キヴォトスに墜ちた悪魔 エ駄死Ver   作:やーなん

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本編に多少の描写の追加と、三千文字程度のエピソードを追加。
では、どうぞ。



プライドを掛けた戦い

 

 

 

 演習場は体育館数基分の巨大施設だった。

 元は戦闘ロボットの性能試験や、演習の為に使われる施設だったのだろう。

 

 都市部での戦闘を想定しているのか、三階建てのビルがマス目のように等間隔に並んでいる。

 

 そんな屋内の演習場に、三つの戦端が開いていた。

 

 

「オラオラオラ!! 防戦一方か、ああ!!」

 

 市街地の道路を縦横無尽に駆け回るネル。

 

「くそッ、くそッ、あの小柄と機動性で重戦車みたいな突破力してるよ!!」

「とにかく牽制を続けるぞ!!」

 

 ムツニとナバトは後方に移動しながら引き打ちを続ける。

 自分の有利な距離を保とうとするネルと、サブマシンガンの威力が減衰する距離を取ろうとする二人。

 

 二人の役目は、各個撃破を避けるためにネルを釘付けにすることだった。

 ネルも二人との戦いを望んでいる。

 

 しかし相手はキヴォトスでも最強格の個人。いくら元特殊部隊と言えども、二人では格が釣り合っていなかった。

 

 

 そして、もう一方の戦端。

 それはビルの室内にて行われていた。

 

「ウズ、ワイヤー爆弾です!!」

「ッ!?」

 

 トリコの声に、ウズは咄嗟に階段の入り口から距離を取る。

 銃撃でワイヤーを破壊すると、爆発が巻き起こる。

 

「勘が良いじゃーん!!」

 

 アスナのアンブッシュ!!

 煙の奥から銃撃なのに、恐ろしいほど弾丸は正確に飛んでくる。

 

「舐めるな!!」

 

 階段の踊り場に退避し、射線を切りながら手榴弾を投げるウズ。

 

 爆音!!

 しかし、手ごたえは無い。

 

「ち、屋内の襲撃は二人の専門なのに」

「仕方ありませんよ、トリコ姉さん。

 あのおチビちゃんを抑えられるのはあの二人じゃないと」

 

 アカネとアスナ、トリコとウズは追いかけっこをしていた。

 

 C&Cの立てた戦略は単純だ。

 ネルがムツニとナバトを撃破し、後は集結して各個撃破すれば良い。

 

 ネルが単身突撃して敵勢を荒し、残り三人が撃ち漏らしを“お掃除”をする。

 四人揃った彼女達の、勝利への黄金パターン。

 

 アカネとアスナは時間稼ぎをすればいい。

 無理に攻勢に出る必要は無い。

 

 ただいつも通りに戦えば、勝利は約束されている。

 実際、その通りになるだろう。

 

 C&C全員のスペックは、あらゆる意味でWolf小隊の完全な上位互換。

 Wolf小隊に出来ることはC&Cの全員で出来ないことは無い。

 

 このまま全員揃っての徒競走では、勝ち目がない。

 

 だから、Wolf小隊の四人は勝機を待っていた。

 いや、より正確には、────正気を疑う作戦の実行を待っていた。

 

 なにせ、この両陣営のルールでは、戦うのは四人と五人だけ。

 戦わない者の介入を防ぐルールは、無かった。

 

 

 

「凄まじい戦いだな……」

 

 演習場を見下ろせる観戦ルームで、強化ガラス越しでエンジニア部とゲーム開発部の面々が固唾を飲んで状況を見ていた。

 

 ウタハは感嘆の息を漏らしながら、カタカタと観測機器で戦闘データを収集している。

 

「アリスとカリン先輩、高度な狙撃戦をしてるのかな……」

「まだどちらも一発も撃っていないからね」

 

 各所に配置された監視カメラからの情報で、アリスがビルの屋上にいるカリンを補足し、タイミングを見計らっている。

 

「“アリスのレールガンは構造上、どうしても取り回しが悪い。必ずカリンの先制攻撃を受ける。撃ち合いになった時点で負けるなら、カリンを撃たせないまま同じ場所に拘束する方が良い”」

「逆に、あの褐色ちゃんが移動したら、建物ごと破壊できるアリスのレールガンの餌食になる。アリスは何もしないだけで、役割を果たしている」

 

 先生と男が戦況を分析している。

 

「戦況は五分五分と言って差し支えないでしょう。

 ですが、Wolf小隊の側が徐々に不利と言ったところでしょうか!!」

 

 コトリが各種戦闘データに興奮しながら現状を結論付けた。

 そして、この硬直した状況で最も重要なのは……。

 

