Blue Archive / The Dark Knight: Requiem   作:藤子F藤浪

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3. 友人

リオと共に廊下を歩くユウリ。セミナーの生徒会長とキヴォトスのプリンス。キヴォトスでもトップレベルのスタイルと端整な顔立ちを持つ二人が一緒になって歩く姿に、すれ違う者は悉く振り返る。誰もがそんな二人の内容を高度な数学や工学のようなハイレベルな難しいものだと想像する。

 

そんな見てくれの良さに対して、二人の会話は大したことのない雑談だった。

 

「トキはそっちでも大丈夫か?君の所で何をしているのかあまり話してくれなくてな」

「やっていることは貴方の家での作業と変わらない筈よ」

 

本当だろうか……ユウリはリオの生活能力の低さをトキから度々聞いている。何でも、レトルト食品の調理を失敗したり、部屋は人の住む場所とは思えないほど散らかっているなど、トキへの依存具合が垣間見える瞬間も少なくない。

 

自分のことを棚に上げることはできないが、ブルースと生活していた時には最低限自分とブルースの家事は行っていたユウリは、まだ自分の方がマシだろうと思った。そして、もっとトキへの負担を減らそうと決意した。

 

「それより、本当に大丈夫だったの?ネルの悲鳴が聞こえた気がするのだけれど……」

「……気のせいだろう」

 

遠い目をしながら、友人(ネル)の安寧をユウリは祈る。その最期はきっと安らかだったことを信じて。

 

──勝手に殺すなっ!

 

そんな空耳を無視しながら。

 

リオは頭に?を浮かべながらも、まあユウリがそう言うならばと結論を終える。

そして、本題の場所へとユウリを案内する。

 

リオがセミナーの資金を横領しようとしている。そんなことをトキから聞いた時には何の冗談かとユウリは疑った。しかし、それが事実だと本人の口から出た時には驚きを隠せなかった。

まさか、リオが()()()()()を作っていたとは。

 

”エリドゥ”

いつか訪れるキヴォトスの危機、無名の司祭の襲来に備えた要塞都市。

その存在は現時点ではトキを含めたこの三人しか知らないだろう。

 

『ユウリ、貴方にしか話せないことがあるの』

 

そういうリオの表情は、普段の素面とは違い、酷く焦燥とした冷静を欠いた、まるで今にでも危機的状況に苛まれているのではないかと疑う程、やつれきっていた。

 

 

──そんなこともあり、ユウリはリオの”共犯”としてエリドゥの建設と維持に掛かる費用含め諸々を負担し、キヴォトスの危機に対する準備を進めている。

 

「ユウリ、これを見てほしいの」

 

リオに案内された先には、一体の”ロボット”の姿があった。

ミレニアムの校章が大きく描かれたボディ、キャタピラになっている脚部、4本の腕からはバズーカ砲からアサルトライフルまで装備されている。

 

”アヴァンギャルド”と紹介されたそれを、リオはさぞ誇らしそうに見つめ、褒めろと言わんばかりにユウリからの反応を期待して待っている。それに対して、ユウリの普段からハイライトのない目が一層暗くなることになった。

 

ただ、何と言えばいいのだろう。ユウリは芸術には詳しい一面がある。所有する絵画や壺も数十に及ぶ。その上でユウリはその豊富なボキャブラリーから適切な言葉を探したが、合致するものは見当たらなかった。

 

強いて、そう、リオのことを考えずに言葉を選ぶとするならば…………

 

 

(──ダサいな、コレ)

 

 

全てを黒で統一しようとするユウリが言えた口ではないかもしれないが、それでもリオの美的センスはあまりにも前衛的で、独特過ぎた。

 

チラリとリオを伺う。普段と同じ冷徹にも見える表情が、今だけは褒められるのを待つ子犬の様な雰囲気を醸し出している。こういう所だけやけにトキに似ている。ヴィランならボロクソに言うであろう罵詈雑言も、善意しかない友人相手にはとてもじゃないが使える手段ではない。

 

