亡霊騎手は異世界を駆ける   作:VMAX

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 偽善者と言われても、火野新太(ひのあらた)は自身の在り方を変えられなかった。

 彼は気に入らなかったのだ。誰かを害した犯罪者が、のうのうと生きながらえている事を。何の裁きも受ける事無く、日の下を歩けている事を。

 

 自身から全てを奪った者が、何の咎を受けなかった事を

 

 私刑と呼ばれても気にしなかった。寧ろ、そんな彼をネット上では神聖視する者も出てくるほどだったのだから。

 

 だからこそ、その終わりは当然であるとも言えた。

 

「ぐっ…………」

 

 殴打され転がり、背中がコンクリートの壁へとぶつかり呻き声がこぼれる。

 右腕は、あらぬ方向へと曲がっている。左肩には、二発の弾丸が埋まっている。頬には切り傷が走っている。右脛の外側が不自然に抉れている。左太ももにナイフが突き刺さっている。

 満身創痍。上記の怪我が主立っているだけで、全身傷だらけで怪我をしてない所を探す方が難しかった。

 それでも、彼の内側に宿った赫怒の炎は一行に収まる気配がない。睨みつける事しかできない状態ですら、その瞳に宿った炎が迫る下種たちを焼こうとしているようだ。

 

 そして、留まる事知らない彼の怒りは力を齎した。

 

「何だ?」

 

 追手の一人が気付く。

 暑い。今は真冬であり、息を吐き出せば白く染まって指先がかじかむ様な気温の筈だった。

 にも拘らず、今のこの路地は暑い。いや、もはや熱い。熱気とも言うべきものが、その頬を叩いてきていた。

 熱の出所は、死にかけの少年。暖房器具とかそんな生温いものではない。燃え盛る炎、或いは溶鉱炉が目の前にあるかのような熱さ。

 

 新太にもまた変化が起きていた。

 

「がぁあああああああああっっっ!?!?!?」

 

 体の内側が燃えるように熱い。

 否、()()()()()()()()

 最初は彼の口や、耳といった顔の穴から白い煙が上がり始めた。

 特に、酷いのが目。眼球の水分が蒸発し、カラカラになった目は炎の中に燃え尽きた。

 代わりに眼窩に宿るのは、地獄の業火だ。

 

「ァァァアアアアアア!!!!」

 

 眼窩から炎が零れ、同時に全身から白煙が上がったかと思えば筋肉、脂肪、皮膚が燃えていく。

 露になるのは、燃える骨。脂質の一欠けらも残らない真っ白な骨だ。

 傷を負っていた肉体部分が消え去り、代わりに服の破れた部分や穴の開いた部分に炎が吐き出される。折れていた右腕も不自然な動きで元の形を取ると、亀裂掏らない綺麗な骨の状態へと戻っていた。

 絶叫が止み、少年は、怪物は、立ち上がる。

 

「ひっ……!」

 

 大の男が喉を引きつらせた。それも、恐怖によって。

 燃え盛る炎を纏った骸骨。炎を灯した眼窩には眼球が無いにもかかわらず、追手たちは突き刺さる様な視線を感じていた。

 怪物が動く。その燃える炎の指先を男たちへと突きつける。

 

「今日がお前たちの、審判の日だ」

 

 断罪者が顕現する。

 

 

 

 

 

 

 夜闇を切り裂く、炎の轍。

 轟音を響かせる二本のマフラーからは、炎がバーナーの様に噴き出し、エンジンは炎を纏う。

 何より、アスファルトを溶かして切り裂く炎の轍を引く前後の車輪。こちらもまた、炎を纏い、炎その物を車輪としていた。

 鋼鉄の暴れ馬を乗りこなすのは、黒の革ジャンを羽織った炎を纏う骸骨。

 辿り着くのは、ビルの上。暴れ馬にとって道というのは、何も地面の上だけではない。水上だろうが壁面だろうが、或いは空中だろうと向かう先が道だった。

 スタンドを立て、愛車を降りる。同時に、炎を纏った骸骨はその炎を消して人の肉を纏った。

 

