星々と太陽   作:千里亭希遊

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2.使い魔とエーテル

「僕の使い魔、を見なかったかい?」

 

 パンデモニウムの一件の後、しばらくしてアゼムはエルピスを訪れた。

 

 きっとあの者にはあまり近づくべきではない、そんな強い予感があった。けれどこっちの名前を使われているらしく当然色々と話を聞かされて好奇心が抑えられなくなってしまった。元来、面白そうなものを放置できるたちでもない。

 

 予想通りなら『星』はこの時代に幾度も遊びに来るはずだった。あの者が既にここで過ごし終えた時間より前についてはもう渡るすべも動力もあるはずはないが、あの塔が破壊されない限りこちら(・・・)への道自体が閉ざされることはないだろう。となればあの者は、こんな面白い施設を見逃すさがでは絶対にない。

 

「ああ、あの子なら昨日見かけましたよ! ところでイデアの登録はいつですか?」

 

 にこにこと、というより、期待でたいそう圧の籠もった笑顔で天測園の観察者はアゼムに迫った。

 この人これでも最初の頃は十四人委員会がどうのこうので堅苦しく接してくれちゃってたんだよな、などと、アゼムはどこかしみじみと思い出す。今は結構砕けた様子で接してくれるが、それでもどうも丁寧語は抜けてくれないらしい。

 

「まだ気になるところがたくさんあってね、もっと観察が必要なんだ。だからここでのんびりさせてもらえてるのがすごくありがたくて」

 

 しれっとアゼムが言うと、観察者は「あれでまだ……」と少し慄いていた。

 発言内容に関しては『星』に対してならば嘘でもない。『アゼムの使い魔』とは君たちの言い分だろう? という屁理屈である。

 

「ところで昨日は何を? 調子が悪そうなのを感知したから心配でね」

「何ですって……?! ……あ! そ、そういえば、無尾目(トード)らしき創造生物に絡まれていたのも見かけました。あの子の助言の成果のお披露目だとかで。あの子も笑ってましたが、ベトベトに……」

 

 聞いたアゼムはくくっと笑った。なんて楽しそうなことをしていたんだ。

 

 ところで何か感知したとかいうのはでまかせだ。見聞きした『星』の行動パターン(お人好し)を思えば不調なシーンなどいくらでも周りの目に入るだろうし、それがなくとも「他所で何かあったのかもしれないからもっと聞いて回る」という方向に持っていける。

 

「なるほどね。いい子にしているようだ」

 

 観察者は『ヒトが喜ぶほどの助言をしていた使い魔』を『いい子にしている』で済ませるアゼムに底知れぬものを感じたが、この人物に関しては一般常識で測れないことが茶飯事なのでもう敢えては触れない。

 

「情報ありがとう。そうやって独力でやってることの観察がしたいのだけれど、なかなか難しい。本当、どこかの誰かたちみたいな『眼』がほしいものだね」

 

 エメトセルクとヒュトロダエウスのことだと察した観察者はくすりと微笑む。彼ら三人の仲の良さは多くの知るところだ。

 

「さて、僕なりに昨日のあの子のエーテルを辿ってみるかな。長尾目(トード)ってことは逍遥水径?」

「ええ! 少し南東側です!」

「ありがとう、行ってくる」

 

 お気をつけて、と言う観察者に小さく手を振って、アゼムはポイエテーン・オイコスにあるエーテライトへ転移した。

 

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 その『助言』を受け入れられたときに嫌な予感くらいしていたのだろうに、律義にお披露目されたあたり本当にお人好しだとアゼムは思う(他人からするとアゼムは人のことを言えない)。翻弄される『星』の様子に思わず笑ってしまった。

 

 エーテライトまで戻る間にも気紛れに『昨日』を探ってみれば、他にも創造生物との追いかけっこやかくれんぼや餌やりを依頼され、『星』はそのどれもを真剣に丁寧に引き受けていた。

 楽しそうで何よりとアゼムは微笑む。

 

 ──『星』。

 

 自身が生み出した権能を行使する自身ではない何者か。

 

