キヴォトスに墜ちた悪魔 エ駄死Ver   作:やーなん

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5500文字くらいエピソードを追加。
前回もそうですけど、本編部分に手を加えるところ無かったです。




〇〇〇をしないと出れない部屋

 

 

 

 ゲーム開発部の面々が、一致団結してゲームを作ろうとなり、ヴェリタスの部室を出てすぐだった。

 

「はい、四人とも大人しくして」

 

 沢山のガードロボを引き連れたユウカに遭遇した。

 

「え、なんなの、どうしてユウカが!?」

「俺が通報した。セミナーに、こいつらがテロを企てたとな」

「ええ!? 聞かなかったことにするって言ってなかった」

「それはすぐに部室に帰ったら、って言っただろ。

 なあモモイ、お前はすぐに部室に戻ったか?」

「あぐ、ぐぐぐ」

 

「そういうことよ」

 

 得意満面の笑みで、ユウカが頷いた。

 

「今、反省部屋が空いているわ。そこにミレニアムプライス直前まで入っていてもらう。

 テロ容疑が解けるまで、ね。セミナーはゲーム開発部に今日を含め九日の反省部屋行きを通達します」

「そんな、私達はこれからゲームを作らないといけないのに!?」

「誰がゲームを作っちゃダメだって言ったかしら?」

「え?」

 

 悲痛な声を上げるミドリに、ユウカは微笑む。

 

「今、反省部屋をうちのエンジニア部が超特急でリフォームをしているわ。

 防音、防弾、防爆、そして電波遮断……そんな処理をね。ちょっと狭くなるけど、ゲームを作るのに集中できる環境でしょ?」

「ま、まさか……」

「ユウカに、ちょっと前に俺のダチが運転免許を取った時の話をしてやったんだ」

 

 男は以前、ヒナにもした笑い話をした。

 電波の届かない孤島の合宿場で、延々と教育用ゲームをするしかなくなった男の話を。

 

「当然、インターネット禁止、他のゲーム機類の持ち込みも禁止。マンガ等の娯楽品の持ち込みもダメ。

 これなら、──嫌でも部活動に集中できるわ」

「鬼悪魔鬼畜外道守銭奴大根!!」

 

 モモイが涙目になってユウカを罵る。

 ミドリもユズもぶるぶる震えている。

 今時、ネット環境が無いとか呼吸が出来ないのと同じだ。

 

「ほほほほ、なんとでも言いなさい。

 さあ、彼女達をニュー反省部屋へと連行して」

 

 ぴぴぴ、と無数のガードロボがユウカの命令に反応して四人の前後を包囲した。

 

「後で差し入れを持ってくな」

「裏切者ー!!」

「何度も同じことを言わせるな。裏切ろうとしたのはお前だモモイ」

「お姉ちゃんのバカぁ!!」

「うわーん、シリーズ恒例牢屋イベントですー!!」

 

 遂には身内にまで罵倒され、四人は反省部屋へ連行された。

 

「はあ、まったく、本当に手のかかる子たちね……」

「まったくだ」

 

 ユウカと男は溜息を吐いた。

 ここまで追い詰めないと、彼女達はどこか甘えるだろう。

 

「さて、これはエンジニア部の言葉だが、ミレニアム学園での勝者は優秀な技術者に左右されるのだとか」

「まあ、しょうがないことよね」

「そう言えば、テロを企てたのは他にも居たよな」

 

 男が振り返ると、ぎくり、と背後でこっそり逃げ出そうとしていたヴェリタスの三人が硬直した。

 

「……反省部屋が更に狭くなるわね」

 

 ユウカが笑顔で、更なるガードロボを呼び寄せた。

 

 

 

 横暴だー、覚えてろー、と喚くヴェリタスの三人も無事ニュー反省部屋へと叩き込まれた。

 

「それじゃあ先生、お客さん、私はこれで」

 

 問題児どもを一網打尽にして、にっこにこのユウカはスキップでもしそうなほど上機嫌に去って行った。

 

「まあ、プログラムをたまたま居合わせた知り合いに外注するぐらいは許されるだろう」

「“……さっきは、彼女達を止めてくれてありがとう”」

「気にするな、先生。こういう時もある」

「“いや、あそこは、私が止めるべきだった”」

 

 責任を感じているらしい先生に、男はやれやれと溜息を吐いた。

 