「朝か……」

 

 火野新太はそう言って、東の空を見る。

 山の隙間から朝日が顔を覗かせ始めている。今日も夜は何の滞りも無く明けていく。

 

 新太が力を得て、一年ほどが経過していた。この間、彼がやって来たのは今までと変わらない()()()()

 裁かれる事のない犯罪者へと私刑を下し、時折仕返しに送り込まれる者達を、これまた叩き潰す。そんな毎日。

 意味など無い。彼の復讐は最早終わっているのだから。

 それでも、その胸に灯った怒りの炎が足を止める事を許さない。罪もない誰かの泣き声が、彼の背を押していく。

 

 両手を組んで大きく伸びをして、凝り固まった体を解す。

 一晩動き回ってもろくな疲労を感じない体だが、肉体が疲れないだけで精神的な疲労というものは存在する。気疲れはどうしようもない消耗だった。

 伸びを終えて、新太はズボンの尻ポケットから煙草のソフトパックを取り出した。一本取り出して、口に咥える。

 くしゃっとなったそれは、程なくしてその先端を赤くして紫煙を立ち昇らせ始めた。

 彼は十六歳。未成年喫煙など言語道断であるのだが、ぶっちゃけ彼に対して法律は無力だ。

 

 そもそも、火野新太は国の法律に失望している。故に、法を守ろうとする規範意識が欠けていた。

 

 紫煙を燻らせて、屋上の手すりに凭れかかる。見上げた空は、朝焼けで雲も少なく青空が広がろうとしている。

 

「……ん?」

 

 不意に視界の先に何かが映った。

 それは、雲とは違う白。風に流されて出鱈目な機動を描きながら、新太の元へと落ちてきた。

 指でつまむようにして、コレをキャッチ。

 それは、一通の封書だった。表面には、『火野新太殿』の文字が躍る。

 

「……剃刀レター、か?」

 

 登り始めた太陽の光に透かして中を確認しながら、新太は首を傾げる。

 骸骨ライダー=火野新太という事は知られていない。だが、それ以前から活動している新太は大なり小なりのヘイトを買っていた。彼自身も自覚している。

 躊躇っていても何も進まないため、新太は封書の封を切った。

 出てきたのは、一枚のカード。

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能(ギフト)を試す事を望むのならば、

 己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 我らの“箱庭”に来られたし』

 

 

 瞬間、その視界は一気に広がる。

 

「なっ――――!?」

 

 もたれかかっていた手すりも消えて、驚いた結果咥えていた煙草も宙を舞う。

 新太の体は空へと放り出されていた。

 咄嗟に、彼は左手の中指と親指で円を作って咥え、響かせるのは指笛。

 一緒に落ちていた者達は何事かと音の出所へと目を向けるが、その直後にもっと驚きの光景を目にする事になった。

 

 バイクだ。前輪と後輪が炎で形成され、マフラーより炎を吐き出す一台の黒いバイクがどこらともなく()()()()()()()()()()

 

 轟音と共に、近付いてきたバイクのハンドルを擦れ違いざまに握る新太。そのまま跨る。

 

「ん?」

 

 視線。見れば、自分と同じように落ちていく三人の少年少女たち。

 彼らは揃って地上四千メートル程の高さから放り出されていた。残り距離は、二千メートル程か。このまま落ちて行けばどうなるか分かったものではない。

 

「そっちの金髪!その子を掴め!」

「ああ!?何だ急に!」

「言ってる場合か!茶髪の子!こっち来い!」

 

 左手で近くを落ちていた茶髪の少女を引っ張り、自身の足の間に横座りさせ、黒髪の少女を抱えた金髪の少年へとポケットに入れていたワイヤーを伸ばす。

 伸ばされたワイヤーを彼が掴んだことを確認して引っ張り、後部座席へと導いた。

 

「落ちるなよッ!」

 

 少年が乗った事を確認し、新太は右手に握るアクセルを捻った。轟音と共に炎が噴き出し、バイクは空を駆け始める。

 目指すのは、四人が落下する先にあった大きな湖。

 