「しかしあのおチビちゃん、マジ強いな。

 ポケモンで例えるなら、バリアーとひかりのかべを張ったバンギラスってところか。

 一体で六匹を全抜きできるような、どちらかというと無双ゲーの呂布ってところかな」

 

 ネルと戦う、ムツニとナバトの戦線だ。

 この二人が崩壊した瞬間、勝敗は決すると言って良い。

 

「なに楽しそうにしてるの!!」

「このままじゃ、アリス達負けちゃうよ!!」

 

 双子にも、分かる二人とネルとの格の違い。

 二人が彼女に撃破されるのは、時間の問題であった。

 

「まあ待て、あのお嬢ちゃんが幾ら補助技マシマシのバンギラスとはいえ、対処法が無いわけではない」

 

 男はニヤリと笑う。

 そして、通信機のスイッチを入れ、マイクを口元に寄せる。

 

「ムツニ、ナバト。“おにび”だ」

 

 

 

 その命令が届いた瞬間、二人の動きが変わった。

 

 二人でネルの銃撃のダメージを分散させていたのに、急に左右の二手に分かれたのだ。

 そして、ムツニはビルの曲がり角から奥に消え、ナバトは近くの建物の中へと逃げ込んだ。

 

「二手に分かれたな、時間稼ぎか、馬鹿め!!」

 

 二人でギリギリ持ちこたえていたのに、戦力を分散するのは悪手であるとネルは判断した。

 

 後は確実に一人を追い詰め、もう一人を始末する。

 それでゲームセットだ。

 

 ネルは脳裏にその絵図を思い描いた。

 

 そして、近場に逃げ込んだナバトを追うべく、ビルの窓を蹴破って突入した。

 

「なッ」

 

 そこで見たのは、──ガスマスクを着けて待ち受けていたナバトの姿だった。

 

「くらえ!!」

 

 ナバトは床にグレネード弾を投げつけた。

 直後、爆発と同時に白い煙が室内に充満する。

 

「げほッ、げほッ、これは、催涙弾か!!」

 

 ネルが怯む。

 両眼に激痛が走り、顔中が、目の奥が痛みでどうにかなりそうなほどだった。

 堪らず、外へ退避するネル。

 

「もう一発!!」

 

 そこを、ムツニが待ち構えていた。

 

 彼女特性の催涙弾がネルに直撃する。

 

「くっそ、てめら、やってくれやがったな!!」

 

 涙を両目からだらだら流しながら、常人なら立っていられない激痛の中で、憤怒の表情で応戦するネル。

 だが、その照準は定まらない。

 

「今だ、押し込め!!」

「よくも散々撃ちまくってくれたな!!」

 

 二人の反撃が始まる。

 

「この程度で勝った気か、なめんじゃねぇぞ!!」

 

 ネルの怒号が、演習場に響き渡った。

 

 

 

 

「……ず、ずるい」

 

 思わずユズが呟いた。

 

「はっはっは、やけどを負って、攻撃力が半減したバンギラスなど置物同然。んんww、フルアタック構成は役割を持てませんぞwwwww」

 

 勝ち誇る男は、しかし全く油断していなかった。

 

「俺の“お友達”の語る神秘とやらが齎す生徒たちの恩恵は凄まじい。

 身体能力だったり、才能を伸ばすものだったり。

 だが、それらは粘膜まで強くしてはくれない。

 呼吸をしなければ生きてはいけないのは変わらない。

 あいつはヘイローを破壊する研究をしてる仲間が居るとか言っていたが、そんな非効率な事をしなくても生徒たちは十分無力化できる」

「ふむ、セミナーに催涙兵器を搭載したドローンを売りつければ、部費の足しになるな」

 

 ウタハが真剣に催涙弾搭載兵器の開発を検討していた。

 それぐらい有効的だった。

 

「“なるべく後遺症の出ない範囲でお願いね”」

「それは勿論。ユウカ達も喜ぶだろう。ミレニアムにもイタズラ好きは多いからね」

 

 先生とウタハの話を聞いて、ぎくり、となるモモイとミドリだった。

 

「状況が、動く……」

 

 ドローンを飛ばし、戦闘を観測していたヒビキが息を呑んだ。

 

 

 

 

『アスナ、マズいです。リーダーがピンチです』

「え、うっそぉ!!」

『催涙弾の直撃を受けたようです。

 我らはそちらのフォローに向かいましょう。

 カリンも援護射撃をお願いします』

『無茶を言ってくれる!!』

 

 ネルはC&Cの絶対的なオフェンスの要。

 彼女が撃破されるのは、士気の面でも戦力の面でも彼女達には容認しがたいことだった。

 

