前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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今年最後の投稿...になるはず。


File/16.赤龍帝

 今日も今日とて晴天。

 であれば気分も同じく晴れ晴れ...という訳にもいかないようで、最近は度々現れる『来訪者』の対応をしているため、疲労は溜まる一方だ。黒歌の施してくれる仙術マッサージがなければ、俺は多分ここにいない。

 そして、そんな暗い雰囲気を放っているはずの俺の隣には....

 

 

「イッセーさん、忘れ物はありませんか?」

「おー、大丈夫だぜ。アーシアこそ忘れ物はないか?」

「えへへ。昨日のうちに何度も確認しましたから、絶対ないですよ!」

「はっはっは!流石だなぁ。アーシアは良い娘だなぁ、可愛いなぁ!」

「そ、そんなイッセーさん、可愛いだなんて....」

 

 

 脳味噌まで雲一つない快晴のイッセーがいる。アーシアとの会話を挟みながら俺をちらちらと得意げな目で見て来るのが最高にウザい。

 とはいえ、最近はアーシアと一緒にグレモリー先輩が主導の鍛錬に励んでいるらしく、異性との交流は以前にも増して盛んなのだろう。だからといい、その優越感を俺へ振るのは止めて欲しいのだが。

 まぁ、とりあえずこれだけは最優先で確認しておこうかね。

 

 

「アーシアさん」

「は、はい?なんでしょう栗花落(つゆり)さん」

 

 

 俺は表情を引き締め、真剣な声音で元・シスター少女へ問いかける。

 

 

「...イッセーに、変な事はされてないか?」

 

 

 

 

 

 駒王学園に入学してすぐ、アーシア・アルジェントはオカルト研究部へ入部した。

 

 アーシアは堕天使レイナーレの策謀により神器を奪われ、命すらも失ってしまったが、イッセーの奮闘によりレイナーレを撃破。

 アーシアへ神器を戻したところで命を蘇らせることはできない。が、グレモリー先輩は手持ちの僧侶の駒を使って彼女の魂を肉体へ呼び戻し、悪魔へ転生。眷属へ迎え入れた。

 これでオカルト研究部部員兼グレモリー眷属のメンバーは六名だ。

 

 

「こりゃあ、いよいよ俺がここにいる意味無くなって来たんじゃないですか?グレモリー先輩」

「そんなことはないわ。貴方はこの学校内じゃ決して無視できない実力者なんだから。言い方は悪いけど、相応の力を持つ私たちが監視する必要があるの。一応その権限は生徒会にもあるんだけど、私が一任させて貰っているわ」

「ふーむ、監視....ねぇ」

「なんだコウタ後輩、グレモリー先輩の決定に逆らうのか?そんなの許さんぞ!」

 

 

 妙なところで怒りだしたイッセーの追求はスルーし、小猫ちゃんを呼ぶ。これからお馴染みの鍛練を開始するのだ。

 トテトテとやってきた小猫ちゃんの頭を撫でてから、部室を出て体育館へと向かう。...と、何故か隣に木場がいた。

 

 

「どうした木場先輩。トイレか?」

「一応傍観役のつもりかな。今日に限って何だか鍛練の内容が気になってさ」

「...別途料金を頂きます」

「いいよ。何円だい?」

「冗談は流せよ!」

 

 

 本当に財布を取り出し始めたのには驚いた。木場には冗談が通じない事は覚えておかねば....