「お互いに、どんな状況も解決できる、そう思ってるわけじゃないだろ」

「“まあ、ね”」

「今のキヴォトスは戦時と変わらん。テロが横行し、不条理と暴虐がまかり通る。そんな中では、仁君の治世は意味を成さない。

 今は単に、俺のやり方が求められる場合が多いと言うだけの事だろう」

「“そして、全ての責任を負って消えるつもりか? 暴虐を、暴虐を持ってして鎮めた暴君として”」

 

 先生の問いに、男は笑みを浮かべたまま答えなかった。

 先生もマヌケではない。彼だって今のゲヘナがどのようにして治安が向上されているのか聞いていない訳ではない。

 暴力は劇薬だ。いずれ副作用が訪れる。そしてそれが永遠に続けられるわけがない。

 

「そんなことより、アイツらに差し入れでも買いに行こうぜ。

 あいつらのお菓子や飲み物の好みは把握してる」

「“君は自分が消えても誰も悲しまないと思っているのかもしれないが、少なくとも私は悲しむぞ”」

「ハッカーとかって何が好きなんだ? エナドリとか買ってった方が良いのかね?」

「“みっともなく、生徒たちと一緒に泣いてやるからな!!”」

 

 自分に背を向け、売店に向け歩き出す男に、先生は声を荒げて言った。

 男は何も言わなかった。

 

 ただ一度だけ、袖で顔を拭うだけだった。

 

 

 

 §§§

 

 

 本来ミレニアム学園の『反省部屋』と書かれた部屋には、それに被せるようにして『ゲームを完成させるまで絶対に出れない部屋』という達筆な習字が被せられていた。

 

 そこに収容された七人、そして差し入れをした大人二人が八畳ほどの部屋に押し込まれていた。

 室内にはトイレや小さな台所とシャワールームが併設され、それ以外には電波が遮断され意味を成さないテレビや専門書が並んだ小さな本棚など、娯楽になるようなモノは一切ない。

 

 もっと少人数が使用することを想定されていたのだろう。

 いくら彼女達が小柄とは言え、七人が押し込められるには狭すぎた。

 その上、ゲーム開発の為の機器も部屋の一部を占領する。

 ヴェリタスの三人もパソコンなどの機器の持ち込みを許されたので、更に狭くなる。

 先生と男は壁の隅に立たないと、七人は座れないような狭さだった。

 

「ゲームの企画会議を始めます」

 

 そんな中で、ユズが会議の音頭を取る。

 

「ミレニアムプライスまで実質残り九日。

 それまでにどのようなゲームを作るか、今日中に決めようと思います」

「はい、テイルズ・サガ・クロニクル2が良いと思います」

 

 モモイが手を上げ、発言をする。

 

「テイルズ・サガ・クロニクルからマップチップやシステムを流用すれば、製作期間を大幅に短縮できると思うな」

「モモイにしては良い意見だな」

「私にしてはってどういうことよ!!」

 

 茶々を入れる男に食って掛かるモモイ。

 

「ゼル伝だとムジュラの仮面が時のオカリナのシステムなどを流用してどんな作品が作れるかって話だそうだし、元あるモノを活用するのは良いと思うぜ」

「なるほど。仮に、まったくの新規のゲームを開発するとして、どんな案があるかな?」

 

 ユズは意見が煮詰まる前に、他の案を求めた。

 

「レトロゲームなら、シューティングとか横スクロールアクションとか?」

「謎解きゲームなら必要なカロリーが少なそう」

 

 マキとコタマが意見を出す。

 別にRPGにこだわる理由もない。

 

「“リメイクとかどうだろうか、ゲーム性やシステムを見直して、ちゃんとテイルズ・サガ・クロニクルを最後まで遊べるようにするっていうのは”」

 

 先生も意見を出す。

 あのクソゲーは途中で誰もが投げ出すような内容なので、とりあえず全員最後まで行けそうなゲームにすることを提案した。

 

「何か月か前に創ったゲームだろ?