 これが単独行動なら、お互いの仕事に徹しただろう。

 だが、今回は正面衝突。

 どちらが上かを決定づける、プライドの戦いでもあった。

 

「ごめーん、相手してあげられなくなっちゃった。じゃあね!!」

 

 アスナは目に見えない位置に居るトリコたちにわざわざ声を掛けた後、窓を蹴破って二階から飛び降りた。

 

「追うわよ、ウズ!!」

「了解、トリコ姉さん!!」

 

 罠が無い事を確認し、追撃に向かう二人。

 

 

「む、スナイパーの移動を確認。射撃を開始。──光よ!!」

 

 アリスは最大チャージ状態のレールガンを、カリンの居たビルの屋上にぶっ放す。

 

 ビル三階がえぐり取られるかのように破壊されるも、その時には既にカリンは三階から飛び降り、四点着地を敢行。

 そしてすぐに豹のように移動を開始した。

 

「アリスも移動を開始します!!」

 

 冷却の為に蒸気を発する銃身を翻し、アリスも行動を開始。

 全員が、市街地の中央道路へと集結しようとしていた。

 

 

 

 

 ネルは殆ど標的が見えていなかった。

 涙と激痛に加え、銃撃によるダメージ。

 相手の策略にまんまとハマった。

 

 だが、それだけで倒せるほど、キヴォトス最強格は甘くはなかった。

 

「そこか!!」

「くッ」

「逃がすか!!」

「マジで、何なんだよ!!」

 

 ネルは気配だけで、二人に両手の銃口を向けていた。

 無数の弾丸を浴びせられ、銃撃の精彩は欠いても、彼女は最強(エース)であり続けた。

 

「もう、あれを使うしか!!」

「まだ早い、ボスの指示を待て!!」

 

 焦るムツニを、ナバトが諫める。

 

「でもここで仕留めないと、っていててて!!」

「本作戦目標を思い出せ!!」

 

 常に動き回り、射程外のサブマシンガンの弾丸から逃げつつ反撃をする二人。

 ガスマスクの内側が蒸れ、息苦しくなっていく。

 

「ぜってぇぶちのめしてやる!!」

「あはは、リーダー、ホントにピンチなんだね、珍しい!!」

「アスナか、悪い、油断した!!」

「気にしないで!!」

 

 そうしていう内に、アスナがネルに合流した。

 

「今、援護します!!」

 

 両陣営の間に、グレネード弾が着弾する。

 アカネが擲弾銃を引っ張り出して、援護に回っていた。

 

 C&Cの主戦力三人が、ここに集まっていた。

 

 

 

『今だ、ムツニ。“どくどく”だ』

 

「オーケー、ボス!!」

 

 ムツニは腰のポーチから手榴弾を取り出す。

 その投擲は、空中で阻止された。カリンの狙撃だ!!

 

 しかし、それは無意味だった。

 毒々しい緑色の煙が、地面に広がったからだ。

 

「ど、毒ガス……正気ですか!!」

「あはは、もう形振り構ってないね!!」

 

 アカネとアスナは即座にスカートを千切って口を覆い、即席のマスクにする。

 

「げほ、げほッ、息がッ」

 

 だが、そんな簡単な作業も、今のネルには難しかった。

 

「すぐに爆薬で煙を吹き飛ばします!!」

 

 アカネがグレネード弾を射出しようした、その直後。

 

 

「させると思うか!!」

「さっきの余裕はどうしたぁ!!」

 

 ガスマスクを被ったトリコとウズが、アカネに飛び掛かった。

 

 

 

「あああ、毒ガスとか、演習場の洗浄作業が大変なことに!!」

 

 観戦ルームで見ていたコトリが悲鳴を上げる。

 

「はやく換気扇を回すんだ!!」

「う、うん!!」

 

 屋内の施設だけあって、大型の換気扇は勿論備わっていた。

 ウタハの指示に、ヒビキはすぐに換気扇のスイッチを押した。

 

 まるで風が吹くような勢いで、場内の空気が入れ替わっていく。

 

「まあ元々市街地って設定だ。それくらいの手助けは目を瞑ろう」

「“言っている場合か、毒ガスを使うなんて正気じゃない!!

 今すぐ戦いを止めるんだ!!”」

「あいつらは、それを望まないぞ」

「“くッ”」

「覚えておけ、時として非情な決断を迫られる場合もある。

 ボロボロの味方に、突撃しろと命じる時が必ず来る」

 

 男は、歯を食いしばっている先生に、そう告げる。

 

「お前の戦いには、こんな状況よりもっとヒドイ戦場なんてこれから幾らでも出てくる!!

