今回から新章。仮面ライダーベノム編。楽しんでいただけたら幸いです。
第十九の清掃:すベてノみ込ム怪物
「もう仕事に行くの?」
ベッドから上体を起こし、巻野凛は身支度をしている恋人に声を投げ掛ける。
「ええ。雇われている以上はきっちりやらないとね。信頼は仕事において大事だもの」
応えた掃除屋は、昨晩無造作に脱ぎ捨てていた愛用のライダースーツを手に取り、軽く整えた。それを一旦鏡台の椅子に掛け、他にも勢いのまま散らばらせた衣服を、ベッド上の恋人の分まで集めていく。凛もまた、手の届くところにあった昨日のワイシャツを拾い上げ、仮で羽織りながら皮肉気に微笑んで何の気なく口にした掃除屋の言葉を返す。
「信頼、ね。……それは会社の社長秘書とこんな関係だってバレたら一気に失われてしまうものじゃない?」
「違いないわね。でも、私がチリヅカに留まり続けている理由なんだから、今さらどうこう気にする問題ではないわ」
「そういうところが貴女らしいわ。もっとも、他の人間からしたら意外でしょうけど」
自分にだけ見せてくれる一面を垣間見て、優越感を覚える凛。会ったばかりの頃の自分であっても、『あの』彼女が今こうして素肌を晒している光景など信じなかっただろう。それだけ親しく、密になったことが喜ばしい。そのまま凛はベッドを降り、薄桃色のシャツ一枚着た無防備な姿で掃除屋に歩み寄る。……何の支えも今はないその胸元はシャツのボタンを千切らんばかりだが、見せるのが自分のものより豊かで、直に触れることを許している恋人なのだから、こちらも今さらだ。
「凛もこれから出勤でしょう? お風呂は沸かしておいたから汗流して、今日も秘書の仕事頑張ってきてね」
「分かってる。信頼が大事だもの、ね。そっちも気を付けて行ってきてね、美華――いえ、掃除屋さん?」
擦り寄るように抱き合った二人は、流れるようにそれぞれの薄桃と青紫の艶髪をかき上げ唇を重ねる。また燃え上がってしまうといけないので、触れる程度。しばしの時を経て惜しむように離れると、凛の目には愛しい輝きの瞳が映る。それはライダースーツを着直してから掛けたサングラスの奥に隠れてしまった。仕事着を纏った掃除屋に対し、凛もスイッチをそちらに切り換える。
「――では本日開示指令のあった業務連絡を。町で不確定の事案が発生する可能性があるので、その対処を求めるとのことです」
「随分と曖昧な指示ね。最近の一件繋がりかしら。あれ以降社長も意味ありげな態度だし……まあ、行けば分かることね」
そう言って、秘書然としつつもそそられる格好の凛に今一度キスをして、掃除屋は先にホテルの部屋を出る。駐車場に留めたバイク、デリートチェイサーに乗り、直行で仕事へと向かっていく。それを見送った凛は、言う通り身綺麗にした後、予め持ち込んでいた替えのスーツを着込んでまた仕事の一日へと戻るのであった。
エレファントゴミリオンとの戦いから二週間後。トラッシュはマシントラッシュトライカーに、エコーはホーキージャベリンに、それぞれ駆って新東京都のビル群を駆け抜けていた。
「待て!これ以上、破壊はさせないぞ!」
「飛ぶより速いってほんとふざけてますわね!」
「お前らが遅いんだよ!馬鹿め!」
パカラッパカラッパカラッ!!
