今日もダンジョン探索をするベルは『豊穣の女主人』で店員であるシルと出会った後、回復薬の調達をするために【ミアハ・ファミリア】の『青の薬舗』に向かう。
ヘスティアに聞けば彼女はミアハの好意によって、何度も食事を振る舞ってもらったりなど世話になったそうなのでヘスティアの眷属になった以上、店を利用し続ける事でヘスティアの代わりにベルは恩返しをする事にしていたのである。
勿論、買った回復薬は全て使う程にダンジョン内のモンスターと戦闘を繰り広げ続けているのもあるが……ともかく、今日も『青の薬舗』へと向かえば……。
「今日はもっとサービスしてあげる……」
「わふ、あむ……」
ナァーザはベルを招き寄せて、彼の頭を抱き締めながら胸の中へと誘う。
「ふふ、ベルはやっぱり甘えん坊で甘え上手だね……良いよ、たっぷり可愛がってあげる」
「ひゃ、ふ、ぅぅ……あぁ……」
「良い子、良い子、ベルは良い子……」
ナァーザは自分の温もり、匂いと感触にベルが浸って身を任せていくのに対して微笑みながら、頭を掻くように刺激したり指圧したり、撫で回しつつ甘く優しい言葉を囁いた。
それに対しベルは心地良さそうな反応をしつつ、ナァーザからの可愛がりと甘やかしに身を委ねていくのであった……。
ともかう、今日も回復薬の調達を済ませるとリリルカとの集合場所にしている『ギルド本部』へと向かうため、『冒険者通り』と呼ばれているギルド本部を始め、冒険者向けの店が多く並ぶ北西のメインストリートに向かう。
因みにオラリオはバベルが建造された中央から発展していった関係上、中央から放射状に北、北東、東、南東、南、南西、西、北西の八方位にメインストリートがそれぞれあるというような形になっている。
上空から見れば、八分割されたホールケーキに見えるのだとか……。
そんな『冒険者通り』を進んでいると……。
「ベルさーん」
「アミッドさん、おはようございます」
清潔な白一色の石材で造られた建物――【ディアンケヒト・ファミリア】を表す光玉と薬草のエンブレムが飾られた治療院の近くからアミッドが声をかけてきた。
因みに『青の薬舗』の近くにも【ミアハ・ファミリア】のエンブレムである五体満足の人の体を模したそれが飾られていたりする。
「はい、おはようございます。折角ですし回復薬の調達はいかがですか?」
「ありがたいんですけど……すみませんが、もう行きつけの所でしてきたばかりなので」
「まさか、【ミアハ・ファミリア】でしょうか?」
「知ってるんですね」
「ええ、まぁ同業なので色々と……」
アミッドはベルの言葉に複雑そうな感じで答えた。
「では、せめて私達の回復薬がどれほどのものかお試しという事で受け取ってください」
懐からアミッドは一本の小瓶を渡す。そもそもベルに渡すために彼女は待っていたのだろう。
「いや、昨日だって貰ったのに悪いですよ」
「あの後、私達も含めて護衛を引き受けてくれたお礼ですよ……これくらいの報酬はあってしかるべきです」
ベルは受け取れないと態度で示すもアミッドは受け取って欲しいと告げる。
昨日、キラーアントによる結構な数の群れをベルは大立ち回りを演じて襲われていた冒険者達を助けた。その際、自派閥の団員の【経験値】稼ぎのためにダンジョン探索をしていたアミッドたちに出会ってアミッドから回復薬を貰ったのだが、その後アミッドたちと冒険者達とのダンジョン帰還の際にベルは護衛を担当したのだ。
「いや、それは当然の事で……」
「なら、人として世話になったら礼をするのも当然の事ですよね?」
「う、わ、分かりました。有難く受け取らせてもらいます」
ベルは最後まで遠慮したがアミッドの意見により、ベルは回復薬を受け取る。
「頑張ってください、ベルさん。でもなるべく怪我はしないように……」
「あ、ありがとうございます」
「……良い髪触りですね。羨ましいです」
「っ、んん……」
アミッドはベルの頭に触れて撫でるとその感触に驚き、微笑みながら触り続けベルはアミッドからの撫で回しによる心地良さに蕩けていく。
因みにアミッドにも素顔自体は見せていたりもするが……。
その後、アミッドに見送られながら『ギルド本部』へと向かえば……。
「あれが……」
「というか、長弓に代わってるぞ」
キラーアントの群れと大立ち回りを演じたからか他の冒険者たちがベルに対して色々と言っていた。
「なんか恥ずかしいな」
「このくらいで恥ずかしがっていては、英雄になった時なんてもちませんよベル様」
ベルは注目を受けた事でむず痒く、恥ずかしくなり……そんなベルの様子にリリルカは苦笑を浮かべる。
ともかく、ダンジョンに行く前にエイナに挨拶しに行ったベルだが……。
「ベルく~ん、私は無茶しちゃ駄目って言ったよね? なのに結構な数のキラーアントと大立ち回りしたって?」
