前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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今回もオーフィス無双。(※物理じゃないよ


File/18.つながる夢

 全身が痛い。そして、まるで肺に(つぶて)でも詰まっているかのように呼吸が上手くいかない。

 

 これは....そう、初めて疑似魔術回路に魔力を通したときの不快感に似ている。

 

 

 初めて魔力の精製をした時は、腕から、足から血が噴き出した。

 

 

 あの頃の俺は、魔力の増幅、変換、放出、譲渡...そのどれもが全く出来なかったから、何度も何度も微量の魔力を流して回路を慣れさせる段階から始めたのだ。

 お蔭で魔物との戦いで数えきれないほど死を覚悟した場面があったが、辛労辛苦の末、ようやく俺は体内に魔力を循環させることに成功した。

 ならば、やはり試してみたくなるのが人間の性。俺はそのとき、はじめて明確な魔術の行使をした。

 方法は至って簡単。近場に立っていた大樹に触れ、魔術回路を励起させて材質を詳細に把握。その後は樹に対する最適な破壊の指向性を持った魔術を作り上げるだけ。

 故に、魔力の放出は最小限に抑えられるはず。

 

 

「─────理導(シュトラセ)開通(ゲーエン)

 

 

 己が知るFate知識で、これほど安全かつ単純な魔術行使はないだろう。

 と、そんな俺の考えが根本的に間違っていた事を知ったのは、全ての事象が己の目前に結果として現れた後であった。

 

 具体的に言うと、数十メートルはあった巨木は木の葉一枚すら残さず消し飛び、その先に群生していた樹木も酷い様相となっていた。

 

 俺は、この光景を自分が作り出したものだと受け入れるのに数時間を要した。だって、ありえない。数か月前は少し魔力を通しただけで身体が悲鳴を上げていたのだから。

 

 ...この考えこそが、そもそも間違いだった。

 俺が初めて魔術回路を励起させ、何らかの魔術を行使しようとしたとき。

 

 その時に流した魔力の量は、大魔術や儀礼呪法を軽く上回るほどのものだったのだ。

 

 逆に言えば、そんな量を個人の魔術回路に流しておいて局所的な血管の損傷だけで済んだのはあまりにも異常。どれほど稀代の魔術師であろうと、一人で儀式クラスの魔術を一瞬で為すなど不可能である。

 

 一体何故、それほどまでの魔力を汲み上げられたのか。何故、俺の魔術回路は一切傷付くことなく神代の武具を創れるのか。

 

 

 この魔力は...一体何処から来ているのだろうか?

 

 

 

          ***

 

 何だ...?

 この微睡む感覚、ついさっきにも体験したような気がする。

 相違点を挙げるなら、口元がやたらと生暖かいことぐらいか...?あれ、動いてるぞコイツ。

 

 

「ん、む...」

 

 

 ある程度意識が覚醒してきた。しかし全身が怠い。指一本さえ動かすのが億劫なくらいだ。それに、なんか物理的に重いのが上に乗っかってるみたいだし...

 凄まじい既視感に苛まれながらも目を開けると、これ迄の疑問全てが一気に解決した。

 

 

「ちゅ...ちゅぱ、れる」

「.............................」

 

 

 瞳を閉じて頬を上気させたオーフィスが、俺の口を塞いでいた。...勿論、自分の口で。

 今回の事で、俺は貴重な経験をした。自分の理解を越えた光景が突如として展開されると、人は思考を完全に放棄するらしい。

 

 

「ちゅ、ちゅう...あむ」

 

 

 それは兎も角として...いつ終わるんだこれ。なんか舌とか入って来てるし、唇噛まれるし。まぁ、思考捨ててる俺には些細な問題だな。HAHAHA!

