今回は北内沙羅のお話。楽しんでいただけたら幸いです。
予備で持っていたバイクのジャンクキューブを使ってマシントラッシュトライカーで喫茶店跡地……自宅に帰還した怜二。明かりがついている、同居人がいることは確定だ。
「ヒカリ、人を拾ったってなにが……あっ」
「あっ」
「きゃあ!?」
扉を開けた途端、固まる怜二。風呂に入った後に涼んでいたのだろう、上半身下着姿でドライヤーをかけていたヒカリと、メガネがないものの見覚えのある女性がいた。ヒカリは特に気にしてない様だったが、もう一人の女性は悲鳴を上げて近くの小物入れを投げつける。それは見事、カコンと怜二の額に炸裂した。
「ぐへっ」
『相棒、女性がいるのわかってるのにノックもなしに入るのはマナー違反だぜ』
「ここ、俺の自宅だよ……」
「大丈夫ですの?怜二」
「これぐらいはな。……それで、見た顔だな。アンタは確か……」
「き、
「八多喜玲二だ。そのことは内緒な?」
バーンアウトサイドで出会ったチリヅカの清掃員であるサラに、怜二は首を傾げる。たしか、タンゲが縮められてゲッタに踏み潰されて殺されて、サラ本人も気を失い。エレファントゴミリオンを倒した後に目を覚まして、その顛末を本部に報告するとして帰還したはずだ。
「行き倒れていたと聞いたが……」
「はい、その…えっと、恥ずかしい話なんですが」
「サラは、チリヅカをクビになったようですわ。でも、それだけじゃありませんの」
聞けば、上司に顛末を報告した後に責任を取るという形でクビにされたらしい。そこまではよくある話。問題はそのあとに、会社を出た直後に何者かに拉致され、目を覚ましたら暗い場所に猿轡をはめられ、まるで巨大な布のようなもので縛られ拘束されていたというのだ。
「拉致誘拐!?いや、今無事ってことは……どういうことだ?」
「それが、よくわからないんですの」
拘束されたサラは、そのまま勝手に動き出した布に縛られたまま連れられ、暗い道を通って酷くきつい異臭の漂う空間に連れていかれたらしい。そこは、どす黒い液体で満たされた沼の様な場所だった。そこにいた髑髏の仮面を被った男と、狐の様な面を被った女が、告げたのだという。
――――――「君は仕事を失い、底辺の存在となった。すなわちゴミだ!ゴミのポイ捨てはダメだ。ゴミだろうと再利用しないとなあ?」
――――――「これは
ちょうど傍を歩いていたネズミを摘まみ上げ、沼の様なそれに落とす狐面の女。ネズミはそのドロドロとした液体に触れた途端、骨だけとなって沈んでいった。サラはそれを見て心底恐怖したという。
「……私、抵抗もできないままそれに落とされて……目を覚ましたら、私はあの公園で倒れて居ました……」
「……妙な話だな。君が無事なのもおかしいし、何より何でそいつらは解放したんだ?いったい何が目的で……」
「私にもわかりません……」
「見つけた時、彼女の服はボロボロでしたわ。そんな格好でいさせるわけにもいかなかったので、タクシーを呼んでここに」
「……つまり、その王の血液とやらは人間には影響がなかった…?だから、解放したのか?」
『王ってついさっきも聞いたなあ』
トラの言葉に頷く怜二。髑髏の仮面の男は知らないが、狐の面の女はついさっき出会ったばかりだ。トラを作ったチリヅカの人間、ネリー・ホワイトこと仮面ライダーローネだ。つまりチリヅカが、クビにしたサラでなにかをやっていたということになる。解せない話だ。だが、これを話すのは不味いと判断する。恐慌状態のサラに、犯人がチリヅカだと言うのはさすがにダメだろう、と。
「とりあえず、服はヒカリのを借りればいいとして……家まで送るよ。どこにあるんだ?」
「私、社宅だったので家はありません……実家は本州にあったので……」
「ああ、君も
「私物も持っていたんですが、恐らく拉致られた時に……」
「そうか……」
どうしたものか、と考える。このまま放置したら、またチリヅカに狙われる可能性が高い。私物を失ったということは携帯端末とか財布や身分証もアウトだろう。そんな状態ではホテルにすら泊まれないのは明白だった。
「……しょうがないな。北内さん、いや。サラさん。貴女が良ければ、うちに泊まるか?幸いなことに空き部屋はたくさんある。必要な者も……携帯端末みたいな高価なものは無理だけど、買いそろえよう」
「え……?いいん、ですか?私みたいな愚図を……」
「チリヅカの清掃員になれた時点で卑下することはないと思うんだが……」
「そうですわ!この方エリートでしたわ!」
「もう違いますし……本当に?」
「ヒカリでやったから二度目だしな。一人も二人もおなじだろう」
『同じじゃないと思うぜ相棒……』
経済的に不味いんじゃないかと指摘するトラを小突く怜二。たしかにそうだが、それを理由に見捨てるのは違うだろうと。怜二の信念がそう告げるのだ。