選んで、選んで、選びつくした後に、ユウリはやっと重く閉ざしている口を開き、深呼吸する。

 

「──悪くないんじゃないか?」

 

肯定とも否定とも取られない絶妙なラインに言葉に、リオは満足したのか、その表情は日頃とは打って変わり口角は僅かに上昇している。…つまり、リオは本気でアヴァンギャルド(アレ)をデザインしている訳だ。また知ってはいけない友人の一面を知ってしまったように感じる。

 

──とはいえ、リオのアヴァンギャルドを見せる為だけにユウリを呼び出した訳ではない。

名残惜しそうにそれの前を通り過ぎ、エリドゥの最奥にあるモニタールームに入る。キヴォトス全土に秘密裏に設置された監視カメラから出力された映像が巨大モニターに映し出され、リアルタイムの情報がエリドゥへ集まる。プライバシーを完全に無視した”キヴォトスを救う”という大義の名の元に許容した悪事。故に、ユウリはリオの協力者ではなく共犯を名乗る。目的はどうあれ、自分のやっていることは悪だという自覚があるためだ。

 

「これが、あの……」

「ああ、これがシャーレの”先生”だ」

 

二人が今まさに監視しているのは、先生だった。キヴォトスの外から来た異人を信用できていないのはリオも同じ。もしも彼がキヴォトスに破滅を招く存在だったとすれば……そんな不安が拭えるにはあまりにも情報が少な過ぎる。

 

『全てを警戒しろ、信用できるものはないと思え』

 

ブルースの言葉が蘇る。彼の忠実な弟子であるユウリは、その言葉を遂行するほか手段はない。

 

横目でリオを見据える。彼女は本当にキヴォトスの安全を願っているのか。私利私欲は一切ないのか。本当に自分は彼女を信頼してもいいのか。

 

ユウリはリオすら警戒する。エリドゥが完成している現在、それを一番効率的に運用、制御できるのはリオしかいない。エリドゥの全性能をフルに活用し、それがもしキヴォトスに対し向けられたのなら、キヴォトスは為す術なく崩壊するかもしれない。彼女自身が悪をならなくとも、洗脳やハッキングはあり得る。

 

事実、リオはユウリがバットマンであることを知らない。

ユウリ自身が明かすことを選ばなかったからだ。

 

………果たして、ユウリが信頼している人物は存在するのだろうか。

リオやネルを友人と認め、しかし、それは本当に信頼と呼べるのだろうか。

 

 

Who is the BATMAN?(バットマンは誰だ?)

 

キヴォトスに住むほとんどの人間が一度は考えたことのある謎。

その答えを知る者は片手で数えても指が余ってしまう程少ない。皆がマスクの下の素顔を明かそうとする。

 

仕方がない、とユウリは思う。自分が市民の立場でも気になるだろうから。しかし、好奇心は猫を殺すということを分かってほしい。もし、自分の正体を探ろうとする者がいるのなら、直ちにそれを辞めるべきだと警告する。

 

ユウリにとっての”悪”とは、犯罪を犯すことだけではない。

”バットマン”という神話を壊そうとする者には、全力で抵抗しなければいけない。持ち得る全てを利用して、徹底的に思い知らせなければいけない。

 

知ってほしい。バットマンはヒーローでも、善人でもないことを。

 

 

 

 

 

 

ミレニアム都市部、幾多もの高層ビルが並ぶ一等地帯の中、何十人という警備に守られた少年が周りの目を引く。スーツからシャツまで黒一色で統一され、サングラスでやけに眩しい太陽から視界を遮る。

 

これぞユウリの持つ「キヴォトスのプリンス」という肩書を背負うに至った原因である。

ユウリが社長を務める「ウェイン・エンタープライズ」普段は学生であるため出勤することはないが、今日は珍しく会社の方から呼び出されていた。

 

厳重な警備が揃うエントランスからロビーを抜け、エレベーターに入る。何十階という階層を抜け、辿り着いた先はビルの頂上、社長室。ユウリ以外の人物は入れない筈のその場所に、ロボット型の市民は一人待っていた。

 

