(12/30)校正
割れたアスファルトの道路に座り込み、乗り捨てられた車両に身を潜め息を殺す。地面にはガラスの破片が散らばっており焦燥した私の顔が反射して見える。
「うぁ……ァ……」
「アㇼす……逃げて……」
「……おねぇ……ちゃ……」
顔を膝に埋め、聞こえてくるうめき声と生命の形が変わっていく音に耳を防ぐ。恐怖で足が震え冷たい汗が止まらなかった。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
田舎に住んでいる祖父とともに、両親と弟、家族水入らずで楽しい休暇を過ごすはずだった。みんなで商業施設に行って、そしてソレは起こった。
──突如出現した大型ホロウがエリー都中心部を覆っており、未だ留まるところを知りません。近隣住民の方は避難を……
──都市全域がインフラ不全を起こしており……
『直にここも飲み込まれるかもしれない。早く避難しよう』
テレビから流れてくるアナウンサーの声。鳴り響くサイレンの音。逃げ惑う人々を見た。車を捨てて徒歩で家族と避難したが、間に合わず。私たちは急拡大するホロウに飲み込まれた。
日常が切り取られたように、大勢の人間がホロウに閉じ込められた。あまりにあっけなく起こったことに誰もが呆然としていて、自分たちに起きた現実を理解できていなかった。
──…………ッ!!!
──おいっ!エーテリアスが出たぞ!早く逃げろ!
──邪魔すんな!どけっ!
──やめて!押さないで!
──『 』!どこに行ったの!『 』!
周りにいた人たちの中でエーテル適応体質でない人が変異──エーテリアスとなって初めてパニックになった群衆が、今度は他人などお構いなしに押し除けて逃げようとする。
そのとき、祖父は突き飛ばされた。
──2人とも!私は良いから家族を連れて逃げなさい!
──親父!
──お義父様!
迫りくるエーテリアスを尻目に、祖父を見捨てて私たちは逃げた。
避難しようにもホロウの中では空間が歪んでいて、一度裂け目に入ってしまえば自分の居場所すら分からなくなり、出ることもままならず彷徨った。
道中は悲惨の一言だった。
先導して道案内をしてくれた正義感のある治安官、自らも侵蝕に侵されているにも関わらず対エーテル装備を譲ってくれた調査員、エーテリアスを抑えるために殿を担った軍人、食料を分けてくれた同じ避難民。
たくさんの人に助けられながら、私たちは脱出を試みた。
そして……その尽くが途中で脱落した。
私以外。そして最後には……。
──けほっ……。お母さん……
──みんな、大丈夫か……?
──アリス…!せめてあなただけでもにげて……
「エーテル適性値」の低かった弟を皮切りに、家族は不調を訴え動けなくなった。
そして……それからどうしたんだったか。
確か……はじめは拒否したけれど、助けを呼ぶために少しその場を離れたんだ。
それから無人の雑貨屋で鎮静剤を見つけて……ここへ、戻ってきて……。
傍らに転がした、鎮静剤の入っていたアタッシュケースをみる。中身は使ったばかりの、空きの注射器が3本とまだ中身のある鎮静剤がいくつかある。
異化の進んだ人間を鎮静剤で元に戻すことは出来ない。
異化の結末は2つ。ホロウを出て強制的に異化を中断させること。身体的に重度の後遺症を負うが、命は助かる。
そしてそれが出来ない場合は、言うまでもない。
──気がつけば、声は聞こえなくなっていた。
「ごめんなさい……」
私は間に合わなかった。
未曾有のホロウ災害であり、後の零号ホロウ、コードネーム『リンボ』によってエリー都全都は陥落した。
続きは明日。
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