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(1/3)校正
「じゃじゃーん!完璧な出来栄えね。よくやったわ一号!」
「んな、んな!」
目の前にあるのは荷車だ。ゴミ捨て場に捨てられていたスクラップを元に改造したもの。
起業にさしあたって使えるものは私の持ってきたお小遣いだけだったから、元手0ディニーで商売道具を作れたのは上々ね。
はじめは荷台の部分しか無くて、見た目もボロボロだったからどうなるかと思ったけど、部品を探す為に目を離した隙に社員一号が修理、塗装全部を一人でやってくれて、『もはや全然別物の新品をどこかから用意しました』ってくらいの出来栄えに仕上がった。やっぱりこの子は幸運のボンプだわ。
「にしても、あなたって多才ね。どこでそんな技術身につけたの?」
「んな、んなんな」
「ごめん、やっぱり何言ってるか分かんない」
「んな」
そんな「んなんな」言われたってしょうがないじゃない。ボンプを作った人はどうしてこんな喋り方にしたのかしら……。
「ま、とにかくこれで商売道具は手に入ったわね。次は何を売るかだけど……流石に商品までこのスクラップ置き場で用意するわけにはいかないわよね……」
「んな!」
「何?あなた何か良いアイデアでもあるの?」
ボンプの後をついて行く。するとそこでは屈強なゴリラのシリオンの人たちがスクラップを集めて、機械で四角く固めていた。ゴミ処理のお仕事をしている人たちかしら?
「あの人たちがどうかしたの……なるほど、商売を起こすには先ずはターゲット層を決めないといけないわね」
「んな!」
「となるとあの人たちにとって今必要なものは何かしら……ちょっと盗み聞きしちゃいましょう?」
そう言って作業現場に耳を澄ますと──
「オーライ、オーライ!よし、これで良いな、次行くぞ!」
「はいよー、にしても今日は暑いなぁ」
「仕方ねぇよ。しばらく猛暑が続くって話だぜ?」
「俺なんか汗でびしょびしょだよ。お前、水持ってねぇか水」
「お生憎様、もう空っぽなんだなこれが」
「マジかよー……暑さで死んじまうぜ」
「もう暑さなんてこり『ごりら』ってか?」
「「ウホウホウホウホウホwww」」
バタリ。
「おい!二人が暑さにやられて倒れやがったぞ!」
「誰か担架持ってこい!」
──とのことらしい。立派なドラミングだった。
「なるほどね。私、閃いちゃったわ」
「んな?」
「レモネードよ!キンキンに冷えたレモネードを汗水流して働いている人たちに売るの。熱中症対策にもなるし売れるはずよ。それに子どもが物売りをするときはだいたいレモネードって映画でも相場が決まってるわ」
「早速材料を仕入れに行かなきゃね。お昼休憩の時間までに間に合わせないと。行くわよ社員一号!」
「んな!」
かくしてレモネード屋へと転身した私たちは早速呼び込みを始めた。
「おいしいレモネードはいかがですかー?キンキンに冷えた悪魔的レモネードですよー!」
「んなんなー」
「レモネードか、ちょうど喉乾いてたんだよな。一杯くれよ」
「一杯50ディニーです」
「安いなおい!なら二杯くれ」
経費が冷やすための氷とクーラーボックス、あと水くらいにしか掛かってないので当然である。レモネードに必要なレモンと砂糖は社員一号が拾ってきた。親切なレモン農家と製糖業者さんが余っているものをくれたらしい。
いくらなんでもその辺にレモン農家と製糖業者さんがいるなんて……運が良いわね!
「企業努力です〜。はいどうぞ、お仕事頑張ってください!」
「お嬢ちゃん俺にも一杯くれや!」
「俺も一杯、いや二杯!」
「5人分くれ!」
「はいそこ並んでくださいねー。一号、どんどんレモネード作っちゃって」
「んな」
社員一号は目にも止まらぬ速さでレモネードを作り上げお客さんへと配っていく。できる社員が居るって社長として幸福なことだわ。
「まいどありー……よし、ここの人たちにはあらかた売り終えたわね。一号、次行くわよ次。商機はまだまだ残ってるわ、ついてきなさい!」
「んな!」
まずは工事現場!まだお昼休憩は終わってないはず!
