Blue Archive / The Dark Knight: Requiem 作:藤子F藤浪
「──ハァッ、……ッ!」
爆発する建物から空中へ飛び出し、容赦なく襲いかかる瓦礫と粉塵を全身に浴びながらも、私は絶対に目を閉じなかった。
直後、背中から地面へ叩きつけられた凄まじい衝撃。肺の中の空気が一瞬で限界まで圧縮され、悲鳴のように口から飛び出す。激痛に悶えながらも、私は狂ったように大きく息を吸い込んだ。
首元に刀を突きつけられ、完全に詰んでいたあの緊迫した場面──私が瞬時に選んだ解答は、最悪の自爆だった。隠し持っていた手榴弾のピンを抜き、デスストロークと自分の身体の隙間に挟み込む。爆圧の指向性をコントロールし、奴を入口側へ、自分を窓側へと吹き飛ばすように強制調整して、私は今こうして生き延びている。
(どうなったんだろう……できれば、このまま──)
爆風を直に浴びた脇腹を強く押さえながら、地面に転がった愛銃を拾い上げ、燃え盛る建物を振り返る。爆発によって無惨に崩落した、先ほどまで自分が脅迫されていた部屋──。
黒服はどうなったのだろうか。できればあのまま消し炭になっていて欲しいが、あいつは嫌になるほどしぶとい人種だ。確実に生き残っている筈。では──デスストロークは?アイツはどうなった?
疑心が、私の思考を先回りして蝕んでいく。
今までの人生で、これほど正解の見えない状況に陥ったことはなかった。どうすればいいのか、本当に分からない。誰かに連絡をすべきだろうか。でも、誰に?でも、誰に。アビドスの皆をこんな危険な場所に連れてくる訳にはいかない。先生も駄目だ。先生の指揮があれば、多分どうにかなる。でも、私だけで先生を守ることはできない。デスストロークは真っ先に先生を始末しようとする筈。なら、他に残されたのは──
──ダメ、それだけは嫌だ。
彼をアビドスに関わらせないと決めたのは他ならぬ私。今更助けを求めるなんて都合のいい真似はできない。
──私が、やるしかない。
「
デスストロークは確実にダメージを負っているはずだ。しかし、あれで決定打になるとは到底思えない。今も虎視眈々と、暗闇のどこかから私の命の隙を狙っている。
奴の百戦錬磨の経験に比べれば微々たるものかもしれないが、それでも私が死線を潜り抜けて培ってきた勘が、最善の回避行動へと身体を突き動かした。
「──素晴らしい機転だ、小鳥遊ホシノ」
立ち込める黒煙が割れ、デスストロークが悠然と姿を現した。
至近距離の爆発をまともに喰らったはずの腹部の装甲は一部が剥がれ落ち、生々しい裂傷が見える。──だが、その傷が、肉眼で視認できるほどの異常な速度で、みるみるうちに細胞単位で塞がっていく。とてもじゃないが、人間の為せる技ではない。
「何のつもり……黒服の命令はともかく、君が私をここまで執拗に狙う理由なんてないはずだけど…?」
「本来ならばそうだ。しかし生憎、今は雇われの身。ターゲットを自由には選べない。………だが、お前は別だ。小鳥遊ホシノ。いや、”暁のホルス”。お前は、私が殺すに値する──」
「悪いけど、その名前は嫌いだよ…!」
不意を突いた至近距離からの散弾が、デスストロークの脳天目掛けて一直線に放たれた。
奴の意識の方向、身体の重心の傾き、すべてを計算し尽くした、文字通りの必中。完璧なタイミング。躱せるはずがない──
──そして、そんなことはデスストローク自身も百も承知だった。
叩き割られたマスクの奥で、大袈裟なほどに狂気的な笑みが浮かぶ。背中から引き抜かれた刀。
私の動体視力が視認できたのは──
切り落とされた弾丸の破片が地面へと落ちてゆく姿だけだった。
「ハハ……これは、苦労するなぁ………」
警戒していなかったわけではない。だが、これほどの戦闘スペックだとは想定の枠を超えている。ホシノのオッドアイに、かつてない「本気」の鋭さが宿る。
「嬉しいぞ、暁のホルス。私相手にそこまで本気になるとは。奇襲でも、不意打ちでも、核兵器でもいい。何でも使え。私に対する礼儀なら、それが最適だ」
デスストロークは、嬉々とした狂おしい姿勢を微塵も崩さない。彼女にとって戦闘こそが至上の喜びであり、生きる目的。その対象が、ホシノという極上の猛者であればなおさら熱狂するのだろう。
(まずは、あのムカつく顔を歪めてやらないと……)
銃弾を素早く再装填しながら、バックステップでデスストロークから大きく距離を取る。
私の取るべき戦術は、徹底したヒット&アウェイ。単純な膂力や戦闘スキル、ましてや肉体の復元力なら向こうが圧倒的に上だ。ならば、スピードはどうか?
