前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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今話はちょっと地味な展開。
和平結ぶ予定の会談でドンパチやったらいけないからね。仕方ないね。


File/48.糾弾≠会談

 アポ無し訪問してきたミカエルのアスカロン譲渡という、ちょっとした想定外のイベントはあったものの、いつも通り俺自身の鍛錬や、木場やイッセー、小猫ちゃんの修行にも手を貸しているうちに、気が付けば三陣営の会談は目前にまで迫っていた。

 会談には、天使側がミカエルとお付きの天使の二名、堕天使側はアザゼルと白龍皇の二名が出席ということだが、悪魔側はルシファーの名を継いだサーゼクス、そしてレヴィアタンの名を継いだセラフォルーと、その妹であるソーナ・シトリーの三名に加え、コカビエルの起こした事件収拾のために尽力したグレモリー眷属という、多様な顔ぶれの出席が決まっている。

 中でも、コカビエル打倒に大きく貢献したことと、この世の何処にも存在しないという光属性のエネルギーが同時期に確認されたことに対する釈明を遠まわしに要求されている俺、そして、通常はありえないとされる、聖と魔を混在させた剣を創る神器を得た木場が、会議にて矢面に立たされる予定だ。

 というか、不用意にエクスカリバー創ってブッパするんじゃなかった。イッセーからのまた聞きではあるが、ミカエルが言うには天界でもがっつりと観測されてしまっていたらしい。聖剣ビームってすごいね。

 

 

 ──── ふと、会議室まで続く学校の廊下を歩きながら思う。

 

 数日前、突然オカ研の部室にやってきたアザゼルは、興味本位で俺と自分の戦闘を要求してきた。それを俺は条件付きで呑み、戦って勝利している。

 問題はこの後だ。俺は自分の魔術の素質を知りたかったのだが、この世界では俺の持つ魔力が他者に察知されないことから、魔術は扱えないとされていた。

 そこで、アザゼルの持っていた便利神器、『蛇の牙(スネイク・ヴァイト)』を使い、俺の中に存在する力と呼べるものすべてを総合し、数値化したのだ。それによって得られたデータはイコール聖杯の膨大な魔力量に等しい。期待は大きかったかと問われれば、頷かざるを得ない。

 しかし、神器が出した数値は『∞』。もはや数値とは呼べないそれは、あまりのぶっ飛びようもあって一種の誤作動だと思ったのだが、アザゼルは表情に想定外の色を滲ませながらも、起こりうる一つの結果として受け容れる素振りを見せた。勿論、当時は彼のその態度をおかしいと疑ってはいたが、あの状況から言い訳すら碌にせず即刻逃げるのは予測の外側だった。

 アザゼルが相当の傍若無人な性格であることは、ここまでの行いからして大方の見当はついていたはずだ。にもかかわらずにまんまと逃がしてしまったのは、容姿が人型であるが故に、あの男にも人間的な良心を含む行動を期待した、というのが最も妥当なところだろう。

 長くなったが、端的に言うならアザゼルは『人でなし』だ。自分の欲求に素直で、それを果たすことで誰がどんな被害を被ろうが知ったことではない、そういう考えを持っている。....なら、俺たちが以前の一件をどれほど腹に据えかねていようと、恐らく。

 

 

「はっ、グレモリー眷属勢揃いか。元気そうで何よりじゃねぇの?」

「........」

「グレモリー先輩。さきほど言ったように抑えて下さい」

「....分かってるわ」

 

 

 会議室に入って早々、能天気なアザゼルの声に眉を盛大に顰めたグレモリー先輩だったが、俺が小声で耳打ちしたことで怒りの矛を収めてくれた。

 この場では、極力争い事を無くしていかねばならない。拳を作っての物理的なものも、歯を剥き出しての感情的なものもだ。それは、和平の交渉をせねばならないのだから当然と言えるだろう。個人の不用意な発言で、大勢を変えてはいけないのだ。

 そうして、事前に立てた方策通りにアザゼルとの衝突は避けられたのだが、代わりに俺のわき腹へ衝突してきたものがあった。

 

 

「ごっふ!」

「ひっっさしぶりーコータ君!おっきくなったね☆」

「えッほゴホ!....はい、ご無沙汰してます。セラフォルー様」

「もー、そんな堅苦しい挨拶じゃお姉ちゃん悲しい!あの時みたいにセラちゃん、って呼んでよー☆」

「今も呼びませんし、昔も呼んでません。そう言う話はまた後にしましょう」

 

 