「ぅ、き、緊急事態だったので……思わず」
「当事者じゃない私は深くは言えないし、ベル君の実力は私が思うより高いのは結果的に明らかになったけど……それでも勇気と無謀は違うって事だけは心に留めておいて……死んじゃったら、何にもならないんだよ?」
「はい、気をつけます。それと心配してくれてありがとうございます」
「どういたしまして……それと他の冒険者達を助けてくれてありがとう」
エイナに説教され、心配もされて反省するベルは他の冒険者を助けた事に感謝し、微笑むエイナに頭を撫でられつつ、微笑み返した。
その後、ダンジョン探索をするために中央広場へとリリルカと共に向かうベル。
「(ん……なんか違う?)」
相変わらず、バベルから無遠慮に愛情伴う熱を込めて見回す銀の視線にむず痒くなったものの微妙に感じが違うと思った。戸惑いながらも手を上げて対応をする。
そうしてダンジョンの中へと入れば……。
「しっ!!」
ベルは長弓の長さを利用して、三本あるいは四本の矢を矢筒から抜き出しながら番えて素早く弦を引き絞って矢を同時に放ったり、連射をしたりして短弓の時より、遠くにいるモンスターを一体ずつ、距離によっては複数纏めて射抜く。
他にも上からの落下を利用したり、軌道を曲げるようにして射たり、反射を利用する射術も健在である。
だが遠距離戦だけでなくロングボウをそのまま、左手で長杖の如く振るってモンスターを粉砕していきながら右手に持った矢による刺突で貫いていき、間隙が生じれば即座に矢を弓に番えて速射して射貫くと、空いた右手で短剣を持つとそれを用いて剣閃乱舞を繰り出し、弓を杖とした剛撃と交えてモンスターを屠っていく。
「(『神の恩恵』はやっぱり凄いな)」
ベルは短弓とほぼ変わらないくらいに長弓を扱えている現状――『神の恩恵』の凄さを改めて実感した。
「長弓でもあんなに……流石はベル様です」
『(やっぱり、あの兎やべぇ……)』
リリルカはベルの武勇に見惚れるが、ベルの戦いぶりを見た他の冒険者たちは絶句した。
そんな中で窮地に陥っている冒険者たちを見れば矢を放って襲っているモンスターを射抜く事で助けていく。
何度かバベルの換金所で魔石とドロップアイテムの処理をしていき、最後の往復の時……。
「くそっ、振り切れねぇ!!」
炎を連想させる赤い短髪、整った顔立ちで着流しを着た冒険者の青年が大刀を持ちながら、モンスターの群れから逃亡をしていた。
「しっ!!」
当然、ベルは矢を超速連射する事で全て射殺す。
「危ないところでしたね」
そうして、男に声をかけると……。
「(う、兎が狩人?)……っと、ヤバいところを助けてくれてありがとな。俺は【ヘファイストス・ファミリア】のヴェルフ・クロッゾだ」
「どういたしまして……僕は【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルです」
「【ソーマ・ファミリア】のリリルカ・アーデです。ベル様のサポーターをしています」
ヴェルフとベルにリリルカは自己紹介をし、そうして共に8階層からの帰還を始めた。
「弓使いなのに……接近戦も強いっていうか……やりたい放題だな」
ヴェルフは道中、ベルの戦い方を見てそう絶句しながら、言った。その後はヴェルフはベルと契約鍛冶師のそれを交わし、またLV.2になって発展アビリティ『鍛冶』を得る事が鍛冶師としての始まりだというのでそれまで一緒にダンジョン探索するという約束も交わした。
その後は一度、本拠である廃教会に帰ったベルはヘスティアを誘って『豊穣の女主人』へと向かう。
「ベルさんっ!! 早速、来てくれるなんて嬉しいです」
「わわっ、ちょ、し、シルさん危ないですよ……」
店を訪れるとシルが凄く喜びながら、ベルに向かって飛ぶようにして抱き着き、ベルは彼女が倒れないように抱き着く。
中へと案内されれば女将のドワーフから店員でシルと同じヒューマンにエルフ、
「どうかしましたか、ヘスティア様?」
「い、いやちょっとね」
シルに対して妙な反応をするヘスティアに問いかけるとヘスティアは苦笑して何でもないという。
そうして、いざ食事を開始すれば……。
「美味しいっ!!」
「うん、これは確かに美味しいよ」
ベルとヘスティアはお勧めを出してもらい、それを味わうと舌鼓を打った。そうして、お代わりをベルは頼み……。
「ベルさん、結構食べますね……」
「普段は抑えてたんだね……」
「食べられるときは食べるだけですよ」
ベルの意外な大食いにシルもヘスティアも驚いた。ただ、ベルの素顔を見ている二人もだが、他の者達もベルの食べる様子が兎が大食いするような可愛らしい様子を連想させたために……。
『(可愛い……)』
そう、癒されるのであった……。