「レモネード?こんな現場近くで珍しいんじゃないか?丁度良いし人数分買ってくるか。ベン、経費で落としといてくれ」
「社長、まだ会計の作業が……」
「まだやってんのか?もう昼休憩だぞ。おいアネキ!アネキも昼休みなんだからさっさとこっち来い。すまんベン代わりに行ってきてくれ。アネキ──ッ!!」
「すみませんお嬢さん、レモネードを人数分貰えるだろうか?」
「どうも熊のシリオンさん!蜂蜜入れますか?」
「ありがとう、是非そうしていただきたい」
次に小学校!そろそろ低学年は下校の時間!
「わー、レモネードの屋台があるよ!僕一つ買っちゃお」
「私もー」
「あの子、見たところまだ小学生よね?じ、児童労働かしら……?」
「あ、まずい。逃げるわよ一号!」
最後は公園!色んな人が散歩や運動、スポーツを楽しんでるからそこを狙う!
「小さいのに立派ですね。私も一つ買っても良いかしら」
やってきたのは黒髪に赤いポイントカラーの入った背の高い女性の治安官。
「どうぞ、治安官さん!(この人治安官なのにでっか……というか下半身の服ピチピチだし、もはや治安乱してるよ……)」
「どうしたんですか?そんなに見つめて」
「……私も治安官さんみたいな『大っきな』大人になります!」
「ふふ……ええ。頑張ってね」
「結構稼げたわね」
「んなんな」
荷台にディニーでいっぱいの瓶を乗せた荷車を引きながら歩く。
時刻はすでに夕方になっていて、ビルの向こうには夕日が沈んでいく様子が見える。もうすぐ夜になるから、それまでには流石に孤児院に帰らないといけない。
「それじゃ、はいこれ」
「んな?」
歩みを止め瓶を社員一号……白いボンプに渡す。この子はキョトンとして良く分かっていないみたいだ。
「今日の給料よボンプちゃん。一日ありがとう」
「んなんな!」
受け取りを拒否するように押し返してくるが、さらに押しのけてやる。
「いいから受け取りなさい。今日の稼ぎ、ホントは全部あんたのおかげってちゃんと分かってるんだから……それに、別に私が持っててもしょうがないしね。たとえ瓶いっぱいのディニーを得ても、私が自立して生活できるわけでもないもの」
「………………」
「ま、今日私は初めて自分の力でお金を稼ぐことが出来た。それを知れただけでも私には十分よ!だからほら、持ってきなさい」
「……」
「ちょっと聞いてるの?私の分は良いってば、ほらほら」
「……きみは──」
「なんだぁお嬢ちゃん。そんなお金いっぱいの瓶なんか見せびらかして」
突然男の人の声がして、後ろから伸びてきた手に瓶を取り上げられた。
「うっひょー結構あんねぇ。全部でなんぼだぁ?これ」
「ちょっと!あなた誰!それ返しなさい。私たちが稼いだお金よ!?」
瓶を取り上げた男はタバコ臭く、痩せ気味で柄の悪い男だった。
「おっと、落ち着きなさいなお嬢ちゃん。これ、お嬢ちゃんが稼いだのかい?凄いなぁ、一体どうやって?」
男は飄々として悪びれる様子もなく言う。正直言って怖い。明らかに普通じゃない様相をしている。でも、それは私だけの物じゃないんだから……ッ!
「レモネードを売ったのよ。早く返してって言ってるでしょッ!」
瓶に手を伸ばして取り返そうとするけれど腕を上げられ手が届かない。こいつ、私で遊んでるわけ!?