 良い意見だと思うが、いくら何でもリメイクとして出すのは早すぎるだろ」

 

 男の反論に、先生も確かにと意見を引っ込めた。

 

「逆に、皆はどんなゲームを作りたい?」

 

 今度は、作らないといけないゲームでは無く、作りたいゲームをユズは問うた。

 

「はいはーい、先生を主人公にしよう。例えば、こんなのはどうだ?」

 

 男は手を上げ、己の想像するゲームを説明する。

 

 

 

 

 ここはキヴォトス、いろいろな生徒モンスターが済む世界。

 キヴォトスに住む生徒モンスター、略してキヴォモン。

 

「私はリン博士。キヴォモンのトレーナーを統括する連邦生徒会の会長代理です。

 この中の三匹から手持ちを選び、先生にはキヴォトスを旅してもらいます」

 

 そして提示される、三匹のキヴォモン。

 

 ミレニアムデカフトモモ。

 ゲヘナメガネエルフ。

 トリニティデカハネチチ。

 

 あと隠しキャラのトリニティカゲウスイ。

 

 キヴォモンを仲間にした先生は、各地の問題を解決する。

 その度に衝突する、各地の最強キヴォモントレーナー。

 

「さあ先生、私の最強のエースキヴォモン、ゲヘナシロモップを倒せるかしら!!」

 

 各地で相対する、強敵たち。

 

「私のミレニアムチビメイドのインファイト攻撃はキヴォトス一だ!!」

 

「見せてあげましょう、トリニティ最強のキヴォモン、トリニティピンクゴ……プリンセスの力を!!」

 

 ヒナ、ネル、ナギサという三大学園最強のトレーナーを下し、遂に先生は始まりの場所、サンクトゥムタワーの頂上でキヴォトス最強を決めるべく、失踪したはずの連邦生徒会長が待ち受ける。

 

「さあ、先生。私が勝ったら責任を取ってもらいますよ♪」

 

 そして始まる、最終決戦!!

 

 

 

 

「てな感じでどうだ?」

 

 男がニヤリと笑いながらそう言った。

 返事はない。皆、途中から笑い転げているからだ。

 それを見て男は思った。笑いは取れた、と。

 

「“実在する生徒をネタにするのはいかがなものかと”」

 

 唯一、ムスッとしている先生が言った。

 

「まあまあ、せっかくだからキヴォモンを愛でられるようにしよう。コマンドは話す、撫でる、舐める、うなじを吸う、でどうだ?」

「“いくら投資すればいいかな?”」

 

 男は先生の性癖を完全に把握していた。

 

「それ、ドット打ちする私の手が死ぬじゃん!!」

 

 お腹を抑え、息も絶え絶えのミドリが言った。

 

「グラフィックを用意するだけで何か月も掛かるよ」

「それに、パクリは良くない」

「オマージュといえ、オマージュだと」

 

 モモイとユズに追及され、男は笑いながら反論する。

 

「しかし、やっぱり残り九日で新作は現実的じゃないね」

 

 と、笑い終わったハレが言った。

 

「やっぱり前作を流用した、新作を作るのが一番かな」

 

 と、ユズが結論付けようとしたその時。

 

「いや、先生の案を採用しよう」

「え、リメイクを作るってこと?」

「違う。先生の案に新要素を追加する。

 ゲームはレトロ風でも、ポータルは現代だからな、追加DLCってわけよ。それを追加した完全版を新作として売り出す」

 

 そうして旧作を新作に仕立て上げると言うわけである。

 

「“か、完全版商法だって!?”」

 

 それを聴いて、先生は戦慄した。

 度々炎上の的になる、悪質なやり方であるからだ。

 

「“そんなことをしたら、ユーザーから反感を買う!!”」

「同時にセールをすればいい。まあ九割引きが妥当か」

「ちょっと待ってよ、そうしたらうちの部活の利益が減るじゃん!!」

「はあ?」

 

 モモイの主張に、男は下劣なモノを見る目で彼女を見た。

 

「てめぇは、てめぇのケツから出たクソと、口から出たゲロの混合物を他人に遊んで頂く上に、カネまで取ろうってのか?」

「そこまで言わなくても良くない!?」

「お前たちがやるのはそのクソとゲロを、最低限ウンコ味のカレー程度にまでの水準に引き上げることなんだよ!!

 他に案のあるものは居るのか!?」

 

 男が皆に問う。

 それ以上の良案が出るわけもなく。

 

「じゃあ、私達がミレニアムプライスに提出するのは、“テイルズ・サガ・クロニクル完全版”ってことでいい?」

 

 ユズが皆に確認する。

 渋々頷く者も居るが、全員が頷いた。

 

「じゃあ次はどんな要素を追加するかを決めよう」

 

 全員の企画会議は深夜まで続いた。

 

 

 そして翌日から始まる、デスマーチ。

 

 一日目:戦闘システムの簡略化、改善。

 

