激突!! ゲッター対ガイアー   作:いぶりがっこ

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第一話

――宇宙。

 

広大無辺にして、あまねく生命の揺り篭。

 

その恒星の数は、銀河系のみでも千億以上、それらを取り巻く惑星の数は数知れず。

生物の住めると思われる星だけでも、二億五千万から十億は存在すると言われている。

更に、恒星の数を宇宙全体に求めたならば、銀河系のそれの一千億倍にもなると言う……。

 

現在、そんな塵芥の如き惑星の一つが、存亡の危機を迎えようとしていた……。

 

 

 

全ての始まりは、突然の海底火山の噴火だった。

 

大規模な天変地異は、大地の異常隆起とマグマの凝固を引き起こし、

日本の南海上に小さな島を出現させた。

 

その後、【秋の島新島】と名付けられたその隆起島を、とある取材クルーが訪れた際

同行していた新聞記者の一人が、同地に佇む少年の姿を発見し、それを保護した。

 

発見当時、少年は一切の衣服を身に纏っておらず、

精密検査の後も、暫くの間、まともに口をきく事が出来なかった。

風にたなびく赤毛が特徴的な、その少年の存在は、たちまち世間の好奇を引きつけることとなり、

連日のように大々的な報道がなされたものの、結局、その正体は謎のままであった。

 

彼の本当の名前はマーズ。

本来ならば、現在より百年の後に目を覚まし、

地球と人類を破滅に導く運命を背負っていた筈の少年であった……。

 

 

一面のディープブルーに満ちた世界が、少年の眼前に広がっていた。

 

ほの暗い、静謐さに満ちた秋の島新島の海底。

傍らを泳ぐスーツの男は、振り向きもせずに少年を導いていく。

 

二人が海中に飛び込んでから既に十五分。

常人の限界を遥かに超えながら、尚も二人は、疲労の陰りすら見せず、悠然と海底を突き進む。

 

(――気づいたか? マーズ)

 

男の口の動きから、その意図を読み取ったマーズが周囲を見渡す。

マグマの凝り固まった無骨な岩盤は、いつの間にか眼下から姿を消し、

代わりに周囲には、何者かの手が加えられたとしか思えない、

区画化された平坦な海底が広がっていた。

 

(まるで、古代の遺跡のようだろう?

 と言っても、目覚めたばかりのお前には、何の事だか分らないだろうが)

 

(……向こうに、何かがいる)

 

男はマーズの呟きには応えず、彼方の闇へと進んで行く。

やがて、ふたりの眼前に【それ】がゆっくり近づいてきた。

遠目には揺らめく岩盤のように見えていたその影が、近づくほどに人型を成していく。

海底の静寂の中、奇妙な機械音がマーズの耳元に響いてくる。

影はやがて巨体をなし、わずかばかり海中に届いていた日光を遮り、

二人の前へ忽然と立ちはだかった。

 

(うっ!)

 

佇立する【それ】の正体に、初めてマーズが驚きの色を見せる。

赤髪の少年の前に現れたのは、機械仕掛けの鋼の巨体だった。

 

丸太のように太く力強い手足に、巨大な甲冑を纏ったようなシンプルな胸甲。

機械的な鈍い輝きを放つ外装に対し、どこか宗教的な意匠を思わせる、翼のような胸元の模様。

数十メートルはあろうかという威圧感溢れる図体に反し

クセ毛のような二股の頭部と、眼鏡のように分厚い両眼が、どこか奇妙な愛嬌を感じさせる。

 

(これは…… ロボット!)

 

(タイタンだ、お前の目覚めと共に行動を開始するようセットされていた。

 言うなれば、地上の様子を探るための偵察機と言ったところか)

 

(偵察……?)

