今までは新話投稿とリメイク投稿を交互に行っていたのですが、前話の更新後、感想にて早く次が見たい!という要望をいくつか貰いましたので、期待に応えるためにも早期&新話連続更新とさせて頂きました。リメイクを密かに楽しみにしていた方々には申し訳ございません。
兄貴かっこいいよ兄貴(ボソッ
※前半の一部内容、あとその他諸々を変更しました。理由はしっくりこなかったからです(暴論)。前の方が良かった方は.....すみません。
───クー・フーリン。幼名をセタンタ。
彼はアイルランド、ケルト神話の大英雄として、またはクランの猛犬という仇名で広く知られる。
槍の名手であり、その腕前は神域に達するとされ、文武の教えを受け、その後に影の国の女王から賜った魔槍を使い数々の武功を上げている。その中でも、故郷を侵さんと迫った女王メイヴ率いる軍勢を相手に一人で立ち向かい、そして退けた逸話は余りにも有名だろう。
また、槍兵とは別にルーン魔術の使い手という側面も持ち、影の国にて原初とされるそれを学んだために、術師としての方面にも特別秀でていたようだが、生前彼が好んでいた戦法は槍を使った白兵戦であった。
そんな輝かしい経歴を持つクー・フーリンの最期は、決して良いものとは言えなかった。確かに彼の強さは、己の守りたいものを守り、欲しいものを容易に手にすることが出来るほど凄まじい。だが、だからこそ大多数の『出来ない』者から疎まれてしまう。
輝かしい武功は手にする者を絶対の英雄とする。民はその力に酔い、王はこれで我が国は安泰だと玉座で笑声を上げることだろう。だが、行き過ぎた成果はやがて評価をする者すら恐慌させる。民はその姿を暴力の象徴と捉え、王は自らの座位を奪う可能性を猜疑し始める。いかな英雄といえど、結局は時代の流れに翻弄される一個の小さき生命でしかないのだ。
彼のクー・フーリンも、あらゆる謀略を以てその強さを封じられ、己のゲイ・ボルクをその身に受けてしまった。
英雄とは人の考える超越者の体現だ。武器を振るえば数百の人間が木っ端の如く宙を舞い、怒声を轟かせれば一瞬にして敵の士気は蒸発する。そんな万人が考えたあらゆる最強を備え、蛮行を行う侵略者や、国を踏み荒らす怪物から民草を守るのが英雄。逆に言えば、このような行為が出来ない者は英雄など名乗れない。
英雄の持つ強さの行き着く場所とは何かを考え、辿り着いた答えは孤独だった。絶対の地位を築くということは、つまり並び立つ者がいないことを暗に示しているのだから。ならば必然、周囲から向けられる感情など、見上げることしかできない有象無象からの嫉妬や羨望、畏敬のみだ。好意的な態度を貫き通せるのは、自国を守る武力として認識できる王や皇帝などの権力者くらいだろう。だというのに、俺はその正しいはずの答えに全く納得できなかった。
前述の背景があったからこそ、俺は英雄を無機質で機械的なものだと思っていた。己を国を守護するための兵器としか捉えず、ただ外敵を排除し、一過性の平和を実現させるためだけに動作する者であると。よく目にした英雄譚で、生みの親である両親や血を分けた兄弟を手に掛ける場面があったことも重なり、そのイメージに更なる拍車をかけた。
しかし、そんな俺の脳に根を張っていた重く堅苦しい概念は、とある菌糸類により根本から引っこ抜かれ、笑いながら焼却炉にぶち込まれたのだ。
「ふー、中々いい気分だ。悪くねぇ─────どころか、寧ろ上々じゃねぇか。凡そ召喚とは言えない無茶苦茶な有様だったが、出て見りゃどうだ。......魔力が満ちてやがる」
出典の人物により異なるものの、俺がそれまで抱いていた英雄像は落ちたガラスのように砕け散った。
