少しずつではありますが、現状の生活に慣れてきてはいるので、これからの更新は速くなるように努めてまいります。
さて、イッセーが頑張ってくれた分、俺もしっかり動くとするか。
────と、その前に。
「ちょっと時間稼ぎ失礼!」
手持ちの干将莫耶を投げ、『呑まれた』カテレア・レヴィアタンの立つ少し手前辺りへ落とす。
自分を狙う軌跡を描かなかったことから、先方はどうやら迎撃を行わなかったらしい。まぁ、結果的にはその方が都合良く事が運ぶのでありがたいのだが。
地面へ突き立ってすぐに干将莫耶の魔力が内部で暴発し、盛大な爆裂が起こる。位置的にはカテレアもただでは済まないはずだが、この程度で終わってくれるとは思っていないし、そもそもこの行動の目的は、相手にダメージを与えるための攻撃、というものではない。
「よっと、ここまで持って来れば安全だろ」
爆発が起きた直後に後退し、倒れたイッセーを抱えて更に後方へ跳ぶ。魔力放出のおかげで、即時の戦線離脱はお手の物だ。俺がサーヴァント化したら、スキルに仕切り直しとか付くかもしれない。
そんな冗談を考えながら、何となく持ってきたゲイ・ボウをイッセーの隣に置き、一息吐いてから腰を上げると、詠唱を行いながら先ほどまで対峙していたカテレアの前まで跳ぶ。
と、それより少し早くに土煙が黒い瘴気により払われ、此方へ向かって黒い魔力波が放たれた。
「ッ....ギリギリ、セーフ!」
出来たばかりのタイプ
この交錯で起きた衝撃により、俺の横にあった景色がまた変わってしまったが、努めて気にしないように視線を外し、異形と化した悪魔と再び対峙する。
──────異形。異形か。
確かにその通りだが、あのオーフィスと同じ気配を纏っているので、どうもそうと決めつけるには抵抗がある。とはいえ、
「こんなナリじゃ....なぁ?」
黒く、禍々しい力が渦を巻く。それは自然のもたらす穏やかな風とは比べようもない、命あるものを脅かす暴風だ。
その中心に立つのは、全身を黒い泥状の液体で覆った、カテレア・レヴィアタン『だったもの』。既に超高濃度の魔力で人型としての機能を大幅に喪失し、僅かに残った抵抗の意志を頼りに、辺りに破壊をばら撒くだけのモノと化している。
いや、こちらから攻撃の意志をカテレアのものと判断することはできないか。もしかしたら、とうに自我まで融かされているかもしれない。
こんな存在に対し、扱う魔力が同じという共通項のみで、オーフィスと同じ印象を抱くには、流石に無理があると言うものだ。
「しかし、もう肉体と魔力との境界が殆どなくなってるな。あと十分くらいほっとけば、勝手に自壊するだろうが....」
十分もあれば、結界をぶち破って、外の駒王市街を半壊させるだけの猶予はある。莫大な魔力を貯蔵してることもあり、下手をすれば己の命を顧みない魔力放出、つまるところ自爆をする可能性も否定できない。
そんな結末はあまりにも陳腐で笑えない。とうに終わっているのだから、亡霊にはさっさと成仏して頂こう。
「────『
魔力が奔る。黒い暴風を圧倒するほどの無色の力が地を舐め、その後に俺は城壁の如き防護を得た。
もうアレは無限の龍神の魔力に侵食され、身体は只の容れ物になっているのだろう。放たれるプレッシャーもオーフィスと同質の圧倒的なものであり、相応の攻撃をしてくることは間違いない。
とはいえ、だ。いくら高性能のエンジンを積んでいようと、そのポテンシャルを十全に発揮できる機体でなければ、底などすぐに知れよう。
「中途半端にデカい繋がりを持つからだ。最初から身の丈にあった力を選んでおけば、そうはならずに済んだのによっ!」
魔力をためたタイプγの干将を振るい、黒い魔力波を飛ばす。全開ではないが、それでも並みの防御手段など容易く突破できるだけの威力はある。
校庭に尾のような斬痕を引きながら直進した波濤は、間違いなくカテレアに直撃した。したが、黒く濃厚な魔力の渦であっさりと防がれてしまった。
「グルルルゥッ!」
今度は此方の番だ、といわんばかりの唸り声を上げたカテレアは、地面に両手を素早く落とすと、そこを起点に魔力が噴出し、俺の立つ前方に向かって黒い荊棘を連続して生やしてきた。
俺はそれに対して何もせず、しかし足元から出現した荊棘の悉くを砕く。この程度であれば防御は身体強化一本で十分だ。
驚く素振りを見せるカテレアに構わず、莫耶を振って周囲の荊棘を一掃。後に手に持つ干将のみを地面に落とし、既にイメージを固めて置いた弓、