 まとわりついてくる魔法少女....もとい魔王様を引きはがし、元々着いていた席に戻るよう、華奢な両肩を掴んでそちらを向かせる。そんな俺の態度にセラフォルーは唇を尖らせていたが、やがて会長のいる席の方へ帰ってくれた。....おいイッセー、そんな顔で見ても俺は何もやれはせんぞ。

 と、セラフォルーは帰り道の途中、アザゼルの背後を通り過ぎようとしたところで、その歩みを唐突に止めた。

 

 

「もしかして、会談前にグレモリーのみんなと会ってたりしてたのかな☆」

「なぁに、ちょっとした挨拶だ。物騒なモンじゃねぇさ」

「ふーん....?なら、初対面ってことで緊張せずにすむね☆」

 

 

 聞くものの緊張感を著しく低下させる声色とは裏腹に、鋭い一歩を踏み込んだセラフォルーだったが、アザゼルは見事なまでに態度を変えずシラを切ってみせる。俺たちが一瞬見せたアザゼルへの敵意を抜け目なく拾った彼女だったが、これで向こうにその気がないことを察知し、これ以上は分が悪いと悟ったか、あっさり身を引いて席に着いた。

 二人の一連の会話を聞いていたイッセーが、隣で『はぁぁあぁ?何言ってんだコイツ』みたいな顔をしていたが、口には出さず、表情もすぐに取り繕ったので上出来だと言える。かくいう俺も思い切り顔に出るところだったが、表情筋が一瞬強張っただけで耐えた。内心ではイッセーとほぼ同じ叫びを上げてはいたが。

 

 

「では、グレモリーの皆さん。こちらのお席に着いてください」

 

 

 良いタイミングで涼やかなミカエルの声が割り込み、俺たちは気持ちを意識的に切り替えて会談の席に着く。

 俺はミカエルと初対面だったが、この場にいる顔見知りは彼を除き全員なので、必然知らない顔があれば、それがミカエルと言うことになる。『本人らしさ』という空気もいっそ過剰なほど纏っているので、尚のこと判断は容易だ。

 ミカエルは俺たちが席に着いたことを認めると、今まで作っていた柔和な微笑みを消し、神妙な顔を作った。

 

 

「まず、此度の会談を進める前に確認しておきましょう。話し合われる内容と密接にかかわる、神の不在について。これを、今この場にいる皆さまは既に理解しているものと見做します」

 

 

 その言葉に反応する者はなく、全員が聖書の神の不在を無言のうちに認めている。

 自分を含め、ある程度の人物が知っているからと言って、それを周知のものと勘違いして会話を進めていると、最中に実は知らなかったと発言するものが出て会話の脱線に繋がるし、議論をまとめようと意見を伺った時に、重要な部分への理解が及んでいないことが原因で、見当違いな発言が飛び出す可能性もある。....ミカエルの前置きは、それらを防ぐいわば予防線だ。

 

 ────そして、ついに三陣営の会談が幕を開ける。

 

 

 

          ****

 

 

 

 最初に議題の中心へと挙げられたのは、各陣営の情勢だ。

 二天龍を巻き込んだ三つ巴の戦争以降、一時的に冥界、天界双方ともに無法地帯に等しき期間があった。その時に反社会勢力とも言える派閥が勢力を強め、統制が取れつつある今でも力を持っている。特に冥界では、そういった連中による事件が後をたたない。

 戦争で死に絶えた先代の魔王たちは、連綿と続いてきた家系の血によって選ばれてきたが、今代の魔王たちは血統ではなく実力で名を冠した者たちだ。それが起因か、より一層悪魔たちの間では実力志向という考えが盛んな傾向にある。レーティングゲームも、それを後押しする結果になっているのだろう。

 

 

「一部の上級悪魔たちが強烈な縦社会の形成を行っている。それによる非合法なレーティングゲームや、取引が行われた末の不正な売名行為が多数。それの対処と対策が、現在の私達がおかれている状況だ」

「....ふむ、強者による安定した社会の形成。それ自体は間違っていないと思いますが、あまりに長期に渡って流布し過ぎると、そのような一部の実力者が弱者を虐げる暗き世となります」

「というか、お前らがその象徴じゃねぇか。そんな輩が上に立ち続ける限り、暴力で人を屈服させる考えは正せねぇよ」

「逆にそれをさせないためにも、私たちがいるんだけどね☆」

 

 

 サーゼクスが吐露した現状の冥界に対し、ミカエルとアザゼルは厳しい意見をそれぞれぶつけてくる。それにセラフォルーがフォローの言葉を加えてはいたが、残念ながら当の『それ』ができていないからこそ、今の冥界は混迷しているのだ。