 そんな時に、うろたえるお前を見た生徒たちはどう思う!!」

「“……ッ”」

「誰か、医療班の要請をしておけ」

「うん」

 

 ヒビキは内線で医療班を要請した。

 

 戦いは、最終局面に至ろうとしていた。

 

 

「なんて、有様だ!!」

 

 カリンのスコープには、泥沼の消耗戦が映っていた。

 最良を維持したままのWolf小隊と、最低の状況に叩き込まれたC&Cの三人。

 

 Wolf小隊はガスマスクを脱ぎ捨て、C&Cの三人と乱戦に持ち込んだ。

 

 そして、遊兵が彼女を狙っている。

 

「──光よ!!」

 

 超高速の飛翔体がカリンが居た位置をえぐり取る。

 

「相打ちに持ち込んでも、彼女だけは排除しないと!!」

 

 ここでアリスを自由にさせてはいけない、カリンは覚悟を決めた。

 

 一流のスナイパーは、それだけで超人だ。

 レールガンの発射直後の硬直、その僅かな隙を、カリンは移動中と言う不安定な態勢で対物ライフルをぶっ放す。

 

 カウンタースナイプ。

 カリンはそれを成功させた。

 

 アリスのボディに直撃した弾丸に、彼女は倒れた。

 

「ターゲットダウン!! いやッ」

 

 アリスはまだ、戦意を失っていなかった。

 痛みにもがきながらも、立ち上がろうとしていた。

 

「く、仕方ない!!」

 

 カリンのスコープの中央に、アリスを捉える。

 追い打ちをする罪悪感を捨て、引き金を引こうとした。

 

 

 直後、彼女の銃のスコープが砕けた。

 

 カウンタースナイプの、カウンタースナイプ。

 カリンは衝撃に怯みながらも、何が起こったのか正確に把握しようとして、見た。

 

 乱戦に持ち込まれ、スモークグレネードで煙幕が焚かれた戦場が、換気扇によって晴れる。

 

「ばかな!!」

 

 そこから、彼女の位置までおよそ800メートル。

 

 この乱戦の中、ナバトが膝に地面に付け、射撃体勢を取って、アサルトライフルにごついスコープを付けて、狙撃を行ったのだ。

 

 まるで、コミック。

 男がそう評した神業が、現実のものとなった。

 

 

「まだ、まだだ、まだです!!」

 

 銃撃から立ち直ったアリスが、巨砲を構える。

 

「────“勝つ”のはアリスです!!」

 

 レールガンから放たれた光が、カリンがその時見た最後の光景だった。

 

 自分の役割を果たしたと悟ったアリスは、意識を手放した。

 

 

 

 

「え、なにあれ、なにがおこったの?」

 

 ミドリが呆然と、カリンの身に起きたことを見ていた。

 

「あれはですね、ヒビキが開発に着手し、私達も調整を手伝ったその名も『狙撃くんG』です!!」

 

 待ってました、と言わんばかりにコトリが口を開いた。

 

「通常、アサルトライフルの有効射程は最大でも約600メートル。それ以上は有効なダメージを相手に与えられません。

 しかしそれだけの距離があれば、狙撃手としては上々でしょう。

 そこで、我らエンジニア部の開発したアサルトライフル専用のスコープ型追加アタッチメント、それが『狙撃くんG』なのです!!

 あれには狙撃に必要なデータを自動的に観測、演算し、持ち主の癖などを学習し、命中率を射手に還元。安定姿勢での狙撃を約900メートルまで可能とする、誰でも狙撃手に出来るスゴイ発明なのです!!」

 

 ドヤ顔で説明を終えるコトリ。

 

「いや、流石に誰でもは無理だけど……。どの学園でも狙撃訓練のカリキュラムを習熟していれば、同じことを出来るようにはなると思う」

 

 ヒビキが少し自信なさそうに訂正した。

 

「漫画ゴルゴ13で主人公がM16で狙撃を行うのは、そのアサルトライフルの調達のしやすさや互換性の高さ故で、狙撃を自分の腕前でカバーできるからだ。

 これはその全く逆だ、最新の技術力で狙撃の腕をカバーする。

 実はあいつら、自分らの部隊に狙撃手が居ないのを割と気にしててな。特殊部隊と言えばスナイパーだからな」

 

 そしてこの土壇場で、ナバトは神業と言える狙撃を成功させた。

 

「この戦闘記録を見せて、セミナーに売りつけて資金の足しに出来るな」

 

 部長のウタハは椅子にドカリと座ってドヤ顔でそう言った。

 

「とりあえず五十機ほど、ゲヘナ学園に送ってくれ。領収書のあて先はゲヘナ学園風紀委員会宛てで頼む」

「かしこまりました、お客様」

 