「
詠唱を終えた瞬間、手に持っていた莫耶が『捩れた』。英霊エミヤが使用しているカラドボルグより更に鋭く、そして細く。切っ先はより先鋭化し、見たままのフォルムはまさに弓矢だ。
タイプγの莫耶を加工し使用しているため、その内部はまさに高純度の魔力の坩堝だ。弓に番えると、鏃から赤色の稲妻が迸り、先端へとその魔力が急激に収束していく。
カテレアは異変を察知したか、攻撃のために動かそうと画策していた大半の魔力を防御に充て始める。黒い障壁はさらに濃く、分厚くなり、まるで繭のようだ。
俺はそうくると思ったよ、と呟き、番えた莫耶を引き絞る。同時にタウロポロスの特性が発揮され、莫耶に更なるランク補正がかけられた。
「カッ飛べ」
弓と言うより戦車の主砲のような発射音を響かせて飛翔したタイプβの莫耶は、まるでバターのようにカテレアの黒い障壁を円形に切り抜き、それとともに彼女の右上半身をごっそりと削り取っていった。
タイプβは主に防御に対し有効な一撃を狙えるオーバーエッジだ。インパクト時の破壊力を鏃に集中させることで、魔力の分散を極限にまで抑えられる。
難点は、大規模な破壊には向いていないということくらいか。一応カラドボルグのような運用はできるが、魔力を加速、増幅させるための回路を設定しにくい。なので、広範囲に及ぶ破壊を行うだけなら、剣の形状を変更させるという加工のひと手間を省ける、タイプγの方が向いているのだ。
カテレアは抉られた断面から大量の黒い液体をまき散らし、ばちゃり、という音を立てて地に沈む。傷の程度は最早言うまでも無く致命傷。通常であれば即死だが......これは、
今まであらゆる多くの命を奪って来たからこそ分かる、生物を殺したという感触。それが、ない。
「っ!コイツ、まさか!」
そして、その危惧は現実のものとなる。
ゆらり、と立ち上がるカテレア────、否、黒いなにか。夥しい量の黒い液体を零しながら立つさまは、まるで性質の悪い悪夢のような光景だ。
そして、この姿を見てようやく確信した。カテレアは既に死亡しているのだと。
やはり彼女は、自分の中へオーフィスの力を多量に取り込んだのだろう。タイミングや入手法としては、戦をけしかける前....詰まるところ、
そうして体よく龍神の力を手に入れたカテレアだったが、いざ己が身に取り込んだら、逆に取り込まれた。
力を支配下に置けなかったカテレアは、龍神の魔力の器となるしかなく、無駄なものを一切そぎ落とされ、結局は外側しか残らなかったのだ。内の肉体すら邪魔だと判断されたらしく、最早アレは人の形をした魔力塊と化している。
「お前がこれまでにしてきたことを考えると、この結果は正直自業自得だが....同情するぜ。内側から貪り食われて、少しずつ自分の大切なものが失われていくなんて発狂モンだからな」
さて、どうしようか。先ほどエンジンを例に挙げてカテレアの性能を説明したが、現在の状況を同様にそれで例えるなら、カテレアという余計な箱を取っ払い、エンジンに直接最適な駆動系を取り付けたようなものだろう。まさに、走るエンジンである。
となれば、出力の制限はほとんどなくなっているはずだ。そして、同時に時間が経てば自壊するという案も消えた。
アレはカテレアの持っていた魔力の出力と回収、循環機構や生命維持機能をそのまま利用し、一個の生物として活動している。器も完全に作りかえてしまっているため、何らかの不安定が理由で自滅、という結末は期待できないだろう。
消し飛んだ身体の再生は瞬く間に行われ、もとのカテレア・レヴィアタンに戻る。そして、振るわれる力も本来の彼女が望んでいた龍神の力だ。
結果はどうあれ、この場での彼女は望みは果たされたのだろう。
「足場を固めずに逸って結果に手を伸ばした結果がこれか。俺も気をつけないとな。っと、
花弁一枚のみを展開させる
俺のアイアスによってあらぬ方向へ飛んで行った黒弾は、猛烈な速度で後方へ消え────今日一番の破壊の残痕を駒王の校舎に刻んだ。
「おう......こりゃ、速めに決着つけねぇと不味いな」
一撃一撃が相当な威力だ。俺は避ければそれでいいが、その分周囲にもたらされる被害は甚大なものになってしまう。
アキレウス・コスモスみたいな宝具があればいいが、そういう類はあまり使ったことがないし、手持ちから探したことも無い。
なにせ、今まではずっと周囲の被害を全く考慮しない個人戦だったからな!
