前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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バルパーを勢いで炭にしてしまった...。お蔭で回収不可能だよ。


File/33.白龍皇

「コカビエルが倒れている?....まさか、キミがやったのか」

「......」

 

 その問いかけには答えることなく、今一度夜空に浮かびあがる身なりを一通り確認し、元あった知識と照会してみる。すると、俺は何故か初めて会ったはずである彼の姿に、強烈な既視感を感じた。

 この疑問を解決するためにも、俺は質問へ踏み切ることを決める。

 

 

「何者だ。お前は」

「ヴァ―リ・ルシファー。白龍皇を宿す者...と、そういえば理解してくれるかな?」

「なに?...じゃあお前が、今代の白龍皇の光翼(ディバインディバイディング)の使い手か!」

 

 

 なるほど、この既視感はイッセーの赤龍帝の籠手とデザインが似ていたからか。だが、コイツはイッセーと違って全身鎧(フルアーマー)だな。纏うオーラもけた違いにデカい。

 声は男性と思われる涼しげで低いものだが、微量に残る幼さを含んだ声調と、イッセーより多少高いぐらいの背丈を見るに、年齢は()()()()での俺の年より少し上くらいか?

 彼は俺の問いに頷くと、空からゆっくりと下降し、地面へ両足を着けて俺に視線を戻す。

 

 

「そういうことさ。キミは────人間?ただの人間が一体どうしてコカビエルの前に...いいや、そもそもこんな場所にいる?」

 

 

 まぁ、そうなるだろう。武術に精通する者なら、俺の身のこなしを見て少しは判断できるかもしれないが、相手の力量を魔力で計る者では、俺のことを一般人と断定せざるを得ない。もしキャスターと同じくらい魔術の扱いに長けていたら、聖杯を知覚できる可能性はあるが....俺自身アレを理解しきれていないので、なんとも言えないところだ。

 さて、コカビエルのことはどうするべきか。俺が倒しました!なんて言ったとしても笑われるだけだろうから、通りすがりの一般人を装うか?...否、白龍皇のことを元から知ってるような発言をしてしまったし、いらぬ不信感を煽るだけか。

 ─────ならば、取るべき道は一つ。

 

 

「俺がコカビエルを倒した」

「なに?」

「俺がコカビエルを倒した」

「..........冗談が過ぎるぞ」

 

 

 目元を抑え、呆れたように首を振るヴァ―リ。鎧がガシャリと大きな音を立て、それが彼の苛立ちを形容しているようだった。

 俺としては冗談なぞ一言たりとも言っているつもりはないのだが、先入観にとらわれるというのは恐ろしい。これほど才子才に倒れるという意味を事が起きる前に強く感じたことはない。ああ、コカビエルが俺のことを舐めてた時もそうだったか。

 少し経っても俺が冗談だと言わなかったことに、怒りより訝しみが多量に含まれた雰囲気を放ち始める白龍皇の少年。やがて堪忍したのか、組んでいた両腕を解いてヤレヤレのポーズを取った。

 

 

「....分かったよ。じゃあ、十秒間俺の攻撃を躱し続けられたら認めてやろう」

「それでいいのか?」

「ああ、これで確実にはっきりするさ」

 

 

 蒼き光翼を少し後方へ傾け、前項姿勢になるヴァ―リ。あの態勢を見るに、向こうは一撃で決める腹積もりらしい。

 俺は弱めた身体強化を再び強化させるか暫し迷ったが、結局そのままで挑むことに決めた。

 これくらいのハンデをつけないと、俺自身が自分の実力を分かって彼との戦いに臨んでいる事に対し、あまりにもマイナスの面が強すぎる。

 

 ヴァ―リは一言行くぞ、とだけ答え、俺が頷いたのを見ると羽を素早く下方へ降ろした。

 それから凄まじい勢いで俺の懐へ潜り込むと、握り拳を作った腕が突き出される。───一秒。

 

 俺はその腕を、授業中に発言権を得るために挙げるかの如く持ち上げた手で掴み、すぐに背中を向けてヴァ―リの身体を乗せ、突っ込んだ勢いを殺すことなく投げ飛ばす。────二秒。

 

 地面を転がり、何が起きたか分からないまま痛みに呻くヴァ―リを見下ろす。だが、すぐに現状を理解して起き上がり、目に見えて先ほどとは違う隙の無い構えを取った。────六秒。

