誤字脱字報告いつも助かってます。マジ作者節穴。
私がこの都市──旧都にやって来たのは20代の頃、未だ大人ではない青年の頃だった。
荒野を越えて、ホロウを抜けて、この街にたどり着いた時には感動したよ。旧文明の写真の中でしか見たことないような摩天楼の並ぶ都市、多くの人が行き交う広場、ホロウから市民の生活を守る為に戦う組織の方々。まさしく、そこは理想郷だった。
当時私は市民権を得るため、エリー都防衛軍に志願し入隊した。それが一番手っ取り早かったからな。そして5年間、軍隊で訓練と兵役に勤め、ホロウと、エーテリアスと戦った。その間に戦友を得て、また失う事もあった。兵役を終えたあとは家を買ってレストランを開いた。私はこう見えて元軍人で元コックなんだ。私の作るヴァイスヴルストのポトフは町一番の人気料理だったんだぞ?
そしていつものようにレストランを経営していると、ある日車椅子に乗った女性がやって来た。私は他の客と同じように料理を振る舞った。
ただ、その人が他の客と違ったのは、ほんとに美味しそうに私の料理を食べてくれた事だ。一口食べるごとに美味しい、美味しいと呟いて大変笑顔にお礼を言ってくる。そしてその人はその日以来何回も私の店に訪れて、何度も同じ反応をするんだ。
いつしか私は彼女が来る日は店の外に出て車椅子を押すようになったし、彼女が中に入りやすいように店の前にスロープまで設置したんだ。治安官の人にスロープが市道にはみ出してるって怒られたかな。思えばその時から私は彼女に惚れていたんだな。その後私から交際を申し出て、数カ月の後結婚した。
妻は二つ返事で受け入れてくれたんだが、あとから聞けば結婚した理由は私と結婚すれば毎日美味しいものが食べられると思ったからだそうだ。本当だとも。だが妻曰く『期待以上の毎日過ぎて逆に他の料理を食べられなくなる』そうだ。君たちも将来料理上手の相手と結婚する時があれば気をつけると良い。
それから30年以上共に過ごした。残念ながら子供を授かることは無かったが、それでも幸せな毎日だったよ。
しかしそれもあの日──旧都が陥落するまでの話だ。
あの日、ホロウが全てを飲み込んだ時私は店の外に買い物に出かけていた。急いで店に戻ったとき、そこにはエーテリアスがいたんだ。まるで店の前に立ち塞がるように。私は、店の中を確認することをせず避難した。妻がもう逃げたものだと信じて。
だが……避難先に妻の姿は無かった。妻は足が悪かった、誰かが車椅子を押してやらなければ逃げられなかっただろう。本当なら、私が押すべき筈だったんだ。
妻は、あの家に取り残されたのか、逃げ切れず死んだのかは分からない。どちらであれ私はまるで妻を救えなかった罰と言わんばかりに侵蝕によって下半身不随になり、今の今までただ死を待つだけの時間を過ごしてきたんだ……。
「だから君たちが依頼を受けてくれたことは本当に感謝している。ありがとう」
一人の老人の長い半生が語られ、感謝の言葉で締め括られた。
「そんな……」
映画の中でしか聞かないような話だ。妹にはだいぶショッキングな話だったようで落ち込んでいる。かと言う僕も、涙腺が少し潤んで来た。なんとか兄の意地で涙を引っ込める。
「お礼は不要です……僕たちはあなたの半分に満たない程の人生しか歩んでいませんが、お気持ちをお察しします」
そう伝えるとアドルフさんは静かに頷き、涙ぐむ。きっと今まで誰にも言えなかったんだろう。
僕に奥さんを失う苦しみは分からないけれど、家族を失う苦しみなら理解できる。もし、妹を失う事があれば僕は……きっと立ち直れない。
「……この依頼を受けて良かった、そう思うよ。さっきは済まなかった二人とも」
背後からアリスが耳打ちしてくる。
「僕たちにも非があったわけだから別に怒ってはいない。こちらこそ今さらだけど、依頼を手伝ってくれてありがとう」
「あ゙り゙がどぅ゙……ズビッ」
「……ポケットティッシュならあるぞ」
そしてリンが落ち着くまで、みんなで見守った。
「私、次はアリスの話が聞きたいな」
涙と鼻水地獄から解き放たれた妹そう言った。
「私?」
「うん、アリスがどんな力を持ってるかはさっき教えてもらったけど、アリスがどんな人生を送ってきたのかは知らないからさ。もちろん!答えづらかったら別に言わなくても良いよ!」
「いや、言う。人の話を聞くだけ聞いて自分の事はだんまりなど私の信条に反するからな……ただ、少し気持ちの整理をさせてくれ」
アリスは目をつむり『すーっ』と深く息を吸い、ゆっくり吐き出した。そして慎重に言葉を紡ぎ出す。
「私はエリー都のとある家に生まれた。その家は世間と比較して裕福で、私は勉強や習い事、マナー、世間の事、社交などに苦労したが、しかし飢えや貧困で苦労することは無かった」
「私の家族は私を除いて4人いた、規則と忠義を重んじる父、万事に精通し私を教え導いてくれる母、幼いながらも私を姉と慕ってくれる弟、厳格だけど甘いし優しい祖父……みんな、良い人だった。素晴らしい人だった」
「……
「……以上だ」
空気が凍る。これは……なんと声を掛ければ良いものか……いや声を掛けるのすら間違いかと思える、そんな空気だ。
「そんな痛ましいものを見るような目は辞めてくれ。別に、悲劇だけが私の人生じゃ無い。家族との思い出もあるし、最近だと友人も出来たしな」
その言葉を聞いてリンの顔がパッと明るくなった。体をぐいっとアリスの方へ近づける。
「それってもしかして──」
「あぁ──コルンだ」
リンはそのまま倒れた。猫が伸びをするポーズに似た姿勢で『そんなぁぁぁ』とうめき声を上げている。
「あと、まぁ、お前たちも一応友人、か?」
言い淀みながらもアリスがそう言うと、リンがパッと体を起こし彼女に抱きついた。秋の空みたいな情緒である。
……そんな『どうにかしろ』見たいな目で僕を見ないでくれアリス。『友人だろ?』だって?