「俺は金がないからってなにもできない世界は間違ってると思うんだ。少しでも、力になれるならそうするよ」
「素晴らしい信念をお持ちなんですね……わたしも、ただみんなが綺麗な世界で笑って暮らせるように……そう思ってチリヅカに就職したのにこんなことになるなんて……」
「サラさんの思いもすごくいいと思うよ、俺は」
「サラでいいです、これからよろしくお願いします。怜二さん」
「歓迎しますわ!」
こうして、居候がまた一人増えたのだった。
ヒカリにベノムやローネのことを共有し、やはり現れ続けるゴミリオンを倒しつつ、三人でフリーの清掃員として掃除を行う日々。サラも戦えないながらもトラッシュとエコーの特性を熟知して的確な指示を行うという方法で助力しており、スムーズに戦いを行える。
「チリヅカの清掃員はゴミリオンの退治も仕事の一つです。掃除屋がほとんど片付けるのですが」
「掃除屋か……あいつが来る前に倒してるけど、仕事を奪ってることになるのかな」
「奪っていいですわあんなやつ!」
ゲッタを目の前で倒されたことを未だに根に持ってるヒカリが憤慨する。怜二も許せない気持ちは同じだが、それでも仮面ライダーとしてちゃんとゴミリオンを倒すところは好感を抱いていた。
「悪い奴じゃないと、思うんだけどな」
「人を殺す奴のどこが悪くないですの!」
「…っ。私、飲み物を買ってきます!」
辛そうに表情を歪めて、自動販売機を探して立ち去るサラに、怜二とヒカリは顔を見合わせ、やらかしたとばかりに頭を抱える。あの事件で上司を失い、職も失ったのだ。トラウマ確定なことを思い出させる会話は軽率だったと反省する。
自動販売機を探して路地裏に入ったサラ。胸を押さえて荒い息を吐いた。
「はあ、はあ……なんだろう、胸がざわざわする」
息を吐くたびに、その髪の色が毒々しい紫色に染まってくことに、サラ本人は気づいてない。すると、完全に髪の色が染まったところで、ジュクジュクと嫌な音が響いた。それに気づいて音の発信源を探して見渡すサラ。そこで、自分の髪の変化に気付いた。
「何の音…?え、なに、これ…?私の髪…なんで?」
『ふああっ……ようやくか。幸せな感情ばかりで、何時まで経っても俺を呼び覚ます負の感情を抱かないから、退屈だったぜ』
「え?え!?」
音の発生源……自らの腹部を見て、目を見開いて驚くサラ。そこにはいつの間にか、牙の生えた大きな口の様なバックル「ベノムドライバー」がベルトもないのにくっついていて、欠伸をして喋り出したのだ。
「え、なんで……?私、どうなって……」
『覚えてないのか?俺達で暴れ回っただろう。忘れたとは言わせないぜ』
低い男の声が響き渡り、ベノムドライバーを引きはがそうとするサラの右掌からゴボゴボと黒緑の液体が溢れだし、それは四角く固まりジャンクキューブ「毒」を形作る。左手で頭を抱えるサラの脳裏に、惨劇の光景が浮かぶ。それはすべて、自分の視点から見たもので。
「私は、こんなこと望んでない。ただ私は、みんなが綺麗な世界で笑って暮らせるように…ああ、あああああアアアアア!?」
『いいや違う。俺達は世界を蝕む猛毒……ベノムだ!』
頭を抱えたサラの手が勝手に動き出し、ベノムドライバーにジャンクキューブ「毒」を装填、項垂れたサラはベノムドライバーの牙のスイッチを押し込んだ。
『ジャンクキューブ……ジューシー……!』
そしてベノムドライバーがジャンクキューブを噛み砕き、狂った笑みを浮かべたサラの掛け声とともに圧縮された廃液が広がって全身を包み込み、ドロドロとサラの体が溶けていく。
『マゼマゼ……!ベノミックス…!』
「ヒヒヒッ、アハハハハハッ……変ッ身」
そして狂った笑みと共にサラの体はかき混ぜられ肉体が作り変えられていく。それは、文字通りの変身だった。
『スベテノミコム!ベ―ノーム―!』
そしてベルトの様に配線コードが腰に巻かれ、ドロドロとした光が反射するどす黒い緑で塗られた大柄のボディの大男の様な異形に変貌。まるで体の中から突き出るように木片や鉄パイプなどのゴミが胴体で鎧を形作っており、大きく開いた牙が生え揃った口の様な頭部の中に鋭く尖った赤い複眼が光り輝く。サラは、仮面ライダーベノムに変身した。
「全部、全部汚してやる……!」
本当の意味で生誕した悪魔が産声を上げた。
というわけでベノムの正体はサラでした。本人も知らないパターン。サソードとかそうだったね。纏うのではなく体を作り変えるタイプ。近いのはギルスかなあ。
王の血液たる廃液溜まり。そこはどこだったのか。髑髏の仮面の男は何者なのか。
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