 現行の魔王たちに不満を露わにする旧魔王派、それを内包するテロリスト組織である禍の団。これらは決して冥界だけの問題ではないが、手に負えないからと言って誰かに押し付けて終わりにできるものでもない。

 最善の形での解決を図るなら、敵の標的となりうる全ての人物と手を取り合い、これに当たるべきである。

 

 

「────問題が山積しているのは、何も冥界....悪魔に限った話じゃないでしょう」

 

 

 そう口火を切った俺は、今まで閉じていた目を開けて三者を眺める。三陣営での鼎談を頭にいれていた彼らは、思いもしなかった方向から飛んできた声に驚いていた。否、サーゼクスだけは喜色を浮かばせた表情をしていたが。

 この場には、意見する権利を持つ存在がミカエルやアザゼル、サーゼクスとセラフォルー以外にもいる。ただ、両者は文字通り立っている場所が違う。であれば、見ているものや評価する基準も違うだろうし、和平という考えを念頭に入れている時点で、意見することで他陣営の長と衝突する可能性も生じてしまう。不用意な発言は控えるのが賢明だ。

 しかし、俺にはそんな柵などない。一定の地位も、名声も何もない。別に惜しくもない。だからこそ、この場で発言することに躊躇いなどないのだ。....とはいえ、三者の関係の悪化を望んでいる訳ではない。あくまで俺は、サーゼクスの仕込んだジョーカーという役割である。

 そんな俺は、道化のように舞台で踊りながら、衆目の前に立ち、真実という名の演目を披露するのみ。

 

 

「推測ですが、天界は神の作ったシステムの不都合により、特定の者たちを只管に追放している。結果的に減少しつつある天使の人口に更なる追い打ちをかけてしまっています」

 

「────────」

 

「堕天使側は言わずもがなでしょう。つい最近コカビエルの暴走があったことを見るに、下に就く者を御しきれていない。末端に過激な思考を持つ輩がいるにもかかわらず、それを野放しにしていることも加味すれば明らかです」

 

「おー頭が痛いねぇ」

 

 

 ここまで言ったところで、乾いた舌と喉を潤すためにグレイフィアさんが淹れてくれたお茶を含み、金の装飾が入ったソーサーへと置きながら、四人の顔を順に見る。

 非があるのは、別に悪い事ではない。それを正そうとしないで放置することこそが悪なのだから。そして、俺が指摘した各陣営の抱える問題は、何も悪魔だけが世の現状を悲観しているわけではないことを示している。正すべき問題は、それぞれが同じく、量や質は違えど持っているのだ。

 

 

「戦争後の立て直しに四苦八苦し、辛酸を舐めさせられているのは悪魔側だけではありません。それに、問題は解決することもできますが、新たに生まれることもあります」

「今後も、何らかの問題が発生すると?」

「するでしょう。生きている限り、世界が存続する限り無い訳がない。万事何事も上手くいくなんてある筈がないですから」

「いいねぇ、その考え。確かにその通りだぜ、ツユリ=コウタ。形あるものはいずれ滅びる。この世にあるものは結局、全て消耗品だ」

 

 

 ミカエルは悲観一辺倒な俺の言葉に懐疑的な言葉を投げかけるが、俺はそれを肯定する。その直後、俺の言に同意を示したのは意外なことにアザゼルだ。多少極論ではあるが、話の芯自体は間違っていない。

 

 

「でも、万事とはいかないまでも上手くいくように軌道を変えることはできます。一人で大局を動かすことは難しいですが、多くの人が意志を共にすれば」

「....なるほど。そこで、和平ですか」

 

 

 感心したような声色でミカエルが呟く。上手いこと話の核を拾ってくれて助かった。俺が和平なんて口にしたら、一気に今までの話が胡散臭くなってしまうところだったからだ。

 ミカエルの和平という言葉を聞いたアザゼルは、つまらなそうに長い息を吐きながら椅子の背もたれに上体を預けると、肩肘をついて目を瞑る。

 

 

「和平ねぇ。....いいんじゃねぇの?とっとやっちまえば」

「そうなのか?てっきり、白龍皇を引き入れた時点で、何らかのアクションを起こすかと思ったんだが」

「俺は神器の研究ができりゃいい。和平がきっかけで、それが滞りなく進むようになるのなら文句はねぇさ。今だって、他ンとこちょっかい出さないように御触れだしてるんだからよ。うちに戦争する気はねぇ」

「信用はイマイチできないけど、この場で言質とって協定結んだ時点で大丈夫かな☆」

「これでも、約束は守る主義だぜ?守らねぇ約束は最初からしねぇからな」

 