奴のあの重装備──何丁もの重火器、複数のナイフ、手榴弾まで隙なく詰め込まれたフルアーマーの重量は計り知れない。対して、今の私はまともな戦闘を想定していなかった。持っているのは愛用のショットガンとサブの拳銃、いくつかの爆弾のみ。機動力の面ならば、私が確実にデスストロークを上回っている。
そして、室内という閉鎖空間から抜け出せたのは好条件だった。私の得意とする広大な屋外フィールドなら、全速の機動戦を仕掛けても遮る障害物はない。
「フンッ!」
デスストロークが地を裂くような踏み込みから、一閃を振り下ろす。
一切の躊躇なく、私の命を刈り取りにくる最速の斬撃。──だが、ここで臆して後ろへ引けば死ぬ。私はあえて前へ踏み込み、タイミングを見切って、振り下ろされるブレードの側面をショットガンの銃身で思い切り叩きつけた。
「なっ…!?」
「甘いよ」
意表を突かれ、体勢がほんのわずかに崩れた瞬間を、私は絶対に見逃さない。
ゼロ距離での連続発砲。最初の爆発で装甲が捲れかけていた腹部を重点的に狙い撃ち、散弾を容赦なく叩き込んで、とうとう皮膚に到達させることに成功した。滴り落ちる血が、攻撃が通用したことを証明している。
後は、これを続ければいい。今は不利だが、いずれ勝機は見えてくる。今回の目的は勝利ではなく、あくまで撤退。倒すことまでは考えていない。
確実に奴の足を止め、この場を離脱する──その思考に切り替えた瞬間だった。
「油断した……だが、素晴らしい収穫だ。今の動きは……」
「戦闘中に独り言? 随分と寂しい人生を送ってきたんだね」
「ハッ、ダークナイトの真似事か?止めておけ、お前がやると惨めなだけだ」
「…………何?」
デスストロークの、血に濡れた顔が、ねっとりとした嘲りの笑みへと変わる。
「先輩を救えず、学園の確実な滅亡から目を背け、無力な後輩たちと「仲良しごっこ」の停滞を選んだのはお前だろう。過去の遺物に囚われているくせに、あたかも現実を直視しているフリをする……本当に孤独なのはお前だ。小鳥遊ホシノ」
「──ッ!」
コイツ…!
……いや、落ち着け。どうせこれも、あの黒服の入れ知恵だ。私の精神を少しでも揺さぶり、戦闘の判断を鈍らせようとしているだけに過ぎない…!ここで我を忘れるのは、完全に奴の利益になる。冷静になれ、冷静に努めろ、小鳥遊ホシノ。じゃないと……今度こそ、私はアビドスを、みんなを救えなくなる……!
「来い、暁のホルス!口を動かす暇があるなら、私の肉体に一つでも多くの消えない傷を刻んでみせろ!」
「……そのまま、二度と起き上がれなくなっても責任は取らないよ……!」
さらに足の速度を上げる。私の宿す神秘と、肉体が出せる限りの限界を超えた全速力。
銃弾の痛みなら、これまでの戦いで嫌というほど知っている。けれど、あの鋭利な刀で肉体をバラバラに切りつけられる感覚は、流石に私の専門外だ。いくら神秘の防壁で防いだとしても、あの一撃をまともに喰らえばどうなるか分からない。最悪、そのまま死んじゃうことだって十二分に考えられる。
──正直に言えば、死ぬのは怖い。
あの二年目のあの日からずっと、その恐怖だけは変わらなかった。どれだけ過去の罪悪感に苛まれても、眠れない夜にどれほど苦しんで身を投げ出したくなっても、いざ目の前に迫り来る濃密な「死の気配」に対する恐怖は、いつだって心の中にあった。
「ハァッ…!ハァッ…!」
息を切らし、迫る刃を紙一重で躱しながら──私は、心の中でふと、あの少年の姿を思い出していた。そして、少しだけ理解できた気がした。私が圧倒的な強さと呼ぶ、彼……ユウリ・ウェインという男の強さの、その本当の「正体」を。
あの子は、死を恐れていない。
ユウリという一人の子供としても、バットマンという夜の怪物としても。
毎晩のように自分に降りかかる、生々しい死の恐怖の最前線に立ちながら、彼は平然とそれと向き合ってみせる。そして、きっとそれこそが、彼の本性に最も近いものだと思う。
あの子は、自分の命すら必要とあらば計画の一部に平然と組み込むだろう。
結局、彼の正体は、英雄でも、正義の味方でもない。仮面を被っただけの──ただの、哀れで救えない、私達とは根本から違う「異常者」だから。