 ウタハが揉み手で男に言った。

 私も買おうかな、と呟いたモモイはコトリから提示された金額に目を剥き、断念した。

 

「さて、正念場だぞ、お前ら」

 

 お互いに、後方支援は断たれた。

 もう殴り合いの乱戦で、決着を付ける他ない。

 

 

 

 

「まさか、我々がここまで追い詰められるとは!!」

「ホント、ここまで食い下がられるなんてね!!」

 

 苦渋に満ちたアカネと対照的に、アスナは笑みを隠さない。

 

「ねえ本当に落ちこぼれだったの? どうせ偽装情報とかそう言うのでしょ?」

 

 銃撃を交わしながら、アスナは雑談をするように話しかける。

 もうお互いに余裕なんて無いというのに。

 

「しかも、諜報とかが専門なんでしょ? 自信無くすなぁ」

「ほざけ!! キヴォトスに名を轟かすあなた達に、我らの気持ちが分かるか!!」

「地に落ちろ!! 落ちこぼれだった、私達に敗れて!!」

「それは出来ない相談ですね、亡霊は亡霊らしく、地を這いなさい!!」

 

 お互いに愛銃を撃ち合い、己の全てを掛けて戦っていた。

 C&Cは誇りの為に、Wolf小隊は夢見た居場所に立つ連中を引きずりおろす為に。

 

 そして彼女達四人の勝敗を分けたのは、ただ一つだった。

 

『あー、諸君。申し訳ないが、あと十分くらいで医療班が到着する。

 余計な横やりが入る前に、終わらせてくれないか?』

 

 演習場のスピーカーから、男の身勝手な声が響く。

 

『そう言うわけだ、お前達。

 俺の為に、我が麗しのヒナ委員長の為に。

 ああ……俺と一緒に────死んでくれや……』

 

 その瞬間、アスナとアカネは感じた。

 明確な殺意を。相対する二人が、変貌したのを。

 

「ヒナ委員長に勝利を!!」

「ゲヘナ風紀委員会に栄光あれ!!」

 

 二人が選んだのは、特攻。

 自分の命を投げ捨てた、突撃だった。

 

「え、うそ、冗談でしょ!?」

「はああああああ!!!」

 

 アスナの銃撃を全弾その身に受け、トリコは彼女に肉薄した。

 超至近距離で、彼女の愛銃のショットガンが火を噴く。

 

『Wolf小隊の隊長はお前しかできない、頼むぞ、トリコ』

 

 気絶間際に、トリコの脳裏に敬愛する先輩の声が聞こえた気がした。

 

「ユ……キノ……ぱ、い……」

「ああ……ごめん、みんな」

 

 アスナが倒れ、それに覆いかぶさるようにトリコも崩れ落ちた。

 

「アスナ!!」

「なによそ見してるの!!」

「ひッ」

 

 アカネの目の前に、グレネードのピンを抜いたウズが笑って立っていた。

 

「爆弾は、好きでしょ?」

 

 ウズがアカネを抱きしめる。

 その二人を、爆発が引き裂いた。

 

『ウズ、また怒られたんだって? 独房は寂しいでしょ、ほら差し入れだよ』

 

「ニ……せん……」

 

 気を失う直前、ウズはいつも自分に優しくしてくれた先輩の顔が脳裏に浮かんだ。

 

 

 

「はあ、はあ、やっと、見えるようになってきたぜ」

 

 ネルは目元を拭う。

 激痛は治まらないが、涙は止まっていた。

 

「まったく、下手をこきやがって。後で徹底的にしごいてやる」

 

 ネルは相打ちになった四人を見やる。

 

「はあ、はあ、嘘でしょ、一時間は悶絶するのに、まだ二十分ぐらいしか経ってないよ」

「相手は、はあはあ、化け物だ、人間の尺度で考えるな、はあはあ」

 

 ムツニとナバトは、事ここに至ってなお、ネルを仕留め切れていなかった。

 徹底的に弱らせ、何百発もの銃弾を浴びせかけてやった。

 

 まるで、小細工ではどうしようもない壁があるかのように、彼女は絶対的な強者だった。

 戦っている二人が、惚れ惚れするほどに。憧れてしまうほどに。

 

「……なあ、あいつらの治療をしてやりてぇ。

 依頼人も、ここまですれば満足だろ。

 お前達の方が頭数も多い。ここはあんたらの勝ちってことで終わりにしようぜ。

 ここまであたしらを追い詰めて、お前達を落ちこぼれなんて言う奴は居ないさ」

 

