それはともあれ、今季のUBWは面白いですよね。
「実は俺に───────彼女が出来たッ!!」
「──────────────────は?」
朝っぱらの通学途中から訳のわからない言葉を聞き、俺は混乱状態へ陥る。
それきり返答が途切れたことを訝しく思ったのか、イッセーはもう一度口を開いた。
「だからな?俺に彼女ができたんだよ。嘘だと思うんなら....ほれ証拠」
差し出された携帯のディスプレイを眺めると、そこには意外にも結構綺麗な女の子が......ん?
「フフ、栗花落後輩には付き合ってる女性がいないのはリサーチ済みだ。さぁ、この俺を崇めたまえ...って、どうかしたか?」
「いや.......」
何故だろう。写っている女性の表情は笑顔なはずなのに、俺にはどこか作り物めいて見えた。
考え過ぎだろうか?いや、だがしかし.....
「イッセー、付き合い始める以前からその子と関係はあったのか?」
「ないぞ。でもさ、『ずっと前から貴方のこと見てました』って言って告白してきたんだよ!ここ最近視線を感じてたから間違いないって!それと実はな、今週末にでもデートの約束をされてよー!」
「そう、か」
怪しい。怪しい....が、コイツの幸せそうな顔を見ていたら、そんなこと言い出せなくなってしまった。
まぁ、人の恋路を邪魔した奴は馬に蹴られて死ぬっていうし、ここは余計な事を言わずに退いておくか。
俺は嫌な想像を振り払い、努めて笑顔を作ると、イッセーのデートプラン作製へ協力することにした。
***
「んじゃ黒歌、タンニーンによろしく頼むよ」
「分かったにゃん。でもドタキャンされたって機嫌悪くなるだろうから、近いうちに会っておいてね」
「あぁ、スマンな」
そこまで会話を終えたところで、ようやく黒歌は俺から離れてくれた。あ、あの胸は凶器だな....
にしても、元龍王とも謳われているイイ歳こいたじいさんドラゴンが寂しがり屋だとはなぁ。...おおよそ、構ってくれるくらいの実力を持った暇なヤツが近くにいないから、昔あちこち飛び回ってた俺に首が向くんだろう。だが、そんなことでは本業の方が大丈夫なのか心配だ。
まぁ、サーゼクスたちの後ろ盾もあるし、龍族の権威が揺るぎつつある今の時代でも悪魔になって領土を持ち、日々を生きているのだ。ちょっとやそっとじゃへこたれないだろうな。
素早く脳内の思考を別の話題へ切り替えてから、ほぅとため息を吐いていたところで...己の失態に気付く。しかし、それは明らかに遅すぎた。
ハッとした瞬間には、もう黒歌の顔が目の前にあった。
理解が追い付いたと同時に顔面を抱え込まれ、足も絡められてしまう。くっ、そう毎度上手くいくと思うなよ!
俺はすぐに空いた腕を使って強引に黒歌を退かそうとする、が───────
「あ、れ...?腕が、動かないっ」
「んふ、最初に抱き着かせて貰ったときにちょっと、ね」
「ぬあぁ!マジかよっ?」
「コウタってホントに、一度心を許した相手だと警戒心ないにゃん♪」
「.....そりゃ、お前は今じゃ家族みたいな存在だし、な」
「ん、コウタ...」
俺は手の痺れをそれまでとは別の理由で無理矢理押し返し、黒歌の頬を撫でる。すると、みるみるうちにその頬へ朱が差し始め、あっという間に蕩けた表情になってしまう。
なんというか、コイツは強引なんだけどいつも攻めきれてないんだよなぁ...そこがまたいいんだけど。
段々恥ずかしくなってきたようで、黒歌は顔を背ける...が、何かを決心したような顔つきで再び首を伸ばし、俺の頬へキスしてからもの凄い勢いで家を出て行った。
な、なんだかコッチまでもどかしくなってくるな。...これが作戦だとしたら大したもんだぜ。
「さ、さてと。俺も出掛ける準備をするかね」
今日は小猫ちゃんと、学校にたむろしている猫殿たち用の遊び道具を調達するつもりなのだ。毎日癒しを貰っている俺たちからのささやかなプレゼントという名目である。
彼女は大体待ち合わせ時間より随分先に来るので、あまり待たせないよう早めに出なければ。
だが、今の俺にはとてつもないハンデがある。
「腕の痺れがとれんぞ....」
さっきから不純物のように溜まった気を魔力で押し流しているのだが、なかなか流れていってくれない。
黒歌さん、今度はもうちょっと落ち着いて掛けような。加減って超大事よ?
