前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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ようじょは強い。


File/15.無限

 裏庭で気絶してるはずのフリードは忽然と姿を消していた。

 

 十中八九逃げたのだろうが、片手間とはいえ常に辺りを警戒していた俺の包囲網を抜けたのには驚ける。普段からこれくらい抜け目なけりゃ、あの時の結果は変わったかもしれないのになぁ.....

 

 

「.............」

 

 

 

 所々壊れた廃教会の裏庭にある、一際広い広場へ出る。花壇やプランターが並んでいることから、以前は色とりどりの鮮やかな花が咲いていたのだろう。

 そんな風景を流し見ながら、俺は即興の魔力補充用に使う紙巻煙草(シガレット)を吸い終わると、『武具精製(オーディナンス・フォーミング)》』を発動させ、あまり飾り気のない長剣を手に持った。その後にすぐ高位防護魔術を三つほど重複させて組み上げ、身体を限界近くまで強化する。

 一連の行動を終え、懐からもう一本煙草を取り出そうとしたところで、全身の皮膚がざわめくような感覚が襲い、無意識に瞳孔が開く。

 

 

「フッ!!」

 

 

 直感に任せ、左側真横の空間へ全力で剣を振るう。が、その刃は『何か』の強度に耐えきれず半ばから折れた。

 これを最悪のパターンとして予測していた俺は、僅かな強化魔術を仕込んでおいた剣の柄を掴んだまま半回転し、続けて放たれるだろう第二撃を防ぐために腕を振るった。

 

 

バギィンッ!!

 

「ぐはっ!」

 

 

 しかし、あっさりとその防護は破られ、展開した魔法陣を容易く砕き、全く相殺できなかった衝撃が突き抜ける。それをほぼ零距離で喰らった俺は、蹴飛ばされた路傍の石ころみたく弾き飛んだ。

 纏っていた三重防護魔術の恩恵で四肢が本体とオサラバすることは避けられたが、衝撃をモロに喰らった左腕は防御を破られ、関節が外れてしまった。

 

 

「我の攻撃...受けた?」

 

 

 肩を押さえながら向けた視線の先に立っていたのは、細腕を下ろしながら無表情で首を傾げる、漆黒の長髪をしたゴスロリ衣装の少女だった。

 俺は一瞬何かの見間違いかと思ったが、違う。この少女から立ち昇る、質量さえあると錯覚してしまうほどの魔力は、先程教会の中で察知したものと同質だ。

 

 

「お前は....何だ?」

 

 

 吹き出る汗に構わず、左肩の骨を嵌め込む。慣れた行為なので一発成功したが、念のため腕を振るって確認しておく。最近痛みに鈍感だな...俺。

 同時に()()を励起させ、莫大な魔力を身に纏う。並の悪魔や魔物なら対峙することすら不可能な気当たりだ。

 それを肌で感じたはずの黒き少女は、僅かに口角を吊り上げた。...笑って、るのか?

 

 

「お前、やはり我やグレートレッドと同じ匂いがする。....異なる魂を持つ者」

「...なんたらレッドとか言う戦隊ヒーローみたいな名前の奴は知らんし、一応俺は人間だが.....お前さんはなんつーか、ヤバそうだな」

「オーフィス」

「.......なんだ」

「我の名」

「じゃオーフィス、何のためにここへ来た」

「お前と戦って、連れてくため」

 

 

 そうぶっきらぼうに答えるや否や、型も何もない挙動で拳をつきだした。...が、それに言い様のない恐怖を覚えた俺は、あらかじめ手に溜めておいた魔力を使い、数秒で干将莫耶を創造。一切の躊躇なく眼前で交差させる。

 瞬間。凄絶な暴風が駆け抜け、両脇の地面が轟音を響かせて消し飛び、外側で防御していた莫耶が砕け散った。なんて出鱈目な威力だ。...なら、こっちも多少のインチキで返さねぇとな!