「おいおい、暴れん坊だなぁ。そんなんじゃ、立派なレディになれないぞー?」
「うっさいわね、お金を盗むような奴に言われたくないわよ!」
「盗む?それは違うぜぇ〜お嬢ちゃん。君、営業許可取ってねぇだろ?それじゃあ治安局に捕まっちまうよ?」
「はぁ?確かに許可は取ってないけど、そんなわけ……」
「──だからさ、おっちゃんが許可取っといてやるよ。おっちゃんはここらへんを仕切ってる羽林組の組員だからな。そう言うわけだからこいつは一旦預かるぜ。大丈夫、すぐ返してやるからよ」
「ちょッ!返しなさいッ!!返せッ!!このクソ野郎ッ!!!」
私の腕を簡単にあしらい、背中を向け歩いて行く男は私の言葉に欠片も耳を貸そうとしない。こいつ……私が子供だからって適当なこと言って本当にお金を取り上げるつもりだわ……!
無理矢理にでも取り返してやろうと拳を振り上げると、後ろから手を掴まれた。
「……なんで止めるの!?離してッ!」
「んな」
私を止めたのは白いボンプだった。首を振って諦めるように諭してくるが、納得できるわけ無い。
「なんで?こんな理不尽があって良いって言うの!離せ!離しなさいよッ!このッ!おい!待てッ!クソ男!」
男は私たちを見て、嘲笑すると小走り去っていく。
「どうして?なんで?私が何か悪いことした?一号……!こんなことが許されて良いの!?」
「……──」
「──良いわけないねぇでしょうがッ!!!離しやがれ!クソッ!!」
せっかく、良い一日で終わると思ったのに。なんで私っていつもこうなるわけ?いつもいつも、孤児になる前も、孤児になってからもクソみたいな日常が続いてる。
ボンプの手を振りほどこうとするが、思った以上に力が強い。
それとも、こんな終わってる社会で真っ当に生きようするのが間違ってるの?
暴力に身を任せてボンプの顔を殴って、蹴って、噛みつくけど、それでも離さない。
もっと、単純な子どもで、居させてよ……。
「う、ア゛ぁぁぁ──ッ!!!」
行き場の無い理不尽への叫びを、私は白いボンプに吐き出し続けた……。
河川敷、長い時間感情をぶちまけたあと、月明かりに照らされる川の流れを眺めながら私は座り込んでいた。
「……ごめん」
「んな」
一号は私がたくさん殴ったり引っ掻いたせいでボロボロになっていた。メガネがひしゃげて罅が入っているし、シャツは解れて糸が出ている。耳も……折れちゃったかもしれない。
一号は何も言わず私の背中を撫でてくれた。落ち着いた今なら分かるけれど、あいつは明らかに裏の人間だった。なんとか組……確か羽林組とか言ってたから、多分暴力団の一員。もし私があれ以上抵抗していたら、お金を取り上げられるだけじゃ済まなかったかもしれない。
でも、それが分かってても多分、私は抵抗したと思う。理不尽を受け入れる自分は嫌いだから……。
「ねぇ……一号」
「んな」
「あのね、その……私の話、聞いてくれる?」
「んな」
「……ありがとう」
隣に座り川を眺める一号が何を言ったかは分からない。でも多分否定では無いと思う。
これは私が孤児になる前の話よ。物心ついた時には母親と暮らしてた。思い出すのはボロボロのアパートの一室と、いつも怒ってる母親の顔。
私の母親は世間で言う毒親だった。父親は知らない。母親は夜職をしていて夜は家にいなかったから、私は自分でゴミを漁ったり、母親の残り物を食べて凌いでいた。昼に帰ってくると、母親は仕事のストレスを晴らすように私に暴力を振るった。本当は家の外にいたかったけれど、私の住む地域は危なかったから家の中にいるしか無かった。正直、自分でもよく生きていけたなって思う。
状況が変わったのは数年前、ホロウ災害で家を失った私と母親は一緒に避難した。
意外だったのは、母親が私を捨てなかったこと。置いていかれると思っていた私は、ホロウ警報を聞いて死ぬんだと思ってた。
……別に、急に母親らしくしようと考えたわけでは無いと思う。余裕が無いことを加味しても利己的な人だったから、多分『娘を見捨てる自分』になりたくなかっただけじゃないかな?
