異端にして妖艶のTS転生者、適当に生きる。   作:アツスイ

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3 里の同輩、再開する

 魔心の里は、魔術を探求する一族だ。

 かつては数千年前、この世界では伝説の種族とされるエルフが里を開き、少しずつ人間の血を受け入れて今に至る。

 まぁ、今となってはエルフの残滓はやたらと長い耳だけで。

 とはいえその耳が、その人物が魔心の里出身であるという何よりの証拠だった。

 

 私がそうであるように、眼の前の青年。

 ライアンくんも、そのあまり印象に残らない相貌を長耳で飾っている。

 マントに鎧の、伝統的な冒険者スタイル。

 鎧に刻まれた魔心の里の紋章も、彼の立場を端的にあらわしている。

 

 彼が何をしているのかといえば、出稼ぎだ。

 魔心の里はそれ相応に権威のある場所なのだけど、身内だけで生きていけるわけではない。

 金を稼ぐ必要はあるし、時には研究成果を商売道具に市井の大学で教鞭をとることもある。

 ライアンくんは、そういう出稼ぎ部隊の人間だ。

 

「やあやあライアンくん、元気そうで何よりだね。いや私は少し里の任務でこの街を訪れていたんだけど。まさか君と再開するなんてねぇ。いやぁ奇遇だなぁ!」

「……低ランク冒険者と、酒を呑んで遊んでいるようにしか見えませんが」

「それは誤解ってものだよ! 何せ依頼自体はもうすでに達成したんだから! ブランクサンベアだって、ほらこの通り」

 

 そういって私は、マジックアイテムを使って依頼の達成報告をライアンくんの眼の前に表示する。

 こういうステータスオープン、って言うと出てくるウインドウみたいなの……いいよね。

 楽。

 

「それはすごい……と思ったんですが。剣姫様は族長様から、この街近辺に出た高ランク魔物は二体いる……と聞いているはずでは?」

「うえ? そうだっけ?」

 

 え、なにそれ知らない。

 私の記憶だと、この街に高ランク魔物が出るからそれを退治してきてって話だったんだけど。

 まさか、私が確認をサボった指示書の中に書かれている……?(6敗)

 

「……あ、ホントだ。指示書に二体って書いてある」

「読んでいなかったのですか? とにかく、こっちは大変だったんですよ。もう一体の高ランク魔物が()()()()()()()()()()()んです」

「ほほう、私がクマ公に時間を割いている間にそんなことが」

 

 いやま。

 割いた時間は圧倒的に飲み会の方が長かったけど、そこはそれ。

 不幸な伝達ミスがあったというだけの話だ。

 後、ライアンくんは同じ魔心の里の人間だというのにどこで何をしていたのかと思ったら、別の魔物を追っかけてたのか。

 私より仕事をしているな。

 

「そうなると、私はなんて無駄なことを……君たちにしてみれば、本命はその正体不明の魔物だろ?」

「いえ、実際は非常にありがたかったです。ブランクサンベアのせいで、高ランクの冒険者も捜索に乗り気じゃなくて。仮に鉢合わせて戦闘になったら大損害だからって」

「なんてやつらだ。私が言って説教してやらないと」

「……酔っぱらいが酔って説教してるだけになりますから、絶対にやめてくださいね?」

 

 なんらとぉ。

 ともあれ、そういうことなら私のやったことも何ら無駄ではなかったということだ。

 いやぁよかったよかった(グビグビ)。

 

 とにかく、話をまとめよう。

 ライアンくんは、魔心の里の出稼ぎ部隊の人間。

 外の世界に出て、冒険者としてお金を稼いでいるのである。

 こうすることでライアンくんには様々な利点があるけれど。

 一番の利点は、何と言っても里の名前を使えることだろう。

 私もお世話になっているが、里の名前を使えると交渉とかが非常にスムーズに進むんだ。

 

 さて、そんなライアンくんは現在、この街を拠点にしているらしい。

 そんな街に、突如として復数の大型魔物が現れた。

 一匹はブランクサンベア、私がさっき倒した高ランクの魔物。

 もう一匹が完全に正体不明。

 こいつを探すためにライアンくんは頑張っていたわけだが、そうすると今度は自由気ままに暴れまわるブランクサンベアが邪魔だったわけだ。

 それを私が討伐したことで、今後はかなり自由に動けるってことだな。

 

「とにかく、そういうことなら私は明日から、その正体不明魔物捜索に加わればいいのかな?」

「あー、いや……どうなんですかね?」

「なぜ、いきなりそこで言い淀む?」

 

 別にやましいことなんて全く無いだろうに。

 というか、これが私の任務なんだからむしろ加われないと困るんだけど。

 

