前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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皆様お久しぶりです。只今絶賛就活に参ってる緑餅(作者)です。
今話は大分挑戦した内容となっています。もうタイトル通りに。

一つはオリジナル宝具を初お披露目。
もう一つは...実際に見て確認してみて下さい。

ただ、二つ目に関しては私から一つ謝辞を。...初期頃から我が拙作を読んでくれていた読者の皆々様方、申し訳ありません、本当にお待たせいたしました!


File/42.挑み、戦うこと

「よっこらせっと」

 

 

 俺は学園の屋上へ腰を落とす。思わず出た親父臭い掛け声で嫌な気分になりかけたが、この場に居るのは俺だけなので、誰にも聞かれていなかったことを安心しつつも、やはり嘆息した。

 吹き付ける風を感じながら胡坐をかき、ここから見える学校敷地外の景色を一望してから、誰もいない校庭へ目を向ける。無人である理由は至極単純、今日が日曜日で休みだからだ。もしかしたら活動している部活があるかもしれないが、校舎内は静かなものだった。

 

 

「ま、校舎外はそうでもないみたいだけどな...」

 

 

 気持ち猫背になるのを疎ましく感じながら、再び目を動かして別のところ...校庭の外れに鎮座するプールを映す。そこは本来なら水泳部も活動していないので、人など一人もおらず閑散としていなければならない。そのはずなのだが、件の場所からは男女の笑い声と、水を弾き飛ばす軽快な音もこちらまで届いて来る。

 いくら静かであるとはいっても、ここは屋外だ。風が吹けば何処からともなく木擦れの音は聞こえて来るし、車の駆動音や警笛などもある。故に、この距離から音を拾うには常人の聴力では先ず不可能だろう。しかし、僅かな能力差さえ命取りとなる過酷な環境で鍛え上げた俺の聴力なら、問題なくとは言わないまでもどんな音かどうかくらいは判別できる。

 

 

「ち、イッセーの野郎め。天国にいるような顔しやがって」

 

 

 そう。件のプールには我らが赤龍帝、兵藤一誠の姿がある。どうやらアーシアさんや小猫ちゃんに泳ぎ方を教えているらしく、その目は真剣...なのだが、時折グレモリー先輩と姫島先輩のいるプールサイドをチラ見してはだらしない顔をしている。それを二人が水に顔をつけている時に狙ってやっているのだから、抜け目ない計画的犯行であることが伺えた。

 

 とまぁ、通常運行のイッセーは放っておくとして、何故オカルト研究部の面々がプールに集っているのかと言うと、生徒会からの下命でプール掃除を依頼されたからである。一見するとただの雑用に見えるが、グレモリー先輩は部員の親睦会と泳ぎ方講座を兼ね、その申し出を快諾したらしい。もうすぐ夏本番でプール開きが近いのだから、こういうイベントもあるか、と俺も納得している。

 

 

「もっとも、そういうイベントで美味い部分にありつけるのは、ほんの一部の人間だけなんだよなぁ」

 

 

 俺は掃除が終わった時点で、あの場から早々に退散した。別にイッセーと協力して泳げない小猫ちゃんとアーシアさんの指導をしてもいいのだが、どうも身内の影響で女の肌色に異常なほど敏感となってしまったらしく、布面積の少ない先輩方の水着を必要以上に意識してしまう。意識とは言っても邪なものではなく、襲われる!という、どちらかというと恐怖心に近い感情だ。

 

 

「最近黒歌のヤツ地味に強くなってきてるから、あしらうのも一苦労だ」

 

 

 自宅ではあまりドタバタできないことを分かって、派手な破壊系ではなく強力な拘束系の仙術を使用してくる。昨日は室内の空間丸ごとに仙術の気を巡らし、呼気を通して相手の体内に侵入、身体の自由を完全に奪うという恐ろしい技を使って来た。勝手知ったる間柄とはいえ、幾らなんでもやっていい事と悪い事があるだろうに。