 それはネルの本心だっただろう。

 自分たちのメンツより、仲間の安否を優先させる。彼女の優しさだった。

 

 だが。

 

「ふざけるな!!」

「恵んでもらった勝利に、何の意味が有る!!」

 

 目の前に居るのは、死を覚悟した二匹の餓狼だった。

 

「殺してやる、私達と一緒に死ね!!」

「ああ、我ら姉妹と、お前の仲間たちを侮辱することは赦さない!!」

 

 飛び掛かる、二匹の狼。

 

「ああ、そうだったな。悪かった」

 

 だから、ネルも容赦を捨てた。

 ここまで戦った仲間の為にも、目の前の勇ましい敵たちの為にも。

 

「じゃあ、お互いに納得するまでやろうぜ」

 

 眠れる龍が、目を覚ます。

 

 

 

「止めて、お願い、止めて。もう見てられない!!」

 

 男の命令通り、Wolf小隊は命を賭した。

 文字通り、今も命がけで相手を滅ぼそうと戦っている。

 

 そして、それは特別な事ではなかった。

 死ねと命じられたから死ぬ。彼女達は、兵士として完璧に完成されていた。

 

「ねえ、オオカミさん!!」

 

 悲痛なモモイの叫び。誰もが目の前の凄惨な戦いに言葉を失っている。

 だから、彼に訴えたモモイが最初に気づいた。

 

「…………」

 

 男は、涙を流していた。

 目元の毛が濡れながらも、死闘を見下ろしていた。

 

 ああ、とモモイは悟った。

 彼にとって、もう既にWolf小隊の面々は()()()いるのだ。

 命じた通り、彼女達は死ぬ。

 

 そして、命じた本人が誰よりもそれを悲しんでいた。

 モモイは黙って目を逸らし、妹の袖を掴んだ。

 

 両者の決着が、付こうとしていた。

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ」

 

 最後に立っていたのは、ネルだった。

 

 お気に入りの革ジャンはボロボロ、メイド服は見るも無残。

 彼女自身ふらふらで、立っているのも不思議なほどだ。

 

 だが、彼女は勝った。

 全弾を相手に浴びせかけ、弾切れになったら徒手空拳でボコボコにした。

 

 勝利した。

 そう思った。

 

 

「ムツニ……」

 

 仰向けに倒れたムツニに、ナバトは最後の力を振り絞り、這い寄っていく。

 

 ネルは黙ってそれを見ていた。

 その光景に、何らかの意味を感じていなかった。

 

 だが。

 

「…………ちゅ」

 

 ナバトは、ムツニに唇を落とした。

 死に瀕する恋人に、最期の口付け。

 

 直後、ムツニは目を見開いて跳ねるように立ち上がった。

 

「ナバト」

「うん」

 

 そして相棒を抱き起すと、今度は彼女からナバトにキスをした。

 

 ネルはその光景を呆然と見ていた。

 

 それは愛の齎す奇跡か、あるいは呪いか。

 二人の絆が、死すら許さない。

 

「あああああああ!!!」

「あああああああ!!!」

 

 最早、三者ともに我武者羅だった。

 武器を失い、仲間を失い、それでも戦いは終わらない。

 

 ムツニがネルの首元に噛みつく。

 ナバトが押し倒し、その顔面を何度も何度も殴打する。

 

 二人の脳裏に、かつての古巣の記憶が蘇る。

 

『ムツニ、あんたはやればちゃんとできるんだから、しっかりしなさいよ!!』

『ナバト、あなたの努力は私が知ってるから。それは必ず報われるよ』

 

「まけ、ないッッッ」

「死んでも、殺すぅぅッ!!」

 

 二人は涙を流しながら拳を振るう。

 

「はあああああああ!!!」

 

 ネルもその身にあり余る暴威で、二人を押し返し、一緒にボコボコにする。

 

 お互いに文明社会に産まれたとは思えない、原始的な殴り合い、殺し合い。

 

 やがて、二人をまとめて殴り続けていたネルは気づいた。

 

 ムツニとナバトは、完全に気を失っていた。

 お互いに、手を結びながら。

 

 彼女の暴虐をもってしても、二人は引き裂けなかった。

 

「…………勝った」

 

 ネルはその事実だけを手に、バタンと後ろに倒れた。

 

 

 

 

「救護班、早く!! 一階の演習場だ!!