「おいっ!向こうに街があったが行かねぇのか!?」

「ここがどこだか知らないが、呼び出した相手さんの思惑通りの場所に行く方が良いと判断しただけだ!」

 

 金髪の彼の言葉に怒鳴る様にして答えながら、新太はバイクを山の急斜面を下る様に大きな蛇行を描いて空を駆け下りていく。

 ものの十数秒で、四人は湖畔へと降り立つ事になった。

 

「あー……何とかなったか」

 

 スタンドを立たせたバイクに跨ったまま、新太は空を見上げて息を吐き出す。

 残る三人は、アイドリングを響かせて炎を揺らめかせるバイクに興味津々。

 

「凄いわね。こんな自動二輪車は初めて見たわ」

「こいつは、VMAXか?……いや、細部がチゲェな。てか、バイクが空飛ぶのがそもそもおかしいか。前も後ろも炎を纏ったタイヤだし」

「熱くないね」

「おいおい、あんまり触ってくれるな。炎は調整してるから火傷しないだけで、本当なら骨まで焼けるぞ」

 

 歪んだ煙草を咥えて近付き過ぎる茶髪の少女を手で追い払うように距離を取らせる新太。

 紫煙が立ち昇り、少女が眉をひそめた。

 

「煙草、吸うの?」

「ああ。悪いか?」

「……臭い」

「そりゃ悪いな。風上にでも行ってくれ」

 

 周りを気にするのなら、そもそも煙草など吸わない。

 三毛猫を抱えて大人しく風上に移動する少女。離れないのは、不思議バイクへの興味が残っているからだろう。

 ただ、このまま雑談していても仕方がない。

 

「んんっ!ちょうど良いから、自己紹介でもどうかしら?私は、久遠飛鳥よ。よろしく」

「春日部耀。この子は三毛猫」

「そう、よろしく春日部さん。それで?そっちの二人も良いかしら?」

 

 飛鳥がそう言って、水を向ける。

 少年二人は顔を見合わせて、金髪の彼が笑みを浮かべた。

 

「んじゃ、俺がトリをもらおうか」

「そうか?なら、遠慮なく。俺は火野新太。初めまして」

「そう、よろしく火野君。その自動二輪は貴方の持ち物なの?」

「ん?……まあ、そうだな」

 

 飛鳥の問いに、煙草をふかして微妙に濁した新太。

 そも、彼の乗るバイクには燃料を必要としない。炎が宿っている限り、無限に走り続ける。同時に、乗り手として認めた相手でなければうんともすんとも言わない。

 

 何より重要なのが、基となったバイクは()()()()()()()()()()()()と言う事。

 

 元々は、彼が偽善活動を行う中で私刑に処した者が私腹を肥やした結果の天下り品の一つだった。

 それを新太が奪い、彼の力に影響を受けて細部の形状が変わった結果が今の彼の跨るバイクとなる。

 

 法律を気にしないとはいえ、盗品であるという負い目が無い訳ではない。歯切れが悪いのはそのせいだ。

 気になる所はあるが、飛鳥は改めて金髪の彼へと視線を向けた。

 

「それじゃあ、お望み通りのトリをお願いしましょうか」

「ハハ、それじゃあお言葉に甘えて。俺は、逆廻十六夜。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃ったダメ人間なんで、そこんところ用法容量守って正しく接してくれよな、お嬢様」

「そう。説明書でもくれれば考えてあげるわ、十六夜君」

「お、マジか?んじゃあ、今度用意しといてやるよ」

 

 ケラケラと笑う、十六夜。

 腰に手を当ててため息を吐く、飛鳥。

 三毛猫を撫でながら遠くを見る、耀。

 空へと大きく紫煙を吐き出す、新太。

 

 そんな四人を湖周辺の茂みから観察する人影が一つ。

 

(うわぁ、揃いも揃って俺様問題児だぜ!と声高に表明するような方ばかりデスね。ですが、私たちにも()()()()!何が何でも、人材ゲットデス!)

 

 内心で掛け声と共にこぶしを突き上げる。

 後に待つ悲劇がどのような事かも知らずに。

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