 しかし、幸い俺には聖杯という最強の免疫装置と、長年の冥界放浪生活で培った野生の勘がある。実際、事件が起こったのは草木も寝静まる丑の刻ではあったが、体内に先行して入った気を異物として判断した聖杯が魔力によって押し返し、その間に危険を察知した俺は一瞬で覚醒し黒歌を撃退している。

 ちなみに、睡眠時に襲われた時は一秒の経過すら命取りなので、寝起きは手加減が一切できなくなる。以降は動くもの全てに対し反応し、その動作が止まるまで殺戮を行う...らしい。というのも、俺はその時のことを覚えることができないからだ。お蔭で、意識が戻ると目の前に血の海が広がっていて盛大に驚くことが多々あった。

 

 

「黒歌はこれから夜に襲うことはやめる、寿命に悪いって言ってたし、オーフィスも寝てる時の方が隙無いとか言うし、何だかもう分かんねぇな」

 

 

 好きでそんなこと出来るようになった訳でもないというのに、勝手なことを言うものだ。というか、寝てる時の方が隙がないって、つまり普段は割と隙だらけってことか。まぁ認めるけど。

 今だからこそ言えることではあるが、こんな馬鹿みたいな能力を身に着けざるを得ないこの世界での非日常な生活は、日常の退屈さに苛まれて腐っていた前世と比べれば、それは刺激的で新鮮な毎日ではあった。

 最低限これだけは認めよう。だが、勘違いをしないでほしい。365日、それも昼夜問わず命を狙われるほど刺激的なコースは誰も望んじゃいない。俺の人生ハードモードにもほどがあるだろう。...これより上があるとは思いたくはないが、俺が前世でやってた某弾幕STGにはルナティックという難易度がある。

 

 

「一応、スぺカ紛いの能力は持ってるが...」

 

 

 

 下手をすれば、己にすら何らかの影響をもたらす。そんなモノをおいそれと全力放出出来る訳がない。

 しかし、ここはもう俺が前世で生きていたような世の中じゃない。それこそ、戦車級の兵器がそのまま人間の形になったような連中が何人もいる。いや、もしくはそれ以上。核兵器級の輩が居ても不思議ではない。もし、そんな手合いの者と対峙する羽目になったら...

 

 ────────どうする?

 

 

 

「ッ?!」

 

 

 背筋を駆け上がる悪寒。首の裏がピリつくような焦燥感。...覚えがある。

 

 そうだ。これは(つわもの)が間近にいる合図。溢れようとも内へ隠そうとしない、己が実力に絶対の信頼を置く者から放たれる濃厚で鋭い魔力波。

 

 俺は矢も楯もたまらず立ち上がると、屋上の地面を蹴り、校門の方へ向かって跳ぶ。一瞬の浮遊感の後に自由落下が始まり、みるみる肌色の砂地が近づいて来る。が、直前で魔力の放出により落下速度を完全に殺し、派手な音を立てて着地した。

 

 

「───ははは!面白い登場だ。まさか降ってくるとはね」

「...何の用だ?赤龍帝なら不在だぞ」

「その反応の仕方だと、俺が白龍皇だってことは分かってるみたいだな。流石の慧眼だ」

 

 

 白龍皇・ヴァ―リから手放しの称賛が述べられる。別に悪い気分はしないが、ここに来た目的が分からないのだから、今の彼が吐く言葉には全て猜疑心が付きまとう。無論、褒め言葉とて例外になり得ない。

 ただでさえ、ヴァ―リはイッセーの天敵と言っていい相手だ。このまま野放しにしたらアイツに何をしでかすか分かったもんじゃない...というか、コイツもの凄いイケメンだな。初顔合わせの時はフルフェイスアーマーだったから、まさか中身がこんなだとは思わなかったぞ。

 兎も角、顔の造形云々はひとまず置いておいて、俺は殺気を出さず、しかし好戦的とも取れるほど魔力を迸らせるヴァ―リの目的が気になった。仮にイッセーが標的でこの場にやって来たのなら、俺相手にこんな魔力をぶつけてはこないだろう。それに、俺のカマかけにも乗って来ないことを見るに、少なくともコイツは赤龍帝に用があってきた訳では無さそうだ。

 