 

 

Re:Birth(リバース)!」

「!戻った?」

 

 

 この言葉一つで、失われた筈の陰の剣は再び顕現する。

 Re:Birthとは、武具創造において、直前に創っていた武器が破壊された場合、散った魔力の残滓を使用し、詠唱無しで直ぐにその武器を生み出せる技だ。しかし、一度霧散してしまった魔力は以前ほどの純粋さを失っており、どうしても弱体化は免れない。回を重ねるごとにそれは明確となるので、最終的には只の鈍ら以下となってしまうだろう。

 ある程度のリスクはあるものの、この能力を使った際は武器の破壊から創造までの行程が短すぎて、時間が巻き戻ったように感じるはずだ。実際、それだけでも十分にメリットはある。...重要なのは、武器を手放さないことだからな。

 ちなみに、何故態々口に出したかというと...うん、特に理由はないですね。余裕があったから格好つけてみただけです。

 

 俺は足に仕込んでおいた魔力を一気呵成にブーストさせ、翔ぶ。

 地についたあとはわざと足を滑らせ、剣へ乗せる威力を底上げしながら連撃を繰り出す。

 

 

「...速い」

「とか言いながらも全部弾いてんじゃねぇか!」

「否、我はお前より速い者...見たことない」

 

 

 なるほど、自分の力と比べてたわけじゃないのか。...だが、それでもオーフィスは速いと言った。

 ――――――なら!

 

 

「一撃、分ッ!」

 

ガガガガガガガッ!

 

「っ?」

「これで...二撃分ッ!」

 

ガッ!ガガガガガガガッ!

 

「く…」

 

 

 一瞬の間に連撃を放つ。威力はこの際念頭に入れず、手数のみを重ねる。

 オーフィスは俺の激しい攻勢で若干退け腰になった。...ここだな。

 俺は莫耶を右手から消失させ、干将のみにしてから叫んだ。

 

 

「オーバーエッジ・Type-γ(ガンマ)!」

 

 

 魔力の流れを湾曲、歪曲、分岐、収縮させ、干将の形状をより攻撃的に最適化させていく。その変化は、俺が一歩踏み込む頃には終わっていた。

 刀身は以前より長くなり、切っ先へ近付くにつれて厚みは失われていく。しかし、剣の内部には魔力を流す()が複雑に入り組んでいるため、疑似的な魔術回路そのものとなった刀身では、流し込んだ魔力を加速させて増大可能となっている。

 

 エミヤが使っていたオーバーエッジを自分流にアレンジした結果がこれだ。もう魔改造って言ってもいいんじゃないか?

 

 

心技至泰山(力山を貫き)心技渡黄河(剣水を別つ)!」

 

 

 干将に刻まれた紋様が紅い稲妻を放ち始め、内部では魔力が激しく流転する。...これをブッ放したら不味いかも。ちょっとした対城宝具並の威力あるぞ。

 冷や汗を垂らし始めた俺だったが、もう腕は振るわれてしまっている。仕方ない、ちょっと魔力の放出量を落として――――

 

 

「脆い」

「ッ―――――!?」

 

 

 目を見張りながら、すぐに魔力減退の考えを破棄して全力投球へ軌道修正する。

 目前には、死そのもののような黒い魔力を纏ったオーフィスが、先程までとは違い、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 遂に放たれた紅い奔流は、漆黒の濁流に呑み込まれて跡形もなく消えてしまった。

 

 

          ***

 

 

 

「ん…?」

 

 

 滅茶苦茶になっている聖堂内の大まかな後片付けをしている最中に、教会の裏庭がある方から何か大きな力の流れを感じた。最近の修行は自分の中にある気を探るという内容なので、自分でも知らないうちにこういうことに敏感となっているらしい。

 内心で彼に感謝しながら、一旦手を止めて部長の方を見る。...彼女はアーシアさんの悪魔転生をやっていて気づいていないみたい。

 

 私は足元にある長椅子の残骸を木材が積まれた山へ放り投げてから、教会の出口へ向けて歩き出した。

 

 

          ***

 

 

 

「ぐ....あぶねぇ、片手空けといてホントよかった」

 

 

