『上層域』における希少種の中では遭遇率の高いほうである『ブルー・パピリオ』のドロップアイテムが『ブルー・パピリオの翅』は回復薬の原料となる。それを今回の探索で幾つか手に入れたベルはそれだけ手元に残していた。
【ミアハ・ファミリア】の本拠兼店舗である『青の薬舗』へと持って行くためである。無論、リリルカにも許可を取ったうえでだ。
そうして、一般市民が住まう西のメインストリートの路地裏奥深くにある一軒家の『青の薬舗』へと行き……。
「ありがとう、こういうの本当に助かるよ」
「ひゃ、あ、あう……ふぁぁ……」
『ブルー・パピリオの翅』をナァーザに渡せば彼女は喜び、ベルの頭を撫で回していく。
「でも、ベルはもう7階層まで探索出来るんだ。凄いね」
「冒険者になる前から鍛えてましたから」
「そう、頑張ってるんだね……偉い偉い」
「ふ、あ、ありがとうございます……」
ベルはナァーザに甘く優しい声をかけられながら、撫で回されたり顔を触られたりして可愛がられていったのだった……。
用を終えて自分の本拠である廃教会に帰ろうと西のメインストリートを歩いていると……。
「(また視線っ!?)」
ダンジョンへと向かうため、中央広場を進んでいる時にバベルから降り注いでいる視線と同じものをベルは感知した。そちらの方を見ればこのメインストリートにある他のどの建物よりも大きな石造りの建物があった。
看板には『豊穣の女主人』と書かれていて、多くの冒険者達が訪れている事から酒場のようだ。
「(まさかね)」
ベルが見た感じ、視線の主と思える者はいなかったのでそのまま西のメインストリートをベルは去った。
そうして、【ヘスティア・ファミリア】の本拠である廃教会へと帰れば……。
「やあ、ベル君。お帰り」
「お帰りなさい、ベル」
「待たせたな」
ヘルメスにアスフィ、ファルガーが待っていた。
「ヘルメス様、アスフィさん、ファルガーさんっ!!」
ベルはすぐにヘルメスたちに駆け寄った。ベルが村に残していた彼の背丈と変わらないぐらいの長弓、そして多くの矢と弓の練習用の的を持ってきたのである。
「君がヘスティアの眷属になるなんてね……でも、ヘスティアは良い女神だ。安心したよ」
「一からやっていくのは大変ですが、ベルなら大丈夫ですね」
「俺たちもいつでも力を貸すし、応援してるからな」
それぞれ、ベルに声をかけるとまだまだやることがあるので落ち着いたらまた会って宴会しようと約束してヘルメスたちは去って行った。
その後、ヘスティアに自分の弓の腕を見せたり、長弓の場合は冒険者となっている自分の能力がどう影響するのかを試すため、月明かりがぼろぼろな屋根から降り注ぎ、聖堂内を照らす中、的を立てて自分は長弓の射程距離ギリギリの場所まで離れる。
「(短弓を持っているのと同じぐらい、扱いやすいし馴染んでる)」
【狩人求道】の効果、【ステイタス更新】で能力を結構な域まで上昇させているのが合わさってか、長弓を短弓を扱っている時と同じぐらい、扱う事が出来た。
そうして、素早く構えながら素早く矢を番え、そうして矢を撃てばベルの狙い通り、的のど真ん中へと刺さった。
「……アルテミスそのものだったよ、ベル君……」
「嬉しい言葉、ありがとうございます」
月が照らす中、ヘスティアからの言葉にベルは笑みを浮かべる。その後は何度か弓の鍛錬をした後はシャワー室で身を清めたり、晩御飯を食べたりなどして過ごし最後はヘスティアの抱き枕となりながらもたっぷりと可愛がられて蕩けながら、眠りに着いたのであった……。
朝日が昇った翌日の朝――ベルは今日も回復薬調達のため、西のメインストリートを歩いていたが……。
「っ、また……」
再び、視線を感じてむず痒さにベルは悶えた。
「あの、大丈夫ですか?」
すると薄鈍色の髪を後頭部でお団子に纏め、そこから一本の尻尾を垂らしているポニーテールの亜種のような髪型で愛嬌があり、美しさも兼ね備えた容姿、店員の制服だろう白いブラウスに膝下まで丈のある若葉色のジャンパースカート、その上から長めのサロンエプロンという恰好の女性がベルに声をかけた。
「え、えぇ……大丈夫ですよ。僕は【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルです。おはようございます」
「あ、おはようございます。私はそこの『豊穣の女主人』で働いているシル・フローヴァです」
ベルがシルに自己紹介すれば、シルも自己紹介を返した。
「ベルさん、最近オラリオに来た人ですよね?」
「ええ、本当に最近ですよ……昨日、偶々ここを通りがかりましたが冒険者の方が多かったですね」
「はい、おかげ様でとっても評判の良い酒場なんですよ」
「じゃあ、そのうちヘスティア様と利用させてもらいますね」
「それはありがとうございます。ベルさん達が来るのを楽しみにしてます……ところでそのゴーグル中々、素敵ですね」
「はい、特注品ですからね。それに魔道具でシルさん達から見れば何も見えないと思うでしょうが、かなり透明で良く見えるようになっているんですよ」
「そ、そうですか……」
「はい……ともかく、あまりシルさんを待たさないくらいに早く此処に来ますね」
「心遣い、ありがとうございます」
言葉を交わすとベルはシルの元を去りながら……。
「シルさん」
ある程度の距離を進んだところで振り返りながら、ベルはゴーグルを取って素顔を見せた。素顔を見たいという気持ちが強く、彼女の態度から出ていたからだ。
「っ……」
シルは驚きながらも喜び、そしてベルへと頭を軽く下げる。
ベルは頷くと、ゴーグルをして『青の薬舗』へと向かうのであった……。