 その者を壮年のエメトセルクが自身と誤認していたのを『視た』時、アゼムは己の天命が彼らと共にないことを悟った。

 

 あの『星』は、未来でアゼムの魂を継ぐ者なのだ、と。

 

 周りの人々と違って何故か時折勝手に発動する『過去視(・・・)』で、その『星』のことをアゼムは『視て』しまうようになった(・・・・・・)

 勝手に発動するのは『過去視』だけのアゼムに勝手に『視える』、どこか知らない所での知らない赤の他人のビジョン。

 

 エメトセルクのあの誤認で『星』にとっての『過去』だから、という見当がついてしまった。

 あの『星』がアゼムの魂を継ぐ者であるがためにどこか共鳴している、と。

 

 かの『星』は本来の歴史では早くに死ぬ運命だったらしい。そしてそれを回避した先でこの時代にやってきた。回避したからこそ、やってきた。その歴史が紡がれたからこそ、だ。

 この『現在(いま)』がその未来に繋がったから『視え』るようになったのだろう。

 

 事態を思えば並行世界なんかが存在する可能性も出て来るのだから、どこかに『視え』ないアゼムもいるのかもしれない。しかしここにいる自身はとりあえず『視える』アゼムらしい。貧乏くじにも思えて頭は痛いが、凶と出るか吉と出るか。腹が立つからせめて吉にしてやりたいものだ。

 

 エルピスでの噂話諸々からすれば、パンデモニウムに(いざな)われる以前から道が繋がれていたのは確実だ。アゼムがあの件での解決の『星』として掴んだのは、そもそも『来ることができる』存在だったからでもあるだろう。

 

 何故、この時代を訪れることになったのか。まさか適当に流されただけではあるまい。乞われたか、望んで方法を探したはずだ。死を回避したのにも時を遡るすべが必要だったらしいのだから、有り得ないことではないだろう。そしてあの塔でそれを獲得し、道を繋いだ。

 

 ──『終末』の先にいる者から、アゼムが何かたどれるものはあるだろうか?

 

 そうやってとりとめなく考え事をしながらエーテライトまでたどり着いた時、眩暈のような感覚に襲われる。

 そう、勝手なほうの『過去視』だ。

 

 あのエメトセルクが、怒り露に机まで叩いて歩き去っていく。

 席に着いていたのは、彼と、ヒュトロダエウスと、ヴェーネスと、『星』。

 

 ああ。やはり彼らは出会っていたのか。

 

 勝手に発動するとはいえ、『現状』にまったくの無関係というわけではないことが多い。

 情報が欲しいと思っていたのだから当然だったのかもしれない。

 

 この辺りであの広さの部屋があるのはエーテライト北西の建物だけだろう。

 アゼムはふらふらとそこに吸い寄せられるように歩き、そしてその場に記憶された過去のエーテルを読み取る。

 エメトセルクとヒュトロダエウスが記憶を失ったと言っていたあの日のそれは、今はまだ幸いにもたどることができてしまい──。

 

 とんでもない話を、聞いてしまった。

 

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 あの日の『星』のエーテルをたどっていく。

 

 ヴェーネスとこの地を歩き、彼女と話し、様々なものを目にする『星』。

 

 ヒュペルボレア造物院に向かったようだったが、見学と偽って中に入れてもらってみてもどこにもあの日の記憶は残されていなかった。

 

 無意識に焦りながら、ふらふらとボレアースを彷徨い手当たり次第にあの日をたどれば、いつの間にか『星』は二人と再会していた。

 

 ヘルメスにも打ち明ける『星』。

 

 報告をためらうメーティオンを、皆と追いかける『星』。

 

 その報告のほんの一部を聞いて。

 

 そして。

 

 ヒュペルボレア造物院に関するエーテルはやはりたどれない。

 

 記憶を失った三人を見守るヴェーネスと『星』。メーティオンがいない。

 

 そして『星』はプロピュライオンでヴェーネスと別れた。

 

 たどれたのは、そこまで。

 

「……」

 

 絶句するしか、なかった。

 二人が失ったと言っていた記憶の一部を、『部外者』の自分が知ってしまった。知ることが、できてしまった。

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