前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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今話で四十話達成!
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File/37. 龍神の憂鬱

 右からも左からも鋭い爪や牙が突き立てられ、加えて岩すら容易に粉砕すると確信できる巨獣の手のひらが俺の頭に影を落とす。

 この状況から五体満足で生き残り反撃に移行する術など、まず非力な一般人は考えもしないだろう。ましてや、目の前で死の格安セールを展開するのは話など一切通じない人外どもだ。これならヤンキーや暴走族を相手にした方がまだいい。少なくとも返答はくるのだから。

 

 しかし、俺は彼らに言語能力がないことをとても感謝している。

 

 

「いけッ!」

 

 

 こんなにも容赦なく殺し、今まで後腐れなく食糧調達を終えられたのは、余計な同情心を植え付けられる危険性のあるコミュニケーションがないお蔭なのだから。

 

 俺はオーバーエッジ type-αで飛ばして置いた干将莫耶を加速させ、空気を裂く音とともに餓狼のような魔物二匹の首を飛ばし、続けて背後から同じくtype-αで操作する干将莫耶を飛来させると、大木がごとき腕を振り上げた熊の魔物の肩と胸を貫かせる。

 瞬間、予想だにしなかった痛撃で筋肉が痙攣したか、俺を叩き潰さんとした推定100kgの腕は狙いが大きくずれ、あらぬ場所に肉球スタンプをうつ。

 

 

「秘剣────────」

 

 

 イメージするのは、常に最強の自分だ。

 ならば、この手で振るえぬ武器などなく、放つ技にも限りなし。

 己が全能たる事実を嘯け。己が全能たる虚実を(こぼ)て。...具現せよ。我が掌に乗るべきは真の強さのみ。

 

 

 最大限の知識収集を終えてから、持っていた物干し竿の柄を肩の高さまで上げ、切っ先を前方に向ける姿勢をとる。そして、取り込み済みの記憶をベースにして第二魔法の体現を試みる。

 

 秘剣・燕返し。

 それは、踏み込む一呼吸の間に三の太刀筋を描くという絶技。放つには、世の根底に存在するルールを歪め、この一瞬のみ既存の法則では成り立たぬ奇跡を、起こりうる一つの要素として顕現させること以外に術はない。

 

 一応宝具として位置するんだから、真名解放すれば無条件で扱えるんじゃ?一時はそう思ったが、アレは担い手の純粋な技量のみで至った技だ。すなわち、担い手が技を放つこと自体が真名解放であり、成功して初めて宝具となる。流れる魔力がゼロに等しい凡人でも放てるが、一方魔力がどれだけあっても技量が伴わなければ再現は不可能という、ある種もっとも英霊らしい技。

 

 俺は宝具の『真名解放』に耐えられるよう身体強化を挟み、一部の差異ない『静』の構えから『動』へ移行する。

 

 

「─────燕返し!!」

 

 

 佐々木小次郎とはそもそも存在しない英霊だ。座へアクセスしても彼の魂などどこにもありはしないし、武具もないので経験を己に取り込めない。...ではなぜ、俺は彼を知っているのか。

 

前世(stay/night)の知識だ。以上!

 

 ()()()()()()()()()()()()、鮮明な光景として思い出せるセイバーとの打ち合い。俺はその中で放たれた『秘剣・燕返し』の軌跡を辿り始める。

 

 先ずは、頭から股下までを通過する一ノ太刀─────完了。

 次に、一ノ太刀が疾る場からの逃げ道を遮るニノ太刀──ザザ──完、了。

 最後。ザ...ザ左右か...の脱出すザザ..ザら阻...三ノ太..────失、パイ。

 

 

「─────がッァ?!」

 

 

 突如。抗う意思さえ挟ませることなく生じた恐ろしい斥力により、世界の法則をねじ曲げようとした俺の腕が捻れた。

 ゴギッ!という骨が砕ける異音が響いたが、それより先に腕を引いて技を中断させ、掴んでいた物干し竿を後方へ投げ捨てる。直後に鈍い裁断音が響き、前方から鮮血の雨が降り注いだ。