 

 この場で一番ネックだったアザゼルからの和平受け入れ発言に、ある程度場の空気が和らぐ。

 俺は深いため息を吐き、もう一度温くなりつつあるお茶を口内へ流しこむと、空になったカップを脇に退ける。すると、『失礼します』という声とともに背後からグレイフィアさんが現れ、ティーポットを傾けて新しいお茶を注いでくれる。その後に『おつかれさまでした』という言葉をさりげなく耳打ちしてくれたので、どこか報われた気持ちになった。

 しかし、そんな気持ちもつかの間、やはり品など欠片もない所作でお茶を呷ったアザゼルの興味深げな視線が、おもむろに俺の方へ向いた。

 

 

「にしても、こんな場でよくも発言できたな。俺が当事者じゃなかったら面倒くさくて寝てたぞ」

「一応当事者なので寝れません。そうではなくても寝ません」

「ん?当事者....ってあぁそうだ!お前コカビエルと戦ったときに何かしたんだったよな!」

 

 

 椅子を揺らしながら身体を起こしたアザゼルは、それまでの気の抜けた言動から一転し、全身で興味の体を露わにしていた。こんな乱暴極まるアザゼルの扱いにも悲鳴一つ挙げない豪奢なあの椅子は、きっと法外なほど高いんだろうなと俺は思った。

 今にも詰め寄らんばかりなアザゼルに溜息を吐いたサーゼクスは、その前にと言葉を挟み、コカビエルの件について確認をしておかなければならないため、まずその報告をとグレモリー先輩を名指しした。

 グレモリー先輩は若干の緊張を覗かせた所作で首肯すると、コカビエルの起こした一連の事件の概要、被害などについて語り始める。

 

 

「コカビエルは天使の管轄下にあったエクスカリバーを奪取し、戦争の再開という目的を主として、破壊および挑発行動を我が領地内にて強行しました。お手元の資料にもあるように、これの対策、迎撃は教会より派遣されたゼノヴィア、紫藤イリナの二名。シトリー家次期当主、ソーナ・シトリーとその眷属の皆様方。グレモリー家時期当主、リアス・グレモリーとその眷属たち。そして、当家の警固役として仕える、ツユリ=コウタにより為されました。具体的な迎撃法については─── 」

 

 

 言葉を閊えさせることなく、資料の項目に沿って詳細な説明を付け加えていくグレモリー先輩。ほぼアドリブなのに大したものだ、と思っていたが、彼女の片手が隣のイッセーの手に添えられているのを見て、そういうことか、と納得した。

 先輩は事件の収拾や攻略、交戦状況などを解説し、コカビエルに賛同し従っていた『皆殺しの大司教』の異名を持つバルパー・ガリレイと、『はぐれエクソシスト』のフリード・セルゼンについても軽く触れた。コカビエルはコキュートス送り、バルパーは死亡となったが、危険な思想を持つフリードが未だ逃走していることを印象付けたかったのだろう。

 

 ....あの男が冥界の喫茶店で働いていることなど、この場にいる誰も想像だにしないはずだ。今頃は店で出すコーヒー全種の作り方を、シエルの爺さんに尻を叩かれながら覚えているに違いない。

 

 全ての補足説明を終えたグレモリー先輩は、次に生徒会長....否、この場ではシトリー家次期当主と言った方がいいか。その彼女へと役割を委任する。

 生徒会関係の職務を遂行する上で、こういった場を何度も経験しているのか、ソーナはいつも通りの毅然とした態度を維持しており、堅くなり過ぎず、かといって砕き過ぎない絶妙な論調で説明を始めた。

 彼女の言説は状況に気づいた当時の心境、対応に始まり、客観的な分析も交え、無駄を極力省きながら結論へと収束していく。簡潔に言うと、聞いていてとても分かりやすい。

 

 

「──── 私を含め、傘下の眷属たちはこの事件に表だって介入をしていません。しかし、事態を深刻と見たグレモリー側と対策を検討し、意見の共有を行いました。それにより、適切な連携が取れたと此方は判断します。....以上です」

「流石ソーナちゃん!完璧なお話だったよぅ☆」

「なら、完璧であるままにさせて下さい....」

 

 

 ソーナはしなだれかかってくるセラフォルーの頬に手を押し当て、行為の完遂を阻止する。だが、そのおかげでただでさえ魔王としての威厳に乏しい彼女の顔が更に悪化して、最早どっちか年長者か判然としなくなっていた。それが通常運行なのがこの人の怖いところだ。

