キヴォトスに墜ちた悪魔 エ駄死Ver   作:やーなん

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多少の手直しと、後半に二千字くらいのエピソードを追加しました。


目と目が合ったら、キヴォモンバトル!!

 

 

 

 

 ミレニアムプライスの発表は締め切りから三日後。

 締め切り当日は夜中まで見ていたゲーム開発部の面々だったが、モモイはユーザーの評価が気になるとゲームをアップロード。

 

「ゲームクリアまでの想定時間は六時間、完全版は以前とのセーブデータとの互換性が無いから、皆最初から遊ぶことになる。

 そろそろ裏ボスまでクリアした者も現れるだろう」

 

 そわそわしている四人を宥めつつ、男はその時を待った。

 

 前評判も有り、想定したゲームクリア時間程の時間を経て数多くのレビューが届いた。

 

「なによこれ!!」

 

 そして、その内容に目を通したモモイは激怒した。

 

『以前足りないのは『正気』だと評したが、足りないのはシナリオライターの正気だと訂正しよう』

『完全版になってそこそこちゃんと遊べるようになってて草生えるww』

『最後までちゃんと遊べるようになって分かる、ライターの狂気よ』

『あのクソゲーが良作になってしまって悲しい。

 追加シナリオもライターのぶっ飛んだシナリオが控えめになってしまった』

『今度はシステム面は外注したのかゲーム性は良好。シナリオは相変わらずだが個性的なのは評価したい』

『完全版に添付されていた設定資料集を読み込んだけど、余計頭が混乱しそう……』

『戦闘システムが武器に依存してるので、新しい武器を手に入れる高揚感が得られるのはグッド。次回作以降は戦闘時も武器を換えられるようにしてほしい』

『オートセーブが実装されたから、初見殺しの理不尽度合いが減った印象。シナリオは訳わからんけど、ヒント機能や目的地の表示が充実し、最後まで遊べてしまえるのが悔しい』

『完全版商法は許せないが、ここまで別物だと納得するほかない。セール中だし』

 

「殆ど私のシナリオがやり玉に挙げられてるじゃん!!」

「いや当然だろ」

 

 男はモモイに冷静にツッコミを入れた。

 

「思ったより好意的な意見ばかりで、よかった……」

 

 悪評や酷評がトラウマになっていたユズは、安堵の息を吐いた。

 

「ヴェリタスの副部長だっけ? 

 あの反省部屋に入れられなかったメンバーが、問題児たちの面倒を見てくれたからってお礼にゲームに関係ない悪意あるレビューを弾くツールを作ってくれてな、それを導入したんだ。

 クソゲーだったからって冷やかしじみたレビューはこっちには表示されない」

「ああ、チヒロ先輩が……」

 

 ミドリはチヒロの厚意に感動していた。

 

 ダウンロード数は五千を突破。

 有名なポータルサイトで『あのクソゲーが』、みたいなネット記事まで出回り始めた。

 

「ほら、言っただろ。お前たちのゲームは望まれていたんだってな!!」

 

 初日で五千もダウンロードされるゲームなんて、同人ゲームでもある程度有名なサークルのに限る。

 

「うん、うん!!」

 

 その事実を受けて、ユズは涙していた。

 自分の夢が、本当の意味で報われた瞬間だった。

 

「後は本番、だけです!! 

 アリスは三日後に開催される新ダンジョンの攻略の準備をします!!」

「別に襲撃するわけじゃないからね?」

 

 モモイと遊んでいるネットゲーの影響を受けてるアリスを見て、ミドリが苦笑した。

 

 その光景を、先生は微笑ましく見ていた。

 

 その後の話は、語るまでもない。

 テイルズ・サガ・クロニクル完全版は、ミレニアムプライスで完全版商法は如何なものかと、という苦言を審査員に受けたものの、特別賞を受賞した。

 

 ゲーム開発部の存続は、学期末までは保証されたのだった。

 

 

 

 

 

 そしてこれは、その少し前の話である。

 