あれほど悲惨で無惨な最期だったのに、あれほど裏切られ陥れられたのに、あれほど大切な人を物を奪われたのに。だというのに、何故かあの菌糸類が描いた世界では、彼らの大半はそんな己の過去を顧み笑うのだ。それが自分の歩んだ人生だと。無様な屍を晒したのは自身の力量不足だと。無論本当にそうだったのかと問われると違うのかもしれないが、この性質は俺の考える英雄の価値観を百八十度変えた。
そう。恐らくこれが、俺の望む本当の英雄の強さだったのだ。絶対的な力や能力により高みへ昇り、他者を俯瞰して弱者と罵り嗤うことのみが強さの形では無かった。どんな状況でも結果でも、笑い飛ばして受け入れる。強さとは力量に比例するのではなく、心の図太さに比例するのだと理解した。
故に、俺は彼らを親愛と敬服を以てこう呼ぶ。──────英霊と。
「兄貴。一つ、気になること聞いていいか?」
「っはははは!どんな呼び名が来るかと思いきや、『兄貴』と来たか!こりゃいい。...マスター、気に入ったぜ。俺のことは今後そう呼びな。──────んで?何だ、聞きたいことってのは」
事態の全容が未だ掴めずにいるヴァ―リと美猴から目を外し、首だけを動かして俺のいる後ろを振り返った兄貴。そのときに彼の持つ碧色の槍が動き、穂先が一際鋭く天を刺した。
─────そう。俺が聞きたいのは槍のことだ。兄貴の、クー・フーリンの持つ槍とは、今更再確認するまでもないことではあるが、ゲイ・ボルグだろう。対象の因果へ作用し、必中にして必殺を可能とする紅い魔槍。...ではあるのだが、今の兄貴が持つゲイ・ボルク。それは────
「兄貴。それゲイ・ボルクじゃないよな?」
「はぁ?なに寝ぼけたこと言ってやがるマスター。これは正真正銘、本物のゲイ・ボ.....んん?!」
呆れた声とともに手に持った碧槍を一回転させ、地面に石突を落としながら豪語しようとした兄貴だったが、ようやく手元の武器が異常であることに気付いたらしく、両手で持って眼前に近づけると、焦ったような表情で吟味する。だが、どこからどう見ても...
「これ偽物じゃねぇかよ?!」
「だよなぁ......呼んでも来ない?」
「..................来ねぇ」
なるほど。これが聖杯の『保証しない』と言った部分か。
今兄貴が持っている碧色の槍は、Prototypeでランサーとして現界したクー・フーリンが所持する、ゲイ・ボルクの模造品だ。彼が何故そんなもので戦っていたのかというと、マスターである玲瓏館美沙夜の意向でオリジナルを奪われ、彼女の邸宅にて強力な封印の術式を掛けられた状態で仕舞われてしまったことが原因である。
推測するに、不安定な召喚のお蔭で、その時間軸に生きたプロト兄貴の状態を引き継いだ状態で現界してしまったらしい。にも拘らず、見た目はSNの兄貴なのだが。しかしなんとも、美沙夜ちゃんは余計なことをしてくれたものだ。いやまぁ許すけどさ。
(精製なら割と回数に余裕はあるが.....今の状態で創造は、出来て五回くらいか)
英霊の召喚で、既に俺の疑似魔術回路は限界近くまで疲弊している。これ以上無理な運用を続ければ、最悪の場合死ぬか、二度と魔術師とは名乗れぬ身体になるだろう。
無論そうなりたくはない。それでも、まだ戦わなければならない敵が居る。俺はもとよりこの体たらくなのだから、命を失わない限りこれ以上の悪化などどうでもいい。だが、兄貴には可能な限り万全の状態で戦って貰わなければならない。そのための御膳立てくらいは為さねば、
「
疲弊した魔術回路へ再度魔力を奔らせる。ゲイ・ボルクの創造に要する魔力は、英霊召喚のときと比べ数値にして実におよそ数百分の一ではあるが、神代の武具を創る魔力は、神域に足を踏み込んだ魔術師さえ為し得ないほどの純粋さと量を誇る。個人での英霊召喚など、それこそ何を犠牲にしても成功させることは不可能だ。
