異端にして妖艶のTS転生者、適当に生きる。 作:アツスイ
私、リーフェ・マギクスハートがこの世に生を受けたのは今から二十と少し前。
魔術の一族といっても、私の生まれは一族の端っこ。
木端な家の三女というなんとも地味な生まれだった。
おかげでそもそも、一族の中で期待なんかされておらず。
魔術の才能がとことんないとわかっても失望こそされたが、存在そのものが否定されることはなかった。
何より、魔術の才能が乏しい人間はある程度の年齢まで育ったら里を追い出される。
その中に、一切魔術の才能がない人間が一人混じっていても、別にそこまでおかしなことはなかったのだ。
私に、剣の才能があると解るまでは。
きっかけは些細なことだったと思う、せっかくファンタジー世界に転生したのだからと、適当に棒切を見つけて振ってみたのが始まりだったか。
里の子どもたちとイタズラで物置に潜り込み、手入れのされていない剣が無造作に捨て置かれているのを見つけたのが始まりだったか。
ただまぁ、そこからは早かった。
魔術を学ぶ理由のなかった私は、黙々と剣を振り続けた。
振れば振るほど強くなり、スキルはわんさか覚えるわ、身体能力は人間やめていくわで大変だった。
それでも、他に娯楽のない生活だ、強くなっていくのが案外楽しかったのは覚えている。
これなら里を追い出されても、食うに困ることはないなと呑気に考えながら。
私は無尽蔵に強くなっていったのだ。
ただ、風向きが変わったのが剣の才能を里の人間に知られたこと。
大抵の人は、魔術の使えない人間の才能なんてどうでもよかった。
でも、そうでもない人もいて。
中にはヤッカミで私に絡んでくるやつもいたのだ。
こういうのに舐められたら一生立場が悪くなり続けるし、何より問題を起こして追い出されても困らないくらい私は強くなっていたので、私はそれに正面から対応した。
後に残らない程度にボコボコにしたのである。
が、まぁそれがあんまりよくなかったのだろう。
なんと私は排斥されるでもなく、むしろ周囲から一目置かれるようになった。
美しくはあるが奇異で妖艶な容姿と、魔術の里でありながら稀代の剣士という異端さ。
それが相まって、なんというか里の主流派ではない人間から支持を集めてしまったのである。
追い出される同年代の人間から、旗頭になってくれとも言われたな。
ハッキリ言おう。
いや、めんどいて。
というわけで、バッサリ断っていたのだが。
なぜかその方がより私に支持が集まる始末。
最終的には、村の正当な後継であり、魔心の里始まって以来の魔術の天才なんて呼ばれた”魔公女”と呼ばれる少女との派閥争いに発展する始末。
いやぁ当時の抗争は凄まじかった。
参加しているのが里の若い連中ということもあって、熱意がすごい。
大人たちは、下手に介入して暴発するのを恐れて日和見。
最悪けが人が出るんじゃないか、という自体にまで発展。
――したところで、私が里の後継は”魔公女”だと明言、”魔公女”もそれを受け入れて抗争は終わった。
いや、宣言したらめちゃくちゃピタっと止まるもんだから。
すごいですよ、統率。
私は何もしていないのに、勝手に盛り上がって勝手に終わった。
いや、ホントなんだったんだろう、アレ。
まぁ、終息した理由はわかるんですよ。
魔公女が私を”側近”として重用すると宣言したから。
私に心酔してた連中は、私が立場を手に入れれば納得する。
魔公女についてた連中は、魔公女の魔術の腕に心酔してるから言うことを聞く。
何より、大人たちがもうそれしかねぇと全乗っかりしたのもよかったのだろう。
結果として、里の木端な家の娘として生まれ、排斥される立場にあった私は、しかし。
いつの間にか里のナンバー2の立場を手に入れていた。
いやあ、適当に生きていたらまさかそんなことになるなんて。
でも、正直今の立場は決して悪いものじゃない。
今の私のやっていることと言えば、現族長である”天魔”ちゃんの言う事を聞いて世界各地を周り。
人々を苦しめる魔物をやっつけるだけ。
単純作業だ、立場はえらくなったけど前世の社畜時代とそう変わらないのである。
里の名前が使えるから、タダの冒険者をしているより身元がはっきりするし、何より懐に余裕がある。
なのでまぁ、私は今の適当な生活をそこそこ満足しながら送っているわけである。
前世の娯楽が恋しくなる時もあるけどね。
+
ギルドに入ると、そこはなんとも言えない騒がしさに満ちていた。
まだ昼も少し過ぎたばかりということで、屯している客層の質が悪い。
冒険者には、ダンジョンや魔物を討伐して成り上がろうっていう意識の高いやつと、日銭を稼いでなんとか毎日をやり過ごそうっていう意識の低い奴らがいる。
前者は基本、1日中ダンジョンとかに潜っているから、そうそうこの時間にはいない。
今いるのは後者が殆どってことだな。
「受付さん、素材の買い取りと依頼の完了報告がしたいんだけど」
「おう、ちっとまってな」
そんなだからか、受付にいるのも屈強なおっさんだ。
夕方には、美人なお姉さんが受付嬢をしてたりするんだろうけど。
――それはそれとして、周囲の視線がやたらと不躾である。
今の私はフードで顔を隠しているが、小柄な女であることはひと目で分かる。
特徴的すぎる顔を隠しているせいで、舐められているのが今だ。
まぁ、絡んでくるなら絡んでくるといい。
そういう相手を適当にあしらうとスッキリするので、私は嫌いじゃないぞ。
と、思っていたら。
「んで、どんな素材と依頼の報告だって?」