 

「要件は簡単だ。コカビエル回収の時にキミと戦って、醜態を晒したまま撤退を余儀なくされたからね。今回は本気の俺と相手をしてもらいたい」

「...つまり、俺と戦う為に此処へ来たと」

「ああ。今の赤龍帝とやり合ったところでつまらないだろうからさ。俺は強いヤツと戦いたいんだ」

 

 

 そう言うと、ヴァ―リは両手を左右ともに水平に拡げて狭域結界を張る。といっても校庭の半分以上を覆う規模だ。常人がこれを見れば、狭域と判断しかねるだろう。

 

 さて、この結界をぶち壊して逃走を謀ることは簡単だ。流石の白龍皇と言えど、身体強化込みの魔力放出で逃げる俺に追いつくことはできまい。だが、そうするとコイツが先輩たちに手を出す可能性も否めない。あの件はコイツにとって根が深い問題だと見えるからだ。

 

 

「分かった。申し出を受けよう」

「はははッ!そうだろう!君も強者なら、他の強者との邂逅と戦闘を望まない筈がない!行くぞ、アルビオン!」

『応!』

 

 

 空気を裂く音と同時に極光が迸り、白銀の鎧がヴァ―リを包んだ。その姿は、イッセーのような籠手だけの出現形態とは明らかに違う全身鎧。こうして目の当たりにすると、現赤龍帝との間の歴然たる力の差を痛感できる。

 すっかりスイッチの入ってしまったヴァ―リを前に、俺はいつも通り身体強化を行い、干将莫耶を両手に掴んだ。その際、強化の手を加えるかどうか考えたが、この時点では攻撃寄りか防御寄りかの判断がはっきりと出来ないことを鑑み、安心安全のニュートラルで挑むと決めた。

 此方の戦闘準備が終わったと見るや否や、待ち切れないとばかりにヴァ―リが動く。それは狩猟本能に突き動かされた猛獣が如き突貫。...だが、理性の無い猛獣とて、得物を捉えるための最適解を思考する生物だろう。

 

 

「!」

 

 

 目前まで迫ったところで、ヴァーリは突如直線への推進力を生み出していた翼を右横に向け、地面を滑るようにして左側へ回る。高速移動の折に自身が連れて来た暴風も攻撃の一つとしていたのだろうが、俺は身体強化でそれを受け流しながら、飛んできた拳を干将で迎え撃つ。

 

 

「く、これに反応するか!」

「こんなもんじゃまだ芸がないぞ、ヴァーリ!」

 

 

 グバンッ!という鈍い音が足元から響き、白龍皇の鎧から溢れるエネルギ―と、俺の干将から断続的に撃発される魔力の拮抗で、校庭の地面が蜘蛛の巣状に割れた。それに舌打ちしながら、俺は右手に持った莫耶で下方からヴァ―リの拳を打ち上げ、干将の柄で腹を打ちぬ───こうとしたが、すぐさま翼を動かして戦線から離脱される。

 

 

「オーバーエッジ・type-α(アルファ)

 

 

 距離が出来たと見るや、俺は持っていた干将莫耶を地面に落とし、胸の前で交差させた空手にもう一対の干将莫耶を創り出す。更に続けて、それをすぐ宙に向かって投げ放った。

 空中へ投げ出された二つの劔は流麗な放物線を描きながら高速で飛翔し、左右から挟撃するような形で白龍皇に迫る。だが、彼は余裕の体で構えると銀翼をはためかせた。

 

 

「ハッ!この程度の攻撃など、無駄に値するよ!」

 

 

 両拳でそれぞれ迎撃し、干将莫耶はあらぬ方向へと吹き飛ばされる。そんな過程など目にも止めず、ヴァ―リは翼から放出するエネルギーを強め、再び俺の懐まで飛び込まんと体勢を変えた。だが、それを見る俺は思わず笑みを漏らす。

 

 

「?何がおかし......ッ!」

 

 