凍った血液を流したかのような激痛に耐え、目を白黒させながら創造のための各工程を通過していくが、先ほどの見立て通り、辛い事には辛いものの回数に多少の余裕はある。身体をある程度は動かせるようにするための補助として魔力を使う手もあったが、動けても満足な武具が出せないのでは、寧ろ兄貴の邪魔になってしまうだろう。
俺は手のひらに閃く光の塊から出現した赤槍を抜き取ると、真の担い手であるクー・フーリン目掛けて放る。
「っく......これを使え、兄貴!」
「!ああ、そういやマスターにはそんな便利能力があったんだったな!助かるぜ!」
俺が投げ寄越したオリジナルに限りなく近いゲイ・ボルグを片手で受け取った兄貴は、すぐに元々持っていた模造品を消失させ、笑顔とともに赤槍を構えて立つ。やっぱり兄貴には赤い槍を持たせた方が数段映えて見えるな。
「ふー、手間取らせて悪かった。じゃ、スマンが俺はこんな有様だからな。二人の相手を頼む」
「何言ってやがる。斬った張ったの場においてマスターの役目は後方支援だろうが。その点は既に、上等な得物の支給で十分果たしてるぜ。...てか、コイツらをやりゃいいのか?楽な仕事だな」
「あぁー、あと一つ。殺しは無しの方向で頼む」
「む....まぁいいけどよ」
感触を確かめるように風を斬る音を数度響かせて槍を回し、穂先でヴァ―リと美猴の二人を補足する兄貴。その後に浮かべた笑みは嘲笑にすら等しい。まるで、餓狼に兎が殺せるか、と聞かれたことに対する返答のようだ。...が、これは決して慢心からくるものではない。前述の餓狼が兎を十中八九殺せるように、彼の中にある戦場の経験という絶対が、この時点で勝利は揺るぎないものであると、蹂躙すべきは俺たちの方であると結論を出している。
しかし、この言を受けた目前の両名は、到底この評価を受け容れることなど出来るはずがない。理由は単純、二人も己を
「茶番が終わったかと思いきや、今度は堂々と啖呵を切りに来るとはね。...ケルトの大英雄を騙るなら、もう少し強者の見極めはしっかりしなくてはいけないよ。その傲慢の代償は君の身を以て払って貰おう──────」
「おっとと、ダーメだぜぃ?相手の安い挑発にのっちゃよ、ヴァ―リ。でもま、俺っちもちょっとばっかし頭に来ちまったからねぃ。挑発に乗る先鋒を譲っちゃくれねぇか」
「.....いいだろう」
ヴァ―リの了承を得て、礼を言いながら傍らに控えた美猴が如意棒を構える。そして、その四肢から黒歌と同じ仙術の気を放ち、如意棒へと纏わせ始めた。
これは...もしかしたら、斉天大聖ではないだろうと断じたことを改めなければならないかもしれない。何故なら、猫又である黒歌と同等の仙術を扱える者は、この広い世の中でもそうそういないはず。そして、それを可能としている目の前の美猴という輩は、如意棒を持ちながら高度の仙術の使い手だ。年代的に本人である可能性は薄いが、関連のある人物であることには間違いはなさそうだと言える。
兄貴は恐らく、気を使った仙術と言う技法を知らないはずだ。美猴の雰囲気が変わったことには気付いているだろうが、仙術の知識がなければ次手の予測は難しい。だからといって口頭で伝えようにも、とても一言で簡潔に済ませられるほどの情報量ではないだろう。
と、そんな風に俺が思考の泥沼に嵌まっていたとき。フッ、と兄貴が笑ったような気配を感じ、顔を上げて戦場を映した瞬間、
「そんな棒で人を穿てるかよ」
「んおぅ?!」
「む.....!」
(な.....ッ!)