二人が追いかけているのは、下半身がエンジンで組み立てられた馬の形をしているケンタウロスのような姿の、馬のような顔を持つホースゴミリオン。車を弾き飛ばし、フェンスを蹴り飛ばし、ビルの中をまっすぐ突き進み、電車を真正面から轢いて爆走するホースゴミリオンによる被害は甚大であり、トラッシュとエコーはこれ以上の進撃を止めるべく追走していた。
「俺は走り続ける!止まるのは、死ぬ時だああ!」
「ルイみたいなこと言ってんじゃねえ!こうなったら……こいつだ!ヒカリ!」
「了解ですわ!」
エコーと並走しながらウェイストのジャンクキューブを取り出してかざし、エコーに浄化してもらって漂白されたそれをトラッシュドライバーに装填、ハンドルを押し込むトラッシュ。
『ジャンクキューブ!プレス!』
『オートラッシュ!息の根ストップ!ウィキッドゾンビー!……クレンジング!!光溢れる!ソリッドアライブ!』
「喰らえ!」
『スプレディーゴー!マッハー!』
ソリッドアライブに変身し、ジョーカスプレイザーの銃口を左回しに回転させて細く絞ったレーザーを放ち、ホースゴミリオンを狙い撃つトラッシュ。しかしホースゴミリオンは凄まじい速さで跳躍して回避、前を走っていたバスを踏み潰し、また跳躍して道路に戻る。
「喰らえ!って言って当たってたまるか!俺は止まんねえからよ…!」
「馬だけに耳もいいのか!」
「このままじゃ…きゃあ!?」
すると背中を展開してそこからニンジンのようなミサイルを複数飛ばしてくるホースゴミリオン。空を飛んでいたエコーはまともに直撃をもらい、撃墜。トラッシュも咄嗟に銃口を戻して放射状に拡散するレーザーで撃墜するも、爆発に飲まれてブレーキをかけてしまう。
『スプレディーゴー!カクサーン!』
「くそっ…!」
「お前らのスピードもなかなかのもんだったぜ!あばよ!」
そのまま走り去るホースゴミリオン。トラッシュは一か八か、銃口を左回しに回転させて、高速のレーザーで狙撃しようと試みる。高速で動くホースゴミリオンに、銃なんてろくに使ったことないトラッシュでは狙いが定まらない。さらにホースゴミリオンの目の前には、通りすがりの親子三人がいて。万事休すかと思われたその時。何かが上から落ちてきた。
「げふぅっ!?」
『ギャハハハアハハハハハハハハッ!』
ホースゴミリオンをドロップキックで踏み潰し、背中を踏みつけながら両腕を引きちぎるそれは、異形だった。ドロドロとした光が反射するどす黒い緑で塗られた大柄のボディの大男。まるで体の中から突き出るように木片や鉄パイプなどのゴミが胴体で鎧を形作っており、大きく開いた牙が生え揃った口の中に鋭く尖った赤い複眼が輝いている頭部を持つ。
「なんだ、あいつ…?」
『おい、仮面ライダーだぜあれ!』
その腰には、メカニカルな鋭い牙の生え揃った口のようなバックルが配線コードでベルトを巻いており、仮面ライダーの様だった。バックルがガパッガパッと開いて喋っている。当の本人は何も喋らず、ただただバックルだけが嗤って残虐にホースゴミリオンを殴りつけて痛めつける。親子は寄せ集まって震えており、子供に至っては涙すら流して顔を引きつらせている。
『お前は、餌だあああ!』
「ひいっ、やめっ……!?」
胸を右手で貫いて引っこ抜き、血液代わりの廃液をまき散らして一身に浴びる黒緑の仮面ライダー。その手に鷲掴みにした心臓……ジャンクキューブの様な四角いそれを、バックルの口に装填したかと思えば、バックルは何とそのまま噛み砕いてしまった。
『ジャンクキューブ……ジューシー……!』
『あ、あいつ……ジャンクキューブを味わってやがる……』
「何をする気だ…?まさか!」
『相棒!俺達の力を試そうぜえ!…マゼマゼ……!ベノミックス……!』
もぐもぐと口を動かしていたかと思えば、バックル……ベノムドライバーが涎の様にダバアと溢れた重油の様なドロドロとした液体を溢れさせ、仮面ライダー……仮面ライダーベノムは、右拳にそれを纏ってその場で振り上げる。
「やめろお!」
『ベノムカルネイジッッ!』
そしてベノムは右腕を振り下ろし、纏った液体が大爆発。その爆発でトラッシュを吹き飛ばし、ドロドロとした津波が発生。周囲十数メートルの人間や街をトラッシュ含めてすべて飲み込むと、ベノムの元まで引きずり込んで、ベノムを中心に巨大な黒緑色の竜巻を作り上げると、上空で集束。
『相棒!こいつはやばい!早く出るんだ!』
「くっ…!」
咄嗟にジョーカスプレイザーを乱射して脱出したトラッシュが脱出した瞬間、雑巾を絞る様に圧縮して、ベノムドライバーの中に吸い込んでいく。
『げふっ。ごちそうさまでしたぁ』
ベノムドライバーの言葉に合わせて合掌したベノムは、満身創痍のトラッシュを一瞥すると、腰をかがめて跳躍してその場を去っていった。
「いったあ……あの馬、よくもぶっ飛ばしてくれましたわね……」
『傷が化膿したら不味い。ボクが消毒しよう』
一方、ホースゴミリオンに撃墜されたヒカリは変身が解けて公園に転がっていた。ホースゴミリオンの爆走で人が避難していたため顔バレせずにすんだが、それでも痛いものは痛い。頭を抱えていると、背後から物音。振り向くと、誰かが倒れているのを見つけた。
「ハア、ハア……」
「ちょっと、大丈夫ですの!?まさかあの馬に巻き込まれて……あら?貴女は……」
目を見開くヒカリ。そこにいたのは、二週間前に出会った人物……チリヅカの清掃員、北内沙羅だった。
社長にも内緒な大人な関係の掃除屋と社長秘書こと巻野凛。これに伴いタグを追加しました。
ホースゴミリオンに苦戦するトラッシュ&エコー。そこに乱入して新登場、仮面ライダーベノム。街の一角が吹き飛ぶ大惨事を引き起こしてます。
そしてヒカリが再会したのは、神奈川編で放置されて終わった清掃員、北内沙羅。彼女の所属しているチリヅカの闇が、今回の話の肝となります。
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