 持っていた干将はオーフィスの馬鹿げた拳打に耐えられず、とうに跡形もなく砕け散っている。正直あれをもう少しでも手加減していたら、用意していた最終手段でも防ぎきれなかっただろう。

 てか、アイツいつのまにココ一帯へ結界なんて張ってたんだ。まぁ、張ってなかったら今頃グレモリー先輩たちも巻き込まれてたんだが。

 

 

「嘘.....我の全力を防いだ?」

「本当に、ギリギリだけどな。てか、コッチとしてもよくあの盾を壊せたもんだと思うぜ」

 

 

 俺が最終手段として用いたのは、熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)だ。

 七枚の花弁の形をもってして顕現する障壁で、その花弁一つ一つが城塞の堅固な壁に匹敵する。コイツが破られたのだとしたら、単純な破壊力で比較すればあらゆる宝具を凌駕していると言える。

 

 

「...名前」

「は?」

「名前、教えて」

栗花落(つゆり)...功太だ」

「ん」

 

 

 相変わらずの無表情で頷いたオーフィスは、再びこちらへ視線を向けた。

 黒曜石のような瞳は微動だにせず俺の()を見つめ続ける。と、これ以上は不味いので簡単な剣を土から精製(フォーム)して前方を切り払う。

 

 

「あ」

「そんな雑な方法で洗脳系の魔術伸ばしたら誰だって気付くっての」

「む...なら、交換条件。我と一緒に来ないと、教会消し飛ばす」

「それは無理だな」

「?」

「『武具創造(オーディナンス・インヴェイション)』」

 

 

 俺は歯を食い縛って残り少ない魔力を使い、歪な形状をした短剣を創造する。そして、それを無造作に張ってある結界へ向かって投げた。

 その切っ先が表面に触れた瞬間、ガラスが砕け散る音を響かせ、異世界を形成していた結界が崩れ去る。

 

 破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)。あらゆる魔術を解体するというこの短剣の前では、いかなる魔術や呪術の類いも切り裂かれる紙片に等しい。

 裏切りの魔女メディアが所持していた宝具なのだが、これ自体に攻撃力は全くないくせ、魔力は一端に持っていく燃費の悪い武器として、よっぽどの事が無い限り日の目を見ない類のものだ。

 

 俺は転がる短剣を消し、上がる息をなんとか殺しながら驚愕の雰囲気を湛えている(多分)オーフィスへ、先程の続きを答えた。

 

 

「俺の上司は有能でさ。もうお前さんはの存在に気付いてコッチに向かってるはずだぜ?...事情は知らんがお忍びで来たみたいだし、不特定多数の人物に見られるのは不味いんじゃないのか?」

「なら、皆蹴散らして連れ」

 

ズガンッ!!!

 

「させると、思うか?」

「.......ん、わかった。今回は諦める」

 

 

 一瞬で頭に血が昇ってしまったらしく、気が付いたらゲイ・ボルグをブッ放していた。いかんいかん、今度からは余裕が無くても感情のコントロールが出来るよう修行しなくては...

 兎も角、オーフィスは帰ってくれるらしい。正直これ以上戦っても魔力枯渇で勝てる気がしなかったから一安心だ。

 

 彼女は地上にあるどの黒いものより黒いであろう翼を広げた。...ここで、俺の中に一つの疑問が浮かぶ。

 

 

「――――オーフィス。お前は一体何なんだ?あの馬鹿げた力に、その翼だって明らか悪魔のモノではないし、ましてや天使でもなさそうだし...」

 

 

 高位の魔物やら魔獣が人に擬態してるのかと思っていたが、奴等がみんなこの強さだとしたら、とうに冥界から悪魔は滅ぼされているだろう。

 

 

「我は無限。永久の静寂を望む者。...周りは我を龍神と恐れる」

「無限....龍神...オー、フィス?」

 

 

 サーゼクスやグレイフィアさんから聞いた、神域に達する力を持つ龍...そのうちの一柱が『無限の龍神・オーフィス』。目の前に立つゴスロリ少女のことだ。

 正直、あの実力を見る前にこんな事聞かされていたら確実に笑い飛ばしていた。だがこれで、宝具を凌ぐほどの盾が拳打一発で穿たれたのにも納得出来る。

 

