な作業なので、ウズもそれに加わった。

 

 ……日が沈んできた。

 祭りは、佳境を迎えようとしていた。

 

 

 

 §§§

 

 

 

「随分と遅かったな」

 

 男がひとり屋台で焼きそばを食べていると、イズナが駆け寄ってきた。

 

「す、すみません、統領……ついつい、先生と話し込んでしまって!!」

「砂糖とソースの匂いがするな。楽しんだようでよかった」

「あ、あはは……」

「別に咎めてるわけじゃない」

 

 男は肩を竦めた。

 

「イズナ、聞かせてくれ」

「はい、何でもどうぞ、統領!!」

「おまえにとって主君とは、己の憧れを実現させる為の道具か?」

「……え」

「忍者とは、耐え忍ぶ者と書く。

 時に心を殺して、主君への忠誠を示すことも必要だ。

 そもそも、お前の夢であるキヴォトスいちの忍者とは、誰が決めるんだ?」

 

 キヴォトスに他に忍者が居るとは思えないが、と男は苦笑する。

 

「ところで話はイズナ、ポケモンは遊んだことが有るか?」

「あ、はい、子供の頃に少し」

「ポケモンの悪役で、悪の組織のボスは魅力的だが、その中でサカキとゲーチスの違いが分かるか?」

「そ、そこまではやりこんでないので」

「なんだ。つまらん。

 まあいい、彼らの悪の組織のボスとして違いはわかりやすい。

 ゲーチスはポケモンをただ道具として扱い、サカキは道具は手入れしないと真価を発揮しないとしている。

 何が言いたいかというとだな」

 

 サブカルの話が出来ないと分かると露骨につまらなそうにする男は、しかしイズナにこう言った。

 

「お前は、お前を道具として大切にする主君に仕えろ」

「……統領」

「自らの主君に殉じて、初めてお前は一人前の忍者になれる。

 服部半蔵然り、風魔小太郎然り、お前がキヴォトスいちの忍者かどうかは、名を残して初めて、後世が判断するんだよ。

 英雄は、成りたいと思って成れるものじゃないのと同じだ」

「後世が、決める。そうか、そうだったんですね……」

 

 イズナは、勘違いしていました、と呟いた。

 

「では、ではッ、統領、あなたも!!」

「うん?」

「統領もまた、偉大な忍者として後世に語り継がれるんでしょうか!!」

 

 無邪気なイズナの笑顔。

 男は切なそうに微笑むだけだった。

 

 その時、男の無線機に声が発した。

 

『ボス、大変です』

「どうした」

『どうやら、先生は単身で敵地へと向かい、油断を誘う作戦を実行しているようで……』

「なんだと!? あのバカ、自分が替えが利かないのを分かってるのか!?」

「せ、先生は……」

 

 男が立ち上がり、怒声を漏らしたその横で、イズナがおずおずと言った。

 

「このままでは統領に滅多打ちにされるから、魑魅一座の子たちを説得したい、と……」

「…………度し難いな」

 

 だが、そう呟いた男は笑っていた。

 

「そう言えば、ドリフターズでも言っていたな。トップはバカな方が人は付いてくる、と。なるほど、なるほどな!!」

 

 男は何度も納得するように、頷いてからこう言った。

 

「アップルマンの好感度が10に上がった」*2

 

 男の裂けたような悪魔の笑みに、イズナは震えた。

 

「おい、向こうの音声を繋げろ」

『了解、ボス』

 

 男の命令に、向こうで待機しているウズが頷いた。

 

『儂の目的は至ってシンプル、カネだよ』

 

 丁度、先生が黒幕の目的を聞きだしているようだった。

 

『“……お金?”」

『百夜ノ春の桜花祭……このお祭りが一度開かれるたびに、いったいどれくらいの金が動くと思う?

 この規模だ、それなりに大きいことぐらいは分かるだろう。なのにその金をお祭り運営委員会、あんなチビどもが握っとる。儂はそれが気に食わんのだ』

 

 黒幕の主張は、それだった。

 ただ、商店街の会長という肩書でしかない黒幕と、ある意味で国家主導の行事であるこのお祭り。

 経済は大人が牛耳るキヴォトスで、彼がそこに本格的に口出しを出来ないのは歯痒い思いだったことだろう。

 

 彼の苛立ちは、子供たちを嘲笑する言葉となって吐き出された。

 

『お祭りを素敵なものに? なんという青い考えだ!!