 ちなみに、小猫ちゃんはずっと他人事のように俺の隣を歩いていた。

 

 

          ***

 

 

 

──────────体育館

 

 

 

「で、結局全員集まるんすか...」

「ええ、イッセーの持つ神器の実力を改めて見てみたいしね」

「赤龍帝の籠手…ですわね。まさか彼に神滅具が宿っていたなんて、未だに信じられませんわ」

「わぁ…イッセーさんって凄かったんですね!」

 

 

 姫島先輩が今言った通り、イッセーの持っていた神器は龍の手(トゥワイス・クリティカル)などという下位装備ではなかった。

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)と双璧を為す、使い手の力を一定時間毎に倍加していく伝説の神器。その圧倒的なまでの力に溺れ、何代もの持ち主を破滅させた曰く付きの神滅具(ロンギヌス)だ。

 俺はそれの試運転を受け止める訳か...面白い。だがまぁ、先にここへ来た本当の目的から消化しよう。

 俺は数メートルほど離れた場所へ立つ小猫ちゃんへ向き直り、戦闘開始を告げる。

 

 

「いくぞ?」

「はい」

 

 

 その言葉を皮切りにし、先にこちらから動こうと小猫ちゃんへ向かって駆け出し─────

 

 

ボンッ!

 

『えっ?』

 

 

 その前に地を蹴った小猫ちゃんの高速膝蹴りで、俺の顔面が撃ち抜かれた。その速さたるや、専門の木場ですら目を剥いた程である。

 しかし、技が決まったはずの小猫ちゃんは顔をしかめた。

 

 当然だ。彼女が攻撃したのは、俺がフェイクで置いた魔力の残滓だからである。手応えなどあるはずもない。

 

 

「そういうのはズルいです。コウタさん」

「いやいや。何度も言ってるが、コレくらいの小細工には対応出来るようにしてもらわないとな」

「む、じゃあ────」

 

 

 小猫ちゃんは膨れっ面を作ってからおもむろに身を屈めると、地面スレスレのダッシュで肉薄してきた。彼女は拳をあらかじめ引いているため、スピードとバネの両方を生かした強力な攻撃が来る。

 俺は片手を前に突きだし、少し強めの防御魔術を発動させた。

 

 が、その瞬間に小猫ちゃんは横へ素早く移動し、今度は跳躍しながらのローキックを繰り出す。

 張られた障壁の範囲外である、側面を狙って。

 

 

「へぇ、随分と弁えてきた...なっ!」

「っ!」

 

 

 『用意していた』もう片方の手で彼女の細い足首を掴むと、突っ込んできた勢いそのままに進行方向へ投げた。

 小猫ちゃんは一度片手を地面に着き、空中で見事なバランスを調整してから両足で降り立つ。そして、反撃しようとこちらを向いたところで─────

 

 

ズガガァン!

 

()()、だ」

 

 

 二本の長剣が、小猫ちゃんの両脇に突き立つ。それで試合の勝敗は決した。

 

 

「また、負けた…」

 

 

 悄然と肩を落としている白猫を背に、オカルト部員たちは案の定絶句していた。俺ではなく、小猫ちゃんの実力にだ。

 

 

「凄いわね...まさかここまで小猫が強くなるなんて。コウタをウチの指導者にしましょうか」

「あぁー、残念ながらそれは無理です。グレモリー先輩」

「む、どうしてよ」

 

「小猫ちゃんの戦闘スタイルは幸い俺とよく似てました。気を使って身体を強化したり、武器だけでなく肉弾戦も交えて攻撃する...彼女は今のところ肉弾戦オンリーですが、武器を手にした分の有利を補えるだけの多様なレパートリーがあります。あとは基本骨子となっているそれをベースに俺の体術を組み込めば、強力なクロスコンバット用の技になります」

 

「でも魔力の事についてなら大丈夫じゃない?」

「いえ、それはもっと駄目ですね。この世界...ごほん。俺がする魔力の扱い方と、先輩方のする魔力の扱い方は根本的に違うんです。教えても役に立たないでしょう」

 

 

 俺はこの世界へ来てから内在する魔力の気配にすぐ気付けたので、魔術回路をイメージし励起してみたのだが、驚くことに一本も起動しなかった。どうやら、この世界には魔術回路どころかマナやオドといった概念すらないらしく、魔力はあくまで魔力として単体で存在するようだ。