 そんな風にアレな感情を必死こいて躱しながらも、目前で展開される桃色な光景と、今尚蹂躙されつつある己の唇を意識したことで、身体の一部分は露骨な変化を呈し始めている。そろそろ本気で不味い。

 

 と、ここでやっともう一つの『変化』に俺は気付いた。

 

 

「んむ...?」

「ふぁ...コウタ、気付いた」

「お、おう。てかオーフィス、お前なんで...」

「魔力、少なくなってたから」

 

 

 そう。彼女が俺にしていたのは魔力の供給だ。

 吐息や唾液を介して行われる魔力の交換は効率が良く、短時間で他者へ魔力供給が出来る。しかし、俺は別に命へ障るほどの放出はしていない。供給をするにしても、肌の接触を介する程度の行為で充分なのだ。

 以上の事を掻い摘んで懇切丁寧に説明してみたのだが....

 

 

「別に、我の自由」

「なぜ顔を逸らす」

「なんとなく」

「...とりゃ」

「ふみゅっ」

 

 

 両頬を挟み込んでこっちへ向かせる。膨れっ面になっても、寧ろ愛嬌が増しているのは素直に凄い。オーフィスは不満そうだが。

 俺は少し赤くなってしまった頬をさすってあげてから、今度は頭を撫でてやる。

すると、小さき龍神は顔を俯かせてしまう…が、チラチラとこちらを何度か伺ってから、直後に手を伸ばして抱きついてきた。俺、そろそろ萌死にそう。

 

 

「我、コウタの夢...グレートレッドに見せてもらった」

「えっ?」

 

 

 一瞬どういうことか理解しかねたが、グレートレッドは夢幻を司る龍だ。誰かの記憶や夢を他の誰かに見せる事が出来るのだろう。となると、俺の見てた過去の夢がオーフィスへ...なんか恥ずかしいな。

 

 

「コウタの言ってた、家族...みんな、我と同じだった。でも、コウタと一緒にいたら、笑えるようになってた」

「...ああ」

「我もコウタと一緒にいれば、変われる?」

「100%の保証は無理だけど、お前にその意思があるなら、そう出来るように俺も努力するよ」

 

 

 俺もオーフィスの背中へ手を回し、抱き締め返してやる。

 それに答えるように、はたまた俺のした言を受け入れたかのように、一際強く腕の力が増した。

 

 

「俺が、お前に静寂をやる。だからまぁ、何だ。...ここにいろ」

「うん」

 

 

 我ながらぶっきらぼうな言葉である。ろくな声を掛けられなかった謝罪の意も込めて、俺は少女の長い髪を手で梳く。

 暫くそうしていたが、オーフィスは徐に俺の顔を見上げ、多少申し訳なさそうな瞳をした。

 

 

「我、グレートレッドを倒すために、何とかって変な組織に『蛇』あげてる。でも、コウタのお蔭でそいつらいらなくなった」

「ひ、酷ぇ言い様だ...。てか、お前ほどの存在が手を貸した組織ってヤバそうだな」

「名前は確か...か、禍の団(カオス・ブリゲード)

 

 

 知っている。それは冥界で有名な旧魔王派の連中で、現・四代魔王の座につく魔王様たちを憎んでるテロ組織だ!確か派閥が複数存在していたはずだが、今の所表立って動いているのはコイツらだな。

 なぜオーフィスはそんな...って、グレートレッドを倒すことをネタに協力を持ちかけられたのか。

 まさか、そんな奴等と手を組んでたとは...!

 

 

「オーフィス。『蛇』ってなんなんだ?」

「我の力の一端。使えば強くなる」

「...こりゃ、やっぱダメだな」

「?」

 

 

 今すぐにでもオーフィスを禍の団から引き剥がしたいが、メンバーの強化という要を担っている事から、容易には切れない関係になっているだろう。向こうの動向が全く分からない中では無謀な行為だ。

 俺は頭をガシガシ掻き、自分の無力さを痛感しながら口を開く。

 

 

「オーフィス、すまん。まだお前を禍の団から引っ張り出すのは無理だ。冥界で何が起こるか分からない。だから、─────まだ、組織に居てくれ」

「....」

 

 

 オーフィスは何も言わなかった。ただ、俺を抱き締めていた腕を移動させ、今度は肩へ持ってくる。

 疑問苻を浮かべていると、龍神の圧倒的な力で押し倒された。ベッドじゃなかったら確実に脳震盪で意識飛ばしてたな...