 

 

「.....ああ、一と二は、通ったのか」

 

 

 脳天から腹にかけての直線を断ったものと、腰から腹にかけてを円形に薙いだもの。これらは間違いなく同時に放たれ、同時にあの肉を裂いた軌跡だ。しかし、三ノ太刀のみは未だ甘かったらしく、どうやら世の常識(ルール)に阻まれてしまったらしい。

 あのとき、腕がねじきられるかと思うくらいに激しい反動を受けたのは、恐らく中途半端な形で魔法の領域に足を突っ込んだ代償だろう。本当なら腕がもがれていてもおかしくはなかったはずだが、事前にイメージを固めていたお蔭で『外れた』ことに一早く気付き、寸前で手を引いたことが功を奏したようだ。

 

 

「.....は、まだまだ甘いな。俺は」

 

 

 このザマでは、完全(オリジナル)へ到達するにはほど遠い。何故なら、自分が放つそれは模倣ではなく具現であり、それを正しく認識し、かつ振るえるに足る力が必要なのだから。そんなことはとうの昔に学んだはずだろうに。

 

 それとも────やはり、たどり着かなければならないのだろうか。あの極地に。

 

 己の全てをなげうっても喪ってもよいと叫びながら一対の陰陽剣を握り、鉄の塊から流れ込んで来たとは思えないほど強く、壮絶な記憶にさらされ続けた日々。

 それは、激流の如く押し寄せる一人の男が生きた救いのない記憶。手を差し伸べようとした誰かが死に、誰かが生き、結局誰もが死ぬというだけの物語。しかし、そこには人を救う事の愚かさを知りながら、尚も正義の崇高さを抱き、多数も少数も幸せになるよう願った男の存在があった。

 

 

「アレは...人が見るには辛すぎるな」

 

 

 英雄の記憶を己に流し込むのは、例えるならデザードストームの中に放り込まれるような過酷さだ。生きた年代が桁外れである彼らの記憶を眺め、その最中は矮小な『自分』が吹き荒ぶ強風に飛ばされないよう、強い意思を持ち続けなければならない。

 正直、アレをもう一度やるというのは御免だ。常人なら確実に廃人化する。

 

 

「ま、『英霊の魂』を使わないでここまでこれたんだ。十分ってもんだろう」

 

 

 幾ら記憶を見ることができるとはいえ、今回の技はまず言われて出来るものではない。燕返しのニノ太刀まで同時に振るえただけでも、凄まじいまでの進歩と言える。

 しかし、これを含め英霊の扱う宝具から放つ技はほぼ確実に身体強化が必須だ。仮に失念して試みれば、魔力はあっても出力に体が耐えきれず空中分解するだろう。剣技や運動能力の再現も、宝具と違って魔力は使わないが、衛宮士郎のように足や腕などが壊れてしまうはずだ。

 こればかりは、俺が人間である限り確実につきまとう絶対条件。それでも破格であることには変わりないが。

 

 

「あーもう!小難しいお話は止め止め!今日は熊肉だぜー!」

 

 

 気分を入れ替え、物干し竿を消し、捌くための干将莫耶を入れ替わりに創って交差させると、獲物を前にした肉食獣のごとき笑みを浮かべる。っと、片腕折れてたんだった。持てるの莫耶だけだな。

 第二魔法に凸ってかなり疲れたし、滋養強壮に効く(と思う)熊の肉を頂こう。久しぶりのワイルド飯だ。

 

 

「どう調理しようかな?焼くのは王道だが、少し横路逸れて鍋物にでも…」

 

 

 いや、鍋物にするとしたら葱やら白菜やら、あとは旨いスープも必要だと次々欲が出てくる。やはりご馳走だし、せっかくだからより美味しく感じられる形で腹に収めたい。

 俺は皮を剥ぐために解体した熊の一部へ手を当てる。すると、当然手のひらを撫でるのは硬く荒い熊の毛並み...ではなく、何故か瑞々しく指通りのよい感触。

 不思議に思って手でつかみ、クルリと前後を回転させると...