 仕方なく、俺は魔術を行使しやすくできる方法を模索し、結果として疑似魔術回路を冥界放浪中に創ることが出来た。魔術回路という明確な予備知識があったからこそできたことなのだが、その実、体内に張り巡らされた血管をほぼ丸々転写した構造がやっとだった。

 前述の通り構造は血管に即しているので回路は一本だが、神造兵装を出せる当たり、流せる魔力量は規格外なはずだ。

 というか、そもそも魔術回路は作ること自体不可能である。正規ではないといえこんな芸当ができたのは、この世界がFateの概念から外れているお蔭だろうと思う。

 ともあれ、これでは魔力の生成、発現などの方法は確実に参考にならない。

 

 

「??つまりコウタ後輩は何が言いたいんだ」

「つまりねイッセー君、小猫ちゃんとは戦い方の相性が良かったから上手く鍛えられたんだ。僕はまだしも、イッセー君やアーシアさん、先輩方に関しては戦闘スタイルがあまりにも乖離し過ぎてる」

「コウタ君は神器を持っていませんし、教えられるのは体術や誰にも指導可能な筋力トレーニングくらいですわね...」

 

 

 そう。小猫ちゃんの気を使って身体を強化するという戦法は、俺が普段使用している魔術によって身体強化を行う戦法と酷似している。

 受けるでなく避ける戦術も同じで、その面へ特化した体捌きもある程度会得していた。

 俺からしてみれば、メチャクチャ得意なお題で絵を描けと言われたも同然だ。小猫ちゃんにとっての得手不得手が手に取るように分かった。

 

 

「ああ。そういう理由で、俺の指導役は小猫ちゃん限定って訳だ」

「!私、限定...いい響き」

 

 

 慣れないことはするものじゃない、というのは確かだ。

 生半可な知識と覚悟で、元あった小猫ちゃんの戦闘スタイルを崩すなどあってはならない。あくまで彼女はグレモリー先輩の眷属なのだから、こういった事は戦術を組み立てる先輩自身が行うべきだ。俺が口頭で伝えるだけじゃ成長度の把握が難しいだろうからな。

 関係がないという訳ではないが、俺の立ち位置は正直微妙という点もまた然り。

 

 

「よし。次は僕が相手になろうかな」

「....傍観役じゃなかったのかよ?」

「あんな戦いを見せられちゃ、騎士(ナイト)である僕は黙ってられないよ」

「はぁ、あんま期待し過ぎるなよ」

 

 

 随分厄介なことになったもんだ。前世じゃ何をどう間違ってもこんな状況には陥らなかったろうに....

 木場先輩は俺の返答に嬉しそうな表情で頷くと、その手に漆黒の剣を持った。お、あれは確か…

 

 

「これはあのエクソシストが撃った光弾を吸収した、光喰剣(ホーリー・イレイザー)さ。僕の神器は剣の属性を変化させられるんだ」

「じゃあ、最初に戦ったあの時は本気じゃなかったのか」

「ははは、ごめんね。あれは正真正銘本気だったよ。いくら属性を付与しても当たらないと意味はないんだ。だから、どれだけ剣自体を強化してもやっぱり僕自身の力量に左右される。 ...でも」

 

 

 そこで言葉を切った途端、彼の持つ剣に変化が起きた。

 剣にまとわりついていた闇が払われ、今度は刀身を包むようなつむじ風が出現したのだ。

 

 

「これで、少しは...」

 

 

 剣の切っ先を後方へ向け、身体を低く倒してから踏み込んだ瞬間、木場先輩が轟音と共に消えた。へぇ...久しぶりだな、霞んでしか見えなかったのは。

 

 

「本気に─────ッ!?」

 

ガァンッ!!