 

 そして、彼が今一度光翼をはばたかせようとしたところで─────

 

 

 

「そこまでよ!二人とも拳を収めなさい!」

 

『ッ!』

 

 

 突如響き渡った明瞭な声に、俺のみならずヴァ―リも動きを静止させ、その声の主へ目を向けていた。

 呼び止めたのは、光の少ない夜でも月光を反射し、赤く輝く髪を風に棚引かせるグレモリー先輩。その背後には、いつものオカルト研究部メンバーが勢揃いしていた。

 ヴァ―リは先輩たちを一瞥してから、おもむろに深い溜息を吐く。それから素早く跳躍してコカビエルの横たわる場所へ移動し、片手でその身体を担ぎ上げると夜空へ飛び立った。

 

 

「ッ、待ちなさい!その白い龍を象ったような鎧...貴方は白龍皇よね?何故ここへ来たの?!」

「アザゼルからコカビエルを止めるよう頼まれたんでね。堕天使幹部と戦えるということで楽しみにしてたんだが....ふふ、それよりもずっと凄そうな奴と出会えた」

 

 

 俺の方を見下ろしながら、興味津々な体を隠す気も無い口調で言う。フェイスマスクの下は満面の笑顔だと簡単に想像できるな。

 

 

「キミ、名は何という」

「栗花落功太だ」

「ツユリコウタ...ああ、覚えたぞ。今日の戦いは今度会ったときに仕切り直そう。それじゃあ─────」

「おい待てよ!」

「?君は.....ああ、今代の赤龍帝くんか」

 

 

 背を向けようとしたヴァ―リへ、イッセーが滑り込むようにして俺の隣まで移動し、指を突きつけながら大声で啖呵を切る。だが、当の彼は冷めた返答を返すのみだった。

 その声が気に入らなかったのか、イッセーは左手に赤い籠手を出現させると、今度はその拳を突きつけて怒鳴る。

 

 

「お前は白龍皇...赤龍帝のライバルなんだろ!?なら、俺と勝負してけ!」

「はははは!禁手にも至っていない君と戦うっていうのか?それじゃあ勝負にもならないよ」

「うるせぇ!やってみなきゃ分からねぇだろ!ってか禁手って何だよ!?」

 

 

 今度は質問を飛ばすイッセーだったが、ヴァ―リは今度こそ俺たちのいる方へ背を向けてしまう。

 

 

「知りたければ強くなることだ。強者の地位を追い求めていれば、自然と必要な知識も身に付くからな。...さて、アルビオンの話も済んだことだし、そろそろ退散させて貰うよ」

「お、おい─────」

 

 

 尚も声を上げかけたイッセーだったが、青い半透明の翼を大きくはためかせたヴァ―リは、あっという間に夜空へ飛び上がって行ってしまった。

 悪いやつでは無さそうだが、根本が少しコカビエルと似通っている部分があったな。

 強い『敵』と戦い、そいつを倒してレベルアップ。...とはいっても、コカビエルのように恨みをわざと買わせる手法ではなく、真正面から挑んでぶつかる考え方のようだ。

 戦争をしたいわけじゃなく、強敵との一対一(サシ)の勝負を望んでいる。そう言ったほうが分かりやすいな。

 

 

「コウタくん、大丈夫だったかい?」

「あぁ、木場先輩。俺は大丈夫だから、自分の心配をした方がいい」

 

 

 アーシアの神器である程度回復したと思われる木場が、足を痛めたゼノヴィアに肩を貸しながら歩いてきた。恐らく彼女も回復させて貰ったのだろうが、違和感はまだあるのだろう。

 パッと見てもっとも印象的だったのは、二人とも一様にボロボロだが、その表情は笑顔であったことだ。

 

 

「まさか、本当にコカビエルを一人で倒してしまうとな。恐れ入ったよ」

「まぁ、な。...ん、紫藤はまだ駄目か?」

「傷は回復したが、意識はまだ戻っていない。とはいっても、眠っているだけだから安心してくれ」

「そうか、そりゃよかっ...いでででで!」

 

 

 ゼノヴィアの言う通り安心しようとした俺だったが、横から何者かに耳をつままれて引っ張られた。

 強引に向かされた視線の先にいたのは、仏頂面のグレモリー先輩。この分だと、怒っているのは言わずもがなでしょう。

 既にイッセーたちの独断専行は露見しているだろうし、木場と俺で敵地に乗り込んだことも合わさって烈火の如きお怒りが...