 

「なるほど、今思い返せばグレートレッドって赤龍神帝じゃねぇか。不足の事態じゃ身に着けた知識も役に立たないな。...おい、オーフィス」

「なに?」

「もし、どうしても俺を連れていきたいんなら、ちゃんとした場で戦って勝て。それなら文句は言わねぇ」

「なら、次は...勝つ」

 

 

 一度膨大な魔力を迸らせてから、オーフィスは漆黒の翼を広げて飛び立った。その姿はすぐに闇へ紛れ、やがて完全に見えなくなってしまう。

 ...最後の魔力放出は冗談で済まされないほど肝が冷えたぞオイ。アイツは人間の心がどれだけ弱っちいか分かってないな。

 

 

「く.....只でさえ、魔力が干上がりかけてる状態なのによ」

 

 

 地べたに腰を降ろしてから、そのまま上半身まで投げ出す。疲れきった体はそれきり運動する意思を無くしたかのように弛緩してしまった。

 と、夜空をボケッと眺め始めてから一分も経たないうちに、教会内部から妙な紅い光が走る。何だ...また厄介事か?

 溜め息を吐いて、仕方無しに起き上がろうと手足へ鞭打つ寸前――――

 

 

「コウタさん!?」

「その声...小猫ちゃんか」

「!....もう、一体どうしたのかと思いました」

「あ、すまんすまん。紛らわしかったな」

 

 

 まだここが安全と決まった訳ではないのだ。敵地で武器も持たずに寝そべっている奴など、相当な馬鹿か死体ぐらいにしか思えないだろう。彼女は後者だと勘違いしたらしい。

 膨れっ面の小猫ちゃんに苦笑いしながら身体を起こそうとした所で、無視できない事実に気付いた。

 

 

(魔力が...回復してる?)

 

 

 驚愕しながらも、それを内心だけに留めて小猫ちゃんの後に続く。

 幾度の戦闘を経験してきた中で、自分がかなり魔力回復に長けている事は把握していたつもりだった...のだが、こいつは流石に変だ。

 いやまぁ、ただの人間が英霊の武器をポンポン出すのはもっと異常だと思えるんだが、今の今まで気にしつつも、原因が不明なだけに放って置いた。

 しかしなにかしらの外的要因がなければ、前述の通りただの人間である俺がこんな芸当を成せる訳がない。どこかに源流のようなものが存在するはず...

 

 

「コウタさん」

「っあ、あぁ...どうした?」

「さっきの赤い光は見ましたか?」

「教会の中から出たアレか。確かに見たが.....え、もしかしてヤバイ状況?」

 

 

 今しがたイレギュラーの塊みたいな敵を撃退したのだ。また不足の事態が起こったとしても、アレを越える輩は出てこないだろう。慣れって怖いな...

 やがて教会の扉の前に着くと、俺の心配とは真逆の表情で小猫ちゃんはこっちを振り向き、扉を押すように言った。

 

 

「.........」

 

 

 俺は多少緊張しながらも、そっと顔だけを入れて中を確かめる。小猫ちゃんも俺の顎の下から顔を覗かせていた。

 教会内は激しい戦闘の爪痕が幾つもあり、破壊された長椅子、窓ガラスが散乱している。しかし、俺たちの目はそんなものより、教会奥の壇上へ引き付けられた。

 

 そこには、号泣するイッセーとそれを見てあたふたするアーシア、遠目で笑顔を湛えながら見守る木場とグレモリー先輩、姫島先輩がいた。

 

 

「...ハッピーエンド」

「だな」

 

 

 笑いあってから、俺たちは大かな音を立てないように扉を潜った。




この作品のオーフィスは結構細かな魔術が使えます。
原作ではそんな描写ありません...でしたよね?

※追記:この話で出て来るオーバーエッジをδ(デルタ)からγ(ガンマ)に変えました。ご了承願います。
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