「面倒だが、仕方ない!
光球を連続して展開し、魔力増幅回路を持つタイプγの干将莫耶を大量に創造する。が、それを待たずしてカテレアから巨大な黒弾が放たれた。
対し、防御に向きかけた無意識の行動を刹那に切り替え、俺は咄嗟に足元に置いていた干将を引っ掴み、停止していた回路を励起、振り上げざまに前方へ投擲し、肉薄してきた黒弾を破砕する。
その迎撃が終わらぬうちに、黒弾は次々とカテレアの周囲に出現し、続けざまに迫る。
「ったく、せっかちだな!生まれたてならもう少し落ち着け!」
近場の干将莫耶を拡げた両手で掴み、放って二発撃墜。踏み出すついでに足元の莫耶の柄を蹴って射出し三発目。振りぬいた両手でもう一対の干将莫耶を取って更に二発撃墜。
ここで僅かに出来た攻勢の間隙を見逃さず、部分展開のアイアスを展開し吶喊、道中に片手で二本の莫耶を掴む。
三発をアイアスで受け、破砕され抜けた余剰分の威力は身体強化で流す。更に迫った二発は片手に二振りある莫耶で相殺。その渦中に詠唱を終え、更に一対の干将莫耶を手元に出現させる。
そして、駆けた先に見えたカテレアの喉に莫耶を突き立て、一息に押し倒した。
「ヴグゥァッ?!」
「チェックメイトだ、成り上がりの龍神さんよ」
俺は足でカテレアの両手を抑えたまま、埋まっていた莫耶を右横に薙いで喉を切り裂き、間もなく干将も合わせて胸部をX字に断つ。この後に及んで人型を殺める抵抗はあったが、それを行う覚悟はとうに終えている。
いくら魔力でほとんどの体内組成を賄っているとはいえ、その実はただの魔力の集合体である。それをこうして繋ぎとめているのは、偏にカテレア・レヴィアタンの心臓を内包しているからだ。
つまり、代替のない心臓部を失えば、魔力はカテレアの形を維持できなくなり、崩壊する。
俺は首を切断され、胸部を別たれたカテレアの亡骸へ目を落とす。
敵対していたとはいえ、自我を溶かされたばかりか、死後も己の身体を弄ばれ、その最期はあまりにも惨い。
せめて、来世はもう少しまっとうな生を謳歌できるように......そう思っていたところで、異変に気が付く。
転がった首についている赤き双眸が、此方を愉しげに眺めているのを。
「────────!!」
ぞぞぞッ!と背筋が粟立ち、すぐさま持っていた干将莫耶を振りかぶる。が、その行動が実を結ぶ前に黒い蛇が俺の腕に巻き付き、拘束する。その反動で動きが止まった隙を見て、拘束の手は更に足まで及ぶ。身体強化で痛みはないが、完全に反撃の手は封じられてしまった。
一体何が起こっている?俺は確かに核である心臓を壊したはずだ。容れ物を形作る
一向に答えのでない疑問の解答を求め、首にまで巻き付いてきた蛇のおかげで難儀しながら視線を下に動かす。すると、
「っ....おいおい、しぶといってもんじゃ、ねぇぞ。それ」
カテレアは、絶たれた心臓の断面を魔力で繋ぎ、何とか心機能を維持していた。
それでも、すでに致命的な損害を受けたからか、身体の端々が少しずつ解けていっている。現に首は失われてデュラハン状態だ。
こんな状態になろうと尚足掻き続ける理由は一体何なのか。....答えは実に簡単だ。
「こんの......俺の身体を頂こうって魂胆か」
「──────」
既に声を発する部分は失われているはずだが、何故か俺の問いかけに対し肯定した気配を感じ取った。まぁだからなんだという話ではあるのだが。
とにかく、これ以上は流石に危険だ。何とかこの状況から離脱しなければ。