──────驚愕。
この場の誰も兄貴の接近には完全に気付くことが出来なかった。ただ一人の例外は、彼に向かってより注意を向けていた美猴のみだったが、反応を見て分かるように、それでも致命的なほど遅れている。
「チィ!」
「っとぉ!へぇ、面白れぇなその棒っきれ!伸びるのか!」
「笑ってんじゃねぇぞ!ッの野郎!」
美猴の如意棒を扱う挙動は槍のそれに酷似している。風の如く素早い突き、変幻自在のリーチを生かした払い、円を描き縦横無尽に駆けまわる、敵を翻弄すること請け合いな赤い軌跡。彼の放つ多種多様な技の数々は、槍の名手が対峙しても相手にすらならないだろう。何せ、早さ、威力のどれをとっても欠けている要素など見当たらないだから。
だが、この勝負においては対戦する相手が悪かった、としか言いようがない。美猴の攻撃が持つ『速い』も『鋭い』も、兄貴にとっては問題にすらならない。人技と神技、どちらが優勢かなど、問われるまでもなく誰しも正当を導けるだろう。
「せめて筋斗雲に乗れりゃ、も少し善戦できるんだがねぃ!」
「けっ、言い訳は男らしくねぇぜ?」
「ひえー、痛い所ついて来るねぃ!って、ぐふお!」
右から飛んだ如意棒の先端を打ち上げ、石突でがら空きとなった美猴の顎に一撃を入れると、そこから更に逆回転させて横腹を狙う。だが、反撃を貰いつつも二撃目の軌道上に動かし、垂直に置いた敵の如意棒で進行が阻まれてしまった。にも拘らず、兄貴は槍を引かないまま如意棒の側面を削りながら伝い、地面に刺すと同時に足で赤槍の柄を蹴り、あっという間に防御を外す。
「!──────っぶねぃ!」
と、同時に足を斬り飛ばそうとしたが、美猴はわざとバランスを大きく崩して後ろにひっくり返ることで回避した。サルの如き身のこなしに驚かされたが、後先考えない強引な躱し方だったため、風のように迫る兄貴の突きを対処する余裕などない。
狙いは右肩。数瞬の後に肉と骨を抉り、血液が吹き出す剣呑な音が響く...そう思われたが、突然横合いから伸びた白銀の手に赤槍の柄が掴まれた。多少滑ったが、直後に五指で強く握り込まれたのと、槍を放つ早期に行動を起こしたことにより、やがて美猴の眼前で静止する。
「美猴、これで貸し借りはなしだ」
「おー、助かったぜぃ。割と本気で」
「...ほう。俺の前で
「ぐッ!?なん....がはッ!」
兄貴はヴァ―リの手に掴まれて固定された槍の柄を手のひらで強かに打ち抜き、その衝撃で拘束を解く。続けて時計回りに槍を回転させ、周囲の砂礫が舞い上がるほどの速さで以て振り抜き、ヴァ―リの右肩を打つ。そんな烈火の如き一撃で肩の鎧を砕かれた白龍皇は、弾丸もかくやな速度で地面を転がり、吹っ飛んだ。
それを見た美猴は、兄貴があっという間にヴァ―リを弾き飛ばしたことに驚愕を呈しつつも、如意棒を取るとすぐさま右側面を狙って振るう。が、振りぬいてそこで止まるはずの槍はそのまま回転を続け、一周余分に回った末に肉薄する如意棒を頭上に弾く。その直後、突如縦回転へと片手で槍の軌道を変え、先ほど弾いた如意棒を更に追撃し、激しい金属音を響かせて美猴の得物を天高くまで弾き飛ばした。が、それを待たずして迫る影がもう一つ。
「────────おぉッ!!」
「へっ、もちっと殺気消して来ねぇとダメだろ?坊主」
「ッ?!」
疾風のような速度で拳を携え、背後から肉薄するヴァ―リの方を向きもせず、兄貴は下段から振り払った槍の穂先で彼の拳をあえなく打ち上げ、瞬時に槍を持ち変えると、水平に振り払う石突で無手の美猴の横腹を打って転がし、間髪入れず手を打ち上げられたことで腹を曝した白龍皇に向かい、美猴を打った時の衝撃で止まった槍を猛烈な速度で真後ろに射出すると、中段突きを続けて炸裂させ再度吹き飛ばす。
...なんという理不尽なまでの強さと速さだろう。特に槍の速度はずば抜けて突出しており、原作でも目を見張る速さを披露してはいたが、こっちでの兄貴はその速度を超えかねないものだ。
美猴は今の一撃で気絶したようだが、ヴァ―リは所々破壊された鎧はそのままに、口に溜めた血を吐いて立ち上がると、半壊したヘルムから露出した貌を笑みで歪ませる。それは決して諦めから来る負の笑みではなく、俺と戦っていたときの、強者との邂逅を果たして愉悦に心を躍らせている時の表情だ。
「強い、な。だが─────」
『Divide!』
「!」
ヴァ―リの虹色に輝く宝玉から響く機械音声。そして、これは触れた特定のものを半減させたときの合図だ。とはいっても、ヴァ―リは未だ兄貴に直接触ってはいない。つまり、今半減させたのは─────ゲイ・ボルクの強度だろう。
