山の中の森林にて必死な様子で駆け跳ねる少年がいた。
「はぁ、はぁ、はぁ、こ、来ないでぇぇっ!!」
少年には処女雪のような純白の白髪に深紅の瞳という特徴があり、さながら子兎であった。そんな少年が正に脱兎のごとく逃げ出している。
『グルオオッ!!』
逃げている少年を追うは異形の怪物数匹……モンスターと呼ばれ、この世界に突如として開いた魔窟ことダンジョンより這い出てきた生物である。
少年は普通の人より逃げ足は速いが、それでもモンスターとの差は縮まって行き……。
「あっ……う、うわああああっ!!」
少年は疲れから足をもつれさせて倒れてしまい……そして、倒れながらモンスターを恐怖の瞳で見つめ……。
『グゲェッ!!』
直後、どこからか飛来し複数の矢がモンスターを射抜き、消滅させる。
モンスターにとって重要な核でこの世界において重要資源である『魔石』を射抜かれたが故だ。
「え……?」
少年は一瞬でモンスターが消滅した事に戸惑う。
「間に合って良かった。怖い目に遭ったな」
そんなベルへと近寄り、声をかけるのは弓を左手に持った蒼い長髪を結わえた美しく、凛々しい女性であった。
「…………綺麗」
「ふふ、ありがとう。君は兎みたいで愛らしいな……私は女神のアルテミスだ。よろしく頼む」
女神アルテミスは顔を赤らめ、見惚れる少年に対し優しく微笑みながら屈むと手を伸ばす。
そう、女神……この世界では神と人が共に共存する『神時代』を迎えていた。
「ぼ、僕はベル・クラネルです」
ベルと名乗った少年はアルテミスの手を掴み、彼女の助けを得て起き上がる。
「派手に転んでいたが、傷口は無いようだな。本当に間に合って良かった」
「あう……っ!!」
アルテミスは優しく微笑んだまま、ベルの様子を見ると彼の頭を優しく撫でていく。ベルはその心地良さに心を溶かされ、そうしてたまらずアルテミスへ抱き着いて顔を彼女の腹部へと埋めた。
「ああ、怖かったな。もう大丈夫、大丈夫だ」
泣き始めるベルを優しく抱き締め、アルテミスは背中や後頭部、側頭部を撫で回して優しい言葉をかけてやるのであった。
そうして……。
「ぐす……助けてくれてありがとうございます。アルテミス様」
「っ……ど、どういたしまして。お礼が言えるなんてベルは偉いな。村はこの近くか?」
ベルは落ち着くとアルテミスに笑顔を浮かべてお礼を言う。アルテミスは愛嬌いっぱいなベルの笑顔に胸を疼かされながら、お礼を言ったベルを褒めつつ、頭を撫でて質問する。
「はい、そうだ。助けてくれたお礼に案内します」
「ベルがそう言うなら、甘えよう。その前に私の眷属たちに会ってもらってからだ。また、モンスターが出るかもしれないしな」
「よ、よろしくお願いします」
そうして、8歳のベルは初めて出会った女神アルテミスに手を握られながら森林の中を歩くのであった……。