「──ハァッ、……クッ!──ッ!」
「息が荒いな……それもそうか。これだけの長時間に渡り、超人並みの維持し続けていたんだ。むしろ、ここまで五体を持たせた方を称賛すべきだろうな」
敵の戦力を称えながらも、どこか退屈そうにデスストロークは呟いた。
土埃と硝煙に汚れ、全身のあちこちに生々しい斬撃の痕が刻まれたホシノに対し、超人の肉体はすでに大半の裂傷を塞ぎ終えている。勝敗は決した──戦場の客観的事実だけを見れば、それはあまりにも妥当で、覆しようのない冷徹な現実だった。
事実、ホシノは自身の足の震えを誤魔化せないレベルにまで疲労は極限を迎えていた。通常とは違う斬撃に対する恐怖、驚異的な身体能力を持つデスストロークの攻撃を避け続けた筋肉疲労。身体はとうに限界を迎えていた。
──だが。それでも、小鳥遊ホシノの眼から、光は消え失せてはいなかった。
「……せめて、戦士としての礼儀だ。苦しまずに楽に逝かせてやる。安心しろ、お前は間違いなく強かった。──私がその遥か上を行っていた。それだけのことだ」
抜刀したデスストロークが、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
勝利を確信した絶対的な強者の歩調。その双肩からは一切の無駄な力が抜け、ひどくリラックスしているように見えた。完全な、油断。
(……あと、少し……まだだ、耐えろ。……3……2……1──)
ホシノは、脳内で正確に秒針を刻み続けていた。
肉体が限界を迎えるその瞬間すら逆算し、ただ一つの勝機を、その刹那の刻を待つ。
「…………ねえ」
「……何だ」
「最期に……私の、みっともない遺言くらい……聞いてくれないかな……?」
冷徹なブレードの刃先が、ホシノの首元にピタリと触れた。
激しい戦闘の熱を孕んだ鋼の感触が、大量出血によって急速に体温を失っていく身体へと、皮肉な温もりを伝える。
「……君の言う通りだったよ。私はずっと、過去にばかり固執して……今がどれほど大切かってことに、ずっと蓋をして、目を背けてた。けれど、今のアビドスは、きっと……あの頃に負けないくらい、輝いてるんだよ。……そんな当たり前で、何よりも大切なことに、私は今更気づいたんだ……」
それは、喉の奥から絞り出した、嘘偽りない心からの懺悔だった。
シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん……
このアビドスを、私の居場所を救おうと一緒に戦ってくれる、心強い大好きな仲間たち。そんな尊い存在を、私は自分の臆病さのせいで蔑ろにしていた。こんな私の姿を見たら、ユメ先輩はきっと、怒るだろうな──。
──うん、満足した。もう、これ以上言葉は要らない。
だから──
「──きみ……け……」
「…?何だ?」
ホシノの口から漏れ出た、微かな、か細い呟き。
デスストロークはその声を正確に聞き取ろうと、ホシノの口元に向けて、自身のヘルメットを近づけた。自然と、その上体が低姿勢に──無防備な前のめりになる。
──ああ、
ホシノはそっとピンを抜き。右手にギュッと握りしめる。
「…………って言ったんだよ…………」
「だから、何を──」
「「君の負け」って言ったんだよ」
──閃光弾
デスストロークがそれ察知した時には、すべてが遅すぎた。
ホシノは限界まで強く両目を閉じ、残されたすべての暴発的な脚力を床へと叩きつけ、その懐から強引にバックステップを敢行する。
(──マズい…!!)
デスストロークは、回避が完全に不可能な距離であることを直感した。
戦士としての本能が、相打ち覚悟で、せめてこの眼前の標的の首を撥ねんと刀を振り下ろす。
脱出を図るホシノと、盲目的に肉薄するデスストローク。
軍配が上がったのは、ホシノだった。
刀の切っ先がひび割れた床と衝突し、金属の甲高い火花を散らすと、ほぼ同時だった。
「──ガァ、アァッッ!!!?」
文字通り、世界のすべてを純白に変えるほどの猛烈な爆光が、ゼロ距離で網膜を焼き尽くした。
(クソ……! 完全に、ハメられた……っ!)