そう考えた矢先、ふと過った前方の視界に見慣れた学生服の少年の姿が見え、思考は一時の空白を生む。
「......一度その手に剣を取り、その切っ先を何者かに向けた以上。どちらかが力尽きるまで戦うのが道理」
声に、ハッと視線を上げる。
俺から見て正面。カテレアから見て背後に立っていたのは、兵藤一誠。...だが、その雰囲気が明らかに通常とは違う。
言葉遣いや物腰を見るに、そう、まるで──────
「故に、俺の戦は....未だ終わっていない」
その宣言と同時に、カテレアの放った蛇がイッセーに殺到する。普通の彼であれば、まず捌けない数。それを、
「──────」
瞬く間に槍で分断し、流水のような動きで包囲網を突破する。碌な時間稼ぎにすらなっていない。
その動きを見たカテレアは、あのイッセーとの戦闘は長期戦にするべきではないと結論を出したか、魔力の残存量を敢えて無視し、短期決戦へと思考を切り替えたらしい。右手に巨大な黒弾を作り始めた。
「ふッ」
しかし、イッセーの振るった槍が一、二と風切り音を響かせた途端、冗談のようにあっさりと右手首、肩が両断され、カテレアの策は敢え無く失敗に終わる。
それでも、俺を拘束していた蛇の一部すら動かして決死の迎撃を画策しようとする。
「勇気ある者に勝利と栄誉を。────穿て、
黄色の槍が、カテレアの心臓を貫く。決して癒えることのない刺突が、決して傷を負わせてはならなかった心臓を寸分違わず貫く。
カテレアは一度大きく仰け反り、ビクンと全身を震わせたあと、だらりと両手を下げ、風船を割ったかのように弾けて霧散した。
そして、カテレアが完全に消え去ったあとに目の前に残ったのは、槍を突き出した姿勢のまま立つイッセーだ。
否、見た目は確かにイッセーだが、中身は恐らく、
「我が槍を振るいし少年の友よ。....願わくば、彼を正しく導いてくれ」
「ディル、ムッド....なのか?」
「フ────では、ここではないどこかで逢おう。魔術師殿」
そう言い残すと、それまで超然とした態度で立っていたイッセーは、糸が切れた人形のように頽れた。
それを間一髪で支え、彼の腕を此方の肩に回す。普通ならここで何らかのリアクションがある筈だが、一向に反応しないのを鑑みるに、意識は完全に無いとみえる。
試しに顔色を窺って見るが、部長のおっぱいやわらけーです....とかふざけた寝言を言っていたので、地面と熱烈なキスをしてもらおうかと本気で考えた。ついさっきまでの言動とこれは差があり過ぎる。
――――――それにしても。
「はぁ......今日は、疲れた」
校舎の方から駆けてくるオカ研の面々を眺めながら、イッセーを抱えたまま校庭に座り込んで一言。
周囲の地面は穴ぼこだらけで、壮絶な絨毯爆撃の後みたくなっている。それでも、これだけの予想外の事態を重ねて尚、被害をここまで抑えられたのは幸いだったと言っていい。
禍の団の主要な旧魔王派メンバーの一角を崩せたのも大きいし、三陣営ともが和平のあとに協力して取り組まなければならないことを明確にできたのも大きな成果だ。
ということで、ハッピーエンドにしてさっさと家で寝かせてくれません?
そう、天を仰ぎ見ながら呟いていると、隣から未だ寝ぼけてるイッセーが、
「皆....俺が、守るから。....安心して......コウタ、も────」
と、そんなことを言った。
それに対し、俺は笑いながら、ああ。頼むよ。と、そう答えたのだった。
あと一話挟むかもしれませんが、とりあえず禍の団の章は終了です。
後半は戦ってばかりだったなぁ。