後書きに5章ネタバレ含みます。
ウェア-トゥ-ダイ1
「生き方を選べる人間は少ない。だからこそ、死に方くらいは選ばせて欲しいと思うのはおかしな事かね?」
「『パエトーン』、お前たちは、自分の命の使い道について考えたことはあるか?」
【ビデオ屋『RandomPlay』】
『パエトーン』と『ホロウの女王』が手を組んで数週間が経過した。僕たちと彼女──本名『
本来の目的である零号ホロウ深部の調査は未だ時期尚早として行っていない。彼女が個人的にデータを採集し計画を立てている段階だ。
最も、僕たちもいきなり行けるとは思っていなかったのでそこは問題無い。今関わっている事件──ヴィジョンコーポレーションが住民ごと爆破解体を企んだ事件もまだ解決していない事だしね。
少なくとも彼女の能力で零号ホロウ深部にアクセス出来るようになっただけでも十分な成果だ。あとは果報を寝て待つだけ……。
寝て待つと言っても、もちろんビデオ屋の営業を怠る訳ではない。我が家を養うためにディニーが必要不可欠なのだ。
そうしていつものようにビデオ屋の開店準備をしていると扉が数回ノックされた。
「リン、確かめてきてくれるかい?」
「おっけー。ま、どうせアリスだろうけど!」
そう、彼女と関係を築いて変わった点がもう一つあるとすれば、太客が一人増えたということだ。あれから毎週、週明けの朝一番にやって来る白いボンプが僕たちの中で日常になりつつある。
リンが扉を開けると予想通り白いボンプが現れた──そして予想に反し追加で現れたのは中折れ帽にスーツを着た冴えないおっさんの姿。
よく知るプロキシ仲介業者の『羊飼い』である。
「よぉ、我が友『パエトーン』!繁盛してるか?」
「おはようアキラ、リン。今週もビデオを借りに来たぞ。そしてこいつは『裏』の知り合いか?」
シロ──もといアリスが胡散臭そうに『羊飼い』を指さした。
「いらっしゃいアリス!そして質問の答えはイエスだよ。怪しいおっさんだけどね」
「おいおい、お客様に酷い言い草だな……」
「そう言うなら、たまにはビデオを借りていったらどうなんだい?」
「あぁ……そのうちな。ところで依頼の話があるんだが」
『羊飼い』は無理やり話をそらした。やれやれ、朝から裏の商談か……。
僕たちが会話している間に、リンは表の営業を行っている。
「よし先週借りた分は返したな。今週は何を見ようか……」
「今週のオススメはラブコメとSFホラーかな」
「よりにもよってなんでその二択なんだ……?しかもどっちも苦手なジャンルなんだが」
「今週はお兄ちゃんと2人で入荷したからね……嫌いなジャンルだった?」
「嫌いと言うか……ラブコメはよく分からなくて共感出来ないし、SFホラーは昔のトラウマが……」
「でも面白いよ?ラブコメだと……これ。突然男性から女性になってしまった主人公の話とかオススメだよ。出てくる相手がイケメンで妙に女慣れして軽そうに見えるんだけど、実は凄く心遣いが出来る人でね?そんな彼に主人公はどんどんその複雑な心を開いていくの」
「SFホラーだとこれかな……ある日町が宇宙人に侵略されるんだけど、主人公は宇宙人に改造されて宇宙人と同じ能力を持つんだ。そして宇宙人と敵対するんだけど人間側からは気味悪がられて、自分が人間なのかそれとも宇宙人なのかで葛藤する心理描写が見どころのやつ」
「(なんでそうピンポイントなんだ)……じゃあ、それで」
「まいどありー♪」
「あぁ、それじゃあまた来週」
アリスがビデオを借り、扉から出ようするが……声をかけ呼び止めた。
「待ってくれアリス、このあと話したい事があるんだ」
「……?わかった」
「なら裏で借りたビデオでも見ておく?お兄ちゃんたちの話はまだ時間が掛かりそうだし1本くらいなら時間あるんじゃない?」
僕としてもそうしてくれると助かる。この商談を煮詰めるにはまだ時間が掛かりそうだ。
「ならそうしよう。さて、どっちを見るべきか……」
アリスはそう言いながらスタッフルームへと消えていった。
「あれ、あんたらが最近連れ回してる『喋る白いボンプ』だろ?不思議だねぇ……同業か何かか?」
「いや、実は特別に改造した実験ボンプなんだ。そして連れ回しているのは単に願掛けだよ。彼女は幸運を呼ぶからね」
「へぇー、俺もあやかりたいもんだ」
「なんで私も依頼に出る羽目に……」
リンの腕の中でいじけるようにアリスが呟いた。
「まぁまぁ。これまでも一緒に依頼をこなして来たでしょ?」
リンがアリスを撫で宥めるように言う。
「協力した依頼は基本的に戦闘任務だったろう?雑用は契約範囲外の筈だぞ」