 テイルズ・サガ・クロニクルの戦闘には位置の概念が有り、マス目を指定しコマンド方式で技などを選択する方式だ。

 しかし、一見するとこの射程の概念は不親切で分かりにくく、相手の攻撃範囲はまったく表示されない。

 

「既存の戦闘システムの一からの見直しを提案する」

 

 と、ハレは言った。

 

「いっそのことレベルや経験値の概念を廃止し、ある程度元のゲームらしさを継承したシンプルな戦闘にした方が良いと思う。

 元の戦闘システムは面白さを追求しようとしたのはわかるけど、どうにも技術的に未熟で雑で余計な要素が多い」

 

 これを改善するだけで大分ゲーム性はマシになる、とこの天才エンジニアは主張した。

 

「スライムがいきなり銃をぶっ放す世界観は、個人的には魅力なんだがな」

「ちょっと触ったけど、カオスすぎるよ、モモ、ミド……」

 

 男は顎に手を当て、ゲームソースを解析しているハレの画面を覗き見る。

 普通にプレイしているマキは早々にドロップアウトしていた。

 

「せっかく、みんなで考えたのに……」

「割と気合を入れた部分なのにね……」

 

 思いっきり酷評され、ミドリとユズはがっくりと肩を落としていた。

 

「いっそのこと、戦闘はお互いに近距離、中距離、遠距離で統一したらどうだ?

 マス移動での射線回避を廃止し、武器とお互いの距離によって命中率が変動するというのは?」

 

 男が大胆な改善を提案した。

 

「毎ターン、移動するかしないかの駆け引きも生まれるし、良いと思う」

「あ、そうだ、命中判定をダイスで表現するのはどうかな?

 TRPGっぽくて、更にレトロな感じがしない?」

 

 モモイの発案に、ハレは面白そうだと頷いた。

 

「十面ダイスで命中判定なら、元の雑で理不尽なゲーム性が反映されていて面白いね、一から構築してみよう」

「作業量が増えるから、武器の種類は十個ぐらいにして、敵の種類もそれくらい絞りましょう」

「昔のゲームみたいに、色を変えて上位個体を表現してみようか」

 

 流石はプログラムの専門家と言うべきか、ハレとコタマ、マキは次々とゲームシステムの意見を出してくる。

 

「基本、一対一での戦闘にしよう。複数の敵とは戦わない感じで」

「初代ドラクエみたいだね!! よりレトロ感が出てきた!!」

「複数の敵と戦うと、確率を考慮するのは面倒だしね」

 

 モモイは喜んでいるが、ハレはより現実的な意見を述べる。

 

 このようにして、劇的な戦闘システムの改善が行われた。

 

 

 三日目:フラグ管理及び改善。

 

「あああああ、この会話頭がバグる!!」

 

 マキが悲鳴を上げている。

 モモイのシナリオを読み返し、進行フラグのヒントを表示させたり、分かりやすくすると言ったところをユーザーフリーにしようと試みている。

 

「すみません、ここは正常な会話が成立しているのですか?

 アリスの会話スキルが低いので、まだ理解できてないだけですか」

「いや、これは元から意味不明だよ」

 

 モモイ節を維持したままのシナリオを個性として続投することは決定したが、アリスが眼を回しミドリはその出来に目を覆っていた。

 

「“モモイ、あとで国語の勉強をしようね”」

「皆して酷くない!?」

 

 真剣な表情で言う先生。

 それを受けて悲鳴を上げるモモイだった。

 

 

 五日目:追加要素の実装。

 

 追加要素は高難易度マップに謎解き、裏ボスに、更なるシナリオ。

 

 モモイは先生の監修を受けながら、初日から温めていたシナリオを起こしていく。

 

 ミドリとユズはヴェリタスの面々と裏ボス戦のギミックについて検討している。

 

 アリスは改善を施した既存のゲームを延々とデバック作業をし続けている。

 

 

 八日目:全面デバック作業。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 皆、一心不乱に死んだような目でゲームをしている。

 

「あ、火炎放射器を近距離の位置で長距離の位置の敵を攻撃すると絶対当たらないっぽい」

「元々ほぼ当たらんだろそれ、良く見つけたな」

 

 エナドリを配っている男が、マキが見つけたバグを賞賛した。

 

「……ここ、特定の行動でマップ外に侵入できちゃう」

「あああ、またバグぅぅぅ!!!」

 

 ゲーム製作で、最も苦しいのがバグの発見と修正だ。

 フラグ管理が間違っていたり、予想外の位置からマップ外に出たり、ととにかく人力で発見するほかない。

 