 

眼前の乱入者に対し、タイタンと呼ばれたロボットは、しばしチカチカと両目を瞬かせていたが、

やがて、ついと向きを変え、再びディープブルー彼方へと姿を消した。

 

(そう、偵察だ。

 タイタンはこれから地上へと上がり、人類の力を探るつもりなのだ。

 そして、そこで得られたデータを分析し、ガイアーへと転送するのが任務と言うわけだ)

 

(ガイアー、とは?)

 

(こっちだ)

 

男の示す先には、外周を真四角にばっくりと切り取られたような大穴があった。

数千年に及ぶ泥土の堆積により、底の様子を伺う事は出来ない。

 

(この下に、ガイアーが眠っている。

 タイタンから送られてくるデータをキャッチしながらな……

 そして、収集されたそれらのデータを危険と判断した時、

 ガイアーは目覚めるようプログラムされている)

 

(危険と判断した時……?

 どういう事だ? ガイアーが目覚めると、何が起こると言うんだ?)

 

(ガイアーの動きに呼応して、世界に散らばる六つの神体が動き出し……

 そして…… その時、地球は滅ぶ!!)

 

( !? )

 

マーズが更に問いかけを続けようとした瞬間、突如、深海が鳴動に覆われた。

ディープブルーの彼方に煌めく閃光、轟く爆音、そして衝撃が二人を襲う。

 

(――どうやら始まったようだな、高みの見物と行くか、マーズ?)

 

 

「おお!」

 

マーズが驚きの声を上げる。

陸に上がった彼の目に飛び込んで来たのは、戦艦の砲撃を受ける巨神の姿だった。

 

「どういう事だ? タイタンが攻撃されているぞ」

 

「当然だろう。

 奴らから見れば、タイタンは日本の領海を侵犯する国籍不明の兵器だ。

 しかも先日、タイタンは付近の海上で、日本の貨物船を沈めているのだからな。

 ……だが、これでいい。

 ああやって攻撃を受けることで、タイタンは人類の戦力を分析しているのさ」

 

「人類の戦力を…… 何の目的で?」

 

「よく見ろ、マーズ、タイタンの巨体に浴びせられる、あの容赦ない砲撃を」

 

むき出しの岩盤に腰を下ろしながら、男がどこか遠い目で海上を見つめる。

閃光が煌めき、爆音が響き、水柱が噴き上がり、その度に島全体が鳴動する。

それ程の一斉砲火を浴びて尚、タイタンは動きを止めようとしない。

 

「我々が、初めて人類と出会った時、

 彼らはまだ、原始的なコミュニティを持つだけの、野蛮な原住民に過ぎなかった。

 それが、ほんの数千年…… 地球全体の歴史の、十万分の一にも満たぬ時間の中で

 人類はこれ程までの力を蓄え、地上の覇者たる地位を確固たる物としてきた」

 

「…………」

 

「だが、厄介な事に、高度な文明を得るに至った今日になって尚、

 彼等の生まれつき備えた、残忍で好戦的な資質は、一向に消える気配を見せようとしない。

 毒ガス、細菌兵器、原爆、そして水爆――

 より強力で、より効率的な、いびつな兵器を争って作り出しては

 狭い地球の上で、同族同士の殺し合いを続けている。

 

 恐ろしいとは思わないか、マーズ?

 彼等が現在のような感覚で、星の海を飛び回る時代が来たならば……!」

 

「……妙な言い方をするな

 それじゃあまるで、あんたはこの星の人間では無いみたいじゃないか?」

 

「ああ、その通り、俺は地球人ではない、そしてお前もそうなのだ、マーズ!」

 

一瞬の閃光、そして、一際大きな爆音が轟き、黒煙が天まで噴き上がる。

胴体を真っ二つに圧し折られ、戦艦が大渦の中へと呑まれていく。

やがて、船の残骸を掻き分けながら、何事も無かったかのように、タイタンが悠然と顔を見せた。

 

「遠い昔、我々の同朋がこの星に降り立った。

 彼等はこの地の原住民を調べ上げ、その知能指数の高さと、残忍で好戦的な性質に恐怖した。

 調査の結果コンピュータは、いずれ、進歩を重ねた地球人類達が、

 その生活圏を宇宙へと広げる可能性がある事を導き出した。

 