「じゃあお前ら、そろそろ俺の仕事を果たして貰おうか」

 

 ミレニアムプライスにゲームを提出し、ようやく男は自分がミレニアム学園に来た本来の目的を果たせる、と確信した。

 

「ああ、えーと、なんだっけ?」

「対テロ用の演習用ゲームだっての。

 少なくともお前たちにそれを出来るだけの技術があることはわかった」

「あ、そう言えば……」

 

 モモイだけでなく、ミドリまですっかりその依頼が頭から抜け落ちていた。

 それくらい激動の二週間であった。

 

「ど、どういうゲームにしたいのかな?」

「とりあえず、場所、時間帯、敵の人数、お互いの装備や敵の要求などなど、無数の条件からランダムで出題し、その時に応じた最適解を選ぶゲームだ。

 出来れば、敵の政治的要求に対する対応や、秘密裏の作戦の立案やそのロジックも試したい。十問や二十問ごとにスコアやクリアタイムを競えれば良いな。そして──」

「待って待って!! 

 そんな複雑なゲーム、私達にはまだ無理だよ!!」

 

 非常に細かい男の要求に、モモイが待ったを掛ける。

 

「う、うん、AIを搭載して条件を切り替えれば行けると思うけど、私達にそんな技術力は無いし……」

「AIのプログラミングのカリキュラムって誰も受講してないよね……」

 

 男の要求にユズとミドリも及び腰であった。

 

「うーむ、そうか? ちょっと難しすぎたか? 

 ならとりあえず、例題を用いた問題集程度で始め──」

 

 男がとりあえず様子見として、簡単なゲーム形式で試し、その結果を見て、改めて後から頼もうと思った、その時。

 

 

「──話は聞かせてもらったよ!!」

 

 バン、と部室のドアを開け、エンジニア部のウタハが現れた。

 

「う、ウタハ先輩!? 一体どうして……」

「ユウカから聞いたよ。

 急に反省部屋の改修工事を頼まれて疑問に思ってね。

 なんでも君たち、セミナーに襲撃を仕掛けようとしたんだって? 

 なんでそんな面白──大事なことを我々に相談しなかったんだい?」

「いや、その、相談する前に潰されたって言うか……」

「後輩たちのアグレッシブさを聞いて、私達エンジニア部も滾っていてね!! 

 一緒にイタズラごほん、なにか遊びでも誘おうかと思ったら、何やら面白い話が聞けたじゃないか」

 

 今日はやたらテンションが高いな、モモイ達はそう思った。

 

「私を口説いた貴方に興味もある。

 我々エンジニア部もそれに協力しようじゃないか」

 

 そしてなぜか、そう言うことになった。

 

 

 

 §§§

 

 

「例題67問。廃墟の五階に七人のテロリストが武装し潜んでいる。

 こちらは五人で、支援も無く地上から攻略しなければならない。

 この場合、どのように対処すべきか?」

『増援を要請し、確実に戦力を上回ってから攻撃に移行します』

「50点だ。ブービートラップを仕掛け、音か何かで少数ずつおびき寄せろ。

 こちらは奇襲を仕掛け、確実に数を減らす。それが理想だ」

『……学習完了』

 

 エンジニア部にて、男はひたすらにAI相手にシチュエーションを提示し、その回答を求め学習をさせていた。

 

「くっそー、なにがG-Bibleだよ!! 

 私達の苦労はなんだったのさ!!」

 

 モモイ達はゲームのシステム面を担当していた。UIや得点の獲得方法、ランキング画面を他の人間と共有できたりするように、と。

 

「まさか、ゲームを愛しなさい、ってメッセージだけとはね」

 

 モモイに続き、作業をしながらミドリも呟く。

 あの後、ヴェリタスの面々がやって来て、生徒会との交渉の結果、『鏡』と呼ばれるツールを一時的に使用させて貰えたと言ってきた。

 その際に、彼女達が廃墟で手に入れたG-Bibleの中身を取り出せたわけなのだが。

 

『ゲームを愛しなさい』、余計なことを省くと、G—Bibleの中身とはその一言以外に何もなかったのである。

 

「オオカミさんの言う通り、あれを当てにした私達がバカだったね……」

 

 ユズも神ゲーマニュアルの正体に落胆していた。

 ゲームが好きなら期待しない方が嘘だからだ。

 

「アリス知ってます!! 