 疑問の声を上げかけたヴァ―リだったが、言い終わる前に異変に気付き、背後と右真横から肉薄した飛翔物を辛くも弾く。

 響いたのは金属音。瞬いたのは火花。ヴァ―リが防御したのは、さきほど俺が投げ、そして回避されたはずだった干将莫耶だ。しかし、二つの劔は以前として宙空を飛翔し続け、更に最初の頃より移動速度を増しつつ、意志のない三度目の斬撃を行う。

 三度(みたび)の攻撃を捌く白龍皇。しかし、それを受けた夫婦剣は唸りを上げながら軌道を変えて旋回し、もう一段階速度を上昇させると、今度は真上、そして左側からの挟撃を敢行する。

 

 

「ち、これは自動制御か!厄介な──────、むッ?!」

「.....俺を忘れて貰っちゃ困るぜ」

 

 

 俺は地面に落としていた干将莫耶を拾い上げて疾走し、αタイプの対応に追われているヴァ―リの隙を突いて一気に懐へ潜り込む。が、流石は既に禁手をモノにした現白龍皇か。俺の接近に気付いた彼は、迎撃から回避へ素早く行動理念を切り替え、翼を使って全力の後退を行う。

 

 

「ぐッ!?」

 

 

 それでも、左から迫った莫耶の追撃は躱しきれず、ヴァ―リの右腕にその刃をめり込ませる。堪らず苦悶の声を上げるが、尚も後退は続け、五度目の干将の攻撃に余裕を持って対処する。と、それからすぐ彼の鎧に埋め込まれた宝玉が輝き出した。

 

 

「フ、これほど十秒が長く感じたことはない!」

 

『Divide!』

 

 

 機械的な音声が響いた瞬間、干将の魔力構成...つまりは強度が突如半減した。そんな状態でも六度目の肉薄を敢行するが、風を切って飛んだ白銀の拳にあえなく砕かれる。

 なるほど。これが白龍皇の持つ特性、半減か。触れたものを何であれ半分にするとドライグから事前に聞いていたから、一応直接触れるような戦法は意識的に避けてきたが、これは正解だったかもしれない。

 

 

『ほう、赤いのの側に着く者でこれほどの実力者がいようとは思わなんだ』

「だろう?アルビオン。この俺が今まで指一本も触れられないのが強さの証拠だ」

『全く。お前はどこまでも強者との戦闘に貪欲だな』

「当然だろう!俺は相手がどんな存在だろうが強者であれば認める!だが、弱者であれば、たとえ神だろうと俺はその存在を認めない────!」

 

『Half Dimension!』

 

 

 ヴァ―リは高らかに吼えながら左腕に埋まる莫耶を掴み、握力で粉砕する。そして、その言葉に呼応するような形で鎧の宝玉が再び機械音声を上げ、その直後に結界内の木々が見えない力で押しつぶされるような挙動をしはじめ、その大きさを元の『半分』にしてしまう。

 

 

「おいおい、めちゃくちゃだな。なんつー出鱈目な力だよ」

 

 

 

 ─────これは、さながら力の強制徴収(インターセプト)だ。

 

 何故なら、この周囲の景色を変えながら行われるモノの『半減』は、半減したエネルギ―分を己のものとしてしまうからである。イッセーの赤龍帝の力が発揮する倍加とは相反するものであるが、これはこれで強力無比な能力だ。

 

 

『あまり無茶をするなよ、ヴァ―リ』

「それは承服しかねる。目の前の相手は、多少の無茶をしなければ勝利は難しいだろう」

『なに、覇龍さえ使わなければ文句はないさ』

 

 

 覇龍。聞きなれないその単語に眉を落としかけた俺だったが、以前より数段増した速度で地面を蹴ったヴァ―リに気付き、干将莫耶を交差させて防御態勢に入る。

 

 

「砕き、穿つッ!」

「な?!」

 

 

 一度、二度の拳打。それで立て続けに干将、莫耶を粉砕され、俺はあっという間に丸腰となる。...これはどうやら、白龍皇としての彼の戦闘本能を完全に刺激し過ぎてしまったようだ。