 除染作業チームも、毒素の除去を頼むッ!!」

 

 ウタハが無線で指示を飛ばす。

 それで我に返った者達も多かった。

 

 とんでもない戦いを見てしまった。そんな雰囲気だった。

 

「お前達、立派だった……」

 

 男は涙を流したまま、愛銃を手に取った。

 そしてそのまま、銃口を自分に向け、口に咥えた。

 

「──俺も、共に逝こう」

「“取り押さえて!!”」

 

 先生の叫び声に、ウタハ以外の生徒たちは一斉に男に飛び掛かった。

 

「まだ、まだ全員死んでない!!」

「気絶してる、気絶してるだけだから!!」

「正気に、戻って!!」

「まだ発注書にサイン貰ってません!!」

「『狙撃くんG』の依頼料も貰ってない!!」

 

 モモイが、ミドリが、ユズが、コトリが、ヒビキが、男にのしかかり銃を奪い取る。

 

「ッは、そうだった……。

 おっと、これは役得……コトリぃ、その下品な乳を押し付けるんじゃねぇ!!」

「なんか私だけ当たり強くありません!?」

 

 コトリは涙目になった。

 

 

 こんな騒動も有ったが、ゲーム開発部の面々は無事ミレニアムプライスを、廃部の危機を乗り越えたのである。

 

 

 

 §§§

 

 

 

 セミナーの本棟。

 生徒会長の執務室。

 

「結果が出たようね。まさかここまでするなんて……」

 

 ミレニアムの生徒会長。リオは今回の戦いの結末に眉を顰めていた。

 

「これが、あなたの望んだ結果なの、ヒマリ?」

 

 彼女が向けた視線の先には、来賓用のテーブルの前に鎮座するヒマリがタロットカードをシャッフルしていた。

 そして、芝居がかった台詞を口にした。

 

「知恵の実を食べた人間は、その瞬間より旅人になりました。

 カードが示す旅路を辿り、未来に淡い希望を託して」

 

 ヒマリはカードの一番上をテーブルに置いた。

 愚者のカードだ。

 

「愚者のアルカナは示しました。

 穢れなき好奇心と未知への自由な探求心を」

 

 愚者のカードの横に、二枚目のタロットカードを並べた。

 魔術師のカードだ。

 

「魔術師のアルカナは示しました。

 産まれ持った才能から産み出される、創意工夫や自己表現、想像力、その可能性の発芽を」

 

 次のカードを並べる。

 現実には存在しないと言う、女教皇のカードだ。

 

「女教皇のアルカナは示しました。

 内なる感情の発露を。感性と直感、自己を探求する意義を」

 

 ヒマリは次のカードを並べる。

 母性を示す、女帝のカードを。

 

「女帝のアルカナは示しました。

 愛を自覚する尊さと素晴らしさ、その豊かさを」

 

 女帝の横に、皇帝のカードが並ぶ。

 行動力を示すカードだ。

 

「皇帝のアルカナは示しました。

 決断の勇気を。人の持つ、意志の力を」

 

 次に並べられるのは、法王のカード。

 それは指導者の登場を意味する。

 

「法王のアルカナは示しました。

 自らを導く存在への出会い、他者との感化、それによる価値観の発展を」

 

 そしてめぐり逢い、恋愛のカードがテーブルに並べられる。

 ヒマリはクスクスと微笑んだ。

 

「恋愛のアルカナは示しました。

 他者との調和。それによる歓喜の共有、通じ合う心の切なさを」

 

 恋を知ったヒトは、前に進むしかない。

 そう、戦車のカードが並べられる。

 

「戦車のアルカナは示しました。

 若さゆえの衝動的な情熱を、しかしそれが困難に立ち向かう可能性でもあると」

 

 しかし戦車とはどうしようもなく他者を巻き込む兵器だ。

 それを御する、正義のカードが並んだ。

 

「正義のアルカナは示しました。

 自他との均衡を。客観的な視点と、有り方を模索する意志を」

 

 ただ正義は暴走するモノ、他者との違いの認識。

 それによる、隠者のカードが並べられる。

 

「隠者のアルカナは示しました。

 自問自答による自己の最適化、己の変化を受け入れる、勇気の大切さを」

 

 人物の絵柄から一転、車輪のカードが並べられる。

 流動する運命の輪。訪れる幸運と不幸の連鎖。

 

「運命のアルカナは示しました。

 目の前に訪れた先の見えない荒波からチャンスを掴み取る意志を」

 

 チャンスを掴み取るには力が必要だ。

 剛毅のカードが、横に並べられる。

 

「剛毅のアルカナは示しました。

 力とは、精神の強さであると。信念や情熱が忍耐を産み出すと」

 

 運命は残酷なモノだ。必ずしも成功を齎すとは限らない。

 吊るされた男のカードが、それを示すように並べられた。

 

「刑死者のアルカナは示しました。

 失敗こそが成長の糧であると。己の努力の再評価をする為に立ち止まる必要性を」

 