 ワンピースの正体が、これまでしてきた冒険こそが真のお宝だって奴ですよね!! それと同じですよね!!」

「“それはまだ俗説だから!! 完結もしてないし、本当の事みたいに言っちゃダメだよ!!”」

 

 アリスの守備範囲がゲームからいつの間にかマンガにまで及んでいた。

 

「先生、ちょっといいかい」

「“どうしたんだい、ウタハ”」

「彼、オオカミさんだったか? 

 彼は一体いくつなのかな、と思ってね」

「“……多分、三十代後半ぐらいじゃないかな?”」

 

 男がAI相手に質疑応答しているのを横目に、ウタハがこっそりと先生に尋ねてきた。

 

「“以前、生徒たちを自分の半分も生きていないガキって言っていたことが有ったはずだから”」

 

 先生にとって、男は自分の倍は生きているようには思えなかった。

 そこまで年を取っていないようには見えた。

 

「それなのに、ここまで圧倒的な戦闘経験、状況を捻りだせるものなのか? 

 紛争地域に身を置いても、そうそう経験できるモノじゃないと思うのだが……」

「“……”」

 

 ウタハの言う通りだった。

 男はまるで、全ての状況を経験したかのように、そしてその対処をAIに学習させている。

 それだけでも常軌を逸している。

 

 もし彼の経験が本当なら、もう既に何百人も殺していることになる。

 ウタハが不審に思うのも無理はない。

 

 そしてもし彼が人生を戦いに捧げていたのなら、あれだけ豊富なゲームや漫画などのサブカルチャーの知識が豊富なのも解せない。

 男のサブカルチャーの知識は、聞きかじったと言うだけでは説明の出来ない生きた代物だ。

 才能だけでは決して説明不可能な、不可解な経験の蓄積が彼にはあった。

 

「オオカミさん!! 魔法攻撃も想定しましょう!! 

 スリープの魔法はシリーズ主人公も一発な強力な高等魔法です!!」

「アリス、邪魔しちゃダメだよ」

 

 男に無邪気に話しかけるアリスを、ミドリが引っ張っていく。

 

「全く。魔法なんて、あるわけ無いんだから」

「いや」

 

 だが、質疑応答を止めた男はミドリの言葉に真顔になった。

 

「……魔法の実在も考慮しよう。

 死霊魔術の使い手の工房に突入し、奴が集めた高い耐久性を持つ死体をパッチワークした巨人と、ゾンビ20体に遭遇したと仮定する」

『死体の巨人の耐久性を要求』

「最新式のパワードスーツ並みの耐久性と、500㎏相当の握力を有すると想定しろ」

 

 突然の路線変更に、モニタリングをしていたヒビキとコトリは困惑した表情になる。

 

『学習完了、個体名"巨人”に遠距離攻撃手段は無しと判断。銃撃が有効』

「死霊魔術師はグレネードランチャーに相当する爆破攻撃を使用、再使用で十五秒ほど詠唱と言う名の再装填が必要となる」

『学習完了、戦術を再構築……』

 

 男の突然の奇行に、ゲームシステムを担当していた面々も唖然となった。

 

「わぁ、わぁ!! オオカミさん、魔法は実在するんですね!!」

「ははは、多分、実在するさ、きっとな!!」

「わぁーい!! アリスは雷魔法を習得したいです!!」

 

 男の言葉に、アリスは喜んだ。

 他の面々がその意味を訊ねようとした、その時。

 

 

 ドガァン!! 