俺は戦闘前にドライグから仕入れた知識である程度の覚悟をしていたにも拘わらず、実際に体感してみると対応が難しかった。だというのに、兄貴は白龍皇の能力を全くと言っていいほど知らない。表情を見る分には既に異変に気付いているようだが、実際に見るのと頭の中で感じるのとでは結果が大きく変わる。...だが、兄貴は笑う。それは楽しそうに。例えるなら、ずっと探していたものをようやく見つけたかのような、そんな笑み。───そして、それで気付いた。
兄貴...クー・フーリンは、聖杯に託す望みなどなく、英霊となったのは単純に強い輩と殺し合いがしたかったから。そしてヴァ―リは、強者との邂逅と戦闘を望み、より自身の力を高められるような存在と出会うことを目的とする。
そう、似ているのだ。在り方は全く違うが、二人は強い誰かと殺し合いたいという一点において、どうしようもなく似通っている。だからこそ、二人は戦場で嗤える。心から愉悦を感じながら血を流せる。そして、刃を交えたことで『それ』が互いに分かってしまったからこそ、この勝負は他の強者と行うものより、
「っふ!」
兄貴が跳躍した、とほぼ同時にヴァ―リが防御のために動かした腕が跳ね飛ぶ。そんな衝撃に仰け反りながらも、片翼からのみ青白いブーストを掛けると、瞬時に方向転換と姿勢の修正を同時に行い、後方へ抜けた兄貴へ向き直る。十分といっていいほどの機転の良さ...だが、それでも遅い。
「ぐッ?!」
瞬時に肉薄し放った兄貴の一撃で、今度はヴァ―リの右翼が金属音を上げて上方へ跳ねる。その後の胴と顔を狙った神速の二段突きは両手で辛くも弾くが、翼に貰った一撃のお蔭で元々悪かったバランスが更に悪化し、とても次の攻撃を受けられる体勢ではなくなる。
間髪入れず、それを狙った兄貴の胴薙ぎが放たれた。だが、ヴァ―リは左翼のブーストのみかけて浮いた身体を無理やり九十度回転させると、片手を地面に着いて右側へ退避し、赤槍の猛襲をやり過ごす。だが、音速に近い物体が通った時の暴風に煽られたか、着地した状態から持ち直すのに時間が掛かってしまう。
「ほう!いい動きすんじゃねぇか!」
「ッ?!」
称賛の言葉をぶつけながら、兄貴は水平を走る軌道を両手に持ち替えて縦に変化させ、中腰のヴァ―リへ槍を上段から落とす。彼はそれに両腕を交差させた防御で応じるが、凄まじい衝撃音が響き、二人の足元が砂埃を巻き上げて陥没する。途端、ギシギシと白龍皇の鎧が軋む音が衝撃波に乗って届いて来た。
よく見ると、ヴァ―リの籠手に大きな罅がいくつも奔っている。このペースで兄貴の槍を受け止め続けると、最早あと数秒も持つまい。そのはずだが、ヴァ―リは咆哮を上げて耐え続ける。
「お、おおおおおオオオオッ!」
「いいねぇ!その必死を体現したような
「─────ふッ!その余裕、今回ばかりは命取りだぞ!」
『Divide!』
二度目の半減。俺の目から見ても、今のゲイ・ボルクは神秘がはがれ落ちる寸前の状態だ。これ以上半減を受けると、只の名槍くらいのランクにまで型落ちしかねない。
ヴァ―リは槍の威力が減じたタイミングを抜け目なく察知し、両腕で上に弾くと、翼の推進力を使ってサマーソルトキックを繰り出す。兄貴はそれを回転させた槍の穂先で弾き、互いに反動で数メートル下がった。
不味い。今の一撃でゲイ・ボルクに罅が入っている。次にアレと同等かそれ以上の衝撃を受ければ、確実に穂先が砕けるだろう。そうなれば、また俺が作って渡せばいいのだが、兄貴は一度始まった自身の勝負に対し他者の介入が及ぶことを嫌う。だからといってまさか素手で戦うとは.....言いそうだな。
「面白い能力だな。こんな妙な心持で槍を握るのは初めてだぜ」
「面白い。そう思わせられたのなら光栄だよ、クー・フーリン。先ほどの無礼を詫びさせてほしい」
「あん?何だ、俺のこと認めちまったのかよ。...じゃあまぁ、認めたついでにコイツ喰らってけや。折角マスターが手ずから用意してくれた得物だしよ。最大限使わせて貰わないと、ってなぁ!」
「────────!」
穂先を下方、地面に向けた体勢で、魔力を先端に集中させる兄貴。それから間もなく、赤く濃厚な魔力の残滓が槍から立ち昇り、それで宝具の発動体勢に入っていることに気付いた。マジかよ兄貴。その気遣いは純粋に嬉しいけど、こんな状態での宝具開帳は正直結構堪えるんだが...!