「そう言わないでほしい。君の力が必要なんだ。なにせ零号ホロウの中で探し物をする為に侵蝕症状で車椅子状態の老人を連れて行くなんて普通は、と言うか君以外に出来るはず無いだろう?」
『羊飼い』の持ってきた依頼は奇想天外なものだった。ホロウの中で探し物を探すと言うのはありふれた依頼ではある。だけどそこに依頼者も連れて行くとなると難易度は跳ね上がるし、何より依頼者自身が侵蝕で下半身不随を患っていると来た。普通のプロキシであれば受けるはずが無い。『羊飼い』も藁にもすがる思いで僕たちに話を持ち掛けたようだった。
その代わりと言うか、報酬はなんと数億ディニーという破格のものである。老人は全財産を報酬として出したらしい。
そしてもう一つ、僕たちがこの依頼を受けた理由としてその普通では断るような障害をなんとか出来そうな協力者の存在が挙げられるというわけだ。
すなわち、『ホロウの女王』である。
「…………」
「数億ある報酬のうち三分の二は君のものだ。悪くないんじゃないか?」
「…………」
「僕たちには君の助けが必要なんだ」
そう言うと耳をピクリと動かすアリス。ジトーっとこちらを睨んでくるが僕も負けじと見つめ返した。
「……はぁ」
そう聞くと彼女はためらい気味に頷いた。やっぱり、相変わらず押しに弱い……と言うか、頼られたら断れない体質なのかもしれない。
「そこまで言うなら、まぁ……。だが、今回きりだからな」
『ふん』と視線を逸らしながら言う。……なんだかビデオ屋を出てから彼女の僕に対する反応が妙に素っ気ないというか若干壁を感じる気がする。何故だろう?リンへの態度に変化は無いのに。
「そういえばアリス、オススメした映画どうだった?」
「面白かったよ、凄くな」
「へぇーちなみにどっち見たの?」
「………………言わない」
今度こそ彼女はいじけて黙り込んでしまった。妹と顔を合わせ肩を竦める。一体何だって言うんだ……。
そうこうしているうちに僕たちは依頼人のいる場所へとたどり着いた。ヤヌス区内にある総合病院、その一室で待っていたのはおよそ70代から80代ほどに見える老齢の男性だった。
「はじめましてプロキシさん、『羊飼い』から話は聞いている」
「どうも」
「はじめまして、おじいさん!」
「んなんな」
それから、僕たちは依頼について聞きたいことを質問する。おじいさんは名をアドルフさんと言った。
アドルフさんが依頼を出した経緯はこうだ。
彼はもともと旧都に住んでいて、あの日──旧都陥落の日に奥さんと離れ離れになった。唯一の家族だったアドルフさんの奥さんは行方不明扱い。だが生存は絶望的だと語る。そして彼自身も重い侵蝕を患い足が動かなくなり、この病院でただ死ぬまでの時間を過ごすはずだった。
しかし、老いて死を前にした時にふと奥さんの事を考えたそうだ。どうせ死が免れぬと言うなら最後に、昔住んでいた街に行き妻に由縁のある品を探したい、と。
「私は、元はエリー都の外からやってきた流浪の民だったんだ。人類最後の都市エリー都は我ら流浪の民にとって約束の地であり、そこへ向かうまでの道中は過酷ではあったが希望もあった」
「その時に比べて、今の私は何であろう。希望も無くただ死を待つだけの生が死と何も変わらないと言う事に気付くのにこんなに時間をかけてしまった」
「だから、プロキシさん。無理を承知でどうかお願いする。この老いぼれに再び希望を与えてはくれまいか?」
アドルフさんはベッドの上で朽ち木のような体で深々と頭を下げた。白髪だらけの頭が、アドルフさんの苦労を如実に示していると思った。
「分かりました。お受けしましょう」
「おぉ……!受けてくれるか!」
「アドルフさん!私たちが奥さんとの思い出の場所まで、しっかり連れて行ってあげるから!」
「ありがとう……本当に、ありがとう……」
涙を流しながらお礼を告げるアドルフさん。何度も頭を下げようとして酷く咳き込むので、僕たちは慌ててアドルフさんがこれ以上お辞儀しないように背中を支えた。
「………………」
──その様子を白いポンプは静かに見つめていた。
『アリス好感度』
アキラ→一過性のドギマギ、ナカーマ
リン→ナカーマ
アドルフさん→…………
『流浪の民』
5章にてブリンガーが言及していたエリー都外からやってくる避難民。
ここから考察ですがエリー都はメソポタミアつまり中東の都市がモデルです。そして中東の流浪の民と言えばユダヤ人。ユダヤ人と言えば一神教。そして5章に出てきた『信徒』『神』と言う単語からして何らかの宗教組織があるのは確実。ここで前述した『月が旧都を見守る』から月が神では無いかと考察いたします。当てずっぽうですが。となるとパエトーンの恩師は月に誘拐された可能性が微レ存……?