***
(まだちょっと違和感ある.....)
腕を廻しながらも、俺はぶら下がっている猫じゃらしへ目を向けて吟味する。ったく黒歌め、どんだけ強力な気を流し込んだんだ.....
俺は現在、近場の商店街にあるこじんまりとしたペットショップへ来ている。
本当は大型ショピングモールで買った方が安上がりなのだが、こういうところだからこそ拘りの品や、動物たちの身体や性格を気遣った品が置いてある場合が多い。
「コウタさん、これなんてどうですか?」
「どれどれ.......ふむ、いいね。でももうちょっと柔らかい方が良いかもな。...そろそろ季節に合わせた抜け毛始まるやつもいるから」
「なるほど...分かりました」
小猫ちゃんは素直に頷くと、俺が見ていた商品棚の裏へ回っていった。
うぅむ...これで彼女へのダメ出しは実に四回目だ。普通なら大抵の人格者は此所らでブチキレて「じゃあテメェが選べよ!」と激昂するところだろう。
しかし、小猫ちゃんは不満など一切言わずに、その都度商品を選んで持ってくる。更に、その慧眼は確実に成長を遂げているのが驚きだ。
だが、もうそろそろいいだろう。お昼時に響いてしまうし、小猫ちゃんのお蔭で大体目星もついた。
俺は彼女を追って棚の裏へ回る。
「小猫ちゃん。もう大丈、夫....って、何してるの?」
「さっきの、ブラシ...高、くて...戻せな、くて...っ」
「なら俺がやるから――――」
「だ、大丈夫...んっ、もう、ちょっと...はぁんっ、だか...らぁ....!」
「!?」
馬鹿な、そんな馬鹿な!小猫ちゃんは必死になってブラシを高い商品棚へ戻そうとしてるだけなんだ!決して邪な考えを持っていいような場面じゃないだろうがッ!!
しかし、そんな努力も空しく、背伸びしたことで薄いシャツが持ち上がり、健康的なお腹とお臍が....!
「や、やっぱり僕がしまうヨ!無理はイケナイからネ!」
「な、なんでいきなり片言なんですか...?」
「そんなことないヨ!?」
メチャクチャ片言でした。
───────さて、ところ変わってファストフード店内。
俺たちは窓際の席へ座りながらハンバーガーを食べている。
そこから見える景色は、人、人、人ばかりだった。休日なんだから仕方ないね。
「すみませんコウタさん。私のせいでご飯が少し遅くなってしまいましたね」
「はは、こんくらいのタイムラグなら問題ないって」
小猫ちゃんの風貌はやはり人目を惹く。色めき立って寄ってくる男どもがいるのは仕方ないだろう。だが、隣に俺という男がいるのに白昼堂々とナンパしてきたのには驚いた。俺ってそんなに弱そうかなぁ.....?
「まぁ、俺の目的は果たせたし....あとは」
「はい、私の番ですね」
小猫ちゃんは持っていたSサイズのドリンクを机に置くと、俺の目をしっかりと見てから口を開いた。
「私を鍛えてくれませんか?」
「............」
「コウタさん?」
「あぁ、スマン。予想外だったもんでな」
───────否、予想はしていた。
あの時、俺は木場との戦いで、オカルト研究部部員全員へ歴然たる力の差を見せ付けてしまったのだ。
それの少し前に、小猫ちゃんから仙術を扱えるくらいに強くなりたいという告白を聞いたばかり...なので、今回はもしやと思った次第である。しかし、俺は仙術を使えない。身体に流れる気なんて感じたことなどないし、固めて飛ばすなんてドラゴ○ボールみたいな真似はしたことがない。
そういえば、この世界にはドラグ・ソボールとかいう、俺からみればパクリ作品同然のアニメがあるのだが....まぁいい。
(一応、ウチにはその道のプロフェッショナルがいることにはいるんだが......)