そして、そんな兄貴を見た白龍皇・ヴァ―リは、宝具という言葉は分からなくとも、必殺の絶技に近い何かが己を貫かんとしていることを察知したか、一度目を瞑り、大きく呼吸をしてから『なるほど』とだけ呟いた。
「どうやら、俺も彼の英雄の期待に応えなければならないようだ」
『む、ヴァ―リ!?いかん、止せ!覇龍だけは使ってはならぬと言っていただろう!』
「いいや!クー・フーリンは全力を以て俺を滅ぼそうとしている!それに対し生半可な一手にて応えるのは不作法にもほどがあるだろう!この身がどうなろうと、今の俺が出せる全力をぶつける!────我、目覚めるは、覇の理に全てを奪われし────、ぐッ?!」
「落ち着け、ヴァ―リ。ちと無視できねぇ援軍が来たぜぃ。...退くぞ」
いつの間にか起きていた美猴が、頭に血を昇らせたヴァ―リの後頭部へ手刀を落とすと、おもむろに校舎の方へ指を指した。その方向を見ると、そこには校舎から此方に向かって接近してくるソーナ・シトリー生徒会長と、その後を遅れてやってくる匙の姿があった。そんな会長の目は鋭く、どうやらヴァ―リが張った結界に気付いているらしい。確かにこれは、ちょっと不味いな。
「兄貴!スマンが戦闘中止だ!矛を収めてくれ!」
「結界の外にいるヤツか、マスター?確かにありゃ俺たちのこと気付いてるが、不都合があるんならサクッと口止めするぜ?」
「ちょ、そりゃアカン!サクッとって槍で刺す擬音でしょ絶対!口じゃなくて心臓が止まるわ!」
「だはは!冗談冗談!」
兄貴はブラックなジョークにたじたじとなった俺を見て爆笑した後、槍の周囲に展開していた赤いオーラを振り払い、片手で一度回してから穂先を天に向けて地面に置いた。一方のヴァ―リもこの事態はあまり歓迎出来ないようで、兄貴が戦闘態勢を解いたところを見ると、美猴に促されるまま鎧を解除した。
「済まないけれど、この勝負は預かりということで構わないかな?」
「ああ。コッチとしても、そうしてくれると助かる」
「んだよ、マスター。そんな女々しい言い方じゃなくてよ、もっと居丈高な構えでだな...」
隣で兄貴がブツクサ言っていたが、俺は構わず行け行けのジェスチャーをする。それに苦笑いで返したヴァ―リは、美猴が地面に空けた黒い沼のようなところへ足を踏み入れ、あっという間に沈んで行ってしまった。
あとは穴をあけた美猴本人だけだが、彼はいつもと違う真剣な表情で兄貴を見ると、自嘲気味な声で語り始める。
「お前さんにゃ、手も足も出なかった。...すげぇ悔しいからよ、次会った時は全力で来てくれ。そんなら、少しは悔しさも紛れるってもんだ」
「...へっ、いいぜ。全力で、な」
「────あぁ。あと、名乗り忘れてたが、俺っちは美猴だ!よろしく頼むぜぃ!兄貴!」
兄貴の答えに満足したか、美猴はいつもの軽薄な口調と態度に戻り、俺と同じ呼称でクー・フーリンを読んだあと、ヴァ―リに続き黒い穴に沈んでいった。
さっそく弱音を吐いてしまって申し訳ないのですが、兄貴らしい戦闘描写が出来たかものスッゴク心配です.....槍ってむつかしい。
次回は久しぶりの会長登場。あと匙も。
そして、何故兄貴が召喚されたのか、聖杯に関してのより詳しい情報も語られる予定です。