 もし人類が、残忍な本性を持ったまま、地球の外へと飛び出したなら、

 宇宙の秩序を乱す脅威の侵略者になりかねない。

 

 彼等は危険を回避すべく、人類の成長を探る【監視者】と

 抑止力としての、六つの【神体】をこの地へ封じた……」

 

「その【監視者】が、ぼくやあんたと言う訳か……」

 

「我ら監視者の中でも、特にお前は別格の存在だ。

 ガイアーは他の神体とは違い、地球全体を吹っ飛ばす程の力を秘めている。

 人類に神判を下すための、最終兵器という事さ。

 

 そして、ガイアーに命令を出すキーとなる筈だったのがお前だ、マーズ

 ……海底火山の噴火の影響で、今のお前は、正常に機能していないようだがな」

 

いつしか波は収まり、海上は元の静けさを取り戻しつつあった。

敵船が海中に没した後も、タイタンは暫くの間、チカチカと周囲の様子を探っていたが、

辺りに敵の生命反応が無いのを確認すると、ついと矛先を変えた。

 

「フフ…… 人間どもも、少しばかり寿命が延びたようだな。

 あのままタイタンが沈んでいれば、たちどころにガイアーは動き出し、

 今頃はこの小さな惑星ごと、全ての生命が消し飛んでいたところだ」

 

「……タイタンは、あのまま本土に上陸する気なのか?」

 

「追うぞ、マーズ。

 人類がどんなもてなしをするか、じっくりと拝見させてもらうとしよう」

 

 

――怪ロボット、襲来。

 

平穏な日常を打ち破る、太平洋戦争以来の本土の危機に、

民衆はパニックとなり、たちまちの内に周囲が喧騒で満ち溢れる。

 

それでも、近場の駐屯地からかき集められた自衛隊は、

正体不明の敵から国土を守るべく、懸命の努力を重ねていたが、

その粘りすら、未知の巨人の前では長くは持たなかった。

敵は、至近距離での艦砲射撃にすら耐える鋼鉄の巨人である。

核を持たない日本の保有戦力では、眼前の怪物を止める手段は存在しなかったのである。

 

「駄目だ! 弾丸が効かないッ!?」

「これ以上は危険だ! 各自、撤退せよッ!」

「く、来るなあああアアァァ――!」

 

つい先ほど、海上で起こったばかりの惨劇が、地上に舞台を変えて繰り返される。

人類の生み出した兵器がどれ程の物か、どの程度の火力を有し、どの程度の機動力を持つのか、

そして、どれ程の攻撃に耐えられるのか……。

 

より正確なデータを得るべく、タイタンが試す、試す、試す。

巨木のような剛腕を振り回し、叩きつけ、逃げ惑う兵士を容赦なく踏み潰す。

 

「……少し、やり過ぎでは無いのか?」

 

「そうか、お前は記憶を失っていたところを、人間に助けられたんだったな」

 

然り、と言った風に、スーツの男が頷く。

 

「だがな、マーズ、彼等がお前に温かく接してくれたのは、

 単に日本が裕福な国だったからに過ぎん。

 人間という生物は、場所や環境の変化によって、瞬く間に悪鬼に変わり果ててしまうのだ。

 その事は、有史以来繰り広げられてきた、彼らの陰惨な戦いの歴史が証明している」

 

「…………」

 

「ヤツらの上辺に騙されるな、マーズ」

 

 

――やがてタイタンは、自衛隊の築いたささやかなバリケードをも踏みつぶし、

 ついに市街地へと侵入した。

 

 

「ああッ!」

 

眼前の光景にマーズが叫ぶ。

無人と化したビル街、重低音を響かす巨神の黒い影。

そして、その場にポツンと取り残された、幼い少女。

 

「クッ!」

 

「どこへ行くッ! マーズ!?」

 

仲間の制止を振り切り、マーズが地を蹴る。

一息にビルの屋上から飛び降りると、疾風のような速さで駆け抜ける。

 

「やめろ! やめるんだ! タイタ……」

 

冷徹な悪鬼と化したロボットを止めるべく、マーズが叫ぶ。

 

 

――刹那、彼は見た!