 

「いやさ、移動だけじゃなく攻撃まで速いままじゃないと無駄よ?それ」

「な...!たったそれだけのタイムラグを?」

 

 

 木場先輩の剣は俺の剣で防がれ、ギシギシと音を立てる。なるほど、強い風を後ろにぶっ放して自分の移動速度を底上げしたのか。セイバーさんの風王結界(インビジブル・エア)を地で行ったな。

 着眼点は悪くないが、敵の近場で立ち止まってしまうのは不味い。急所を狙ったり武器破壊を狙ったりと攻撃の視野は確かに広がるが、俺のように『視える』奴相手ではリスクが大きすぎる。

 一旦退こうと足へ力を込めたところを狙い、彼の足元に短剣を精製する。片足を持ち上げられてしまえば、もう身体は言うことを聞かない。

 俺はバランスを崩した先輩の胸元へ掌底を叩き込み、体育館の壁端まで吹っ飛ばした。

 

 

「うぐ...はは、よく分かったよ。速くしなきゃいけないのは、移動だけじゃないんだね」

「ああ。あとは、剣に属性を与える余裕があるんなら、そんなものじゃなく剣自体の強度を重視したほうがいい。それと、見た目に反した軽量化、重量化もその神器ならできるはずだ。強度の面を解決したらその段階に進むといい」

「コウタ君って天の邪鬼だよね」

「だまらっしゃい」

 

 

 木場先輩へ一言コメント(?)してから短剣を消失させ、どうやら準備万端らしいソイツの方へと顔を向ける。

 

 

「今度は俺が相手だ!功太ぁ!」

「ハッ、来いよイッセー!神様だってぶん殴れるっつー赤龍帝の力を見せてみろ!」

 

 

 

          ****

 

 

 

「げほっ...イタタ、もうちょっとくらい手加減して欲しかったなぁ」

「だ、大丈夫ですか?今治しますから」

「ありがとう。アーシアさん」

 

 

 胸を押さえた木場先輩が咳き込みながら私たちのところまで歩いてきた。しかし、すぐに駆け寄ったアーシアさんの治癒で痛みは引いたようだ。

 どうやら先輩は、コウタさんから少し私怨の入った一撃を貰ったみたい。

 

 彼はアドバイスが難しいと言いながらも、ちゃんと先輩へ助言をしていた。私にはよく分からないけど、的確な内容だったんだと思う。

 だけど、今は─────

 

 

「小猫、やっぱり手取り足取りだったの?」

「ふふ、興味津々ね。リアス」

「それはそうよ。小猫の成長はかなりのものなんだから、その中身が気になるじゃない」

「別に...普通です」

 

 

 そう。中身は至って普通。特別な事なんてほとんどない鍛練だった。

 だが、逆に言えばノーマル過ぎて、あまり意識しなかった内容でもある。恐らく、コウタさんの狙いはそれなのかもしれない。

 他に特別なところがあるとすれば、終わったあとに毎回頭を撫でて労ってくれたり、疲れて寝てしまっても膝枕してくれたりと、辛い鍛練の筈なのに、楽しみ...コホン、コウタさんの優しいところが挙げられると思う。

 

 

「普通、ねぇ...」

「あらあら♪」

「??」

「小猫ちゃん、部長さんたちはどうしたの?」

「...分からない」

 

 

 黒き疑いの眼差し×2と、純粋な疑問の眼差し×2から逃れるように視線を背後へ移動させると、丁度イッセー先輩がコウタさんに投げられて宙を舞っているところだった。

 そのまま体育館の壁へ激突し、先輩はやがて動かなくなる。

 

 

「おいおい。赤龍帝ってこんな弱っちかったのか?こりゃ白いのにも期待持てそうにないなぁ」

「コウタ。イッセーはまだ赤龍帝の籠手の真価を発揮出来てないわ。これから伸びるはずよ」

「...まぁ、伸び代はあるにはあると思うんですけど...うぅーん」

 

 

 コウタさんにしては珍しく、歯切れの悪い返答が返ってきた。部長さんたちもそれに少し驚いている。

 結局コウタさんはそれ以上イッセー先輩について口にせず、帰り道でした私との会話もいつも通りだった。




そういや未だに生徒会と一度も関わってなかった。
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