 バグの発見と修正の作業は、徹夜になったのは言うまでもない。

 

 

 そして、十日目。

 反省部屋から解放された面々は、ゾンビのようになりながら各々の部室に戻った。

 

「テイルズ・サガ・クロニクル完全版、アップロード完了!!」

 

 ユズがそう宣言すると同時に、四人は力尽きて部室に倒れた。

 すぐに彼女らの寝息が聞こえる。

 

 先生は彼女達にそっと毛布を掛けた。

 こうして、彼女達の戦いは終わった。

 

 

 

 

 しかし別のところで、戦いの準備が始まっていた。

 

「ボス、エンジニア部の協力を経て、強襲班の新装備の習熟度は満足のいく段階に至りました」

「いや、マジですごいよな!!

 あの距離の動く的に百発百中とか……まるでコミックだな」

 

 男は気取ってゲームキャラのセリフを諳んじる。

 

「……もう、お前たちを落ちこぼれと言う者は誰も居ないだろう。Wolf小隊は今この時、真の完成を迎えた」

「ッ、はい!!」

「俺の予感、いや、“リトルシスター”の物言いからすると、このまま何も起こらないまま終わり、なんてことはないだろう」

 

 男は笑う。

 戦いの予感を感じ取って。

 

 彼らと、彼女らを駒とする、両者の駆け引きが、暗闘が始まろうとしていた。

 

 

 

 §§§

 

 

 地獄のゲーム開発を終えた面々は、卓を囲みキャンペーンを始めていた。

 

 今日のゲームマスターはモモイだった。

 

「王都セミナルを出た皆は、魔法ロボに搭乗して東に進んでいく。

 とりあえず、最初の目的地は近くの街になるね」

 

 王命を受けた四人は、破滅の原因を探る為に大賢者に会いに向かうことになった。

 

「そういや、破滅の名前は“サーシュウ”だったっけか?

 モモイ、お前どういうセンスしてるんだよ」

「何でも、最近大分課金してたソシャゲがサ終したの引きずってるらしくてさ」

「それでサーシュウかよ」

 

 ミドリの話を聞いて、男はサイコロなどの小道具を集めながら笑った。

 

「道中のランダムイベントはありますか?」

「ううん、必要無いよ」

 

 アリスの問いに、モモイはにやりと笑って返した。

 

「王都を出てしばらく進んだ皆は、異様な集団を見つけたんだ!!」

「ヘルメットゴブリン団に、スケバンオーク、次は何かな」

 

 モモイの特異なワードセンスから繰り出される敵キャラの数々に、ユズは苦笑している。

 

「彼らは甲冑を纏ったエルフ達だったよ」

「それのどこが異様な集団なの?」

「全員が道を塞ぐように座り込みをしてるからだよ!!」

「はい?」

 

 モモイの描写に、ミドリは首を傾げた。

 

「さて、皆はどうする?」

「とりあえず、魔物じゃないし、ロボを下りて話しかけます」

 

 ユズが代表してそう言った。

 

『我が名は千年魔導王国に仕える騎士ユズリハである。

 君たち、道を開けて欲しい』

『それは出来ない』

 

 モモイがエルフ達のロールプレイをする。

 

『我々は目覚めし騎士団。

 魔法兵器マジックポットの排出する廃棄魔力は空気や森を汚染する。

 王都セミナルの魔法兵器配備に反対し、抗議活動をしている』

 

「……は?」

「要するに、環境活動家ってことだろ」

 

 未だ理解していないミドリに、男はそう説明した。

 

『ところで、諸君らの部隊にはなぜダークエルフが居ない?』

『それは、どういう意味ですか?』

『ダークエルフは古来より偏見による不当な差別を受けている!!

 我々目覚めし騎士団は多様性と包括性を重視し、それを拒絶し彼らを不当に差別する者どもを許さない。

 なぜお前達のパーティにダークエルフが居ないのだ!!

