異端にして妖艶のTS転生者、適当に生きる。 作:アツスイ
俺――私が転生して。
最初の記憶は、鏡に映る自分の容姿だったと記憶している。
幼い時分ではあったものの、その容姿があまりにも美しいものだったことだけは覚えていた。
愛らしいと言うよりは、美人系の顔立ち。
鋭く細い切れ長の瞳は見るものすべてを引き付ける力があった。
我がことながら、将来はとんでもない美人になるぞ、と思ったものだ。
まぁ、実際はそこまで背丈が伸びず、美人というよりは人形のような容姿になったのだけれど。
さわれば折れてしまいそうな細身の肉体と、絹糸と見紛うほどの美しい白銀の髪。
この世界は割と見目麗しい男女が多い。
そのうえで、私のソレは隔絶した美貌を誇っていた。
一言で言うなら、世界観の違う美貌。
妖艶と評するしかないものだった。
そんな私が生まれ育ったのは、魔術を探求する一族だった。
外界から隔絶された山奥で、ひたすらに魔術の深淵を探求するその場所で。
しかし私は、魔術の才能がこれっぽっちもなかった。
当然周囲からは浮いてしまうわけだが――私には、魔術とは異なる全く別の才能があった。
剣の才能だ。
元はさえないオタク男性だった私が、剣を握れば如何にそれを振るえばいいのか解る。
体は思考をトレースするかのごとく動き。
持ちうるスキルはその殆どが剣を扱うのに特化したもの。
鍛えれば鍛えるほど、身体能力は研ぎ澄まされ高まっていった。
故に私は、異端と呼ばれた。
魔術の一族に生まれながら、魔術ではなく剣術に愛され。
その容姿は、髪色がカラフル極まりなく、美男美女の多い異世界に置いてもなお妖艶と言われる特異さで。
まさしく私は、異端と呼ばれるにふさわしい存在だったのだろう。
ただ、だからといって別にどうということはなかった。
世界を善くしようとも思わない。
傾けようとも思わない。
たとえそれが、私の才能と容姿ならたやすく可能だったとしても、だ。
周囲は色々と言ってくるけれど、私は対して気にもとめていなかったのである。
だって私は、別にしたくて転生したわけでもないのだから。
才能も容姿も、望んで手に入れたものではない。
別に私は、転生したかったわけではない。
仕事は確かに面倒だったけれど、オタクとしての生活はそれなりに充実していて。
趣味のために我慢して勤労に勤しむその生活は、思い返してみればそこそこ恵まれていたのだ。
とはいえ、異世界に転生するにあたって才能や容姿に恵まれていることが悪いということは決してない。
むしろ、血なまぐさいことが平気で起こり得る異世界で、武器と言える物があるのはこれも恵まれていると言えるだろう。
前世と、来世。
どちらが良いかと言われたら、正直悩む。
メリットもあれば、デメリットもあり。
結論、まぁどっちでもいいか。
適当でいいのだ、適当で。
前世も適当だったのだから。
どれだけ才能と容姿が特別だったとしても。
異端にして妖艶と言われようとも。
私、リーフェ・マギクスハートは適当に生きるのだ。
+
この世界において、私のような剣士の最も普通といえる生き方は、まぁ冒険者であると考えるべきだ。
国に仕えて、民のために働くという選択肢もあるが。
そういう責任の大きい生き方は普通じゃない。
というか面倒なのでやりたくない。
そもそも故郷である”里”との縁が切れていない以上、実質私は里の人間だ。
なのでまぁ、外の世界を回るならやっぱり冒険者として振る舞うのが妥当なところだろう。
何がいいたいかと言えば、現在私は冒険者として魔物の討伐依頼を受けていた。
「……この辺りか」
冒険者。
ギルドに所属し、依頼を受けてそれを解決する何でも屋。
異世界の定番はこの世界においても変わらない。
で、私は今その依頼で町外れの森にやってきている。
「暴れた形跡があるな……聞いてた通り、大物っぽい」
静かな森は、けれども壮絶な破壊痕をあちこちに残していた。
異様な光景だ。
鉤爪で、木々が薙ぎ払われあちこちに爪痕を残している。
やたらめったらに破壊しているものだから、この破壊痕がどこに向かっているかわからないのも困るな。
「とりあえず、破壊痕のある場所を探せばいいのは間違いないのだけど……」
どっちにしろ、探すのは少し骨が折れそうだ。
と、思っていた矢先。
”グルルゥォオオオオオオオオッッッ!!”