 そして、死神のカード。

 決して避けられない死が並べられる。

 

「死神のアルカナは示しました。

 これまでの価値観の限界を。それを棄却し、新たな可能性に自らの価値観の再生を見出すことを」

 

 タロットカードを並べるヒマリの手が止まる。

 そして、彼女はリオを見やった。

 

「知恵の実を食べた人間は、その瞬間より旅人となった……。

 アルカナの示す物語は、魂の成長の物語。

 今はまだ、無垢な魂の旅路を見守りましょう」

「……良いでしょう。でもヒマリ。分かっているわよね」

 

 リオはタロットカードが並べられたテーブルに近づき、死神のカードに触れた。

 

「このまま何も手を打たねば、行きつく先は絶対の死だと言うことを」

「分かっています。その為の特異現象捜査部ですから」

 

 ヒマリの返答に、リオは目を細めた。

 

「でも、誰があなた自身が特異現象になれと言ったのかしら」

「ふふふ、あなた自身が言ったことですよ♪

 私の語った言葉を、非科学的だと取り合わないって。

 しかしあの合言葉にいったいどんな意味があったのです?

 あれを言えば、あなたは全面的に私に協力すると、そう言っていたのですが」

「からかわないで頂戴。どうせ()()()の私はそんなことは言っていないでしょう?

 あれは私しか知らないスタンドアローンの個人用端末のパスワードよ。私の脳内にしか存在しえない文字列なのよ」

「なるほど、だからそれを口にすればあなたは信じると、そう言ったのですね」

「ええ、それを口にしたのがヒマリ、あなたでなければもっと円滑に事は進んだでしょう」

 

 リオから嫌味なんて無駄な言葉を引き出せただけで、ヒマリは愉快そうに笑っていた。

 

「だからこそ、今回の衝突の再現の非合理性について物申したいわね」

「物事には順序と手順が存在します。

 既に私とあなたの所有する技術体系は異なっています。

 お互いの手段のプロセスについて、合理だの非合理だの、語るだけ無意味でしょう」

「……そうかもしれないわね」

 

 しかし、とくすくすとヒマリは可笑しそうに笑う。

 

「科学は神を証明し、魔術は神を前提とする。ですが目的はそれを利用するという一点に尽きます。

 我々は自分たちの傲慢さに笑いがこみ上げてくると思いませんか?」

「あなたの言うところの、“幕を引く者”はその辺りは気にしていないのではないのかしら?」

 

 ヒマリはその言葉に答えず、残りのタロットを並べる。

 

「魔法を窮めると、ある種の解脱に至るそうです。

 最期には肉体を捨て、魂は世界と一体になり神に成り果てるのだと」

 

 彼女は最後のアルカナのカード、世界に触れた。

 

「そう思うと、可笑しな話だとは思いませんか?

 魂の存在しないモノに、なぜ魂の成長の旅路があるのでしょうか」

「それを証明するのは、私の役目ではないわ」

「あるかどうかわからないモノに価値を見出す、そのロマンがなぜ分からないのでしょうか」

 

 手を結んでいる筈なのに、話が合わない。

 やはり、とヒマリは思った。

 

「私達の間には仲介者が必要なようです。

 先生か、はたまた彼か……」

「そのどちらにも、我々の計画は話さない。そう決めたはずよ。特に先生は変数としての数値の増減が大きすぎる……」

「ええ、だからこそ、彼女が必要なのだと思います」

 

 ヒマリはとある書類を取り出した。

 それは、ある少女のカルテだった。

 

「原因不明の昏睡状態……科学的には健康そのもの。なぜ眠っているのか、誰も分かっていない」

「トリニティの協力者には既に話を通しています。

 私の方で、いつでも()()()()()

「なら、早い方が良いわね……」

 

 それはリオにしては純粋な、打算や計算の無い言葉だった。

 

「ええ、悲劇に幕を引くのは神ではなく、今を生きる我々の仕事ですから」

 

 珍しく、二人の意見が一致した。

 ならば行動は早かった。

 

 運命の針が前倒しにされる。

 計画の開始を、ヒマリは各地の協力者たちにメールで告げた。

 

 

 

 

 




ヒマリのアルカナのあれの元ネタは、まあ言うまでもありませんよね?
というか、折角デカグラマトン編がメインストーリーに昇格したのに、最新話で分かったことがリオヒマてえてえってことだけやん!! 最高でした!!

二章後のイベントストーリーは、バニーチェイサーとか、あとはアビドスとか色々やりたいですね。
百鬼夜行の続きも書きたいですし。

最近執筆のモチベーションが低下してるので高評価や感想を下さると嬉しいです。

ではまた、次回!!
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