デスストロークは、隻眼の戦士である。
そして今、彼女に残されていた唯一の光を見るための器官が、完璧に破壊された。
絶対的な光と、その直後に訪れる底なしの闇。相反する混沌が、スレイドの世界を完全に奪い去る。そしてそれは──ホシノにとって、この過酷な死闘の中で描き続けてきた、最大にして唯一の作戦の成立の瞬間だった。
視界を失い、苦悶に身をよじる超人を置き去りにして、ホシノは駆ける。
満身創痍の身体で、ある目的の場所へと、一直線に弾かれたように。
この絶望的な戦闘の間、彼女はずっと、これだけを狙い、盤面をコントロールし続けていたのだ。
限界を超えた機動戦も、肉体を削りながら叩き込んだ数十発の銃撃も、すべてはこの一瞬のチャンスを確実に生かすために積み上げた、地道な仕込みに他ならなかった。
「──準備は、君の専売特許だと思ってたのに………移っちゃったのかな」
ハハ、と小さく、乾いた笑いが口をついて出た。
やれる限りのことはやった。手の内はすべて晒した。あとはもう、天運に任せるしかない。
さっきは「君の負けだ」なんて格好つけて言い放ってみたけれど、客観的に見れば、今この瞬間にも命を失いかけているのは間違いなく私の方だ。
今だって、ただ立っているだけで意識が飛びそうなくらい、ただ身体がしんどくてたまらない。
(…………でも、まあ、いいのかな……?)
小鳥遊ホシノという重荷が消えたとしても、今のアビドスなら、きっとどうにかなる。
こんな出来損ないの私を「先輩」と慕ってくれる大切なみんなが、あの頼もしい先生が、そして──あの不器用なユウリが、きっと繋いでくれるから。
激しい戦闘の最中、屋外のフィールドに幾度となく打ち込まれた弾丸。私とデスストロークの激しい立ち回りによって計算通りに建物の支持柱を破壊し尽くし、その重心を確実に崩落へと誘っていた。そして、その数分前の乱打のツケが回ってくる場所こそ──まさに今、自分とデスストロークが対峙していたこの場所に他ならない。
メキメキ、バリバリと、低階層部分が断末魔のような悲鳴を上げて完全な崩壊を始め、傾いていく巨大な影が、未だに地面に這いつくばって視界の闇に悶えているデスストロークを容赦なく覆い尽くしていく。
そして──。
まるで巡航ミサイルでも直撃したかのような、大地を揺るがす圧倒的な轟音と共に、世界最高の暗殺者は瓦礫の山の下敷きとなった。
「──カハッ……ゲホッ!」
奴の完全な沈黙を確信したことによる安堵からか、あるいは、張り詰めていた精神の糸が限界を迎えたからだろうか。
喉の奥から熱い血の塊が勢いよく吹きこぼれ、私は膝から崩れ落ち、ついに身動き一つ取れなくなった。
……今からここで死ぬかもしれないというのに、仰向けになった視界に広がるアビドスの夜空は、嫌になるほど依然として綺麗だった。
──あの二年目のあの日、ユメ先輩が最期に見た景色も、きっと、こんな風に似たようなものだったのだろう。
不思議と、寂しさはなかった。
対策委員会のみんなが、ユメ先輩が、すぐ傍にいてくれるような温かい気がする。
きっと、瀕死の脳が見せているただの錯覚に過ぎない、私の独りよがりが生み出した都合のいい幻想だ。
……でも、それでいい。私は、もうこれで十分に満足だから。
急速に重くなっていく瞼を、私は抗うことなく静かに下ろしていった。
その永い眠りの直前、消えかけの瞳が最期に映し出したのは──
爆煙の立ち込める瓦礫の山を猛然と飛び越え、こちらへと地響きを立てて突進してくる、一台の、あまりにも場違いな
◆
「──前方、半径10㎞以内で爆発を検知! 近いです!」
団欒の最中、アビドス対策委員会の教室に激震が走った。
アヤネの悲鳴にも似た報告に、ホシノを除いて教室に残っていたメンバーの表情が一気に真剣なものへと変わる。
「10㎞……ということは、市街地?まさか、襲撃?」
「衝撃波の形状からC4の連鎖爆発だと思われます。砲撃や爆撃ではないですが……もう少し調べてみますっ!」
アヤネが血相を変えて端末から情報を収集する間、シロコは言葉もなく、すでに愛銃を手に取って出発の準備を整えていた。ノノミとセリカもそれに続き、全員の武装が完了した頃、モニターを凝視していたアヤネの顔から一気に血の気が引いた。