 俺は己の武器が砕かれた衝撃を流さず、真面に受けて後方へ吹き飛ぶ。これで多少の距離を稼げるが、無論相手にとってはこのまま追撃をしない手などないだろう。それを見込み、足で地面を蹴って更に距離を空ける最中の僅かの時間で、持ちうる最強の盾の()()を出現させる。

 

 

「『部分展開・熾天覆う七つの円環(アイアス)』!」

 

「!」

 

 

 それは本来なら、七つの花弁を開いてそれぞれを防壁とする宝具。にもかかわらず、ヴァ―リの拳を受け止めたのは一枚のみの花びらだ。念のため言っておくが、決して発動に失敗した訳じゃない。

 勿論一枚であることには意味がある。それは、この逼迫した状況下では、七つ分の魔力障壁展開のためのプロセスがかえって仇となるため、一枚のみの構成で宝具(アイアス)として完成させ、そのまま発動させたのだ。とはいっても、七つの花弁を象った姿こそが熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)という宝具の完全。それには以上も以下もなく、正史で扱われた形態のまま顕現させなければ、宝具としての価値と意味を失い、無銘に堕ちてしまう。

 だが、それを回避して手を加える術はある。俺が干将莫耶で既に証明しているように、宝具の構成を完璧に理解した上で、英霊が実際に使用して積み重ねた歴史という核を壊さなければ、その性質のみを大幅に変化させることができる。そのための経験値は、もう十分といっていいほど積めた。

 

 

「チッ!発動が速い上に堅いときた!なら、これでどうだ?!」

「っぐお!」

 

 

 追撃を遮られたことに驚きながらも、ヴァ―リは片翼からブーストをかけて二撃目を敢行。左足を思い切り振り上げてアイアスを砕いた。やはり一枚だけでは防御力に乏しいか。

 俺は衝撃で再び空中を泳ぎながらも武具精製を発動させ、前方に剣の絨毯を築き上げた。突貫するヴァ―リはそんな脈絡なく出現した剣の山に翻弄され、幾つかの剣の切っ先をその身に受けたか、堪らず真横に回避行動をする。俺はその隙に両手に長い長刀を創造し、同時にそれを扱う上での知識の収集を行った。

 

 ─────有名だった癖に、コイツを使うのは初めてだな。

 

 

 

「全く、次から次へと妙手が出て来る!面白い人間だ、君はッ!」

「期待に応えられて嬉しい、ぜ!」

 

 

 両手に持ち水平に構えた体勢で、その刀を鞘から解き放つ。途端に名刀特有の煌びやかな銀色が視界に映り、刹那の感嘆に浸る。が、校庭の土を蹴る鈍い音で我に返り、上段から一閃。剣の色より少し明るい彩色の拳を右に弾く。

 一合、二合、三合、四合と打ち合い、敵の攻勢の悉くをいなしていく。刀の扱いには結構自信があるほうではあるが、その道の英霊と殺りあったら十...いや、三十秒くらいでなます切りにされるだろう。

 そんな俺に対しヴァ―リが攻めあぐねているのは、刀を武器に持つ敵と戦うのが初めて、という訳もあるだろうが、一番の原因はもっと直接的な要因なはずだ。

 

 

「ぐ.....な、んだ。その刀は!」

「これはな、千鳥っていう日本の宝刀だ。最大の特徴は...強力な雷を帯びてることだ」

「なる、ほど。道理で、腕が突然言うことを聞かなくなったわけだ。ぐぅ!」

 

 

 防御したヴァ―リの腕ごと振り抜き、強引に距離を空ける。今の接触で彼の左腕は使いモノにならなくなっただろう。...そろそろ詰めといくか。

 

 俺は刀を下段に構え、千鳥に意識を集中させる。

 切っ先から刀身、刀身から鍔、そして柄頭まで。刀全体を、その総てを雷に換える。

 

 

『!いかん、ヴァ―リ!奴の放とうとしているそれは、今のお前では───!』

「それ以上は口にするな!アルビオン!...分かっている。今の俺がアレに恐怖していることは」

『ならば退け!よもや、この場で消し飛ぶことが本望だというのではあるまいな?!』

「は、それもまた一興かもしれないが、生憎と、俺はまだまだ強いヤツと戦いたいものでね。.....最大限の悪あがきはさせて貰うさ」

 