 

 エンジニア部の部室が揺れた。

 

「なに、砲撃!?」

「この砲撃は、カリン先輩の!!」

 

 モモイは動揺するがすぐに、ミドリはその正体を察した。

 

「ふむ、この部室内には迎撃用の装備も勿論存在している。

 しかし多分あちらはお構いなしだろうね」

 

 ウタハが冷静に分析する。

 同時に、爆音が部室を揺らす。

 

「やはり、来たか……」

 

 男は椅子から立ち上がった。

 

「羊飼いは嘘を吐いた」

 

 何を暢気な、と言いたそうなモモイは男の顔を見て固まった。

 

「狼が来た」

 

 ミドリはこの世のものと思えないモノを見たような表情の姉につられ、見てしまった。

 

「狼が来た」

 

 裂けたように笑う、男の顔を。

 

「狼が、来た」

 

 

 

「Wolf小隊、レディ、ゴー!!」

 

 

 すぐに、外で戦闘が始まる。

 

 爆音と銃声が響き渡り、激しい戦いが始まっていた。

 

「なに、何が始まったの!?」

「“多分……”」

「先生?」

「“大惨事大戦だ……”」

 

 先生が遠い目になった、その直後だった。

 

 バリン、バリン、と部室の窓を突き破って、小さな体と二人が部室に転がって来た。

 

 ネルだった。

 

「二対一とは言え、この私と渡り合えるとは、やるじゃねえか!!」

 

「くそ、全く勝てる気がしない、化け物め!!」

「このぉ、余裕を見せやがって!!」

 

 もう一方はWolf小隊の強襲担当、ムツニとナバトだった。

 

 そして始まる、銃撃戦!! 

 その姿は、一体の竜と二匹の虎の大立ち回りだった。

 

「先生、彼女らを止めてくれ!! ここには大量の機材やミレニアムの開発の中枢とも言える発明品が沢山!!」

「“……わかった!!”」

 

 ウタハの悲痛な叫びに、先生も意を決する。

 

「おい、ばか止めろ!!」

「“君に言われたくない”」

 

 まさに銃弾を浴びせ合う三名に立ち向かおうとする先生に、男が怒鳴るももう遅い。

 

「“両者とも、戦闘中止だ!!”」

 

 銃声が止まる。

 先生は彼女らの戦闘を止める権限なんて持っていない。

 

 だが、彼に万が一でも銃弾が飛ぶようなことはあってはならない。

 そう思わせる何かがあった。

 

「……なるほど、あんたが例の「先生」、か。

 その度胸、噂は大げさじゃなかったみてぇだな」

 

 ネルは彼の存在を認め、両手のサブマシンガンを下ろした。

 

 直後、部室の壁が爆破される。

 

「あれ、リーダー、止めちゃうの? 依頼は?」

「一先ず、リーダーの判断を仰ぎましょう」

 

 そうして出来た穴から、アスナとアカネが現れた。

 

「ボス、ご無事ですか!!」

「ち、死んでなかったかッ」

 

 すぐに同じ穴からトリコとウズが入って来る。

 

「まあいい、私らはそこの、無駄にでけぇ武器を持ったそいつに用がある」

「……? アリスに、ですか?」

「そうだ、てめぇに用がある」

 

 ネルがアリスを銃口で示す。

 即座に、ゲーム開発部の面々が彼女を守るように展開し、武器を取る。

 

「ちょっと面貸せよ」

「あッ、アリス、これ知ってます!! 

 これが所謂、メンチビームって奴ですね!! 

 先生に手を出すと、所謂“しゃばい”ので、チビメイド様は戦闘を止めたわけですね!! 

 でもなぜ、チビメイド様は所謂うんこ座りをしていないのでしょうか? メンチビームはその態勢でやるものだと伝統が──」

「チビチビうるせぇよ!!」

「あ、もしかしてチビメイド様がアリスに用があるのは、喧嘩で仲間にして、他の学校の不良の頂点を目指し、男の中の男を窮めるためなんですね!!」

「あたしゃ、女だ!! ふっざけんなよこのガキッ、何度も何度もチビチビ言いやがって、ぶっ殺されてぇのか!!」

 

 激怒するネルの気迫に、多くの面々が気圧される。

 

 だが、そうでは無い者も居た。

 

「おたくら、“ビッグシスター”の手のモノだろ? 