いや、まぁ……僕も君の友人として、助けるのは吝かではない。
「アリスがデレたー!これはもう私のアリスになったも同然──ぐぇ」
「離れるんだリン。せっかくの友情をノータイムで崩しに行くんじゃ無い」
「止めないでお兄ちゃん!フラグが立った今がチャンスなんだよー、ここで一気呵成に攻めないと難攻不落のアリス城は落とせない!」
「落とすも何も最初から開城してただろう。自分から門を閉じさせてどうするんだ?」
「ええい!離さんかい!我を誰と心得るか!我は八代目将軍ぞ!」
「頼むから大人しくしてくれ……」
「ぷっ……ははは!」
「君たちは仲が良いんだな」
アリスは耐えきれないと言った様子で笑いだし、アドルフさんは微笑ましく見守っている。あぁ、恥ずかしい……。
「あ、それじゃあ次私たちの話をしようよ!順番的に次は私たちでしょ!なるべく面白くて明るい話が良いから……そうだ!まず私たちは旧都にいた頃学校に通ってたんだけどそこで起きた大事件!通称アキラ継承戦争!」
「リン?」
思い出すのは数年前の事だ。僕は何もしていない。ただ学生として本分である学業にいつものように専念していただけだったんだ。それがある日……。
「お兄ちゃんは当時誰とも付き合って無かった。そんな時に彼女を名乗る人が三人現れて誰が一番お兄ちゃんの彼女に相応しいかを勝手に争い始めたたの。ちなみに最終的にお兄ちゃんに説得されて三人とも別れた。そもそも付き合ってないのに。これが通称アキラメロ条約」
「リン??」
ちなみに当時、その三人の事をそもそも僕は知らなかった。向こうが一方的に僕のことを知っているだけだったんだ。何故か、彼女たちは相思相愛だと自負してたみたいだけど。
「ちなみに裏で糸引いてたの実は私だよ?」
──今、数年越しに衝撃の真実が明かされた。
「リン???」
「お兄ちゃんのふりして勝手に恋文出して女の子誑かしてましたー……てへっ──いひゃい、いひゃいれすおにーひゃん」
アキラは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の妹を除かなければならぬと決意した。アキラには恋愛がわからぬ。
僕は絶句し、ただ妹の頬を引っ張った。彼女たちの失恋の痛みに比べれば安い報復だろうと、己の正義が体を突き動かし、それをせずには居られなかったのだ。
「やめぇ……お、お腹痛い……くっふふふ……ッ!」
「ふふっ……確かに面白い話だ」
それからしばらく、エーテリアスの背中では笑い声が絶えなかった。空気を和ませるためとは言えこれで良かったのだろう、きっと……。
僕の名誉という名の尊い犠牲を出したが。
『輝夜有栖……輝夜家……検索中』
『検索結果、二万件以上……キーワード『当主』を追加……』
『絞り込みを完了。最新の新聞記事を発見……約一年前──これは……』
『輝夜家旧当主、新エリー都内病院にて逝去』
『パエトーンのコミュ力』
なぜかいきなりアリスとの距離感が縮まってる気がしますが、作者はこの人たちをたった六回遊びに行った相手に親友判定させるコミュ力おばけだと思ってます。
……だからこそ、その関係が崩れたりしたら心理的ダメージも大きくなるでしょうね。(なお5章朱鳶)
『アドルフさん』
説明書いてませんでしたね。当然オリキャラです。ちなドイツ系イメージ。原神のモンドの老人NPC思い浮かべればだいたい合ってる。
【後書き】
うん、ほのぼの回だな()
クリスマス当日なのでサンタニコに続いてサンタベンです。
「みんな、今日はクリスマスだからプレゼントを買ってきたぞ。社長には甘いイチゴケーキだ。グレースとアンドーにはそれぞれ重機の追加パーツとドリルの追加パーツのカタログセット。クマのシリオンたちにはハチミツをっぷりかけたチーズタルトを用意したぞ」
「……ところで、誰か俺に合うサイズのサンタ服が何処に売ってるか教えてくれないか?」
「気にするなベン。今のお前は誰がどっからどう見てもサンタだ」
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