 

 

「別に、いい。少し待てば、コウタが助けてくれる」

「ああ、約束する。絶対だ」

「♪」

 

 

 決然と頷くと、オーフィスは薄く微笑んでから俺の首もとへ顔を埋めた。ホントは甘えたがりなのかも…?

 暫く頬を擦り寄せてきたり、じっと見詰めてきたり、抱きついたりと好き放題する甘えん坊な龍神さまを放っておいたが、突如としてその和やかな空気はぶち壊される。

 

 

「にゃあー!コウタ一体何処に──────────ッ!??」

『えっ?』

「…えっ」

 

『───────────────』

 

「お、お邪魔しましたー、にゃんて♪」

 

 

 パタリと扉が閉まる。

 俺はオーフィスへ次元の狭間へ退避するよう言ってから、鬼のような速度で消臭スプレーを部屋内へ振り撒く。こうしないと、黒歌は鼻が利くから匂いでバレるんだよ!

 そして、一通り終わったらベッドの中へ潜り込む。それとほぼ時を同じくして扉が開かれる音がした。

 

 

「あれ...コウタ?」

「お、おう.....黒歌か?」

「にゃにゃ?...コウタ、さっきこの部屋に入った時、変なドレス着た幼女に押し倒されてなかった?」

「ふぁっはっはっは!変な幻覚でも見たんだよきっと」

「むむ、確かにあの時は気が動転してたけど...じゃあ、こんな時間までどこ言ってたのよ!制服置きっぱなしだったから学校行ってるわけでもなかったし。...心配したにゃん!」

「こんな時間....?」

 

 

 俺はベッドの脇に置いてあったデジタル時計を掴みとって眺める。と、時刻は午後の六時過ぎ。朝起きたのが恐らく午前五時か六時頃...おいおい、どんだけ時間経ってんだ?!

 次元の狭間にいた長さは、体感で一時間もない。しかし、現実ではそれの十倍近く時間が経過していたらしい。なんつー浦島太郎だ。

 

 

「コウタ、大丈夫?ちょっと顔色悪いにゃん」

「あ、ああ、大丈夫だ。ちょっと冥界行ってやんちゃしただけだからさ」

「むぅ、なんか釈然としないにゃ...まぁでも?コウタはあんな小さい娘に興味はないでしょうしね」

「それは─────────」

 

「そんな事ない、猫。我、コウタに愛されてる」

 

「えっ」「えっ」

 

「?」

 

『.....................』

 

 

 いつの間にやら、部屋の中央にオーフィスが不満気な表情をしながら立っていた。

 

 降りる沈黙。硬直する二名、そんな二人を見て首を傾げる一名。

 

 それから約三十分後、ようやくお互いが話し合えるまで心の余裕を作ることができ、黒歌に嘘を吐いたことを謝罪、オーフィスの正体も全て話した。

 流石にこの幼き少女が無限の龍神であることに驚愕していたが、黒歌はひたすらに無表情なオーフィスを眺めると、何かを理解したらしく優しい笑みを作って頭を撫でた。当人はそれを撥ね退けて俺の背後へ隠れてしまったが。

 しかし、オーフィスもまた黒歌を認めたようで、少し表情が柔らかかった。

 

 何はともあれ、俺が黒歌に犯罪者予備軍(ロリコン)という不名誉なあだ名を付けられたこと以外はめでたしめでたし。




久しぶりに好き放題やりました。結構満足。

冒頭でオリ主が行った魔術は、Fate/Apocryphaから一部引用したものです。
要所に持論が入ってるので、おかしい点などに気付いた場合は御申しつけを。
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