 こっちは“リトルシスター”の依頼で、アリスを守ることになっている」

 

 ネルの体型を舐めるように見てから、男は笑みを深めて言ったのだ。

 

「リトルシスターだって?」

「ああ、(胸が)リトルシスターさ。お前たちは(胸が)ビッグシスターの依頼だろう?」

「ふん、まあいい。誰が相手か知らないが、こっちの依頼主は隠す必要は無さそうだな」

「リーダー、恐らくヒマリさんのことかと」

「あー」

 

 アカネの言葉に、ネルもようやく思い当たったようだ。

 

「ビッグシスターって、まさかリオ会長!? 

 セミナーの会長が、なんでアリスを襲わせるの!!」

「知らん。あたしらは依頼をこなすだけだ。そこに恨みも何もない」

 

 ミドリの叫びに、ネルはあっさりと答えた。

 

「お互いに自分らの雇い主の事はよく分からんらしい。

 まあいいさ、お前ら」

 

「はい!!」

 

 Wolf小隊の四人が、集結しアリスの前の盾になる。

 

「ふん、もうすぐ廃校になるはずのSRTに、既に亡霊がいるとはな」

「おっと、もう調べは付いたのか」

「幽霊の正体見たり、枯れ尾花。落ちこぼれの自主退学した名も無い四人組……。正体を知った以上、恐れるモノはありません」

 

 ネルが鼻を鳴らし、アカネは淡々と人狼の正体を言い当てた。

 

「申し訳ないですが、その情報はいささか古いかと」

「そのすまし顔を傷だらけにして二度と人前に出られないようにしてやる!!」

 

 トリコとウズが牙をむき出しにしたオオカミのように吼える。

 

「もう勝った気でいるのかな、赤ずきんちゃん?」

「我らは野良犬ではない、神の手首さえ噛み千切る、大狼だ!!」

 

 ムツニとナバトが挑発する。

 

「……そうか、狼の最後ってのは、腹に石を詰められ、井戸の下に突き落とされるもんだ。

 散々C&Cをコケにしたこと、後悔させてやる!!」

 

 挑発され、冷静さをかなぐり捨てたネルが銃を構える。

 同時に、アスナとアカネも武器を構えた。

 

 本格的な戦いが始まろうとした、その時。

 

 

「その勝負、待った!!」

 

 ウタハが、両者の間に割って入った。

 

「ウタハ先輩!?」

「その勝負、このエンジニア部が預かる!! 

 具体的にはここで暴れられたら、我らが野宿する羽目になる!!」

 

 ウタハの必死な主張に、微妙な空気が流れる。

 いや寮に帰ればいいじゃん、と思うかもしれないが、ここの面子が部室に泊まり込みをしない筈もなく、寮はからっぽかそもそもお金の無駄ッとコストカットしてるモノも多かった。彼女もその一人である。

 

「どうせなら、近場の演習場でやると良い!! 

 我々も君らのデータが取れるし、君たちも穏便に決着が付けられる。どうかな!!」

 

 

「……いいだろう」

 

 ネルは再び銃を下ろした。

 

「そっちには狙撃手は居ない。

 だからお前達四人にアリスを加えた五人で、わたしらの相手にしろ」

「こっちの人数が上で良いのか?」

「なんなら、そこのチビどもも勘定に入れて欲しいか?」

 

 ハンデにはちょうどいい、とネルが挑発を返す。

 

「いや、五人で良い。アリス、構わないか?」

「任せてください、レイドバトルですね!!」

「ああ、遊んでもらえ」

 

 男はアリスの頭を撫でた。

 

「先生、それで良いな?」

「“なるべく、お互いに怪我はしないようにね……”」

 