「理由は簡単だ。こいつが剣姫に自分の腕前を披露するのが恥ずかしいんだ」

「ギルド長!? いきなり何言い出すんですか?!」

「うおおう、さっき受付してくれたおっさんじゃないか。え、ギルド長だったの?」

 

 やっべぇな、内心ずっとおっさん呼びだったし、若干視線がつるつるな頭へ常に固定されてたよ。

 それはそれとして、ライアンくんとギルド長のおっさんは親しい仲だったらしい。

 

「お前さんも知ってるかも知れないが、この街に来た当初のコイツは天狗になってるガキだったんだ」

「ああうん、彼は才能すごいからね。――魔術戦闘の才能が」

 

 さて、魔心の里は魔術を探求する者たちの里。

 言い換えれば研究者気質な連中の集まりなんだけど、中にはあまり魔術研究が得意でないやつもいる。

 私とか、私とか、ライアンくんとか。

 ライアンくんは、典型的な研究はできないけど魔術に関しては才能のあるタイプだった。

 たまにいるのだ、感覚だけで魔術を手足のように操ってしまう天才が。

 それがライアンくん。

 

「里でも何かと私に、ちょっかいをかけてきてたよね。その度に適当にあしらってたけど」

「そ、そのことは関係ないでしょう!」

「その頃にもう少し、プライドがへし折れてればあんなことにはなってなかったんだろうがなぁ」

「それも、今は触れることではないはずです、ギルド長!」

 

 なんて話をしていると、話題は自然とソレていった。

 そもそも、ライアンくんが正体不明魔物に私を同行させたくない理由は、恥ずかしいからだとはっきりしている。

 だったらここでこれ以上、そちらに話を向ける必要はない。

 明日、正体不明魔物を探す時に聞けばいいのだ。

 

「え? ライアンくんもうBランクなの? 早すぎじゃない? さっすが天才」

「それを言ったら、剣姫様はAランク冒険者じゃないですか」

「私のこれは特Aランクといって、特別に与えられたものなんだ。一般的な冒険者と違って試験を突破して得たものじゃないよ」

「貴族のお偉いさんなんかが、分け合って冒険者のマネごとをする必要が出てきた時に発行されるシロモノだな。魔心の里の族長側近も、貴族といえば貴族だろう」

 

 なんて話をしたり。

 

「だから私は、ただ魔術を使うだけではなく。魔術を中心とした戦術を組み立てることを思いついたのです」

「なるほど、強い冒険者にボコられて、その対策として魔術を用いた独自の戦闘スタイルを確立した……と。里をでていく時と、随分装備の構成も変わってるしねぇ」

「ざっくりまとめすぎです。とはいえ、変化した戦術の妙技はいずれ戦闘でお見せしますよ」

「さっきまで、あんな剣姫様といっしょに組みたくなさそうだったのに、酒が入ったらすぐこれだ。気が小せえんだか大きいんだかわかんねぇなぁ」

 

 なんて話をした。

 途中からは酒も入り、ライアンくんも大分調子が良くなってきている。

 このなんとなく偉そうな物言い、根っこは昔のライアンくんのままなんだな

 それとギルド長がこんなところで油を売っていていいのかと思ったら、今日の仕事は全部おわっているらしい。

 さっすがぁ。

 

「にしても、聞いてた話と少し違うな。剣姫様ってのは、里だと異端って言われて遠ざけられてたんだろう?」

「今は違うけど、小さい頃はそうだったね。この見た目と剣才だ。わからなくもないよ」

「その割に、ライアンの奴が大分お前さんと打ち解けてると思ってな」

 

 なるほど。

 確かに私とライアンくんは、ハッキリ言って結構水と油だ。

 才能が自分のアイデンティティのすべてであるライアンくんは、私によく食って掛かっていた。

 もっと言えば、当時の私は周囲から遠ざけられていて。

 一部の才能が乏しかった若者以外からは、マイナス感情を向けられることの方が多かっただろう。

 ただ、気がついたらそんな私の派閥みたいなものはデカくなっていて。

 里でも無視できない勢力になっていたのだけど。

 それにしたって、私に心酔するのはどちらかというと弱者側の人間だ。

 ライアンくんは違う。

 むしろ、あきらか魔公女ちゃん側につきそうなものなのだけど。

 

「そりゃあ、簡単だよ」

「ほう、どういうことだ?」

 

 しかし、それは少し間違った認識なのだ。

 なにせ――

 

 

「ライアンくん、私の派閥の人間だったんだもの。むしろ、筆頭と言ってもいいくらいだ」

 

 

 いやぁ、なんだってライアンくんはそんなに私にご執心だったんだろうねぇ。

 なんて、付け加えて。

 残念そうなものを見る目で、泥酔したライアンくんを眺めるギルド長のおっさんを肴に、私は愉しげに酒を飲むのだった。

 




わるいおんながいます。
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