「今日もご飯美味しかったわ!...でも、なんでデザートがメロン?」
「悪霊が憑いたんだ。メロンのな」
「??」
夕飯を終え、食いきれなかったトマトスープにラップをかけていると、黒歌が背中にまたメロンを押し付けてきた。買わん買わんぞ俺は!断じて!
いくら柔かさと扇状さとお得な二玉セットを売りにしたところで、此処は退けないのだ。
(さて、今日の事はグレモリー先輩へ報告すべきだろうか...?)
肥大化する煩悩をやり込めるという口実の下、やたら好戦的なエクソシストに出会ったこと、イッセーが謎の金髪美人シスターと歩いていていたことなど、今日あったことを冷静に整理することにした。
まず分かることは、二人ともこの辺りから近くにある教会の連中に通じる者たちだということか。
そして、夕方に出会った白髪エクソシストが探していたのは、間違いなくイッセーの連れていたあの金髪シスター少女だ。奴がわざわざ探しに出ていたということは、少女が
奴の口振りから察するに、少なくとも険悪な間柄では無さそうだったから放置したものの、あの時の判断が良かったのかどうかは正直分からないのが本音だ。
一応
(ったく、イッセーを殺した堕天使の手掛かりも掴めてねぇってのに、また新しい問題がわんさかと…)
ともかく、あのエクソシストは危険だった。
俺や黒歌ならともかく、グレモリー眷属のメンバーが単一で当たってしまえば苦戦は必至だろう。今日みたくフラフラ出歩いている可能性もあるのだし、明日にでも報告しようかな。
***
「────────これで、どれだけ迂闊な事をしたか分かったわね?イッセー」
「す、すみません....」
予想はものの見事に悪い方向へ当たってしまった。
昨日、イッセーは教会へ近付き過ぎてしまったようで、天使側に属する人物から目をつけられる可能性が出てきてしまったのだ。なので、グレモリー先輩はかなりお冠状態である。
しかし、彼女は怒ってはいながらも、一人で危険な場所へ行ってしまったイッセーを心配するような口振りや態度も垣間見せていた。
何せ付き合っていた彼女が堕天使だったという事をつい最近知ったのだ。未だショック状態である可能性が高いと踏んでいるのだろう。まぁ、自棄にならないとは限らない、かね。
さて、このままではイッセーへのお説教だけで部活が終わってしまう。俺は新たな話のネタを提供することにした。
「グレモリー先輩、イッセーが心配だったのは分かりますが、ちょっと気になった事があるのでいいですか?」
「...どうしたの、コウタ?」
ふぅ、と深い呼吸をしてからすぐさま思考を切り替えた先輩。流石、こういった場面には強いな。
「イッセーが言っていた、アーシア・アルジェントという人物には心当たりがあります」
「わざわざそう前置きをしたということは、何かあるのね?」
こちらが言いたいことを察知して会話を先導してくれるので、先輩との話はスムーズに進む。語り手の俺としては楽で嬉しい。
「はい。彼女は数ある神器の中でもかなり稀有な類の物...『
「聖母の微笑み...聞いたことはあるわ。種族問わず高い治癒の力を発揮できると言われている神器よね?」
「はい。そうです」
グレモリー先輩は少なからず驚愕の表情をするが、すぐに眉を顰めた。隣にいた姫島先輩も、彼女と同じような疑問の表情を作る。
「では、それほどの人物が何故この町に来たのでしょうか....?」
俺はその疑問に達するまで少し時間が掛かってしまったが、お二人には造作もないことらしい。
ここで、今まで黙っていたイッセーが声をあらげた。
「それなら、俺見たんスよ!アーシアが怪我した子どもの傷をあっという間に治してるのを!」
「なら、やはりその神器持ちだね。目に見える傷をすぐに回復させられる神器なんて、かなり限られてくるからね」
「...でも、やっぱりこの町に来た理由が分からない」
小猫ちゃんの指摘に表情を曇らせる皆。話題の行き詰まりを感じた俺は、もうひとつ起爆剤を投下する事にした。
「実は昨日、彼女を探していたと思われる男と接触しまして、交戦に発展しました」
「!...容姿や風貌は覚えてる?」
「礼服を着た白髪のエクソシストでしたね。正規かどうかは確認出来ませんでしたが、奴等御用達の光剣と銃を扱ってました」
「エクソシスト?何故教会の神父じゃなく悪魔払いなんかが付いてるのかしら...」
「確かに、妙ですわね。護衛の役目を担っているのでしょうか?」
グレモリー先輩と姫島先輩の疑問は尤もだ。
確かにアーシア・アルジェントは重要人物なのだろうが、悪魔狩りのスペシャリストを呼ぶ理由が分からない。まるで戦闘するのを事前に考慮しているような...