 先生はハラハラドキドキしているのか、不安そうに皆を見ていた。

 

「良し、ヒビキ、コトリ、観測機器を用意するぞ!!」

「はい部長!!」

「うん」

 

 部長の命令を受け、ヒビキとコトリが装置を取りに向かう。

 

「お前達、耳を貸せ。勝利条件を伝える」

 

 男の呼びかけに、Wolf小隊の四人は集まり、こそこそと話をした。

 

「なんですか、アリスも、アリスも内緒話したいです!!」

「これはお前には関係ないさ、気にするな」

 

 そして、場所は改められ、ミレニアム学園の演習場に移動する。

 

 各員、五分の時間を与えられ、配置が行われた。

 

 

「では、始めてくれ!!」

 

 ウタハの言葉と共に、戦いの火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 §§§

 

 

 十数分前。

 

 

 ミレニアムの制服を纏った二人の生徒が、エンジニア部を遠巻きに見ていた。

 

「ようやく仕事を始めてくれましたね」

「そうだな」

 

 道端での雑談を装う二人は、傍から見れば下校中の生徒にしか見えない。

 

「全く、毎日動画編集と風紀委員会に報告する身にもなって欲しいですよ」

「そうね」

「……我々は、必要とされてるんでしょうか」

「ボスを疑うの?」

「そう言うわけじゃ……」

 

 不満、いや不安を示すウズに、トリコは目を細めるだけだった。

 

「我々の使いどころはボスが決める。

 待機と言われたら待機で、戦えと言われたら戦うのよ」

 

 そして当然、死ねと言われたら死ぬ。その覚悟が四人にはあった。

 

「それは、分かってます。

 でも、ボスは勝手に付いてきた私達を許してくれました。

 もう何もしないなんて、耐えられない……」

「そうね……」

 

 SRTの学籍があった時、四人は居場所があった。

 そこから離れた今、彼女達は何者でも無かった。

 

 焦燥が、偉大な先輩達が、自分達の背中を見ているような気分だった。

 

「だけどボスに付き従って、ずっと私達は走り続けてきた。

 今は休む時かもしれない。兵士に休息は大事だもの。その上で、風紀委員会の仕事をしても良かった」

 

 トリコはそのように考えを述べた。

 男はWolf小隊の四人に最低限の束縛しか与えなかった。

 それは、SRTに居た頃とは違っていた。

 

 時間厳守、タイムスケジュールは分刻み、全てが集団行動、集団生活。

 毎日が精鋭となるべく、心身を鍛えられる毎日。

 それがSRTの生活だった。

 

 そこを脱してからも、彼女らは同じような厳しい環境を己に課した。

 

 男は四人に自由を与えた。

 ただ、それを四人が欲していたかは別だった。

 

 もっと強くなりたい。もっと役に立ちたい。

 もっともっと憧れに近づきたい。もっともっと愛されたい!!

 

 ……もう、誰にも必要とされないのは、イヤだった。

 

「どうしても不安なら、ヒナ委員長に命令を貰えばいい。ボスもきっと褒めてくれる」

「姉さん、それはわかってるんです。

 私達がヒナ委員長に仕えることに異論はありません。

 ですがそれでも、あくまで私達はボスの陪臣として仕えるに過ぎない。違いますか?」

 

 ぱんッ、とトリコは反射的にウズの頬を張った。

 

「それをボスに言ってみろ。今度こそ私達は捨てられる」

「……すみません」

「我らの誓いを忘れるな」

 

 ウズは泣きそうになりながら頷いた。

 

 その時だった。

 二人の近くの地面が抉れた。

 

 狙撃だ。

 

「50口径、アンチマテリアル弾!!」

「狙撃手!!」

 

 それを確認した二人は即座に行動に移した。

 着弾地点から狙撃位置を割り出し、壁を背にする。

 