 

 

「んっ、コウタ。少し痛い」

 

「おああああああああ!??!」

 

 

 痛いとかいいながらも無表情を保ち続けるオーフィスと目があった。って、おいまて!生首ッ?!

 恐怖のあまり落としそうになったが、なんとか耐え忍んだ。しかし、そんな俺を放って状況はより訳のわからない方向へ歩を進めた。

 

 

「うるさい」

「ぐふぅっ!?」

 

 

 眉をしかめたオーフィスの口から舌が飛び出した。

 そう聞くだけなら可愛いと思えるかもしれないが、それは俺の喉を貫通して首から飛び出ていない場合にのみ感じることができるだろう。

 

 そして、俺は大量の血を吐き出しながら、なにがなんだか分からないまま意識を失った。

 

 

 

 

 

「─────はっ?!」

 

 

 ぐん、と意識が引っ張られる感覚。それは、浮上する勢いを殺さぬまま瞼を限界近くまで開き、視覚を介しての情報受信を急かした。が、本来そこで映し出されるはずのクリーム色の天井は、端正な顔をした一人の少女によって遮られている。同時に、視線をゆっくりと動かし、その顔と同じ色をした身体が着いていることを確認。アレが夢であると確信し、安心感から思い切り脱力した。

 

 

「いやいやまてまて、何故に素っ裸なんだ?オーフィスさんよ」

「...別に」

 

 

 彼女は上下何も身につけておらず、普段頭につけていたカチューシャすら外して、長く艶やかな黒髪を俺の腹から腰にかけて流していた。未成熟な体型とはいえ目のやりどころに困った俺は、今まで自分が被っていた掛け布団を掛けてやる。

 それから馬乗りになっていたオーフィスどかして起き上がり、悪夢の名残で頭痛のする頭を動かしながら朝食を摂る旨を彼女に伝えた。...と、ここで俺は妙な違和感を感じ、己の四肢を今一度検めた。

 

 

(?.....なんだこの感覚。変にダルいというか、疲れが抜けきってないというか...っぬお、口の周りが涎だらけじゃねぇか。だらしねぇ)

 

 

 ティッシュで口元を拭きながら確認すると、特に腰から足にかけて、どこか覚えのある微妙な痺れと倦怠感が蓄積している。しかし、動作に大きな支障はないので、現状無視できるレベルだ。俺はそう自己解決し、オーフィスに部屋の中を勝手に漁らないよう釘を刺してから扉を開け、一階へ続く階段を降りる。

 黒歌は...まだ寝てるみたいだが、自然に起きてくるまで待つか。アイツ朝弱いから無理矢理起こすと凄く不機嫌になるんだよな。

 俺は欠伸を噛み殺しながら、朝食を作るために冷蔵庫を漁り始めた。

 

 

          ***

 

 

 

「ん...ふぁ」

 

 

 少し、やり過ぎた。まさか三回もしたあげく、繋げた後にそのまま眠ってしまったのは危なかったかもしれない。原因は永らく味わっていなかったからだと思ったが、恐らく違う。そうじゃなければ、あんなにも訳なく乱れたりなんてしない。

 兎も角、さっきから流し込んだものが零れてきそうだ。我はさっと部屋を見回し、コウタが今し方取っていた白い紙を幾つか抜き取り、少し恥ずかしいながらも下腹部へ当てる。

 

 

「!...我、恥ずかしがってる?」

 

 

 恥ずかしい。その感情は今まで知識として知っていただけで、実際に体感したことなどなかった。まさか、永い間ずっと分からなかった感情の一つがこうも簡単に理解できてしまえるとは...これもコウタのお蔭か。

 そう思いながら彼の顔を頭の中で鮮明に描いた瞬間、お腹の下辺りから妙な刺激が迸る。それは今の自分ではとても形容できない、全く新しい未知の感情(モノ)。しかし、その感情を自分の中で整理するうち、唯一言葉で表せる思いが見つかった。

 

 