 我々は多様性を顧みない貴様らに断固抗議する!!』

 

「……? じゃあなぜ今の描写から、彼らにダークエルフが居ないのですか?」

 

 モモイのロールプレイにアリスが疑問を呈した。

 

「私達、人間、獣人、ロボの多様性に満ちたパーティなんだけど……そもそも獣人差別はいいんかい」

「いろいろな活動家の要素が悪魔合体してる……」

 

 また姉の狂った設定に呆れるミドリと、戦慄しているユズ。

 男は大爆笑している。

 

「はい、じゃあ皆さん戦闘でーす」

「相変わらずヤバいセンスしてるな、モモイ!!」

「だって、私達ゲーム開発部だよ。

 ……じゃあゲーム開発の敵はこういう連中じゃん!!」

 

 徹夜明けのテンションなのか、死んだ目のモモイがそう言った。

 アリス以外の三人が思った。これは相当キテる、と。

 

「よーし、マジックポットで轢殺してやろう。

 お望み通り、連中を道路のシミにしてやる」

「はい、私達の多様性を思い知らせてあげます!!」

 

 アリスは元気にサイコロを投げた。

 

 そしてイキリ雑魚どもを蹴散らすと。

 

『貴様らは名誉ウッドエルフと認定したぞ。

 貴様らは魔王四天王の一人にして我らの団長、フェミニー様が必ず制裁を加えるだろう!!』

 

「そんな感じの捨て台詞を言って、エルフ達は去って行ったよ」

「魔王!! やはり破滅の原因は魔王の仕業ですね!!」

 

 モモイの匂わせに、アリスは無邪気に楽しんでいる。

 

「こんなのが手下とか、魔王も可哀想だがな」

 

 なんてぼやく男だった。

 

「それにしても、今回随分と処理が早かったね」

 

 ユズがそう言った。

 戦闘では沢山のダイスを振るので、ひと試合で一時間以上掛かることも少なくない。

 今回はその半分以下の時間で済んでいた。

 

「あ、私もそれは思った」

「ふっふっふー、実はヒマリ先輩が便利なアプリをくれたんだ!!」

 

 モモイは妹に、ドヤ顔でスマホの画面を見せた。

 

「……ポーンマス? ああ、AIサポートアプリか。ちょっと前に流行ったよね」

 

 ミドリがスマホを覗き込むとそう言った。

 

「これからはAIの時代なんだよ!!

 宿題も代わりにやってくれたし」

「お姉ちゃん、それ禁止」

「何でさ!!」

 

 乳繰り合う二人を、男は面白そうに見ていた。

 

「やっぱりミレニアムでもAIとか研究してるんだな」

「うん、それ専門の部活もあったと思うよ。

 人間の知能に挑戦するとかで、いろんなボードゲームを学習させてるらしいよ」

「電脳戦みたいなものか? そりゃあ面白そうだな」

「最強の格闘ゲーム用AIとか、対戦してみたいよね」

「いや、流石に物理的に難しいと思うぞ……」

 

 男がユズとそんな雑談をしていると、スマホにメッセージが入ったことに気づいた。

 

「あー、悪い。仕事だ」

「じゃあ今日はここまでにしましょう。モモイも精神に来てるみたいですし」

 

 ユズの言葉に、そうだね、とミドリも頷いた。

 

「えー、私は大丈夫だよ!!」

「ダメです、今日はお休みしましょう!!

 今日はモモイがちゃんと寝るまで、アリスは添い寝ヒーリングを実行します!!」

「私もゲームとかしないように見張ってようかな」

「もう、やめてよ二人共!!」

 

 三人のそんな微笑ましい様子に、男は本当にほっこりしていると、次のメールが来て催促された。

 

「じゃあ、ちゃんと疲れを抜けよ、お前ら」

 

 そう言って、男はゲーム開発部から外に出た。

 

 そしてその足で特異現象捜査部の部室に足を運ぶ。

 

 

「何の用だ、ヒマリお嬢ちゃん」

 

 部室のドアを開けた男は、室内に入ることなく反射的に立ち止まった。

 

「おや、用が無ければ呼んではいけませんか?」

 

 パソコンに向かっているヒマリが、車椅子ごしに振り返って微笑んだ。

 

「……どうかしましたか?」

 

 一向に部屋に立ち入る様子の無い彼に、ヒマリは不思議そうにそう言ったが。

 

「俺がこっちに来る前の話だが」

「はい」

「死体をオモチャにして悦んでるクソみたいなネクロマンサーをぶち殺してくれって依頼されたことがある。

 相手の事をよく知らないで戦いに行くバカは居ない。

 だから俺は知り合いのバフォメット族の黒魔術師に、ちょっとしたレクチャーを頼んだんだ」

「それは賢明ですね」

「この部屋は、そいつの工房と全く同じ雰囲気だ」

 

 少なくとも、先日呼び出された時とは全く違っていた。

 男はそう感じた。

 