 キヴォトスの住人は頑丈なので、ライフル弾くらいでは止まらない。

 確実に一撃で行動不能にするには、戦車の装甲を想定した対物ライフルを持ってこないとならない。

 SRTでも狙撃手は対物ライフルが基本装備だった。

 だから二人は風切り音と着弾の威力で敵の兵科を見極めた。

 

「こちらWolf1,狙撃を受けた!! 応答せよ!!」

 

 トリコが仲間に無線で呼びかける。

 さっきの狙撃は、いわば威嚇射撃。

 

 やろうと思えばどちらかの眉間に当てることぐらいわけないだろう。

 それをしなかったというのは。

 

「ムツニ、ナバト、相手からの宣戦布告の合図だッ!!」

 

 トリコはそう判断した。

 

「ボスに連絡は!?」

「もう気づいているでしょ!!」

 

「ねえ、さっき叩いてたけど、喧嘩でもしたの?」

 

 無造作に、二人の間合いにアスナが現れた。

 これからガールズトークでもするかのような、そんな気軽さで。

 

「Wolf小隊、エンゲージ!!」

 

 二人が愛銃を抜いた。

 

 

 

 

 ほぼ同時刻。

 

 

「ボスはいつまであいつらと遊んでるんだろうな」

「さあねぇ」

 

 トリニティの校問の外で、スケバンの格好をしているナバトとムツニが壁に背を預け待機していた。

 

「私はこうしてる間も、一人でも多くの悪党をぶちのめしたいのに!!」

「悪党だって遊びたい時もあるよ」

「ムツニ、私達は証明しないといけないんだぞ!!」

「私は、でしょ。主語を大きくしないで」

 

 いきり立つナバトに対し、ナバトはのんびりとしたものだった。

 

「どうせ、今の私達を先輩達は認めてくれないよ」

「……わかってるさ!!」

「今の私達は、逃げ出した先で、自分達より弱い奴を倒してるだけだもん」

「分かってるって、言ったぞ!!」

 

 ナバトはマスク越しに相棒を睨みつけた。

 

「だからこそ足踏みなんてしてられない。

 この世の邪悪を、一人でも多く打ち倒すんだ。

 SRTの皆が出来ないことを、私達がするんだッ」

「あはははッ、でも私達より皆の方が出来ることは多いよ」

「からかうなよ、そう言うことじゃないだろ」

「メイド部の連中を倒したら、証明できるかな?」

「……おい」

 

 発言内容が安定しない相棒に、ナバトは目を細めて見せた。

 

「徒競走でもしろっていうのか?」

「ナバトは先輩達とどっちが強いと思う?」

「先輩達」

 

 ナバトは断言した。

 彼女らは敵対者じゃないと諫めたその口で。

 

「所詮、数年前までどこにでもある中堅規模の学校程度に過ぎなかったミレニアムの田舎部活と、キヴォトス中から選抜されたエリート中のエリートである我らSRTの部隊を比べる方がどうかしてる」

 

 その言葉に、ムツニは無邪気に笑った。そうだよね、と言いたそうに。

 

 

「聞き捨てならねぇな。誰が田舎部活だって?」

 

 赤毛が風に揺れ、言葉を風が運んできた。

 

 目と目が合う。

 二人の狼と、一人のメイドが。

 

「つーか、それを言うならそっちは五年の歴史も無い新興学校で、今まさに潰れ掛けじゃねえか」

「年齢しか誇るモノが無い奴は決まってそう言うな」

「年上なのに成長しない人も居るしね」

 

 イラっとしたが、ネルはむしろ獰猛に笑って見せた。

 喧嘩の相手は威勢のいい方が、彼女の好みだ。

 

「いい度胸だ。ちょっと面貸せよ」

 

 

 対峙する、両者。

 

 Wolf小隊の四人の無線から、声が響く。

 

 

『────羊飼いは嘘を吐いた』

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はWolf小隊の心境を追加しました。

次回は、手直しだけになりそうです。
バトル展開に余計な描写は挟めないですし。

その代わり、エピローグは……。
ではまた、次回をお楽しみに!!

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