「爆発地点は市街地。場所は……柴関ラーメン…!?」
「なっ!?」
一同が驚愕の表情を浮かべる中、その衝撃が最も大きかったのは、当然セリカだった
「どういうこと!何で、何であの店が狙われるの!?」
「戦略拠点でも、重要な交通網でもないのに……どうして………」
疑問は腐るほど湧いてくる。誰が、どうして、どんな目的で──。
しかし、私たちがこうして困惑している間にも、火の手は上がり、被害は拡大し続けているのだ。あの大将も、周辺にいる一般の人々も、今まさに命の危機に瀕しているかもしれない。
──なら、考えるのは後だ。
シロコは隣に立つ先生をじっと見つめ、その指揮を待った。
「向かおう。後のことはいい。今は大将や周辺住民の保護を優先しよう」
シッテムの箱を上着の内ポケットに仕舞い、先生は迷うことなく腰を上げ、教室の扉を勢いよく開いた。アビドス対策委員会、緊急出動の合図だ。
「アヤネちゃん、ホシノ先輩は?」
「それがまだ連絡がつかないくて………」
「ああ、もうっ!こんな時に限ってホシノ先輩はいないんだからっ!!」
──おかしい。
セリカの怒声を聞きながら、シロコは胸の奥に冷たい違和感を覚えていた。
このアビドスの緊急事態において、小鳥遊ホシノがこの場にいない。それが意味する、決定的な不気味さ。それは単に「戦力が一枚足りない」とか「間の悪いタイミングだ」とか、そんな単純な数値や偶然の範疇に収まる重みではない気がした。
シロコには、自分が対策委員会の中で最もホシノのことを見つめてきたという、静かな自負があった。普段ののほほんとした昼行灯な雰囲気の裏に隠された、この学園への狂気的なまでの執着。きっと、誰よりもアビドスという居場所を想っているのはホシノ先輩だと確信していたからだ。
そのホシノが、この最悪のタイミングで不在。本当にただの間違い?
もし、そこに私たちの預かり知らぬ『別の意味』があるのだとしたら──。
「行こう、シロコ」
「──うん!」
いや、考えるのは後だ。今は柴関ラーメンの救出を優先すると、先生も言った。
先生の走る背中に従い、市街地駆け出す。
大丈夫。ホシノ先輩ならきっと大丈夫。だって、私の知る限り、あの先輩より強い人なんて、この世界にはまず存在しないのだから。
きっと大丈夫だと、自分に言い聞かせるように、そう強く信じ込んだ。
そういえばデスストロークがどんなキャラか紹介するの忘れてた。
「デスストローク」(スレイド・ウィルソン)
元敏腕の傭兵。アメリカ軍の極秘実験により、超回復力と身体能力を手に入れた。オレンジと黒で構成されたコスチュームを着用。バットマンに勝るとも言われる戦術頭脳と武器を選ばぬ多彩な技術を持ち、バットマンを追い詰めることも多い。メインウェポンとして両刃の剣と金属の棍棒を主に使用する。バットマンヴィランの中でもかなりの実力派で、「アイデンティティ・クライシス」では、スーパーマン・バットマン・ワンダーウーマンのトリニティを除いたジャスティス・リーグのメンバー相手に一人で互角以上に渡り合った。
元々はロビンがリーダーを務める少年、少女によるスーパーヒーローチーム「ティーン・タイタンズ」のヴィランだったが、バットマンに逆輸入された。ちなみにロビン(ディック・グレイソン)をバットマンへの対抗心で弟子にしようと画策したり、テラという超能力を操る少女と一緒に寝たりしてるのでペド扱いされることもある。
アーカム・オリジンズ(ビギンズ)でコイツとバットマンが戦うトレーラーはマジでカッコいい。実はデッドプールの元ネタだったりするが圧倒的に向こうの方が知名度が高い。人気はあるのにメディア出演は中々果たせない不遇なキャラでもある。
(「バットマンvsスーパーマン」「ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット」に出演し期待されていたが、DCEUが頓挫し製作が中止されたのでまともに出演した時間はかなり短い)。DCUではコイツとベイン(バットマンの背中を折って完全敗北させたおじさん)をメインに据えた映画も予定されているので要チェック。
この物語では17歳の女性の設定だが、本家はバリバリのおじさん(大体アラフィフ)なので注意。