「ブランクサンベアの爪と、森の大型魔獣討伐依頼の報告だよ」
「……何?」
その一言に、ざわ……と荒くれ者たちがどよめいた。
嘘だろ、あんなガキが? とか。
何かの冗談だろ? とか聞こえてくる。
失礼な連中だな、まぁそう思うのも無理はないけど。
とりあえず、気にすることなくアイテムボックスから爪を取り出した。
「こいつぁ……マジモンじゃねぇか! お嬢ちゃんがやったのか!?」
「でなけりゃ、依頼の報告はしないでしょ? 本当は熊肉が欲しかったんだけど」
「まぁ、ブランクサンベアっていやぁ、肉が絶品で有名だからな……じゃねぇ。たしかあの依頼は、ウチじゃ処理しきれねぇからって他所にも投げてたはず」
どうやら、受付のおっさんは目がいいらしい。
というか荒くれ者を制御できるから受付を任されてるんだろう、元は高ランク冒険者だったのか。
何にしても、ブランクサンベアの爪を一発で見極めることができるらしい。
そして、空中に何やら画面を出現させて、それをスクロールしている。
この世界には、魔術を使った空中投影モニターなんてものがあるので、これはそれを利用しているのだ。
変なところで前世よりハイテクである。
「……受けたのは、魔心の里!? ってことは嬢ちゃんまさか……!」
「一応、顔を隠してるんだから詮索は非推奨なんだけどな。まぁ、別にいいよ」
言いながら、私はフードを拭い去る。
妖艶と評されるその相貌が、周囲に曝された。
「リーフェ・マギクスハート。里から依頼を受けて降りてきたんだ。この顔を見れば……まぁ、疑う余地はないよね?」
「――――魔心の剣姫!」
おっさんが叫ぶ。
魔心の里のちんちくりんで、ちょっと人間離れした美貌の少女(成人済み)といえば私。
リーフェ・マギクスハートを置いて他にいない。
同時に、周囲の視線が困惑と恐怖と嘲りに変わる。
半信半疑なものは困惑し、正体を確信したものは恐怖し、偽物だと判断したやつがあざけっている。
私に対して好奇の目線を向けるものはいない。
確かに私は絶世の美貌を有しているが、この世界の性癖は基本的にムチムチデカパイが主流である。
それは前世とそう変わらない、ただこの世界は顔も発育もいい女が多いのでよりその傾向が強いだけ。
妖艶と私が評されるのも、私の美貌が”普通”じゃないからそう評されるのだ。
ただ、ビジュアル自体は壮絶にいいので、受けは悪くない。
欲情されることがほとんどないというだけだ。
話がそれた。
「元々私は、里からギルドの大型魔物討伐依頼を受けてここまで来たんだ。だから当然のことをしたまでだよ」
「そいつぁ……ありがてぇ話だな」
「今日はこの爪の買い取りで出たお金を使って、この街の有名料理店で豪遊するんだ」
「あああの店。雰囲気で観光客を騙して適当な食材をたっかい値段で売りつける詐欺の店だぜ。行かないほうがいい」
「え? マジで?」
まじまじ、と頷くおっさん。
それじゃあ熊肉も食べられないし、美味しい料理で豪遊もできない。
私は何のためにこの街へ来たんだ?
楽しみにしてたことのうち、一つしか楽しみを完遂できなかったじゃないか。
完全に騙された気分だよ。
そのまま、受付のおっさんと話をしているうちに、盛り上がっていろんなことをはなした。
おすすめの料理屋とか、宿とか。
そうこうしていると、周りで私とおっさんの会話に聞き耳を立てていた荒くれ者どもがはなしに混じってくる。
気分良くはなしていると、気が良くなってくるものだから私は酒を頼む。
昼食もついでにここで済ましてしまえ、とつまみを色々用意してもらって。
更には周りの荒くれ者どもに酒を振る舞ったら、あっという間にギルドは大盛りあがりだ。
別に、私は前世の頃から口が上手いつもりはない。
盛り上げ上手だとも思っていない。
しかし、なんかよくわからないが人と話をしていると、いつの間にかこうなっている。
不思議だ。
少し酒をタダで振る舞って、各地を旅した話を聞かせてやって、剣を抜いて軽く武芸を披露しているだけだと言うのに。
不思議だ。
こういうのは、特に荒くれ連中にウケが良い。
まぁ、おかげかどうかしらないが、荒くれに貞操を狙われる危険は今のところ経験してないから。
悪いことではないのだと思う。
でも不思議だ。
んで、そうこうしていると時間はあっという間に過ぎていき。
意識の高い真面目な冒険者達が帰ってきた。
すると彼らは見るだろう、いつもギルドで管を巻いている迷惑な連中が、やたら顔のいいちんちくりんと妙に盛り上がっている……と。
なんだこれ、という変な視線が私達に向けられる。
正直、このときの私は酒で気が大きくなっているので細かいことは気にしない。
このまま夜まで飲み明かそうか、とそんな事を考えていると。
「――――剣姫様?」
ふと、ローブ姿の男に声をかけられた。
さぁ――――っと、血の気が引いていく。
私のことを剣姫様なんて呼ぶ連中は、
というか、振り向いてそちらをみたら、思いっきり
こんなところ、里の連中に見られたら、後で怒られる!
「……やあ、なんのようかな? ええと……ラフィアンくん?」
「ライアンです。……何してるんですか?」
やっべえ、名前間違えた。
でも十年前に里を出て以来の相手の顔をある程度一致させただけでも、頑張ったと思うんですよ私――――
小柄で世界観が違うタイプの美人で、話してる内に盛り上がって酒とか奢ってくれて、旅の話とか剣の腕を披露してくれるタイプのお姉さん(TS転生者)は好きですか?
みたいな話、私は好きです。