「おはようございます、ウェインさん。お体はよろしくて?」

「おはよう、ルーシャス。お陰様でな」

 

”ルーシャス・フォックス” ユウリが学業に集中するという名目で代理のCEOに選ばれ、鋭い経営眼と市場観察によりウェイン・エンタープライズをキヴォトス有数の大企業に導いた有能な男。

 

──という仮の姿を持った、ユウリ・ウェイン(バットマン)の協力者であり、正体を知る数少ない人物の一人。

 

ブルース・ウェインがキヴォトスに居た時代からユウリと付き合いがあり、その歴史はトキよりも長い。現状、ユウリが最も信頼する人物と言っても過言ではないだろう。

 

「私も忙しいのでね、単刀直入に言います。先生とのアポが取れました」

 

ルーシャスの言葉にユウリは不敵に微笑んだ。ようやく自分の目で先生を確認できる機会がきたのだ。

 

「先生は現在、”アビドス高等学校”で生徒達の支援に注力しています。アビドスの現在はご存じでしょう?」

「ああ、経営難で廃校寸前。何とか持ちこたえてはいるが時間の問題……といったところか」

「ええ、その認識で結構です。つまり、先生にはこう言って面会を取り付けました」

 

アタッシュケースが机の上に積まれる。その数は一つや二つではない、ピラミッドの様に積まれたケースの数は10個。一つ一億円だとすれば、その合計は10億円になる。

 

「「先生次第ではアビドスの借金を全て肩代わりしてもいい」とね」

「…………成程」

 

全ては、ルーシャスが先生を試す為に仕組んだことである。

先生は生徒の為にどこまで行動するのか、ラインは超えるのか、見返りは求めるのか。金銭という分かりやすい物差しで、それを試そうという魂胆は単純ながら誘惑としては丁度いいだろうと考える。

 

「10億程度なら雑費で済みますし、これでアビドスも問題が解決に一歩でも進むなら貴方としても満足でしょう」

 

飄々とそう言い放つルーシャス。日頃から何百億という時価の変動を見る男にとって10億というのはさして気にならない金額である。

 

アビドスへの支援は今までも試みたことはあるが、その度にカイザーコーポレーションの邪魔が入り実現には至らなかった。そこで現れたのが先生という訳だ。シャーレの権限があれば、カイザーと言えど邪魔はできない。こちらから堂々と支援を受けさせられるという訳だ。

 

「またカイザーと揉めそうだな。君は大丈夫なのか?」

「昔から色々やってますし、今更ですよ。面倒は面倒ですが、私としてもアビドスのみならずキヴォトスの発展には尽くすべきだと考えています。貴方やブルースに共感したから今の私がありますから」

 

そう言って、ルーシャスはユウリの頭を撫でる。10㎝以上の身長差があるのでユウリは少し屈むが、やはりその表情はいつもと変わらない。しかし、構わずルーシャスは撫で続ける。

 

──彼もまた、ユウリの悲劇を知る一人だから。

 

悪と戦うことでしか自己を確立できない、そんな哀れな少年だと知っているから。

 

「ウェインさん、貴方はまだ子供です。いつでも私を頼っていいんです、社会の責任を背負う必要は無いんです。……と言っても、頑固な貴方は聞き入れてはくれないでしょうね。だから、これだけは覚えておいて下さい。貴方が仕出かそうが、私は貴方の味方です。最期まで御供しましょう」

 

「…………ありがとう、ルーシャス」

 

ルーシャスもまたユウリに救われた一人である。夜を守るバットマンとロビンに助けられ、生き延びた恩を受けて今の立場にいる。バットマンの共犯者でありながら、ユウリの幸せを誰よりも願う一人である。いつかきっと、この少年は普通の人間に戻れる──そんな理想を抱き続けている。

 

 

 

 

そして、その日は訪れた。

 

「──初めまして、先生」

「うん、初めまして」

 

「ユウリ・ウェインです」

「シャーレの先生、でいいかな?」

 

小さな火種は燃え尽きるのか、火事にまで発展するのか。

今は誰にも分からない。

 

 

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