 儂に任せれば、あいつらよりはるかに多くの金を稼げたというのに!!』

『“それで、桜花祭を邪魔したの?”』

『そうさ』

 

 何食わぬ声で、黒幕は言った。

 

『桜花祭が中止になれば、お祭り運営委員会はその責任を取って運営を降りるしかない』

 

 そしてそうなると次の責任者に抜擢されるのは自分だと、そう言う算段のようだった。

 

「そんな、イズナは、騙されて……」

 

 そんな心の無い言葉を聞かされ、イズナはショックだった。

 彼女はこの伝統ある桜花祭が大好きだった。

 そもそも彼女は桜花祭を中止にする為の策略だなんて、聞かされずに働かされていた。

 

『“その為に、イズナも……”』

『イズナ……ああ、あの自称忍者のチビッ子か。

 そうだな、あいつは実に役に立ってくれた。大してお金もかかってないのに、よく働いてくれた』

 

 そして今度は、黒幕はイズナを小馬鹿にし始めた。周囲の不良たちも一緒になって。

 実に小悪党らしいなぁ、と男はそれを聞いて欠伸が出そうだった。

 

 ただ、一連の話を聞いて、先生も我慢が限界のようだった。

 

『“一つ言わせてもらうけど、忍者って言うのは、──ロマンなんだよ!?”』

 

 かっこいいものはかっこいいんだからね、と先生は更に力説し始めた。

 屈辱に打ち震えていたイズナが、顔を上げる。

 

「アップルマンの好感度が、100に上がった」

 

 ロマンの分からねぇ奴とは仕事はできねぇな、とでも言いたげに笑っていた。

 男は次の指示を出した。

 

 

 

 

『よく言った、先生』

 

 先生の連れて来られた廃墟に、男の声がスピーカーごしに反響する。

 

「“その声は……アップルマン!?”」

『全部聞かせて貰ったよ、黒幕の、猫まんまさんだっけ?』

「ニャテ・マサムニェだ!! 何者だ、貴様!!」

『そうそう、それそれ、くくく』

 

 男は笑いが堪え切れないと言ったように、こう言った。

 

『あんた、自分ならもっと金儲けできると思ってるようだが、それは違うよ』

「なんだと!?」

『素人の俺でもわかる。結局あんたのやろうとする金儲けってのは、伝統を切り売りするだけの代物さ。

 コンテンツの寿命をただ縮めるだけの、将来性の無い拝金主義の末路が目に見えている。

 あんたのようなリスペクトの無いクズが携わって、アニメもゲームもダメになるんだ』

「知ったような口を!!」

 

 激怒する黒幕を他所に、先生はうんうんと男の言葉に何度も頷いていた。

 

『ただの一般人の素人が、テロリストの真似事なんて笑わせてくれる。

 小金を稼いで満足してればいいものを』

「お前達、奴を探し出せ!!」

 

 黒幕の指示に、廃墟に集結していた魑魅一座達が戦闘態勢に入った。

 

 同時に、外で待機していた修行部の面々が突入した。そのバストは豊満だった。

 続いてシズコやフィーナも襲撃に加わる。

 

「くッ、罠だったか!! オイ、先生を人質に!!」

 

 黒幕がそう指示したが、先生はどこにも居なかった。

 

「先生の救出完了。離脱します、ボス」

「“あ、ありがとう”」

 

 いつの間にか天井裏から接近していたナバトが先生を抱え、封鎖されている窓をムツニが蹴破って脱出していた。

 

「い、いつの間に!?

 ははは、だ、だが、馬鹿な連中だ!!

 これだけの人数で戦おうなどと!! おい、全ての人員を集結させろ!!」

「もう呼び込みを掛けてるって!!」

 

 黒幕の怒声に、魑魅一座の生徒が返した。

 

「ほら、もう来てる!!」

 

 中に詰めていた魑魅一座の生徒が、増援に歓喜する。

 ただ、それがあまりにも早いと気づけなかった。

 

「うわぁぁあ──!!」

「助けて、助けてくれぇえええ!!」

 

 そして、なぜか、彼女達は半狂乱で仲間たちのもとへ向かっていった。

 

「……え?」

 

どかーん!!