「元々オカルトかぶれだって聞いてはいたが、どこぞで魔導書でも見つけたのか?」

「ふふふ、キヴォトスにもそう言ったオーパーツは有り触れていますよ」

「まあ、あんたがそのネクロマンサーみたいに、ハスターを召喚するとでも言わなければそれでいいさ」

「それはそれで一興かもしれませんが、個人的には神性との接触よりその過程の研究にこそ意味があると思いますね。

 ただ……」

「ただ?」

「今はそう言うのはお腹いっぱいです」

 

 ヒマリは心底うんざりとそう言った。

 

「……まあ、お前は好みだから信じてやるよ」

「そう言うと思ってました♪」

「やれやれ」

 

 男が部室に入る。

 文字通り、中と外は別世界だった。

 

 機能的な学校の部室は、六芒星の魔法陣、ライオンの置物、ターバンらしき布切れ、金髪のウィッグ、瑠璃のネックレス、マスカラ等々、用途が分からないモノばかりが置かれていた。

 ただ、それらの物品には科学的ではない“意味”があると男は思った。

 

 間違いなくこの部屋は、魔術師の工房だった。

 

「ある意味丁度良かったのかもしれん」

「何がですか?」

 

 男がヒマリの横まで来ると、溜息と共に上着を彼女に被せた。

 彼女は素っ裸だったのである。

 

「この部室には痴女しか居ないのか」

「あ、これは性癖ではなく、伝承的再現の儀式の一環で、その過程で服を脱ぐ必要があったのです!!」

 

 よほど儀式に集中していたのか、ヒマリは今ようやくその事実に気づいて顔を真っ赤にして取り乱していた。

 

「ところで、どんな儀式をしてたんだ?」

「冥界下りの検証です」

「なるほどな」

 

 多少黒魔術に造詣がある男は、納得して見せた。

 

「冥界下りの伝承は、世界的にいくつかの共通点があるからな。

 伴侶を失った者が死者の蘇りの為に冥府に下ったり、扉の奥を見たり後ろを振り返ってはいけなかったり、冥界のモノを食べたら帰れなくなったり、そして、身に付けた物を手放したり」

「ええ、理解が早くて助かります」

 

 死者への再会、或いは復活。

 魔術を修める動機としては有り触れたものだろう。

 冥界と、色恋沙汰は切っても切り離せない。

 

「さて素っ裸になるのはどの神話だったかな……。

 それにしてもお前、……くくく、誰か蘇らせたい相手でも居たのか?」

「ふふふ、元カレって言ったらどうしますか?」

「滾るね」

「え?」

「男ってのは他人と比べられるのを嫌うんだ。例えば、夜の生活とかな」

「セクハラですよ……」

「どっちがだよ」

 

 せめて呼び出す前に服を着ろよ、と男は呆れてそう言った。

 

「流石に現在進行形で恋人がいる奴に手を出すことはしないぜ?

 だがもし俺がお前の昔の元カレから心をモノにできたら、それは俺が前の男に勝ったことになる。

 罪悪感も無いし、優越感も得られる。何より、他人の物を欲しくなるのが、ヒトのサガってもんだろ?」

 

 あと生娘とかメンドイ、と男はぼやいた。ロリコンのくせに。

 

「本当に、おかしなヒトですね」

「俺は」

 

 男はヒマリの頬に触れた。

 

「こんな埃被った面倒な儀式なんてどうでも良くさせてやれる。

 お前の昔の元カレなんて、忘れさせてやるぞ」

「……はい」

 

 だが、すぐに我に返ったヒマリは咄嗟に胸を抑えた。まるで心臓の音を聞かれたくないと言うように。

 ただ、彼が被せてくれた上着により密着する形になり、逆効果になったのは彼女しか知らない。

 

「わ、私は自分の趣味に口を出す人は嫌いです」

「安心しろ、俺も同じだ。愛も恋も、熱量は有限だ。

 四六時中べたべたのバカップルなんてイヤだね。男にはプライベートな時間が必要なんだ。それが男女の仲を長持ちさせる秘訣だ」

「それは女子も同じですよ」

「それよりも、仕事って何なんだ? 例のビッグシスターの件か?」

 

 男はヒマリに色々と聞きたいこともあったが、まあ今度で良いか、と用件を尋ねた。

 

「……実は、欲しいモノがあるので、買い物に付き合ってほしいのです」

「もう一人の痴女ちゃんは?」

「何気に私を痴女にカウントしないでくれませんか?