 

 痺れは一定の時間をかけ、さながら毒のように全身へ回る。最早ヴァ―リは半身を動かせる程度の動作しか出来ないだろう。にも拘らず、彼は獣のような咆哮を上げて両翼を展開させると、己の前面を万遍なく覆い、重ねて青白く半透明なシールドを展開させた。

 それと時を同じくして、手元の千鳥が雷の塊へと変貌する。その景観は、まるで天から落ちる雷そのものを手に握っているかのようだ。

 否、己に飛来した雷を斬ったという道雪公の伝説がその通りならば、音の速度すら超えかねない一撃でなければ雷は斬れない。つまり、千鳥が雷そのものになったとも十分考えられる。

 

 

天下(おち)ル─────」

 

 

 俺は光輝く金色の刀を強く握り、そして───。

 

 

「『迅雷、耳ヲ覆ウニ遑有ラズ(千鳥一文字)』!」

 

 

 

 雷を孕む、音速に匹敵した一太刀。

 

 たった一太刀かと言われればそれまでではあるが、それは自然の雷に匹敵する威力の雷撃を縦に放射し、更に奔った衝撃で周囲の悉くを破壊し尽くすものだ。寧ろ、恐ろしきはたった一太刀でこの光景を作り上げたことだ、と言いたい。

 刀を下ろしながら息を吐くと、不燃物が超高熱度のものに晒されて無理矢理燃焼した、独特の鼻を衝く異臭が漂って来る。目前には白煙を上げて赤熱する抉られた校庭があり、それから少し横に逸れたところで膝を着くヴァ―リが見えた。

 しかし、いくら直撃のコースは意図的に避けたものの、予想とは幾分か外にズレ過ぎているような気が...

 

 

「おうおぅ、これはえげつねー一撃だねぃ!俺っちの如意棒が真っ黒焦げじゃねーか!」

「...美猴、何故邪魔をした」

「邪魔した、じゃなくて助けたと言って欲しいねぃ。でもま、奴さんはお前を消し飛ばすつもりじゃなかったようだがねぃ?」

 

 

 手に持った棒...如意棒についた煤を手で払い、俺の方へ視線を向ける謎の闖入者。ん、待てよ。如意棒だと?それを持ってるってことは、かの西遊記に登場する斉天大聖...いや、流石にそれはないか。

 斉天大聖ではないにしても、口調や態度こそふざけているが、その視線は俺の身体の隅まで観察し、次の動向を極限まで伺う意が濃厚に含まれていた。どうやら、コイツもヴァ―リと同じか、それ以上に厄介な相手らしい。

 しかし、宝具をぶっ放してちょっと疲弊しているところへ援軍は辛い。ましてや、その援軍はある程度の実力者と見える。顔を上げたヴァ―リの目を見るに戦闘意欲は衰えていないようだし、このまま二対一で二回戦に突入しそうな雰囲気がある。

 それは不味い。....が、これはアレを試す絶好のチャンスとも取れないか?

 

 

『ヴァ―リよ、ここは一度退こう。助けがあったから良かったものの、危ない橋を渡り過ぎだ』

「いいや、美猴に痺れを抜いて貰った。もう動ける。ダメージ自体は大したことなかったから、戦闘を続けることは可能だ」

『だが─────、む?』

「ほう?あんなのぶっ放しておいて、また何かおっぱじめる気かねぃ」

 

 

 俺は両手を挙げ、いつもとは違う形で聖杯への道を開けていく。精製や創造を行っていた今までは一つや二つの扉のみ開閉していたが、今回は東西南北全ての道を拓いた。同時に、俺がこれからすることが可能なのか、安全なのかどうかを問う。

 ...なるほど。成功は約束するが、その結果は約束しない、か。これを善しと捉えるか悪しと捉えるかは人によって異なるだろうが、魔術師としての教養が僅かでもある人物ならば、迷うことなく実行するはずだ。そして、碌な魔術の師の教授を受けず、時計塔にも所属しておらず、魔術回路すら持たなかった俺も、今では魔術師の端くれである。