 そう冷汗を流しながら思った俺だったが、それに反して彼女の表情は少しずつバツの悪そうなものになって行き、耳から手を離すと、優しく俺の頭を撫でた。

 

 

「.....貴方の強さは十分知ってる。でもね、私の下僕ではないといっても、とても大切な家族には変わりないわ。だから、一人でなにもかも背負い込まないで」

「っ...すみませんでした」

 

 

 もとより罪悪感が大きかった分、彼女からの優しさがより染み渡ってくる。

 そして、同時に木場や皆を巻き込んだことで強い申し訳なさが募り、気づけば俺は深く頭を下げていた。

 でも、顔を上げた後の先輩は、もう悲そうな顔をしていなかった。

 

 

「分かってくれたみたいね。...ふふ。心配はしたけど、貴方なら何とかしてくれるって、どこかで思っていたのも事実よ」

「それは...うれしいですね」

 

 

 よ、よかった。罰としてお尻百叩きとかされるんじゃないかと冷や冷やしたぜ。

 だが、それは杞憂に終わったようだ。これも普段の行いがいいという事か。そうだといいなぁ。

 そんな風に内心で安堵していると、何故かイッセーが急に憤慨しだした。

 

 

「ぶ、部長!なんでコウタはお咎めなしなんですか?!俺と匙はお尻をあんなに叩かれたのに!」

 

 

 お尻、叩かれてたのかよ....!

 一笑に伏したはずだった予想を掘り起こされた俺は内心で慄然としていたが、先輩は微笑を浮かべてイッセーに向き直った。

 

 

「独断で教会と手を結んだのは貴方でしょ、イッセー。コウタはその件に関係ないわ。それに、ちゃんと結果を出してくれたものね」

「むぐ...確かにそうですが」

 

 

 ふはは、諦めろイッセー!そして、何気なく俺まで巻き込まんとした、その浅はかな考えを悔い改めるがいい。

 そんな優越感に浸った状態のまま、俺は後ろへぶっ飛ばされた。

 

 

「むごふぉッ?!」

 

 

 レバーへ鋭角な一撃。完全に油断していたこともあり、モロに入って息が出来なくなる。

 突然起きた予想外の事態に、訳も分からないまま激しく咳き込んで喘いでいると、そんな切羽詰まった状態の俺の腹へ何かが馬乗りになってきた。

 一体誰が!と焦りながら顔を上げ、犯人を目視する。そこには─────

 

 

「─────小猫、ちゃん?」

 

「心配、しました」

「あ、ああ。それは本当にゴメ...ンぐゥ!?」

「心配しました、心配しました、心配しました、心配しました...!」

「ちょ、ごふ!ま、待ってフゴォッ!がほぅ!はうあぁ!」

 

 

 涙声で責める小猫ちゃんへ必死に謝ろうとする俺だが、腹を打つ強烈な拳に発言を阻まれ、口を突いて飛び出るのは情けない悲鳴ばかり。

 や、やばいやばい!このままじゃ茶の間に見せられないものを腹の中から召喚してしまいかねないぞ。何とかせねば...!

 とはいっても、膝でしっかりと両手は抑えられてしまってるし、足を使って無理矢理起き上がろうとすれば彼女を傷付けてしまいかねない。

 

 

「まぁ、小猫がこうするって分かってたこともあるわね」

「なーるほど。納得です」

「コ、コウタ君大丈夫かい?」

 

 

 先輩は小猫ちゃんが怒ってることに気付いてたのか。てかイッセー、その清々しいまでの笑顔は何だ。オイ。

 それにしても、ここは嵌められたと思うべきか、おしおきが二乗されなかったことに安心すべきか....悩むな。

 そんな葛藤をしているうちに、一際深く入った拳で、俺の意識は遥か彼方へとミドルシュートされた。

 

 

          ****

 

 

 周りを見渡し、ついでに耳も澄ませて追手が来ていないか警戒。最後に胸を抑えて悶え苦しみ、地面に倒れて数秒間制止。

 .....よっし、誰も来ないな。

 

 

「待ち伏せナシ、追っ手ナシ、主演男優賞狙えるほどの死んだふりしても誰も釣られない!うっしゃフルコンプリートォ!」

 

 

 ガッツポーズを取って叫び、バック転しながら起き上がった。

 ったく旦那はマジアホドアホスマートフォンですな。まさか本当に逃がしてくれるとは...