話を避難した頃に戻すわ。
母親は当然職を失ったわけで、私たちは食うに困った。そして──母親は盗みを犯し私は治安局に保護された。
母親は盗みに加えて私への育児放棄、虐待等で私への接触禁止、懲役15年が課せられた。私は病院で治療を受けたあと、孤児院に入った。
私は自由になったわ。だからさっさと自立して、自分でお金を稼いで、クソみたいな人生をやり直したいってワケ。
……これが、私の今までの人生。聞いてもつまらないでしょ?
あなたがボンプで良かった……言葉は通じないけど、逆に、酷いこと言われないで済むし。
それに孤児院だと私は孤立してたから、初めての友達、だし。
あなた、本当の名前、なんて言うの?って言葉通じないんじゃ分かんないか。
……地面に書いてくれるの?『アリス』って言うのね。ふーん、私は『コルン』よ。別に宜しくしなくて良いけど。
ちょっ……急に抱きついてきてなに?
もしかして慰めてるつもり?
別に、憐れみなんて……私は……──っ!
なにこれ……──っ!
おかし……──!!
「……んなんな」
「ぁ────ッ!!」
ボンプの小さな手からハンカチを受け取り、泣き腫らした目を隠すように拭う。
「すんっ……ありがと」
「んな」
タダでさえボロボロだったボンプ──アリスの身体は私の涙や鼻水のせいでカピカピになっていた。
「ごめん、私のせいでこんなに汚れて……」
「んな!」
それでもアリスは怒ることなく、むしろまるで名誉の勲章を誇るように胸を張った。
な、なにこのボンプ。めちゃくちゃイケメンだわ……。ボンプじゃなかったら私落ちてたかも……。
「あーあ、アリスが人間だったらなぁ……」
「ん、んなんな!?」
「あ、いや。別にボンプが悪いとかそう言うんじゃ無いんだけどね」
なんか返事がぎこちない気がしたが、気のせいだろう。
日も暮れて時間は経ち、辺りは既に暗い。きっと孤児院に帰ったらカンカンに怒られるに違いない。
あー……帰りたくないなぁ。
「ねぇ、アリス。最後の最後に刺激的なことしてかない?」
「んな?」
「──今から羽林組の事務所にカチコミかけるの」
「……」
懐からスマホを取り出し何処かへと電話しようとするアリス。番号は……1……1……0……。
「う、うそうそ!カチコミは嘘だよ。でも、なんとかお金取り返したいじゃん!」
「んな!」
「そこを何とかお願いします!アリスってただのボンプじゃないんでしょ?だからアリスの力があればなんとかなると思うの……!」
「ん……んな!」
「お願い!」
「んな!」
「お願いします!」
「んなんな!」
「ついてきてくれなきゃ一人で行くからね!」
「………………んな」
「やったーアリス大好き!」
この子押しに弱いわ!
【おまけ】
「そういえばアリス、お金渡そうとしたとき喋ってなかった?」
「……ンナ」
「気の所為……?」
『レモネード』
海外で子どもが売るレモネードにはチャリティー的意味もある……らしい。
『羽林組』
オリ暴力団。赤牙組とか山獅子組とかと同系統の所謂ギャング。
『コルンちゃん』
かわいそう。これで10歳ってマジかよ……。
『白いボンプ』
幸薄そうな子を見ると共感して助けてくなってしまう奴。羽林組は絶対殺すウーマン。裏で色々画策中。
『一方その頃邪兎屋』
ニコ「あの子あたしたちに憧れてホロウレイダーになりたいって言ってたからきっと一人でホロウに行っちゃったのよ!」
ホロウ内一同「「「全ッ然見つからない!」」」
【後書き】
なんかシリアスじゃね?前半と後半で風邪ひくって。というか主人公が「んなんな」としか言わない小説ってなんだ……。
感想くれたら作者がンナンナ鳴いて喜びます。書くことない人はンナンナしましょう。作者が共鳴します。
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