 大きく息を吐いて一度上げた手を下げると、一本の短剣を精製し、片腕の手のひらを浅く切る。滴る血液に構わず短剣を捨て、今度は傷をつけた片手のみを上げた。

 

 聖杯へ接続(アクセス)。...経路確認(ルートチェック)、完了。

 ■つの『■』へ接続。......『■』の選択:自動。

 霊脈指定:候補無し。検索.....該当せず。所有者の魔術回路にて代用。

 座の干渉:拒否。

 ■の干渉:拒否、不可。

 位相確定:霊基・■ン■■。─────実行(セット)

 

 

 

「─────告げる。汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に」

 

 

 聖杯がサーヴァントを召喚するには、無論現世への通り道となる霊脈が必要だ。だが、この世界には霊脈なんてものは存在せず、そもそも俺の中にある聖杯は、知覚しうる範囲では英霊の座としかつながっていない。つまり、七騎の英霊は用意できても、召喚のための経路、基点が無いため現界ができないことになる。

 

 

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ───」

 

 

「呪文...?詠唱か」

『ヴァ―リ、今ならヤツは隙だらけだ。...と言っても、無駄なのだろうな』

「とか白いのは言ってるけど、どーする?ほっといていいのかねぃ」

「あぁ、大丈夫だろう。確かに大規模な破壊魔法などを使われたら終わりだが、この学び舎には彼の主人と仲間がいる」

「なーるほど。さっき以上にドカンとでっかいのはブチかませねぇと踏んだ訳だ」

「ふ、数々の文献を読み漁った俺でも知らない詠唱。さて、どんなものが飛び出すか。...楽しみだ」

『全く、怖いもの見たさもほどほどにしてくれよ』

 

 

 ある程度の妨害は予測していたのだが、二人はどうやら俺が取る手に興味があるらしく、最後までやらせるつもりらしい。物好きな野郎どもだ。

 

 さて、経路と基点がないのなら、どうするか。...答えは簡単だ。自分がなればいい。

 実は、聖杯と繋がっているのは英霊の座と別にもう一つ存在する。それは俺自身だ。そして、俺には魔力の通り道である魔術回路が備わっている。ここを経由させれば、召喚者と聖杯が直接つながっている場合のみ、理論上は英霊の召喚を成せる。

 

 

「誓いをここに。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者───」

 

 

 だが、その試みは危険か安全かを定義するまでもなく、ただの自殺行為と言えるだろう。

 聖杯のバックアップがあるとはいえ、英霊(サーヴァント)の肉体という神秘の塊を一個人の魔術回路に流し、現世にて再構成、現界させるなど、正気の沙汰ではない。そんな高密度かつ高濃度の魔力を流せば、魔術回路が確実に暴発する。

 閉じていた目を開ける。すると、目の前には召喚の赤い魔方陣が浮かんでいた。よく見ると分かるが、描かれた陣は俺の血液で形作られている。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ─────」

 

 

「く.....!何だ、何が来る?」

「魔力じゃあねぇな、こりゃ何だぃ?気も混じってるが、俺の知ってる奴とは根本が違うぜぃ!」

『奴の、ツユリコウタの中にある【存在】が重複している、だと?!今、奴は二つの魂を抱えている状態だ!』

 

 

 身体が軋む。神造兵装を創るとき以上に魔術回路が悲鳴を上げていることが分かる。元々規格外の産物ではあったが、今回ばかりは相手が悪すぎる。今の俺の中にはサーヴァント一個分が収まっているのだから、寧ろよく耐えているほうだと言える。尤も、普通の魔術師はこの時点で全身の血液が沸騰し、爆発四散必至だろうが。

 そして、詠唱が最後の文句に移ろうかというその時、突然俺の中に巡っている魔術回路に変化があった。...それは、簡単に表現するなら強化改修。聖杯の魔力そのものが浸透し、俺の魔術回路を覆ってゆく。

