あとリンの年齢が免許更新を考えると最低でも21歳超えててほぼ確で成人してるみたいです。……パエトーンが最後にヘーリオス研究所で勉強してた時を中学生と仮定すると20代半ば?おうふ……アラサー。
道中障害になり得るものを排除した私たちは、旧十四分街の道を歩き、アドルフさんの家のあった場所へと向かう。
「すごいね、お兄ちゃん。誰も居ない街なんてホラー映画位でしか見たこと無いんじゃない?」
「確かにそうだ。ホロウの中にいるのにエーテリアスが少しも見当たらないというのは新鮮だね。まるでこの街全体が一つの映画撮影のために作られた舞台セットだと思えてくるよ」
『パエトーン』の二人は柄にもなくはしゃいでいる様子だ。まぁ、彼らもこんな風に安全にホロウを散歩するなんてした事無いだろうから、気持ちは分からないでもない。それにこの街の景観は古い旧文明の港町の街並みを再現していて、景観的にも素晴らしい。私の、今やほとんど使い道のない知識で言えば、近代花開くヴィクトリア時代の港町とでも表現しようか。
美しいものを見れば心が躍る。いくつになっても童心は消えないものだ。
そんな2人の様子を眺めながら、私はアドルフさんを乗せ車椅子──当然落下中のあの時回収している。と言うか捨てる筈が無い──を押し歩いていた。
「……どうかしましたか?」
「あぁ……いや。エーテリアスを少しも見かけないものだからな。これも君の仕業なのかな?」
何かを探すように辺りを見渡していた様子のアドルフさん。それを指摘してみればこのように返事が返ってきた。
「はい。低級のエーテリアスであれば従えるまでもなく私の意思で操作が可能ですので……何か問題でもありましたか?」
「問題……では無いかな。ただ、この街の見知った人間が、もしかしたら今もエーテリアスとなって彷徨っているのでは無いかと思ったんだ。ただそれだけだよ」
アドルフさんは『ただそれだけ』と、まるで私に強調するように言った。あるいは自分自身に対してか。
──奥方を探しておられるので?
口から出掛けた言葉をすんでのところで押しとどめる。その言葉を発することに意味も利益も感じなかったからだ。
私は初めから彼のことを……アドルフさんのことを注視している。アキラはそんな私に少し違和感を持っているようだが……。
わざわざ2人に言及してはいないが、私から言わせればこの依頼はおかしい。
何故──重症の人間がわざわざホロウの中に入りたがるのか……家族の由縁の品が欲しいから?理由に乏しい。彼が来なくても探し物を彼の元に持って行くことはできるだろう。
何故──己の全財産を報酬に出したのか。彼がこの後も病室で過ごすなら、金銭は少なからず必要だろう。
何故──妻が避難先に居ないと知ってから、死の直前まで何もせずにいたのだろう?別の場所で生きているとは思わなかったのか。少しでも、ほんの僅かでも妻が生きていると言う可能性があれば、普通は全力で捜索するのでは無いだろうか?
実のところ……私は彼の事を元から知っていた。この依頼で知るのが初めてでは無い。とある筋から、彼の事を聞いていた。ずっと昔から。
彼の人となりを知っている者は、同時に彼の妻への深い愛情も知っている。そして彼が市外出身故かとんでもない行動力の持ち主であり、もし妻に何かあれば全力で救い出そうとするだろうと言うことも。
だから、私は気づいた。
彼が全力で妻を探さないのは何故か?──だって、彼は初めから知っていたから。彼の妻がどこにいるのか。
彼が全財産を手放すのは何故か──だってもう必要が無いから。
彼が成果を待たず自らホロウの中へ行きたがるのは何故か──その捜し物が彼の下にやって来る事はあり得ないと、知っているから。
……真実は、きっとすぐそこにある。
この道の向こうに見える、川沿いに建てられている家。かつて人々から愛された夫婦のレストラン。
その中に。
アドルフさんの言っていた家へと僕たち四人はたどり着いた。近くにエーテリアスは見当たらない。アリスが遠ざけてくれたんだろう。
「アリスにはそのまま車椅子を押してもらうから、お兄ちゃんと私が先に中に入ろうかな」
「アドルフさん、お邪魔しても大丈夫ですか?」
「あぁ……構わないとも」
変だな。せっかくここまで来たのに、アドルフさんの表情は暗い。何か懸念でもあるのだろうか……?
僕とリンは二人がスロープを登ってくるのを確認し、扉を開けようとドアノブに手をかけた。
『警告、屋内に反応を検知。エーテリアスです』
「なんだって?」
Fairyの発言に驚く。どうして家の中に?とにかく、エーテリアスが居ては探し物の捜索が出来ない。彼女に言って遠ざけてもらおう。
そう思い振り返ると、ちょうど二人がスロープを登りきったところだった。
「どうかしたか?」
「アリス、どうやら中にエーテリアスが居るみたいなんだ。君の力でそいつを外に……」
「──その必要は無い」
僕の言葉を遮るようにアドルフさんが告げた。
「アドルフさん?でも中にエーテリアスが居たら探し物を探したくても探せないって言うか……」
「リンの言う通りだ。アリス、きっとレストランの裏口が有るだろうからそこから」
「その必要は無いと言ったんだよ」
……。僕はその言葉の真意を察してみようとするが、彼の発する言葉以上の意味を読み取ることが出来なかった。
「アリスさん。扉を開けてもらっても?」
「はい」
「ちょ、ちょっと!」
僕達のことを全く無視するかのように二人は扉を開けた。両開きに開け放たれたその扉の向こうでは、開店前の準備が少しも崩れることなく残されていた。しわ一つなく整えられたテーブルクロスとその上にグラス、磁器の皿とカトラリーが並べられた円卓がいくつも並ぶ。
ただ、その空間の調和を乱すように、中央に倒れ込む一体のエーテリアスが存在していて、二人は何故か躊躇することなくそのエーテリアスに近づいていく。
「止まるんだアリス、一体何を……」
「そのエーテリアスが私たちを攻撃することは無い」
「何を……あぁ。操っているなら始めからそう言ってくれれば」
「違う、よく見ろ」
アリスが倒れ込むエーテリアスを指さした。
「こいつには足が無い。そして衰弱している。私たちに傷を負わせることは出来ない」
そうはっきりと言い切るように告げた。
「さっきから私、二人が何をしたいのか分からないよ……何が言いたいかも分からない……」
リンが少し怯えるように言った。縋るような目線を僕に向けるが、ごめん。僕にも分からないんだ。
アリスは僕たちの様子を眺めたあと、酷く平坦な言葉で次の言葉を告げた。
「私は、稀に生前の要素がエーテリアスになった時に引き継がれると言ったな?それは身体的特徴も含まれる。例えば──」
「──足の障害とか」
「は?」
【後書き】
次で終わりと言ったな。あれは嘘だ。長くなってしまったので割って投稿します。
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