(コウタに会いたい、触れたい)

 

 

 意図せず胸が苦しくなり、自分でも信じられないくらい熱を持った吐息が漏れ出た。気付けば足は彼の眠っていたベッドに向かい、そのシーツを身体に巻き付けて寝転んでいた。

 

 

「ん...コウタの、匂い」

 

 

 ベッドに鼻を擦り付け、今まで得たどんな香りより好きな空気をいっぱいに吸い込む。すると、さっきの妙な刺激が再び身体を駆け巡り、思わず嬌声に近い声を出してしまった。

 何故だ。彼が睡眠場所として使っているだけのベッドなのに、何故こんなにも筆舌に尽くしがたい想いを感じてしまうのか。

 それからは無意識にシーツへ自分の裸体を擦り付け始めたが、その行為を自覚したあとも続けた。だって、コウタにとって自分の匂いがどう思われるのか気になるから。もしかしたら、今の我と同じ気持ちになってくれるかもしれない。

 

 

「んぅ...ふぅっ、んはぁ」

 

 

 そう考えると、形容できない妙な気持ちが更に加速する。視界が涙で滲み、呼吸が浅くなり、より一層の温もりを求めて身体をシーツ内で激しくくねらせる。そして、初めて味わう激情に堪えきれず、ついにはベッドへ舌を這わせてしまった。

 じわりと広がる唾液の染み。微妙に押し返してくる無味のザラついた布の感触を彼の応えと想像し、積極的に舌を絡ませる。たまに唇で啄むようにしてわざと水音を立たせ、より気分を昂らせていく。

 それから暫くし、窓から漏れる太陽の光でテラテラ光る染みが手のひら大にまで肥大化してしまった光景を見て、すぐさま我にかえった。

 

 

「我、おかしい」

 

 

 おかしいのに、己はこの感情を好ましく思っている。コウタのせいでもっとおかしくなることを、心の何処かで期待し、望んでいる。

 彼は一人でいる我に居場所を作ってくれた。寂しい、という感情を知らないままではいけないと。そして、いつの間にかその場所が...コウタの隣が、我の望む静寂よりも大切で、安らげる処だと知った。

 

 次元の狭間で眠るより、あの人と同じ時を生きていたい。

 

 

「.........」

 

 

 落ちていた服を拾い、素早く着る。カチューシャは時間がかかるのでつけず、髪は流したまま部屋を出た。階段は一段ずつ降りるのがもどかしく、最上段から飛んで一階に降り立つ。早足でリビングまでの廊下を通り過ぎ、扉を開けると...欠伸をしながら朝食の用意をしているコウタがいた。

 髪があちこち跳ね、服をだらしなく着崩し、片手で尻を掻いて調理をするコウタは、自分のよく知る姿だ。それに安堵を感じたと同時、自分に気づいた彼と視線が合う。

 

 

「ん?...どうしたオーフィス。この前俺が鼻からパスタ出して喜んでた時みたいな目をしてるぞ」

「...そんなこと、あった?」

「ははは、んなことあるわけないだろ。って言っても、前に出して喜んでたことはあるけどな」

 

 

 白い丸皿を並べながら、彼は懐かしそうな目で屈託なく笑う。それはいつも見ている表情であるはずなのに、今日は何故か少し違って見える。胸の辺りが余計にざわつく。我はその感情の名を知っている筈なのに、選びとった答えのピースがどれも嵌まらない。

 そんな状態のまま皿に映る自分の顔を見ていたが、結局その上へ朝食のパンと目玉焼きが乗る前までに理解は出来なかった。しかし、コウタなら今の自分の顔を嬉しそうだと言うのだろうか。

 

 

「...コウタ。我、楽しそう?」

「んー?訳は知らないが、基本いつも楽しそうだぞ」

 

 

 コウタは肩越しに振り返りながらそう返答する。

 予想外の返答に、我はパンを喉に詰まらせた。




リメイクに時間をとられ、最新話の更新が滞ることは避けられませんが、なるたけバランスよく更新できるよう心がけます。
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