 ほんの一時しか持たない、しかし十全な強化。成程、『これ』があったからこそ、召喚そのものの成功は補償出来た訳か。そう思いながら、俺はこの機を逃さぬよう、口の端から血を流しながら声を張り上げ、最後の詠唱を行う。

 

 

「──────天秤の、守り手よ!!」

 

 

 召喚の魔方陣が赤く燦然と煌めく。そして、目を焼きかねない程の極光が俺の視界を塗りつぶし、全神経を魔術回路に総員した影響で五感すら消し飛ぶ。

 何も見えない。何も聞こえない。何も───────

 

 ────────、いや...一つだけ、感じる。

 

 

 

「荒っぽい召喚だ。これじゃほとんど排出と表現した方がまだ的確だぜ?マスター」

 

 

 獰猛さを隠しつつ、しかし隠しきれていないような清涼感のある声。それを聞いた途端に思わず目を剥いたが、視界はホワイトアウトしたままだ。

 俺は回復が追い付かない視覚を鞭打ち、目の前に立つ、ぼやけた人物のシルエットへ必死にピントを絞る。それでもうまくいかなかったため、苛立ち紛れに魔力を込めた平手打ちを頬へ思い切り叩き込み、滞った血液の流れを早める。

 

 

「へっ、イイ気合の入れ方だぜ、マスター。気合のあるヤツは肝が据わってる。肝が据わってる奴はここぞという時に適した判断が出来る。俺は好きだぜ、そういう奴」

 

 

 ─────ああ、駄目だ。顔が弛む。てっきりアイツが来るのだと思っていたから驚きこそしたが、fate界のサーヴァントで一二を争うほどに好きな奴が来るとは。...全く、これだから賭け事(イレギュラー)に自ら飛び込むのは止められない。

 

 俺は明瞭となった視界で、はっきりとその英霊を───駿足の槍兵、『クー・フーリン』の後ろ姿を網膜に刻みつける。

 

 

「召喚に応じ参上仕った。ランサーのサーヴァント、クー・フーリンだ。アルスターの流儀に則り、この槍はお前さんに預けるぜ、マスター」

 

 

 そんな俺に向かい、彼は槍を肩に乗せて片手を挙げながら、俺と同じ笑顔で応えた。




はい!作中へのサーヴァント参戦、無事達成できました。
他のサーヴァントを登場させるかは今後のお楽しみということで黙秘させて頂きますが、その件の否やにかかわらず、誰彼を登場させて欲しい、などの意見にはお応え出来かねますので、あらかじめご了承下さい。

以下に作中で出た千鳥の宝具ステ乗せておきます。


・迅雷、耳ヲ覆ウニ遑有ラズ(千鳥一文字)
ランク:B+
種別:大軍宝具
レンジ:1~40
最大補足:50人
由来:大友家家臣、立花道雪の雷を斬った逸話
 千鳥一文字とは、安土桃山時代頃の武将、立花道雪が佩びていた刀である。またの名を雷切といい、これは道雪が雷を斬ったという話が広まったときについた名。
 道雪が雷を斬ったのかどうかの真相は不明とされるが、彼の英霊昇華とともに宝具としての千鳥が生まれ、これが強力な雷の属性を持つに至った。
 千鳥は魔力を雷に転換する特性を有し、魔力を譲渡する限りは、常に刀身が帯電している状態となる。また、魔力から生み出されたため通常の電気とは異なり、接触した生物の体内に入り込むと、身体の電気信号を阻害し、結果動作を封じる。
 この宝具は、前述の魔力を雷にする千鳥の能力を極限にまで高め、刀自体を構成する魔力すら雷に転換することで発動可能となる。その状態で真名解放すると、千鳥は自然の『雷』と同質かそれ以上になり、所有者の神経系に作用することで、一時的に音速以上のものを知覚可能な状態となる。後は刀を振るうだけで落雷に匹敵する威力と速度の雷の放射が行われ、魔力が含まれた超高電圧、大電流の波で対象を焼き尽くす。また、音速の飛翔体が通過した衝撃で周囲にも甚大な破壊を及ぼす。
 史実から、天候が悪ければ悪いほど威力を増すという特性も持つ。
 
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