森そのものを引き裂くような咆哮が響き渡った。
間違いない、今回の討伐対象だ。
向こうから位置を教えてくれるなんて、なんて優しい魔物なのだろう。
私は足に力を込める。
「――”脚力強化・中”」
そう口にした途端、足に淡い光のようなものが宿り。
私は勢いよく木々の上まで飛び上がった。
音のする咆哮を目指すなら、木をかき分けるなんて時間の無駄だ。
木の上を飛び移って、ささっと目指すとしよう。
――スキル。
この世界には、そう呼ばれる特別な力が存在する。
先ほど私が使った”脚力強化・中”のように、身体能力を強化したりするものがほとんどだ。
そして、魔術はスキルに該当しない。
簡単に言うと、魔術師は魔術を、剣士はスキルを扱うのがこの世界の常識。
なので、剣の天才である私は色々なスキルが使えるんだな。
ともかく、そうしてスキルで強化した脚力を活かして、私は魔物のいる場所に急ぐのだった。
+
上空から一息に、咆哮の主へと斬りかかる。
相手は大型のクマ型魔獣、聞いていた通りだ。
名をブランクサンベア。
長いな、クマ型魔獣でいいよもう。
”グルァアアアアッ!”
こちらの強襲に驚きながらも、きっちり爪で私の剣を受け止めてくる。
でも残念、こちらは剣を一本しか握っていないわけじゃない。
空中でありながら身をひねり、クマ型魔獣の腕を引き上げるともう片方の手に握られている剣で切断する。
血しぶきが舞う中、地面に着地した私は血しぶきが降りかかる前にクマ型魔獣へ斬りかかる。
”グァアアゥ!”
「逃げるなよ!」
しかしそこは、仮に高ランク魔物。
叫びながら後退し、なんとか私の剣を躱す。
追撃にはもう一歩踏み込む必要がある状況で、今度はクマ型魔獣がまだ残っている爪を振りかぶってきた。
「そうそうそれでいいんだって!」
が、そこはそもそも攻撃すること自体が不正解。
私はそれを最小限の動きで躱すと、反撃とばかりに剣を振るってもう片方の腕も切り落とす。
”グッ! アアァアアアォオオオオオオウッ!”
痛みをこらえながら叫ぶクマ。
対する私は更に踏み込んで、一気に二本の剣を奴の心臓――魔物を構成する”核”と呼ばれる部分に突き刺す。
鈍く何かが砕けるような感触の後。
クマ型魔獣は動かなくなった。
「一丁上がり、と」
低ランクの冒険者なら、複数人でかかっても全滅は免れない強敵だった。
というか、だからこそ私みたいなのがここに”派遣”されるわけで。
しかし私にしてみれば、切れば死ぬ相手というのは楽でいい。
強い魔物になると、切るにも一工夫いるような化け物ばっかりなんだから。
「素材も回収しないとな」
みれば、先程までいたクマ型魔獣の姿はどこにもなく。
あるのは無骨な爪だけ。
魔物は核を破壊すると消えてしまうのだ。
そして、ドロップ素材だけが残る。
さっきのクマ型魔獣の場合は、この爪。
もしくは、肉。
爪のほうがレアドロップだ。
「でも肉が欲しかったなー、熊肉ー、異世界熊肉食べたいよー」
ただ、私としては爪じゃなくて肉を想定していた。
この依頼を受けた理由の一つに、クマ型魔獣の肉を食べるという目的が少なからずあったからだ。
いやだって、美味しいんだもの。
この世界の魔獣のドロップした食材は、やたらと美味しいことで知られている。
特に高ランク魔物の肉とか、前世ですら食べたことのないような絶品ばかりだ。
あー、残念だなぁ。
「方針変更、この爪を売っぱらった金で、街で一番美味いと噂の高級料理店に……行く!」
そう叫んで、私は爪をアイテムボックスに格納すると、急ぎ街へ帰還するのだった。
+
リーフェ・マギクスハート。
魔心の里と呼ばれる、魔術を探求する”エルフ”の血を引く一族の生まれ。
妖艶とも言われる美貌と、魔術師の里に生まれた天賦の剣才という異端。
そして何より、その浮世離れした性格から、彼女を心酔するものは多い。
これはそんなTS転生者が、本人基準では適当に。
周囲の脳を焼いたり、無双して人々を救ったりする物語だ。
適当に剣を振るって自由気ままに生きる、他人の脳とか気軽に粉砕するタイプのTS転生者のお話です。
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