ダメだ。黒歌は出せない。
彼女は、まだ『白音』と会うべきではないのだ。
「俺には仙術を教える事は出来ない。それでもいいって言うなら」
「はい。よろしくお願いします」
「……え、いいの?もう一回言うけど、俺仙術教えられないよ?」
「基本的な体術だけでもいいので、問題は無いです」
こ、これは完璧に想定外だ。小猫ちゃんの『強くなる』は、イコール仙術ではなかったのか....?
黒歌のようにならないためという強い意思に囚われているが故の弊害で、かなり己の内に眠る仙術の制御に躍起だと思ったのだが.....
「分かった。...けどな、俺は人に何かを教えた事はほとんどない。期待し過ぎるなよ?」
「ふふ....残念ですが、たくさん期待させて貰いますから」
「────────────」
何でそこに反則的な笑顔を入れるんだ....!
分かってやってるんじゃないんだろうが、その分ズキュンときちゃうじゃないかッ!
「まぁ、その....よろしこ」
「はい。よろしこ、ですっ」
どうやら俺は学習をしない生き物だったらしい。悶死した。
***
帰りに二人でゲームセンターに寄ったため、空はもう茜色に染まっている。
それにしても、ゲームセンターにはかなりグレモリー先輩の使い魔がビラを配っていた。あれはお馴染みの召喚魔方陣だな....やっぱ契約は若者重視か。
「小猫ちゃんはどんな仕事してんだろ」
女性陣は恐らく、いや確実にお色気担当だろうな…うぅむ。
俺は道行く足を止め、学園がある方角へ目を向ける。なんか小猫ちゃんが心配になってきた。変な男にあのか細い身体をまさぐられたりしてないだろうな…?
「あぁちくしょう...いや待てよそこまでは...いややっぱり...」
そんな事を呟きながらウロウロしていると、唐突になつかしくも、あまり歓迎出来ないあの感覚が全身を駆け抜けていった。
瞬きの強制力と同等なレベルで、俺はすぐに濃厚な魔力を纏う。
通常の数十倍鋭敏になった感覚は、約数秒後にその異変を察知した。...『あの』公園がある方角か!
俺は人払いした無人の住宅街を埒外な速度で駆け抜け、ひたすらに疾走する。角へ差し掛かるたびに無理な急減速を試みたため、アスファルトがめくれ上がったり抉れてしまう。....だが、それも気にせず更にスピードを上げる。
何か....何か嫌な予感がするんだ...!
永遠のように感じた道のりも、やがて終着点が見えてきた。
そして、そこで俺が目にした光景は──────────────
「ッ!!」
一人の少年が、血の海に沈んでいた。
茜色に染まった空の彼方には、漆黒の翼を広げる女性が、いた。
こんな状況だけでも十二分に驚けたのだが、彼の風貌に見覚えがあることに気付いて、その顔を視界に入れた瞬間....愕然とした。
「イッセー、なのか......?」
馬鹿な...何故こうなった。
彼は昨日、始めてのデートだと喜んでいた。俺から見ても本気だと分かる綿密な計画を立てていた。初めてエロ以外の話題でアイツの本当の笑顔が見れた。―――――最高の結末があると信じて疑っていなかった。
明後日の朝は、通学途中にイッセーが笑顔で告白成功を伝えて、俺がそれを心から祝ってやるはずだったのに。
それを、あの女は.....ッ!!
「殺す」
「───────待ちなさい、コウタ」
紅い光と一緒に流れてきたその声で、俺は少しだけ我を取り戻した。しかし、腹の底で煮えたぎる焔の窯は未だに衰えず、心中へ怒りの残滓を振りまいている。そのためか、声の主に放った語勢は余りにも低く、冷めきっていた。
「なんだ」
「怒りは尤もよ。だけど、今貴方が一番先にしなきゃいけない事は、復讐じゃない」
深紅の髪を揺らしながら、その髪色と同じ血の海に沈む兵藤一誠へ歩み寄り、リアス・グレモリーはその手へ八つの『 駒』を転がした。
それを見て、俺は彼女の意をようやく悟る。
「この子を、助けるわよ」
只今、挿絵いれようか迷ってます。。。
それはともかく、やっとこさ原作一巻目の内容へ突入。十話目だからキリが良くていいですね。
ちなみに、レイナーレを生かすかどうかは上記の挿絵の件と合わせて目下検討中です。