 

 仲間に駆け寄ってきた増援の魑魅一座の生徒が、突如として爆発した。

 

「ど、どうして、言うこと聞けば、助けてくれるって!!」

 

どかーん!!

 

どかーん!!

 

どかーん!!

 

 

「うう、うるさくて目が覚めた」

「何なの、何これぇ」

「嘘でしょう……」

 

 あちこちで爆弾が爆発する中で、状況を把握したミモリが唖然としていた。

 

「あれって、まさか、人間爆弾……」

 

 増援の魑魅一座の生徒達は、全員服の下にC4爆弾を張り付けられていた。

 

『ぎゃははははははははは!!!!

 これぞ卑劣流忍法、穢土転生爆弾!!

 生徒どもはこれくらいじゃ死なないから、コスパのいい忍術だ!!

 多分そんな名前の忍術だろ。俺、疾風伝以降読んでないから知らんけど』

 

「脱出、脱出!! こんなところに居られません!!」

「こ、これが、極道のカチコミ!!」

 

 堪らずシズコとフィーナが脱出を図り、修行部の面々もそれに続いた。

 

「正気か!? こ、このままじゃ、建物が!!」

『瓦礫に押しつぶされて死ね、テロリストのゴミクズが』

 

 ぶッ、と通信が途絶えた。

 

「く、くそ──!!」

 

 黒幕の悲鳴は、爆音にかき消された。

 

 

 

 

 

「ここで一句。

 祭りの日 テロリスト燃ゆ 花火かな」

 

 黒幕たちのいた廃墟が丸ごと吹き飛んだのを見て、男は一句読んだ。ポエット。

 周囲の観光客たちは、もう花火の時間か、と騒いでいる。

 

「さて、後始末は先生達に任せるか」

 

 やるだけやっておいて、男は後は全て投げっぱなしだった。

 

「さて、俺の忍者ごっこも、もう終わりだ」

「と、統領、イズナは……」

「悪いな、俺はNARUTOは途中までしか読んでないし、ニンジャスレイヤーもヤモト=サンが出るエピソードしか読まないにわかだし、隻狼に至っては動画勢だ。バジリスクもミームでしか知らん。

 俺は舞台を降りる。じゃあ、達者でな、イズナ」

 

 男はイズナを顧みず、立ち去った。

 

「統領、統領!! イズナは、いつか後世に名を残す忍者になります!!」

 

 男の背に投げかける言葉。

 男は片腕を上げるだけだった。

 

 

 

 

 

「ま、待っていたぞ!!」

 

 男はWolf小隊と合流すると、宿に向かった。

 ここは足湯が楽しめる温泉宿で、日帰りも可能だった。

 

 そこでカスミが足湯に浸かり、待っていた。

 

「よう、爆薬の調達、助かったぞ」

「急な入用と聞いたが、いったい何に使ったんだ?」

「決まってるだろ、花火だ」

「そ、そうか……」

 

 カスミは深く聞かないことにした。

 男たちも足湯に浸かる。

 

 そして、しばらく待つと、花火が始まった。

 

「この宿はここからお祭りの花火が見れるんだ。

 山の方だから穴場なんだぞ!!」

「ああ、よく見えるな」

 

 地上の方には救急車のランプも多数見えるが、ここに居る誰もが気にしない。

 

「ゴミも片付けたし、スッキリしたしな。

 わざわざ観光に来てよかったぜ」

 

 今日と同じように、明日も男はテロリストを狩る。

 日常と非日常に境の無い男は、終わることの無い修羅の道をほんの僅かに立ち止まったあと、また進み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

*1
伝承曰く、百鬼夜行に遭うと死ぬという。その害を避けるための呪文とされる。

*2
ハナコ「冗談抜きで上がってるんでしょうねぇ……」(遠い目





イベント、桜花爛漫はこれにて終了。
主人公はイベントストーリーの度に、こんなに全力投球するんでしょうか。
今回は彼の狂気を存分に表現できたと思います。そら先生も首輪付けようと思うわ。

普通にほのぼのできるイベントも書けるといいなぁ。

次はトリコとウズの個別ストーリーの予定です。手の加えどころ、あるのかなぁ。

それではまた次回!!

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