 あれほどの実力があれば、俺っちをあの場で瞬殺することだって簡単だったろうに。最後の最後で甘ちゃんな判断でしたね。

 

 

「むふふ、今回はもう十分楽しませて貰ったスィ?エクカリちゃんの因子もゲットしたスィ?言うことナシの大勝利じゃないっすかー!イィエス!...キリストじゃないよ?」

 

 

 両腕を上げて膝を着き、背後の景色が見えるほど仰け反る。今の俺っちテンションうなぎ昇りだぜ。うっかりナイアガラ昇り切ってドラゴンになっちまいそうなくらい。

 そんな風に感極まっていたところ、上下反対になった視界へ映っていた一軒家の屋根に目が留まる。何故なら、そこには人の形をした影が忽然と佇んでいたからだ。

 その状態のままで目を凝らしてみるが、暗闇のお蔭でよく見えない。しかし、そんなことなどお構いなしに影から声が放たれる。

 

 

「んっと。白髪で、目付きが悪くて、神父の服を着てて、言動がぶっちぎりの変態...完璧にあってるわね」

 

 

 やべ、調子に乗って一人フェスティバルやってたら追っ手か来ちまったか。

 まぁでも?俺っちの逃げ足に勝るのは旦那を除けば、グレモリー側にも、教会から派遣された聖剣使い二人にも無理だしね!ってことで退散たいさ─────

 

 

「ふふふ♪逃がしはしないわよん。コウタから絶対捕まえるように言われたしね」

「っ!いつの間に移動しやがった!?」

 

 

 逃げようと移動させた視線の先に、さっきまで立っていたシルエットがあった。

 ま、まさかあの一瞬の間に?んなアホな。...とは思ったが、近づいて来る影に意識せず後ずさりしてしまう俺っち。

 って、オイまてよ?コウタって名前、最近どっかで聞いたような...?

 そんなことを考えている間に、謎の影は電信柱にあった電灯の下で足を止めたため、ようやく人型の全貌が明らかになった。

 

 

「.....オオウ。ぐらまらす」

 

 

 スポットライトのように照らされたのは、長い黒髪をした長身の女。

 だが、この女は普通じゃない。白い肩と豊満な二つの果実を大半露出するほど崩した黒い着物に、遊郭にいる手練れの娼婦が如き艶めいた笑顔、片方の腰だけ斜めに上げ、足を交差させて立つその姿...これほどまで男の下腹部を刺激する格好があるだろうか!?いいや、無い!

 思わず前のめりになりそうになったけど、ここは経験者たる威厳を見せるべきだぜ俺。そう自分へ言い聞かせようとしたが、その前に呆れたような声が俺の思考を遮る。

 

 

「あらあら?もしかして勃っちゃったの?情けなーい」

「う、うるっせぇ!犯すぞ!」

「ハン。アンタのを挿れられるぐらいなら、自分の尻尾を突っ込んでた方が百倍マシにゃん。そ・れ・に。私の初めてはコウタに捧げるって決めてるし?」

 

 

 っかー!何度も俺っちをコケにしよってからに!こうなったらぜってー鳴かしてやる!

 手をワキワキさせながら鼻息荒く突っ走る俺だったが、ここで端と気付いた。

 

 ─────あ、コウタって旦那の名前じゃん。

 

 次の瞬間、俺っちの視界は百八十度回転、そのまま吹き飛ばされて塀に背中から激突した。

 

 

「...ま、どうしてもって言うなら、私とコウタが交わるところを見せてやってもいいにゃん。あ、目隠しアリでね」

 

 

 そんなの只の拷問っす、姐さん。

 薄れる思考の渦中で精一杯の反論を思い浮かべたが、結局言葉にすることはできず、やがて夜より暗いところへ意識を引き摺りこまれた。

 フッ、ぬか喜びの代償はデカすぎたぜ。ガクリ。




逃がしてやると言ったな。アレは嘘だ。

という訳でフリード君捕縛完了。
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