「情報が少ないわね。...取り敢えずイッセー、今後は教会へ近づくのを禁じるわ。他の皆も仕事で外を歩く時は気を付けて頂戴」
『はい!』
「白髪エクソシストとアーシア・アルジェントについては私が預かっておくわ。一応、以前コウタが接触した堕天使の件と合わせて探ってみる。もしかしたら関係があるのかもしれないしね」
そう言ってから手を叩き、さっきまでの暗い雰囲気を霧散させるような明るい声でイッセーを呼んだ。
「さて、イッセー?今日貴方にやってもらうのは、今までのビラ配りとは違ったお仕事よ」
「は、はい。でも、ビラ配り以外となると一体...」
話題の即時転換に少し戸惑いながらも、何とか返答の言葉を口にするイッセー。うむ、我らが部長は、一刻も早くイッセーを教会関連の話しから遠ざけたかったんだな。
彼の返答を聞いたグレモリー先輩は、片目を瞑ってから人差し指を立てた。
「実はね?悪魔の本来の仕事っていうのは、人間から契約を貰うのが本領なの」
「契約....ですか?」
「そう。何らかの願望がある人間は、貴方が以前私を呼び出したように、あの紙にかかれた魔法陣を介して私たちを呼び出すの」
どうやら街中で配っていた連中は、全員先輩の使い魔らしい。それでもイッセーにビラ配りの仕事をさせたのは、悪魔の生業を肌で感じるためなのだと以前聞いている。
木場や小猫ちゃんもビラ配りをやっていたのは驚いた。もし眷属になっていたら、俺もやらされていたのだろうか...やらされてたんだろうな、絶対。
「悪魔は依頼者の元へ行き、その願望を叶える代わりに対価を要求するのです。相互で了承できれば、契約成立ですわ」
「なるほど!つまり、俺は依頼してきた人の願いを叶えればいいんですね!」
姫島先輩の説明を聞いたイッセーは、拳を握ってメラメラ燃えている。うーん、空回りしなきゃいいんだが...
グレモリー先輩は彼を一つの魔法陣の上へ案内し、そこへ立つように言った。
「いい?この魔法陣から、依頼者の持っているチラシの魔法陣へ転移して貰うわ」
「おおっ!なんか悪魔っぽいですね!」
俺の隣にいる木場が「イッセー君大丈夫かな?」と聞いてきたが、残念ながら自信を持って大丈夫とは言えない。なので、「神様にでも祈ってろ」と返した。
小猫ちゃんはおやつの羊羮を食べながら、相変わらずの無表情でイッセーを眺めている。...いや、少し心配してるっぽいな。十秒単位でされる瞬きの平均回数が普段より多い。
「小猫ちゃん、俺にも羊羮くれない?」
「ん...はい」
残りの一つを丁寧に竹串で両断し、その一方を差し出してきてくれた。
俺は口を開けて小猫ちゃんに羊羮を運んで貰い、ゆっくりと咀嚼する。うん、美味いな。
「じゃあ、いくわよイッセー」
「はい!」
口内を埋め尽くす甘味に至福を感じていると、そのうちに魔法陣が輝き始める。イッセーは陣の中心に立ち、緊張したような表情で目を瞑っていた。
...それから五秒、十秒と時間が過ぎていく。
「...イッセーなかなか飛ばんな」
「...................」
「?小猫ちゃん、なんで竹串を凝視してんの」
ふと視線を移動させた先にいた小猫ちゃんは何故か完全に固まっており、視線も竹串の先を照準したまま微動だにしていない。...のだが、頬が心なしか紅潮し、息が荒くなっているような気がするのは錯覚だろうか?
「っ!(はむっ)」
「おおっ?」
羊羮を刺していないのに、竹串の先端だけを口のなかに入れた小猫ちゃん。
それ以降はカチコチに固まってしまったのだが、何故か表情はとても満足そうだった。...うーむ、謎だ。
と、ここで前方から焦ったようなイッセーの声が聞こえて来た。
「あれっ?ここ部室!?何で転移してねぇんだ!」
「イッセー...どうやら、貴方の体内にある魔力が微弱すぎて、魔方陣が反応しないみたいなの」
「え”っ、それってもしかして....?」
「自分の足で行くしかないですわね♪」
「なん...だと...」
なんということでしょう。
あの魔方陣の構成なら、恐らく子どもだって跳べるぞ?...ってことはイッセーはそれ以下なのか...
オカルト部員全員から哀れみの視線を向けられたイッセーは、さながら二、三浪したあげく、妥協案で選んだ大学にも落ちた受験生のような顔となっていた。
「ごめんなさいねイッセー。前代未聞だけど、依頼人のご自宅へ直接訪問して貰うしか他に手はないわ」
「が、頑張ってねイッセー君」
「木場テメェ!顔がひきつってるぞコラァ!」
悪魔生活は波乱万丈だなイッセー。
あぁー人間っていいなー。
次回はFate分補給回になるかも。