 そして、部下の起こした不祥事を淡々と聞かされてきたアザゼルへ、ついに弁明のお鉢が回ってくる。これまでの報告には、彼に対する直接的な糾弾は含まれてはいなかったが、関係者を前にして被害状況等々を語っているのだから、言外に批判していると分かり切っているはずだ。であれば、テレビなどでよくやっていた、社内で起きた事件をトップである社長が謝罪するように、潔く頭をさげるのが次に展開される光景だ。

 そのはずだが、アザゼルはうっとうしそうに片手をヒラヒラと振り、耳タコだと言わんばかりな顔をする。

 

 

「その辺の説明はもういいだろ?資料に書いてある通りだ。コカビエルはコキュートス送りになり、ウチの主要な過激派は姿を消した。この件で『神の子を見張る者』と教会双方で、そういった考えを持つ奴等が動きにくくなった。ついさっき言ったように上から圧力もかけてる。再発はしねぇさ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!それじゃ、アーシアが救われなさ過ぎだろ!」

 

「い、いいんです!イッセーさん!」

 

「いいや、良くねぇ!」

 

 

 アザゼルの発言に語気を荒げて立ち上がったイッセーは、アーシアさんの制止を振り切って怒りを顕わにする。だが、対するアザゼルは表情を変えない。

 

 

「アーシアは一回殺されたんだ!アンタんとこの堕天使に利用されてな!だってのに、そんな興味なさそうな───── 」

「イッセーさんッ!」

「────っ!」

「いいんです、イッセーさん。確かに不幸なことはありました。でも、それら全てが今に繋がっているんだと考えれば、無駄な時なんて何ひとつなかったんです」

 

 

 アーシアの言葉でイッセーの怒気は勢いを失う。それでも、内心では未だ納得がいってないのか、歯を食いしばって逸る気を抑えようとしていた。

 アーシアの言っていることは正しいのかもしれない。が、人が幸せと感じること、不幸と感じることに差があるように、彼女が今感じている幸せは、過去に感じた多大な不幸の前では無力なのではないかとイッセーは思っている。実際、死は一個人の不幸として片づけるに余るものだ。

 

 

「私は今、幸せなんです。す...イッセーさんと出会えて、皆と出会えて、幸せなんです。そのために辿った道なら、例えどれほど厳しくても受け入れられます」

「.....アーシアは、あんなことがあっても、今を幸せだって言えるのか?」

「はいっ」

 

 

 ──── 正直、羨ましいと思った。

 自分ではない他の誰かが、生きている理由や生きる喜びを感じる理由の一つに、己の存在を加味しているなど嬉しくないはずがない。イッセーは、正しくその言葉をアーシアから面と向かって言われたのだ。

 アザゼルはそんな二人を見て、仕方なさそうな、そしてどこか諦めたような溜息を吐き、ガシガシと金の混じった髪を掻く。

 

 

「嬢ちゃんへの負い目はあったさ。だがな赤龍帝、お前を見る嬢ちゃんの目を見てたら、それをわざわざ掘り返すこともねえと思ったんだよ。都合の良い言葉だと思うが、その件が無かったらお前らは出会ってなかったぜ」

「....分かってる。でも、納得はいかねぇ」

「俺も許して貰おうなんざ思ってねぇよ。ただ、男はあんまり女を泣かせるもんじゃねぇぞ」

「へ....?うお!すまんアーシア!い、嫌だったか?!」

「ち、違うんです!これは私の為に怒ってくれたことが嬉しくて...」

 

 

 アザゼルの指摘でようやく涙ぐむアーシアに気付いたイッセーは、途端にあたふたと慌て始め、手持ちのハンカチを渡して必死に謝っていた。

 それを皮切りに、会議室内を包んでいた剣呑な雰囲気は鳴りを潜め、元通りの空気を取り戻しつつある。その中で、露骨に眉をひそめたサーゼクスが、片目を瞑りながらアザゼルを非難がましく見た。

 

 

「全く....アザゼル。もう少し考えた発言をしてくれ」

「へっ、なんのことかわからねぇな」

 

 

 呆れかえったサーゼクスの言葉に、肩を竦めながらお茶を呷るアザゼル。既に諦めていたグレモリーとシトリーの両家は、行き場のない徒労感と不満を盛大な溜息をとして吐き出すのだった。

 




ここまでくれば大方の人は察してくれてるかもしれませんが、今作にギャスパーは残念ながら登場しません。
もし、彼の出番を期待していた方がいましたら、もう申し訳ありませんとしかいいようがなく....すみません(汗)。
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