 

少女とタイタンを分断して大地を走る、天空からの一条の光。

 

一瞬の静寂、そして……

 

 

ド ワ オ ォ ッ !!

 

 

直後、轟く爆音と共にブ厚いコンクリートが一直線に断ち切られ、

巨大な断層の如く大地が陥没する。

断面から熱線が火柱となって噴き上がり、マーズの眼前を赤く染める。

 

「なッ!」

 

咄嗟に上空を仰ぎ見る、そこには、遥か虚空より猛スピードで迫る、真紅の彗星の姿があった。

 

「ムオオ!」

 

彗星が叫ぶ。

鋭利な刃のような八枚の翼がバサリと開き、その物体が急速に減速する。

腰を落として両足を踏みしめ、乱暴に着地する。

衝撃で、大地がひとつズンッ、と揺れ、周囲のビルの窓が一斉に爆ぜ、送電線が弾けて踊る。

 

「こいつは……? まさか、これが六神体、なの…… か?」

 

蒸気を巻き上げ高熱を放つ乱入者の登場に、呆然とマーズが呟く。

だが、彼の中に眠る根源的な何かが、その自問を否定していた。

記憶を失ってはいても、マーズの本能は覚えていたのだ。

これは神体などでは無い、あるいは何か、もっと禍々しい存在……。

 

蒸気の霧が徐々に晴れ、機体の全貌が、徐々に露わになっていく。

その巨体の異様さに、マーズの心音が早鐘の如く高鳴る。

 

マーズの瞳に飛び込んできたのは、

蝙蝠の羽のような装飾に、拘束具のようなマスクを備えた、悪魔的なデザインの頭部。

 

偶像の如きタイタンの威容を造形美と称すならば、

眼前のロボットのそれは、まさに肉体美と呼ぶのが相応しいように思えた。

無機質の機械の塊とは思えない、全身の律動まで感じられるような、圧倒的な存在感。

鋼鉄の筋肉を全身に備えた、真紅の悪魔の姿がそこにはあった。

 

『ここは…… 日本、か? 俺達、戻ってこれたのか……?』

 

――コックピットの中、輩の通信を聞きながら、 パイロットの少年がゆっくりと周囲を見渡す。

 

大きくひしゃげ、黒煙を噴き上げる戦車。

屋根を、あるいは壁を吹き飛ばされ、廃墟の如く無人となったビル群。

表面を溢れるオイルで、赤々と燃えあがる道路。

油の臭いと硝煙の臭い、

金属の燃える臭いと血の臭いがほど良くブレンドされた、むせ返るような大気。

 

そして、泣き叫ぶ少女の姿。

 

眼下に映る光景は、確かに少年の故郷に良く似ていた。

そこが、情け容赦の無い戦場である事も含めて。

 

立て続けにおこる異常事態に周囲が凍りつく中、タイタンのみがチカチカと両目を輝かせ、

眼前に現れた異形の戦力分析を、ただ黙々と続けていた。

 

『あれは、ゲッター…… じゃあないよな? どう思う、拓馬?』

 

「俺に分かるワケねぇだろ、獏 ……けどなァ!」

 

キッ、と少年が顔を上げる。

ヘルメットの奥、双の眼に紅蓮の炎が燃え上がる。

主の意思を汲み取るように、赤い悪魔の全身に、破壊衝動がオイルとなって脈打ち始める。

 

「あのデカブツをブチのめすぞッ アーク!!」

 

少年の雄叫びが機内で爆発し、真紅の巨体が野獣の如く大地を蹴った……。

 

 

 

 

 

 

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