 エイミなら別の調査を頼んでいるので不在です。

 勿論、依頼料は払いますよ」

「ド阿呆。女の買い物に付き合うのは男の甲斐性だ。カネなんて居るか」

 

 男はヒマリに即答した。

 ただでさえ彼女は身体が不自由なのだ。男性の自分が頼られて、断ったら男が廃る。

 

「ありがとうございます。

 ではそこにある着替えを取ってくれますか?」

「はいはい」

「着替えも手伝ってくれますか?」

「ああ、シモの世話も必要か?」

「やっぱりいいです」

 

 わかっていてノンデリ発言をする男に、ヒマリは着替えを取って貰って、もうッもうッ、と内心苛立って頬を膨らませる。

 そんな子供っぽい仕草を背中越しに感じ、男は面白そうに笑っていた。

 

 男にとって恋愛とは、駆け引きである。

 知恵と教養のある女性を手玉に取り、その心を征服した時、男としてのランクが上がると信じているのである。

 

「終わりましたよ。では行きましょう」

「了解っと」

 

 着替えが終わるまで背中を向けていた男がヒマリの車椅子の後ろに回った。

 男が車椅子を押して、二人は部室から立ち去った。

 

 

 

 そして二人が赴いたのは、トリニティの自治区にある店だった。

 

「パワーストーン専門店か」

「ええ、特定の素材のモノが必要なので」

 

 オカルト好きには如何にもな場所である。

 

「ああ、これです、これ。

 店員さん、このカーネリアンのビーズはありますか?」

「はい勿論。当店は手芸用のパワーストーンも取り扱っております」

 

 ヒマリの要望に、店員は即座に答えて見せた。

 流石はトリニティ学園のお嬢様方御用達と言ったところか。

 

「こちらをどうぞ」

「ええ、ありがとうございます。

 とりあえず、有るだけください」

「かしこまりました」

 

 ヒマリは要望のパワーストーンを買い占めた。

 とは言え、特定の人気が有るわけでも無い加工済みの代物なので、大した量ではなかったが。

 

「後はこれを装飾品に加工するだけです」

「手芸はできるのか?」

「ビーズですから、糸を通すだけですよ」

「得意な奴に任せた方が良さそうだな」

 

 ヒマリは男の腕の皮膚をつねった。

 男は気にせず車椅子を進めた。

 

 結局、今のパワーストーン専門店から装飾品に加工する業者を紹介してもらい、そこに依頼することになった。

 

「ブローチで良かったのか?」

「資料には形状について言及されていませんでしたから。

 当時使用されていたカーネリアン、それをビーズ状にした胸元に身に付ける装飾品ならば何でも良かったのです」

「なるほどな」

 

 魔術的なアミュレットの制作という用件は、これで済んだ。

 

「せっかくトリニティまで来たんだ、何か食って帰るか?」

 

 男が空を見上げると、もう夜空に星が浮かんでいる時間帯だった。

 

「おや、ディナーのお誘いですか?」

「いや、普通に飯に誘っただけだろ」

「おやおやおや? こういう時こそ、女性をエスコートするべきでは?」

「やれやれ。じゃあちょっと奮発して、どこかの高級ホテルのレストランにでも行くか」

「ほ、ホテルですか……」

「おッ、口コミで評判のところの予約も取れた、ラッキー。これから行こうか」

「は、はい……」

 

 そして、二人がトリニティでも有数の高級ホテルの最上階のレストランに赴くと。

 

「“やあ、今日はごちそうになるよ”」

「……」

 

 なぜか現場には先生がいた。

 真顔になるヒマリ。

 

「いやあ、流石に生徒と二人きりでホテルで食事ってのは気が引けてなぁ!!

 先生も同伴なら健全だろ、なッ、ヒマリ!!」

 

 完全に乙女心を弄んでる男に、ヒマリは無理やり笑ってこう言った。

 

「では、私も滅多に見れないモノを御見せしますね♪」

 

 ヒマリは普段は見ることが出来ないと言う、己の愛銃を足に掛けているブランケットの下から取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





R18版を読んで下さってる読者の皆様は承知でしょうが、主人公がヒマリを味方にする方法が……うん、アレなので、どうやって仲間にするのかが今章の課題でした。
作者は考えました。いかにあの部分を健全にするか……。

せや、二週目ににすればええやん、と思い至りました。
ヒマリのキャラ設定的にも許されるかなって。

これからは徐々にあちらとの変化を書いていくつもりです。

ではまた、次回をお楽しみに!!
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